13-26 午前中の探索
自由行動となったので、ゴローはリラータ姫とネアを、先程確認した『デュモルチェライトの岩塔』へと案内する。
「姫、あそこの岩塔が見えますか?」
「どれ……うむ、なんとなく青いのう」
「ですよね。もしかして『デュモルチェライト』かもしれません」
「おお、なるほど! 行ってみるのじゃ!」
「あ、姫様、走るとお危のうございます!」
ネアが止めるのも聞かず、リラータ姫は岩塔へ向かって走っていった。
幸い足元は小砂利混じりの土、つまずくようなこともなく岩塔にたどり着く。
「おおお! 青い! 青いのじゃ!!」
「これは大きな『デュモルチェライト』ですね……よく見つけましたね、ゴローさん」
「俺、わりと目はいいから」
「うんうん! ゴロー、これをどうやって持っていくのじゃ?」
「全部は無理ですよ、姫様?」
「ネアよ、それくらいわかっておるのじゃ。少し砕いてもらえばいいのじゃ」
「でしたら『石・砕く』で砕きましょう」
ゴローが言う。
「おお、なるほど。ゴローは魔法も使えるのじゃったな」
「簡単なものでしたら。……『石・砕く』!」
意図的に威力を絞った魔法を放つと、赤ん坊の拳くらいの石が数十個転げ落ちてきた。
「おお、凄いのう!」
「透明度の高い石も混じってますね」
「これでいいですか?」
「十分じゃ」
きれいなものを選んでポケットに入れたり、持参の袋に詰めたりしていく姫とネア。
ゴローも、透明度の高いものをよって少しポケットに入れた。
この場所をあとでティルダにも教えておこう、と思ったゴローであった。
* * *
ハカセ一行はというと。
「うーん、なにもないねえ」
「ハカセ、ここに転がっている石は珍しい鉱物が多いのです」
「へえ?」
「例えばこれは『クロム鉄鉱』なのです」
「じゃあ、クロムが取れるねえ」
クロムは特殊鋼を作るために必要な金属なのだ。
「ハカセ、拾っていく?」
「そうだねえ、そうしたいねえ」
「それじゃあ私、バッグを取ってくる」
まだ『ANEMOS』からは100メルも離れていないので、サナはさっと行ってさっと戻ってきた。
その背には50リル程も入る背嚢が……。
「また大きなのを背負ってきたねえ」
「このくらいなら、私でも大丈夫」
「……そうかい?」
「すごいのです、サナさん」
「……それじゃあサナに甘えて、珍しい鉱石を拾っていこうかねえ。ティルダ、頼むよ」
「はいなのです」
そんな風に、ハカセたちは珍しい鉱石を拾い集めるのであった。
* * *
そしてアーレン、ラーナ、ヴェルシア。
「あ、これって、珍しい薬草ですよ。確か『ウイキョウ』っていいました」
ウイキョウはセリ科の植物で、他のセリ科の植物同様、食用にもなる(フェンネルの仲間である)。
薬効としては健胃・消化促進・腸内ガスの排出、抗酸化作用などの薬効があるとされる。
「こっちはトウキですね。あ、オウレンもあります」
トウキは冷え性、月経不順、貧血など、オウレンは抗炎症作用があり、胃腸炎や胃潰瘍、口内炎、下痢に効く。
「ゲンチャナもありました」
「はは、ヴェルシアさんの一人舞台だね」
機嫌よさそうに笑うアーレン。
その他にも、数々の薬草を採取したヴェルシアであった。
それを見ながらアーレンとラーナは仲よく歩いていくのであった……。
* * *
最後はルナールとキールン。
「ふむ、ここに転がっている岩石は両側の崖から崩れてきたものがほとんどだな」
「……」
「おお、これは『デュモルチェライト』ではないか? ……だが赤い斑は入っていないな……」
「…………」
「うん? これは透明な……水晶かな?」
「………………」
「お、あそこに小動物がいるな。……ネズミに似ているなあ」
「……………………」
キールンは一人で呟きながら岩石・鉱物を調べているのでルナールは手持ち無沙汰。
無言で付いていくのであった……。
* * *
さて、事前に調べたとおり、危険な生物はいなかったため、何ごともなく時は過ぎ、打ち合わせた時間には全員が戻ってきていた。
