13-23 石探し
『ミラー湖』の湖畔でランチにするゴローたち。
「おお、こういうのもいいものじゃな!」
「旅先なので大したものはできませんけどね」
その言葉どおり、ランチメニューは焼きおにぎり、緑茶、インスタント味噌汁、お新香、それにサナ用の純糖。
インスタント味噌汁とは、『脱水』で水分を飛ばした乾燥野菜をお湯で戻し、味噌を入れたもの。
まだインスタント出汁が完成していないので味はいまいちだ。
それでも、煮干しを砕いたものを一緒に入れることで随分と改善されてはいるのだが。
「うむ……以前試食したものよりずっと美味しいのじゃ」
リラータ姫も、旅先だとわかっているのであまり贅沢なことは言わないようだ。
それよりも湖畔でランチという非日常環境がいい調味料になっている……のかもしれない。
「純糖も、美味しい」
「緑茶とよく合いますね」
「景色もいいなあ」
サナ、ヴェルシア、アーレンである。
「どうしてこんなに、鏡のようなんでしょう?」
ネアが疑問を口にした。
「おそらく、ミラー湖はすごく浅いんだろうと思う」
ゴローが推測を述べる。
「浅いと波が起きにくいから、いつも凪いでいるんだろう」
「なるほどねえ」
ハカセも感心している。
「ですが、強風が吹けばさすがにさざなみが立つと思いますよ」
「うむ、納得した。さすがゴローなのじゃ」
* * *
結局、ここで一泊することとなったのだが、まだ昼過ぎ、時間はたっぷりある。
「ここって、湖に入っても大丈夫なんですか?」
とゴローが問えば、それにはキールンが答える。
「大丈夫ですよ。いろいろときれいな石が拾えるので、採取目的で来る人もいるほどですから」
「だってさ。……ティルダ、出番だぞ」
「はいなのです」
『石の声』の加護があるティルダなので、珍しい石を見つけるのは適役である。
もちろん、ゴローたちも浅瀬で石を探してみる。
深さ10セルくらいの場所なら危険もなく、安心だ。
「あ、これ、きれい」
サナは緑色の石を拾った。
「これもきれいです」
「これも」
ヴェルシアも緑色の石、ラーナは青い石を拾っている。
「金色の石があった」
アーレンは金色の石を見つけたようだ。
なお、ハカセは参加しておらず、フランクとともに『ANEMOS』内でのんびりお茶を飲んでいる。
ルナールも給仕のため『ANEMOS』内だ。
「これもきれいなのじゃ」
「姫様、気を付けてくださいね」
リラータ姫も浅い場所で石拾いをしている。
ネアは付きっきり。
「ここには不思議な石がありましてねえ。青い中に赤い斑が入った石なんですよ」
そう言いながらキールンも石を探していた。
そんなこんなで30分。
一旦上がって、成果を見せ合うことにする。
鑑定はティルダにやってもらえば確実だ。
「これは『縞瑪瑙』なのです」
リラータ姫が見つけた、赤い縞模様の入った石である。
「磨けば、アクセサリーに使えるのです」
「おお、それはいいのう」
「これは『クリソプレーズ』なのです」
サナが見つけた緑色の石だ。
「翡翠とはちょっと違うのですが、『玉髄』の一種で、これもアクセサリーにはいい石なのです」
「うん、取っておく」
「ヴェルシアさんの見つけたこれは『孔雀石』なのです」
孔雀石は銅を含んだ鉱物で、縞模様が美しい。
磨いて飾り石にする。
ロシアのウラル地方の民話『石の花』(漫画ではない)ではこの孔雀石を細工する石工がその魅力に魅せられる様子が描かれている、とゴローの『謎知識』がささやいていた。
「これは黄鉄鉱なのです」
アーレンが見つけた金色の石である。
そしてラーナが見つけた青い石は『ブルートパーズの欠片』。
その他にも、『軟玉』『オパール』『ジャスパー』などの半透明・不透明な石や、『バラ輝石』『菱マンガン鉱』『閃亜鉛鉱』『輝安鉱』などの美しい金属鉱石も見つかった。
が、キールンのいう『青い中に赤い斑が入った石』は見つからなかった。
「残念です」
キールンが言う。
その時ゴローが、ふと思いついたことがある。
「そうだ」
「ゴロー、どうしたの?」
「ちょっと思いついたことがあって」
そう言うが早いか、『ANEMOS』へと駆けていったのである。
