13-24 前夜の打ち合わせ
「こ、これです! これこそが探していた石です!」
ゴローが拾ってきた石を見たキールンは、興奮気味に叫んだ。
「どうやって見つけたのですか!?」
「えっと……『天啓』で、ありそうな場所を探してみたんですよ」
「ははあ、『天啓』というのは凄いものですねえ」
「いつでも使えるわけじゃないですけどね」
便利に使われても困るので釘を刺しておくゴローだった。
そしてさらに話題をそらす。
「この石はどんな価値があるんですか?」
「魔力を蓄えてくれるんですよ。それもたくさん。ですので魔力のない我々としては重宝します」
魔力の充填には、専門家……『ジャンガル王国』に滞在している『人族』に頼んだり、国外に委託したりするという。
「へえ……そうなんですか」
そこにティルダが顔を出した。
「あ、間違いなくこれは『デュモルチェライト』なのです。でも……『竜の血』? が染み込んでいるのです」
「なんだって!?」
「なんですって?」
ゴローとキールンはほぼ同時に声を上げた。
「竜……『飛竜』かな?」
「そこまではわからないのです」
とはいえ、この場所にあるのだから、他の可能性は非常に小さいと見ていいだろう。
そして、もう1つの疑問は……。
「どうしてこの『デュモルチェライト』だけ、血が染み込んでいるんだろう?」
「うーん、わからないのです」
「俺もわからない」
「……」
「……」
『天啓(謎知識)』と『石の声』でもわからないことはある。
これ以上考えてもしょうがないので、ゴローは思考を切り替えることにした。
「今夜はここで野営するということでいいんですよね、姫?」
「うむ、ここは居心地がよさそうなのじゃ」
「寝るのは『ANEMOS』の中でいいですか?」
一応野営道具も持ってきてはいる。
『ANEMOS』の中では、リクライニングさせた座席で寝ることになるので多少窮屈だろうが、湖畔での野営ならもう少しゆったり横になれるはずだ。
「でもその分危険はありますけどね」
「そうじゃのう……」
「姫様、私としましては危険は避けるべきと存じます」
ネアは『ANEMOS』での宿泊を主張した。
「ゴローはどう思うのじゃ?」
「俺もその方がいいと思います」
未知の場所であるがゆえに、どんな危険があるかわからない、とゴローは言った。
一晩や二晩、多少の不便は仕方がない、とも。
「うむ、ではそうしよう」
信頼する2人の意見が一致しており、リラータ姫は素直にその言葉に従ったのだった。
* * *
それからも、思い思いに石を探した。
結果、皆きれいな石を見つけ、満足できたようである。
自分で見つけた、ということで、ありふれた石でもそれなりに記念になるのだ。
さて、時刻は午後4時半、少し早いが夕食の支度を始めることにした。
『ミラー湖』は高地にあるので、夕方になって風が冷たくなってきた。
「中へ入りましょう」
というゴローの言葉に、皆素直に従う。
船室にも簡易キッチンがあるので、煮炊きは可能だ。
とはいえ人数が多いので、調理時間を考慮して簡単なものにする。
「ゴロー様、手伝います」
とネアが申し出てくれたので、ありがたく手伝ってもらうことにするゴロー。
「それじゃあ、そこのジャガイモの皮を剥いてくれ」
「はい」
致命的な方向音痴を除けば、ネアは優秀な女官である。
もちろん家事もこなす。
「剥いたら小さく切ります?」
「シチューにするから、それなりの大きさにな」
「はい」
ゴローはタマネギを切っていく。
『人造生命』なので目がしみることはない。
その他、カロットを切って、ジャガイモ・タマネギと共に、ざっと炒める。
それを少しの水とミルクで煮込む。
クリームシチューっぽいものにするつもりなのだ。
火加減を調整して、あまり煮立たせないよう気をつける。
そうしないとジャガイモは崩れてしまうし、タマネギはとろけてしまうからである。
「あとはバターを少しとベーコンを入れる、と」
肉の塊は日持ちしないので持ってきてはいない。
代わりにベーコンを使う。
これはこれで旨味が出るのだ。塩味も付く。
ジャガイモが崩れない程度にじっくり煮ていく。
塩加減を見て火を止める。
これでゴロー流クリームシチューもどきは出来上がり。
