13-17 再会 その1
ゴローは、まずジャンガル王国の王女リラータの従妹であるネア・ジャンガルに挨拶をし、訪問の目的を話した。
「メインは観光だけど、ルナールの里帰りと、ルーペス王国からのお届け物を運ぶ、という目的もある」
「わかりました。人数は?」
「8人……かな」
ゴロー、サナ、ハカセ、ティルダ、ヴェルシア、アーレン、ラーナ、ルナール。
フランクは人数に数えていない。というか『ANEMOS』で留守番である。
「わかりました。宿舎の用意をさせます」
「ありがとう」
そしてひととおりの説明を済ませた後、ゴローは残りのメンバー……ネアと面識のない面々……を呼んだ。
「こちらが、リリ……」
「ハカセ、と呼んでおくれ」
ゴローの言葉を遮り、ハカセが名乗り出た。
「ええっと、こっちがアーレン・ブルーとラーナ。そちらがヴェルシア」
「よろしくお願いします」
「みんな、俺たちの仲間で、家族みたいなものなんだ」
「それはそれは。ハカセ様、アーレン様、ラーナ様、ヴェルシア様、歓迎いたします」
挨拶が済むと、馬車が用意された。6人用の物が2台。
ゴロー、ルナール、アーレン、ラーナとサナ、ハカセ、ティルダ、ヴェルシアの2組に分かれて馬車へ。
そして向かったのは、前回泊まった第2迎賓館。
「ここは靴を脱ぐんですよ」
「そうなのです」
前回泊まったゴローやサナ、ティルダは、そうした作法を覚えていた。
なお、ルナールも第2迎賓館であるが、あてがわれた部屋は使用人用のものとなっていた。
一緒の部屋にならないかと尋ねたゴローであったが、この国ではルナールはまだ服役中なのでその要望は通らなかったのである。
とはいえ、
「ですが、お世話をするため、ゴロー様やサナ様のお部屋に出入りすることは問題ありません」
ということなので、荷物を置いたらこっちに来るようにと指示をしたゴローである。
ちなみに、『お届け物』は献上品ではないので、そのままネアに渡した。
* * *
そして、寛ぐならまずは温泉である。
1階にある浴場へと向かうゴローたち。
お金やアクセサリーなどの貴重品は、部屋に備え付けになっている金庫にしまえるようになっていたのは前回と同じ。
ゴローとアーレンは男湯へ。
サナ、ハカセ、ティルダ、ヴェルシア、ラーナは女湯へ。
「あ、『ゆ』って書いてありますね」
青木の子孫であるアーレンは、多少の仮名は読めるので、のれんの文字も読めたのである。
「アーレンは、温泉に入ったことは?」
「2回ほど。ルーペス王国内の地方都市で、ですけど」
「ふうん」
「その時はかなり硫黄の臭いがしましたけど、ここはしませんね」
「うん、そうだな。ここのお湯は『単純泉』だから」
「へえ……温泉の種類もいろいろあるんですね」
「そうだな」
のんびりお湯に浸かりながら、いつもこうだとスローライフっぽいんだがな、と今更ながら考えるゴローであった。
* * *
ハカセたち5人は、サナとティルダが経験者なので、こちらも問題なくお湯に浸かっていた。
「ああ、いいお湯だねえ」
「気持ちいいですね」
「のんびりします」
「ラーナちゃんはずっと働き詰めだったんだろうからねえ。のんびりしてお行きよ」
「はい、ハカセ」
「ゴローが時々呟いてる『すろーらいふ』って、こういうことかねえ」
「うん、そう、かも」
サナがのんびりとした声で同意する。
「そういえばハカセ、こちらでは顔出しは構わないんですか?」
ヴェルシアが問う。
「来たことがないから顔も売れていないし、名前も知らないだろうしねえ」
「ハカセ、って名乗りましたしね」
「そうそう」
「この国なら外出もできそうだねえ」
「お供、する」
「頼むよ、サナ」
そんなこんなで、女性陣も温泉でゆっくり寛ぐのであった。
* * *
夕食は『謎知識』がいうところの和食。
白いご飯、カブラの味噌汁、川魚の塩焼き、カボチャの煮つけ、ホーレンナ(ホウレンソウ)のおひたし。
「なかなか美味しいねえ」
「ですね」
ちなみに、夕食はルナールも一緒に食べている。
給仕をさせるという建前でこちらに呼んだのだ。
いつも一緒に食べている者がいないと物足りないからである。
そして、食後のお茶を飲んでいると……。
「失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」
と声を掛け、ネア・ジャンガルがやって来た。
そしてルナールを見、
「ルナール、元気そうね」
と微笑んだ。
が、その後、
「ですが、どうして使用人のあなたが、ゴロー様たちと同じ席に着いているんですか!」
と叱責も口にする。
それにはゴローがすぐにフォロー。
「いや、いいんだよ、ネア。俺が一緒に食事をしようと言ったんだし、うちではずっとそうしてたんだから」