「どうしたんでしょう?」
「きっと、何か、変わった変なことを、思いついたんだと思う」
* * *
「おや。ゴロー、どうしたんだい?」
『ANEMOS』内でお茶を飲んでいたハカセは、慌てた様子のゴローに尋ねた。
「ちょっと思いついたことがありまして」
と言いながら、ゴローは先日手に入れた『単眼鏡』を取り出した。
「それの新しい使い道かい?」
「はい。……もしかしたら、探し物を見つけられるかもと思って」
「ああ、なるほど。探し物がはっきりわかっていれば可能かもねえ」
「でしょう? まずはここからやってみます」
ということで、まずは試しに、ゴローもよく知っている石……『オパール』を探してみることにした。
湖の方に向け、『オパールを見たい』と念じる……。
するとどうだろう、湖の岸に幾つかの光点が見えた。
その1つに意識を向けると、像が拡大される。間違いなくオパールであった。
「なるほど、あそことあそこにオパールが」
近くにある目印をよく記憶しておいてから、ゴローは『ANEMOS』を出た。『単眼鏡』は『ANEMOS』に置いてきた。
そして目印を参考に探すと……。
「オパールがあった」
「え?」
「こっちにも」
「ええ?」
「あとはここに」
「えええ!?」
「ゴ、ゴローさん、どうしてそんなに早く……?」
「ゴロー、凄いのじゃ!」
「え? えーと……」
リラータ姫たちもいることを失念していたゴロー。
とりあえず……。
「『謎知識』……『天啓』でちょっと」
「ほほう、そういう使い方もできるのか……すごいのじゃ」
「ゴロー殿、でしたら『青い中に赤い斑が入った石』も見つけられませんか?」
「え? うーん…………それには、探す対象をよく知らないと難しいですね……」
「それでは、私の知るところをご説明させていただきます」
キールンは語り出した。
「不透明な青い石です。青といっても一様な青ではなく、そう、『御影石』のように、いろいろな青の粒が集まったような感じですね。そこに深紅の斑が入り込んだ感じになっています」
「なるほど……」
「ああ、ちょうど、ここに落ちている石が、よく似ていますね」
キールンは足元から石を拾い上げた。
「これには赤い斑が入っていませんから違う石なんですが」
「なるほど……そうだティルダ、この石はなんていう石なんだい?」
「えっと、それは……『デュモルチェライト』なのです」
「さすがティルダだ」
「で、そのデュモルチェライトとはどんな石なのですか、ティルダさん?」
キールンは興味津々のようだ。
「通常、塊状の不透明石として産出されるのです。これはそれです」
「ほほう」
「ごくまれに、透明の結晶が見つかるのですが、それは宝石になるのです」
「よくわかりました」
「……」
それを聞いたゴローは、もう一度『ANEMOS』に戻った。
そして『単眼鏡』で『デュモルチェライト』を探してみる。
『デュモルチェライト』は、地球では1876年にフランスで発見された石である。
その特性を詳細に調査したフランスの学者ユージン・デュモルティエにちなんで名付けられた。
鮮やかな青色や青紫色をした石で、見た目はラピスラズリによく似ている。
(うん、結構たくさんあるな)
そこに、さらに条件を追加する。要は『絞り込み検索』だ。
(赤い斑が入ったもの。……どうだ?)
すぐには見つからなかったが、倍率を下げ、『広角』で探すと、幸運にも3つ見つかったのである。
その場所を特定できるよう、拡大する。
(1つは……ミラー湖のど真ん中付近か……ちょっと遠いな……あとの2つは……これなら拾えるかもしれない)
場所の見当をつけたゴローは、再度ミラー湖へ戻り、まっ直ぐ目的地を目指す。
「……ええと……ああ、これだこれだ」
その1つを手にしたゴローは一旦岸に戻り、キールンに手渡した。
「これじゃないですか?」
果たして、キールンの返答は……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月30日(木)14:00の予定です。
20250123 修正
(誤)「おや」ゴロー、どうしたんだい?
(正)「おや。ゴロー、どうしたんだい?」