13-28 帰路、ちょっとだけ寄り道
『赤い斑』の入った『デュモルチェライト』の正体がほぼ判明した後、皆の興味は卵の殻に移った。
「これは空色だけど、向こうのはもう少し色が濃いねえ」
「ですね。……ハカセ、色が濃い方が少し小さいみたいです」
殻の元の大きさを考えると、小さい卵の方がやや青が濃く、大きい殻の方がやや薄い色をしているようだった。
「うーん……日に当たっていた、あるいは雨に当たっていた、という影響はないかねえ?」
「なるほど……あ、ありそうです。庇の奥にある殻の方が色が濃いようです」
「ふんふん。……日に当たる、あるいは雨に当たると色が褪せてくる、ということだねえ」
「おお、ハカセさんは慧眼ですねえ」
……と、こうして、調査は進んでいく。
ハカセも少しずつ、『ジャンガル王国』のメンバーに馴染んでいっているようだ。
そして『抜け殻』の調査になる。
「大きさを見てみると、やっぱり2回脱皮しているねえ。……で、ここで生まれた『飛竜』は2頭」
「これを見る限り、そうでしょうね」
明らかに大きさの異なる抜け殻が2組あったのだ。
「で、この抜け殻の使い道は……『マナ』や『オド』を溜められそうだねえ」
手にし、少し魔力を流した感触から、ハカセは『飛竜の抜け殻』が、魔力を蓄える特性に優れていることを見抜いていた。
「ほほう? ……ハカセさん、いやハカセ殿、『赤い斑のデュモルチェライト』と、どちらがより性能がいいでしょうか?」
「そうだねえ……」
ここには『赤い斑のデュモルチェライト』もあるので、双方を手にとってハカセは考える。
「抜け殻の方が使いやすそうだね。……砕いて粉にすれば容器への充填率も高くなるし、軽いし、加工しやすいし」
「おお、なるほど!」
「とはいえ、『デュモルチェライト』の方は体積あたりだったら抜け殻よりも魔力を蓄えてくれそうだけどね」
だが、加工しづらい(モース硬度7〜8.5)こと、重い(比重3.2〜3.4)ので、抜け殻の方が使い勝手はいいというわけだ(モース硬度2くらい、比重1くらい)。
もっとも、ゴローの『ナイフ』があれば、話は別だが、これはまだ身内だけの秘密である。
なにしろ、『古代遺物』というものは非常に貴重なので、場合によっては国に召し上げられてしまうことさえあるのだ……。
* * *
そんなこんなでおよそ2時間、『岩棚』の調査をしたゴローたちは、一旦引き上げることにした。
ゴロー、サナ、アーレン、キールン、ルナールらは『ANEMOS』からぶら下がったままの縄梯子を上ればいい。
リラータ姫、ネア、ハカセ、ティルダ、ヴェルシアは『ハーネス』にロープを結びつけてから上ってもらうことになる。
順序として、まずはゴローが『ANEMOS』へ。
次はリラータ姫。
サナがダブル・フィギア・エイトノットで『ハーネス』にロープをしっかりと結びつける。
そして縄梯子を上る際、ゴローが上からロープを引き上げることで姫の負担を減らすことができるわけだ。
同様にしてネア、ハカセ、ティルダ、ヴェルシアらも引き上げた。
その後は『岩棚』での収穫(卵の殻や抜け殻やデュモルチェライト等々)を引き上げていく。
1つが30キムくらいの小荷物にして11包にもなってしまったが、『ANEMOS』はびくともせず、全部収納することができた。
そして最後にサナ自身が上ってきて終了となる。
時刻は午後3時になろうとしていた。
予定を1時間もオーバーしてしまったのは、発見したものが貴重なものだったからだ。
「今日は、『ミラー湖』まで戻って野営しましょう」
「それがいいですね」
キールンの勧めもあり、『ANEMOS』は『ミラー湖』を目指す。
1時間足らずで『ミラー湖』。
ここは一応の安全地帯ということで、『ANEMOS』は昨日と同じ場所に着陸した。
「なんだかほっとするのじゃ」
「今朝までいた場所ですからね」
『ANEMOS』の窓から外の景色を眺め、リラータ姫は笑っていた。
* * *
明日には『ゲレンセティ』へ戻れるので、夕食はちょっとだけ豪華になった。
用意してきた食材のうち、生野菜類は全部使うことにして……カロット、ジャガイモ、タマネギにベーコンを入れたシチュー、野菜炒め、野菜サラダ。
ご飯に醤油とコショウでシンプルに味付けをしたピラフ(焼き飯?)。
それにほうじ茶。
デザートはバナナ(大分色が変わっていた)。
ちなみに『獣人』はタマネギが駄目、などということは一切ない。
「この焼き飯はなかなか美味しいのじゃ」
「醤油とコショウでこんな味になるんですね」
「ゴロー殿は料理上手ですなあ」
「バナナ、熟しきって、甘い」
「シチューもよく煮込んであってとろとろです」
概ね好評なようだった。
そして食後はホットミルク。
よく眠れるように、というゴローの気遣いである。
「今日はいろいろなことがありましたね」
「うむ、楽しかったのじゃ。ゴロー、サナ、感謝するのじゃ」
