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13-14 1つの区切り

 そばを栽培してみたくなったゴローは、老婦人ジェーティア・ローバーに種を分けてくれないかと頼んだ。


「そばの種ねえ……。あまりたくさんはあげられないよ?」

「それでもいいです。最初は種用に栽培しますから」

「それでいいなら、少しあげようかね」


 そう言って、奥へ行ったジェーティア・ローバーは、少しすると小さな袋を持って戻ってきた。


「これだけあれば十分だろうさ」

「ありがとうございます。お代は?」

「そんなの、ティルダちゃんの鑑定料にもならないよ」


 そう言ってジェーティア・ローバーは笑ったのだった。


*   *   *


「よかったですね」


 帰り道で、ゴローはオズワルド・マッツァにそう声を掛けた。


「ええ、おかげさまでなんとかなりそうです。ティルダさん、ありがとうございました」

「どういたしまして、なのです」

「ゴローさんも、そばの実でまた何か新しい商品ができましたら教えて下さい!」

「はあ、まあ、その時は。……ああ、それなら、そばの実を仕入れていただけますか?」

「お安い御用です! ああ、新商品が楽しみですよ!」

「あ、あはは……」


 商売熱心なオズワルド・マッツァであった。


*   *   *


 オズワルド・マッツァを商会まで送り、ゴローとティルダは屋敷へ戻ってきた。

 そしてさっそくマリーを呼び、サナも連れてフロロの所へ。


「どしたの、ゴロちん?」

「うん、じつは、この種を栽培してみたいんだが、ここでできるかな?」

「どれどれ……『そば』の種ね。もちろん、できるわよ」

「そうか、よかった」

「ここの気候だったら、年に2回か3回、収穫できるわね」

「それはありがたいな」

「ただし、連作障害が起きやすいから、あたしが見守ってあげる」

「助かるよ」

「うん、ありがとう、フロロ」

「サナちんのためでもあるしね」


 『木の精(ドリュアス)』のフロロは、自分の『領域(テリトリー)』内の植物に大きな影響を及ぼすことができるのだ。

 雑草を抑制したり、連作障害を軽減したりも可能。


「で、水やりはマリーに任せるわね」

「はい、承りました」


 『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーなら、散水ホースなしでも水撒きができるのである。

 屋敷内の管理全般はお任せなのだ。

 これで、まずは1回栽培すれば、十分な種が確保できるだろうとゴローは期待したのである。


*   *   *


 一とおりの用を終えたゴローは屋敷内へと戻った。

 すると、ちょうど昼食の準備が終わったところで、もう皆椅子に座っていた。

 ゴローも慌てて手を洗い、席に着く。


「全員揃ったね。じゃあお昼にしようかね」


 ハカセの声で、全員習慣になっている『いただきます』を言い、食べ始めた。

 今日のお昼の献立は焼き立てのコッペパンに、思い思いのジャムやバターを付けて食べることになる。


 サナは当然、甘味系だ。木いちごのジャム、梅ジャム、はちみつ、メープルシロップで4個。

 ハカセはバターで1個、はちみつで1個。

 ヴェルシアはメープルシロップ、木いちごのジャム、バターの順で3個。

 ティルダは意外にもバターで3個。

 ゴローはバター、はちみつ、バター、メープルシロップの順で4個。

 ルナールはバター、梅ジャム、バター、木いちごのジャムで4個。


 飲み物はホットミルクだったが、サナだけはそこにメープルシュガーを入れて飲んでいた。


*   *   *


「さて、早いとこ『夫婦石(カップルストーン)通信機』を改良しなくちゃね」

「まだ足りないんですか?」

「いやいや、完成度を上げて、献上できるようにするのさね」

「ああ……そうすれば、我々も堂々と使えるようになりますからね」

「そういうことさ」


 ということで、ハカセはサナを連れて工房へともるのであった。

 改善点は音質の向上と、双方向通信である。

 音質向上はスピーカーに相当する風属性魔法。

 双方向通信は……。


「やっぱり2個使わないと無理だねえ」

「ハカセ、それは、仕方ない」

「だよねえ……少なくとも献上用は双方向にして、少々豪華な作りにしようかねえ」

「それが、いいと思う」


 今の『夫婦石(カップルストーン)通信機』は交代で話す方式で、言葉の最後に『どうぞ(オーバー)』を付け、相手の話す番であることを示すようになっている。

 それを、電話のように受話器と送話器を分けようというわけだ。