「え、そうなのですか?」
「うん、そう」
サナも肯定し、ティルダやヴェルシアもこくこくと頷いてみせた。
「やっぱり食事はみんなで食べないと美味くないし、じっと見ていられると落ち着かないし」
「はあ、そういうことでしたら」
「それに、ルナールはよくやってくれているよ。もう俺たちの『家族』も同様だ」
「『家族』……そうなのですね。……ルナール、ごめんなさい。あなた、ちゃんと努めていたのですね」
「あ、ああ。……本当に、ゴロー様たちにはよくしていただいている」
そんなルナールを見て、ネアはほんの少しだけ微笑んだ。
そして、
「ゴロー様とサナ様、そしてルナールは、明日、陛下にお目通りしてください」
と、告げる。
「やっぱりそうなるか……」
「はい。とはいっても、堅苦しい謁見ではないのでご安心を」
「うん、わかった」
「明日の朝、8時ころにお迎えに上がります。着物もこちらで用意しますので……」
そうした説明を終え、ネアは帰っていった。
「ゴローとサナ、それにルナールはご苦労さんだねえ」
ハカセは苦笑しながら言った。
「ハカセはどうしますか?」
「私がご案内しますので、ミユウ先生の工房に行ってみませんか? アーレンさん、ラーナさん、ヴェルシアさんも」
ティルダはお世話になった『塗師』(漆職人)のミユウに会いに行くので、ハカセたちも来ませんか、と誘った。
「そうだねえ、ちょっと興味あるねえ」
「行ってみたいですね」
「行きますよ、な、ラーナ」
「はい、ご一緒します」
ということで、ハカセたちの予定も決まったのであった。
* * *
さて翌日。
約束の時間にネアがやって来て、ゴローとサナ、ルナールを案内していった。
残されたハカセたちも、ゆっくりと身支度をして出掛ける準備。
目的地ははっきりしているので、第2迎賓館の職員が馬車で連れて行ってくれることになった。
「助かるねえ」
「はいなのです」
職員は犬の獣人で、無口な壮年の男だった。
馬車を走らせること20分で、目的地に到着。
「懐かしいのです」
町の北西にある小山の麓。
周囲は生け垣で囲まれた、静かな場所である。
玄関の少し脇に、梅の木がある。
フロロの『分体』から成長したもので、今では独立した『木の精』となっている。
「あら、珍しい顔ぶれね」
『木の精』の『ヴィリデ』が姿を見せた。
元は王都の屋敷の『フロロ』が親木だったので(今は別個体となっている)、ハカセとティルダのことは知っているのだ。
が、別個体になった時点で親木であるフロロとの『繋がり』は弱いものになっており、定植以降に仲間になったヴェルシアやアーレン、ラーナのことはよくは知らなかった。
「一般的な植物同士のネットワークを通じて、新しい仲間が増えたということだけは知っていたけどね。……今日はサナちんとゴロちんはいないの?」
「ええと、お2人は女王陛下とお会いしているのです」
「ああ、なるほどね。……もし時間があったら、サナちんとゴロちんにも会いに来てくれ、って伝えといて」
「はいなのです」
それで満足したのか、ヴィリデは姿を消した。
入れ替わりに、工房主のミユウが姿を表す。
「お客人かな? ……おや、ティルダじゃないか。久しいな」
「先生、ご無沙汰しているのです」
「うんうん、元気そうでよかった。そちらはご友人かな?」
「はいなのです。……お世話になっている方たちで、ハカセさん、ヴェルシアさん、アーレンさん、ラーナさんなのです」
「ほう。……私はここで漆塗りを生業にしております、ミユウと申します」
「ハカセ、という。よろしくお願いするよ」
「ヴェルシアといいます。よろしくお願いします」
「アーレン・ブルーです。どうぞよろしく」
「ラーナと申します。どうぞよろしくお願いします」
挨拶を済ませると、ミユウは一行を庭園の方に招いた。
工房の裏手に広がるそこには小さな四阿があり、腰を掛けて寛げる。
ハカセたちをそこに座らせたミユウは、
「今、お茶を用意しよう」
と言って、自ら母屋に向かった。
それを見たティルダは立ち上がり、慌てて後を追う。
「あ、先生、お手伝いしますのです」
「そうか。それなら、手伝ってもらおうかな」
「はいなのです」
そういうことになった。
その後数分で、ミユウがお茶を、ティルダがお茶菓子を持って戻ってきた。
お茶は香りのいい煎茶、お茶請けは干しアンズ。
「さあ、どうぞ」
「いただきます」
「うん、美味しいです」
「こりゃ美味しいねえ」
ハカセたちはお茶を飲み、お茶菓子を口にし、庭園を眺めてのんびりするのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月12日(木)14:00の予定です。