今更だが、こういう場合に時刻を知る方法として、『携帯式の日時計』や『太陽を追跡する魔導具』、『経過時間を知る魔導具』などが使われている。
『携帯式の日時計』はまあ、一般に使われているものの超小型版。ただし正確な方角がわからないと精度が落ちる。
『太陽を追跡する魔導具』はその名のとおり、太陽の方向を指し示す魔導具である。
日時計と似ているが、曇っていても使えるところが売りだ。また、夜中でも使える。
『ANEMOS』には、方位計と連動するこの時計が備え付けられている。
『経過時間を知る魔導具』はタバコの箱くらいの大きさ。
広い1面が表示部となっており、停止時は白い。
考え方は砂時計と似ていると言えよう。
スタートボタンを押すと、内部の魔力がゆっくりと減っていき、それにつれて表示部の白い部分が端から黒くなっていき、一定時間を過ぎると真っ黒になるもの。
この一定時間は1時間から12時間まで可変。
そこそこ高価であるが、王族であるリラータ姫なら全員分用意できる。
ちなみに、一般庶民は『火時計』を使う。
これは目盛りを付けたロウソクの減り具合で経過時間を知る。おおよそ3時間くらいまでの計測ができる。
『砂時計』も同様に使われているが、どちらかといえば1時間以内の短時間の計測用である。
『火時計』『砂時計』共に、より正確な固定式の日時計などを使いスタートさせることで現在時刻を知ることができるわけだ。
蛇足ながら『古代遺物』としての『時計』も数個見つかっており、ルーペス王国、ジャンガル王国、ラジャイル王国、シナージュ王国、ドンロゴス帝国などで基準時計として使われている。
さらに特筆事項として、『獣人』は体内時計がかなり正確で、12時間での誤差が10分程度しかないという……。
* * *
「ではお昼にしましょう」
「うむ、歩き回って空腹なのじゃ」
皆、多少の疲れもあるので、着陸した『ANEMOS』の中で軽食を摂ることにした。
「疲れを取るなら甘いものだ」
「うん、大賛成」
ゴローが『純糖』で作った干菓子を配ると、サナは大喜び。
「それから水分補給とクエン酸摂取」
はちみつレモンを出すゴロー。
「で、炭水化物」
積んできたコッペパンを軽く温め、間にソーセージを挟んで出す。
要はホットドッグもどきだ。
なお、英語の『dog』はソーセージを意味する俗語だそうである。
「うむ、この食べ方もなかなかいいものじゃな」
「味付けにマスタードとかケチャップがあったらよかったんですけどね」
「ほう? それも『天啓』によるものか?」
「ええ、まあ」
「『ますたぁど』に『けちゃっぷ』か。いずれ作ってほしいものじゃな」
「機会があれば」
そんなやり取りをしつつ、昼食は進んでいく。
そして食後は休憩を兼ねて甘めの紅茶。
話題は午前中に見つけたものについてである。
「我々は、ゴローのお陰で『デュモルチェライト』をたくさん見つけたのじゃ」
「クロムを含んだ鉱石をはじめ、いろいろな鉱石を拾ったのです」
「役に立ちそうな薬草をいろいろと採取しました」
「この場所の岩石・鉱物の分布を調べ、サンプルを採取しました」
等々、有意義な時間を過ごしたことを確かめあったのである。
そして。
不自然にならないよう、ゴローは『飛竜の巣』だったのではないか、という場所について口にする。
「歩き回って気が付いたんですが、湖の北……北北東? にある崖の上に、何かありそうな気がします」
「ほう?」
キールンが喰い付いた。
「ゴローは目がいいからねえ」
それと察したハカセもフォローしてくれる。
「着いた時に見ておけばよかったんですが」
ここに着いた時に見ておけばよかったのだが、危険な生物がいないか、ということに気を取られ、上空からの調査はしなかったのである。
「この後、『ANEMOS』で上から見てみましょう」
「いいですね」
そういうことになったのである。
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次回更新は2月27日(木)14:00の予定です。