 構造は単純で、単に2組の『夫婦石(カップルストーン)通信機』を1つにまとめただけである。

 サナとしても、高機能を目指すあまり、複雑になりすぎて王城の技術陣が複製できないというのもまずいと思っている。


「じゃあ、その方向で作ろうかねえ」

「それがいい。……3組、作ろう」

「そんなにいるかい?」

「献上品だし、後で、追加で欲しいなんて言われないように」

「まあそれもそうだねえ。じゃあ、ちゃっちゃと作ってしまおう」

「うん」


 というわけで、ハカセとサナは『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』を3組作り上げたのである。


「うーん……こうしてみると、あたしたちが使うのも双方向にした方が使い勝手がよさそうだねえ」

「同感……」

「じゃあ、うちの分も作ろうか」

「うん」


 ということで、『研究所と王都の屋敷』『研究所と『ANEMOS()』』用の2組も作ってしまったハカセとサナである。


*   *   *


「ちょうど呼びに行こうと思ってました」

「うん、匂いがしたから、わかった」


 『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』を完成させたハカセとサナが工房を出ると、ちょうどそこへヴェルシアが2人を呼びにきたところだったのだ。


 夕食は白いご飯、卵を散らした吸い物、野菜の煮物、川魚の塩焼き、お新香。


「この吸い物は美味しいねえ」


 煮干し系の出汁に醤油と酒で味を整え、溶き卵を散らしたもの。ハカセは気に入ったようである。


「で、ハカセ、できたんですか?」

「ああ、できたよ。明日あたり、また王女様が来るんじゃないかねえ? そうしたら渡せばいいさね」

「そうですね」

「あ、でも、献上品なら持っていったほうがよくはないですか?」


 頷いたゴローだったが、ヴェルシアが反対意見を出した。


「それも一理あるか」

「あたしゃ、1日も早く研究所に帰りたいから、そっちのほうがいいねえ」

「うーん……」


 ゴローはちょっと考え込んだ。


「あ、それと、通信機を渡したら、その1つをこっちに寄越さないとは限りませんよね?」

「えっ……うーん……そういう可能性もあるねえ……」


 通信機があることで、屋敷に来ずにちょいちょい連絡を入れてくるようになるのではないか、ということにヴェルシアは思い至ったのである。


「うーん……じゃあ、献上品は1組だけにしておくかねえ」

「あ、それならいきなりは寄越さないでしょうね」


 こちらはそれでいくことになる。


「じゃあ、明日、午前中に殿下が来なかったら、午後にでも献上に行くか……」

「うん、それで、その時に、また『ANEMOS()』で鉱物探しに出掛けるとでも言っておいておくれ」

「そうしましょうか」


 で、結局そういうことになったのである。


「今日はまだ時間が少しあるから、『ANEMOS()』に『双方向夫婦石(カップルストーン)通信機』を搭載しておこうかね」

「そうですね、それは役に立ちそうです」

「じゃあ、フランクとサナに手伝ってもらってさっさと済ませておくよ」

「お願いします」


 こちらもそういうことになり、翌日のあらましが決まったのである。


*   *   *


「で、今度は何をしましょうか」

「何をするか、っていうより、どこか遠くへ行ってみたいねえ」

「『ANEMOS()』ならいけますからね。……どこか、あてはありますか?」

「うーん……北か、南か……東か、西か……」

「全方位じゃないですか」

「決めかねてるんだよ」

「じゃあ……まずは『ジャンガル王国』へ行ってみますか?」

「それもいいねえ」


 ハカセは、『ジャンガル王国』へは行ったことがないのである。


「じゃあ、特に何ごともなければ『ジャンガル王国』へ行く、ということで」


 そういうことになったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月21日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
固有種のハムスターとか居そうな名前の王国だなぁ
フロロはキューティーハニーの空中元素固定装置のごとく 窒素を土に固定できるのかな
>>お代は? 仁「命?」 明「ただより高い物は無い・・・」 56「をひ・・・」 >>ああ、新商品が楽しみ 仁「新そば入りました?」 明「通常のそばにそばがきに・・・」 56「いきなり10割は無理だろ…
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