「いえいえ」
「それにハカセ殿、アーレン殿、ヴェルシア殿、ラーナ殿、いろいろ面倒をかけた」
「とんでもないことにございます」
「そしてティルダ、いつも素敵なアクセサリーを作ってくれて感謝するのじゃ」
「ふえ!? は、はいなのです」
王家からの注文を定期的にこなしているティルダにも声が掛かり、あやうくむせそうになったティルダであった。
「最後にルナール」
「……はい」
「よく務めておるようじゃな。そのまま励むがよい」
「……は」
深々と頭を垂れるルナールであった。
そして、翌日の話になる。
「明日は、真っ直ぐ帰るんですか?」
「その方がいいと思いますが……」
真っ直ぐ帰れば、夕方の早い時間にゲレンセティに着けるはずだ。
「少しだけ回り道をしてはいけませんかね?」
キールンがそんなことを言い出した。
「距離にしたらそんなにはないんです」
「……理由を教えて下さいよ」
ゴローにしてもハカセにしても即答できる提案ではない。
「少しだけルートを外れた場所に、とある『遺跡』があるのです」
「遺跡?」
「ほう、遺跡があるのじゃな」
「それって……『メグロム遺跡』でしょうか?」
「ネアさんはご存知でしたか」
「ええ、名前だけは」
「……」
ここでネアがゴローたちに説明をしてくれる。
「『メグロム遺跡』は『ジャンガル王国』にある数少ない遺跡の1つで、地上部はほとんど崩れてなくなり、地下も半ば埋まっているんです。……で、首都ゲレンセティからはそこそこ距離があるので、キールンさんは寄って欲しくなったのではないかと……」
「まさにそのとおりです」
「うーん……」
確かにゴローも遺跡には興味があるが、今回の目的は『元飛竜の巣』の確認と探検である。
しかもリラータ姫が同行しているのだ。
これはやはり、キールンのわがままを聞くわけにはいかないだろうと判断する。
ただ、リラータ姫も遺跡に興味があるなら、上を通るだけなら問題ないだろうと考えた。
「やはりやめましょう。……せいぜいが上空を通るだけなら、と判断します。それも、姫様が認めるなら」
「……うむ、そうじゃのう……ここはゴローの言うとおり、立ち寄るのはまずいじゃろうな。……だが、上を通るのは咎められないじゃろう」
「わかりました。わがままを言って申し訳ございません」
これで結論は出た。
『メグロム遺跡』の上空を通るコースで帰るだけ、ということだ。
キールンも、今回の目的を思い出し、それ以上ごねることはなかった。
万が一、予定にない寄り道をしてなにかトラブルがあったら一大事なのだから。
「それじゃあ、ルートを指示してください」
「わかりました。……ええと、途中の目印の『双子山』を過ぎたら、真南に進路を変更してください」
「了解」
『ミラー湖』から『双子山』まではおおよそ130キル、『ANEMOS』は1時間20分で翔破した。
「ここから真南ですね」
「はい。そして真東にもう1つの目印『三角山』が見えたらそのまま20キルほど南下してください」
「了解」
『双子山』から『三角山』まではおよそ110キル。そこから20キル南下するのに、やはり1時間20分ほど要した。
「だいたいこのあたりです」
「どこかに見えるかのう……」
全員、窓に張り付いて周囲を見渡す。
眼下は見渡す限りのジャングルである。
それらしいものを見つけたのはルナールだった。
「少し右手に、それらしいものがあります」
「お、そうか」
「ああ、あれです!」
ルナールの言葉に、ゴローとキールンがそちらを見つめると、確かにそれらしいもの……ジャングルの中に少しだけ開けた箇所がある。
ゴローはフランクに指示を出し、その上空へと向かわせた。
* * *
「うーん……上空からだとはっきりわからないな……」
かといって降下して着陸するのも予定にはない。
「それじゃあ、ここに『夫婦石』の片割れを落としておこう」
そうすれば、再度の来訪が楽になる、というわけだ。
『夫婦石』を誰かが持ち去る可能性はあるが、その場合は『目印』を頼りに訪れればいい。
「いっそ、『夫婦石』の片割れを金属の筒か何かで保護したものを打ち込む、というのもいいかもな」
が、今はちょっと用意できないので、むき出しのまま『ANEMOS』から投下することにした。
念の為、対になる『3次元帰還指示器』を見てみると、ちゃんと真下を指していたので一安心。
今度こそ首都ゲレンセティを目指す『ANEMOS』であった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月13日(木)14:00の予定です。
20250306 修正
(誤)なにしろ、『古代遺物』というもおは非常に貴重なので
(正)なにしろ、『古代遺物』というものは非常に貴重なので
(誤)1つが30キルくらいの小荷物にして11包にもなってしまったが、
(正)1つが30キムくらいの小荷物にして11包にもなってしまったが、