同時並行でネアにパンを焼いてもらった。
あとはデザートとしてパイナップルを用意。
飲み物はすっきり系ということではちみつレモンにした。
最後に甘味としてラスクも出す。
これで夕食の完成である。
「うむ、このシチューはなかなかいけるのう」
「お口にあってよかったです」
「はちみつレモンも美味しいですな」
キールンはパンをシチューに浸して食べていた。
サナはといえば、一とおり平らげた後、ラスクを頬張っている。
「シチューもいいけど、やっぱり甘いものが、いい」
「パイナップルも甘いけどな」
「うん、それも美味しい」
ハカセ、アーレン、ヴェルシア、ラーナたちは静かに食べていた……。
そんなこんなで夕食を終えると、外はもう真っ暗になっていた。
* * *
夕食後は、探検メンバー全員で翌日の打ち合わせを行う。
これには、ハカセたちにも参加してもらう。
「ここから……この『ANEMOS』ででしたら1時間ほどで目的地です」
キールンが説明した。
「調査を進め、再度ここで野営するとして、朝の7時にここを出発、目的地に8時とすれば、午後2時まで約6時間は行動できます」
「十分ですね」
「うむ、異論はないのじゃ」
「では、スケジュールとしてはそれでいいとして、調査について相談しましょう」
キールンが中心となって話は進んでいく。
「まず、どうやって危険を避けるかですが……」
「あ、それについて、1つ確認です。……『飛竜』が飛ぶ速度ってどれくらいですか?」
「ううん……そうですね……最高速度はわかりませんが、普段は『亜竜』とそう変わらないかと」
「つまり、時速100キルくらい……?」
「断定はできませんが」
「なるほど……」
『ANEMOS』は、いざとなれば時速800キルくらいは出せる。
襲われても振り切れるだろう、とゴローは考えた。
「あの、それ以前に……」
「はい?」
「明日向かうのは、『元』棲息地ですので」
「あ」
「あ」
そう、今回向かうのは『元』『飛竜の棲息地』なのである。
「なんとなく、今も棲んでいる場所と勘違いしてました」
考えてみれば、そうした危険な場所なら、リラータ王女の同行が許可されるはずはないのである。
「ということで、目的地から少し離れた場所に着陸していただき、そこから徒歩で現場へ向かうのがいいと思います」
「何があるかわかりませんからね」
何かあったら、留守番のフランクに『双方向夫婦石通信機』で連絡をすれば、すぐに駆けつけてくれるだろう。
そう考えると安心である。
それからも、細かい注意などを聞き、少し話し合いをして、翌日の予定は決まったのだった。
* * *
あとは寝る準備である。
「少しでも寝心地をよくするか……」
進言を素直に聞いてくれたリラータ姫のためを思い、ゴローは寝床のグレードアップを行っている。
座席はフル・フラットになるが、通路の分隙間が空いてしまうので、その間に椅子を運び、ベッドのように整える。
そこに野営用のマットを敷けば簡易ベッドの出来上がりだ。
毛布を掛ければ快適に寝られる。
同じように、ハカセにも寝台を整備した。
他の者達は床に簡易マットを敷いて就寝である。
簡易マットは軽いので余分に持ってきているため、ヴェルシアとラーナ、ティルダ、サナ、ネアには2枚敷いたため寝心地は悪くないはずである。
ゴロー、アーレン、ルナール、キールンはマット1枚で寝ることになる。
また、船室内は空調が効いているため、毛布1枚で寒くないはずだ。
「これでよし」
「おおゴロー、世話をかけるのう」
「いえいえ、睡眠は大事ですからね」
そういうわけで、その晩はそこそこ快適に眠ることができたのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、活動報告でお知らせしておりますように、
入院のため2月13日(木)14:00になる予定です。
20250130 修正
(誤)便利に使われても困るので釘を差しておくゴローだった。
(正)便利に使われても困るので釘を刺しておくゴローだった。
(誤)ゴロー、アーレン、ルナールはマット1枚で寝ることになる。
(正)ゴロー、アーレン、ルナール、キールンはマット1枚で寝ることになる。