13-12 青い石
屋敷に戻ったゴローたちは、夕食後に1日の出来事を報告し合った。
「ええと、今日1日の出来事をまとめると……」
「まず、『古代遺物』を保存していた容器の中から出てきた葉っぱは、古代のものだけど特に変わった効果や効能はないそうです」
ゴローが司会を務め、まずヴェルシアが報告した。
次いでハカセが口を開く。
「『研究所』とここを結ぶ『夫婦石通信機』はあたしの部屋に設置したよ」
「ハカセの部屋は奥のまた奥ですからね。まず感付かれないでしょうし」
その次はゴローが。
「アーレンのところに行ってきました。あと2、3日のうちにオーナーという立場になって、工房に常駐する必要をなくすとのことです」
「ほう、そりゃいいねえ」
「ラーナも一緒だそうですので、仲間が増えますね」
「うんうん。……で、アーレンにも『夫婦石通信機』を渡したんだね?」
「一応。……こっちに引っ越してくる時には持ってくると思います」
「そうだろうねえ。ブルー工房に置きっぱなしはまずいよ」
さらにティルダが。
「サナさんと『マッツァ商会』に納品しに行ってきたのですが、その時に珍しい石を見たのです」
「へえ、ティルダちゃんが珍しいと言うんだから相当珍しいんだろうね?」
「はいなのです。まず出回ることはない石なのです」
「何か特殊な効果があるとか?」
「ないはずなのです……」
「そうかい……」
ルナールも、
「小麦粉100キム、大麦50キム、砂糖30キム、塩3キムが届きましたので倉庫に運んでおきました」
と報告を行い、報告会は終わりとなった。
それからは雑談となる。
「そういえばハカセ、『Celeste』に『帰還指示器』を当ててないのはまずかったですね」
「ゴローも気が付いたかい。あたしたちは全員に当てた『3次元帰還指示器』を用意したけど、『ANEMOS』には当てていないことに夕方気が付いたんだよ。……で、当てておいたけどね」
「そうでしたか」
「研究所に戻ったら、飛行機も全部に当てておこうかねえ」
「それがいいですね。自動車にも当てておきましょうよ」
それならば、飛行機や自動車を盗まれたとしても探し出せるわけだ。
「王女様は『Celeste』には当てていなかったのかねえ?」
「あ、それはやったみたいです」
「それなら万が一のことがあったら『Celeste』を探しに行けるね」
「それなんですよ」
「うん?」
「……もし『Celeste』が行方不明になっていたら、『探してくれ』って依頼が俺たちに来るんじゃないかと」
他に探しに行ける手段がないのである。
「ああ、それもそうだねえ……」
「アーレンたちが合流するまであと2日か3日、それまでに『Celeste』が戻ってくればいいんですが」
「無事を祈るしかないね」
「はい……」
「あと、『トウガラシ』が収穫できました。今、乾燥中です」
ルナールが追加で報告する。
「おお、それはよかった」
「土を取り替えて、また栽培しますか?」
「そうだな……乾燥させたトウガラシは保存ができるから、今回の半分でいいから追加で栽培しよう」
「わかりました」
不在時の世話は『屋敷妖精』のマリーが担当してくれるので安心である。
また、『木の精』のフロロも気に掛けてくれているので心強い。
重要な話はそれで終わりとなり、あとは他愛もない話をしてその日は終わったのである。
* * *
翌日、午前8時少し前に『マッツァ商会』から使いの者がやって来て、ティルダに至急来てほしいとの伝言を残していった。
そこでゴローが付き添い、自動車で『マッツァ商会』へ。
まだ店を開ける時間ではないが、商会主オズワルド・マッツァは店の前に立ち、2人を待っていた。
「おおティルダさん、よく来てくださいました。ゴローさんも、ようこそ」
「何かあったのです?」
「ええ。まあ、どうぞ、中へ」
オズワルド・マッツァは2人を中へ招き入れた。
応接室に通される2人。
すぐにお茶とお茶菓子が出てきた。
が、ティルダは気になって、お茶にもお茶菓子にも手を付けられない。
「あの、お話を聞かせてほしいのです」
「ええ、わかりました」
困った顔のオズワルド・マッツァは訥々と語り始めた。
昨日見せた『ベニト石』に関してだった。
「じつは、大口のお得意様が、この石をカットしてほしいとおっしゃったのですよ」
「それは別に難しくないのです」
「ええ。それで、もっとこの石をほしいともおっしゃって……」
「それは……大変なのです」
「そうなんです」
うなだれるオズワルド・マッツァ。
「ええと、オズワルドさんは、どこでこの『ベニト石』を仕入れたのです?」
「それが、『サファイア』の原石の中に混じっていたのですよ」
「ああ、それは……」
傍で聞いていたゴローにも、かなり困難な話だということが理解できる。
「サファイアでは駄目なのです? 色がよく似た石もあるはずなのです」
「それが……つい、ティルダさんからうかがったお話をそのお客様にしてしまいまして」
サファイアに似てはいるが、サファイアではなく、もっと希少な石であることを話してしまったのだという。
「コレクターでもあるその方は、是非ともこの石をもう1つ、できれば2つ欲しいとのことでした」
「……」
「ゴローさんもご一緒なのは幸運でした。ゴローさん、この石の在庫、もしくは入手経路はご存じないですか?」
「申し訳ないですが、心当たりはないですね」
「そうですか……」
がっくりと肩を落とすオズワルド・マッツァ。
「あの……オズワルドさん、サファイアの在庫の中にもう1つくらい混じってないのです?」
「ええ、そう思って探してみたんですが、見つかりませんでした」
「そうなのですか……」
ここでティルダは、もう1つ思いつく。
「ええと、『ゾイサイト』の原石はないのです?」
「ゾイサイト……ああ、少しあります」
「そこに混じっているかもなのです。他にも、青い石の原石があったら探すといいと思うのです。私も手伝いますのです」
「おお、それは助かります。すぐに!」
ティルダの提案に一も二もなく飛びついたオズワルド・マッツァは、一旦店の奥へ行くと、しばらくして2つの箱を抱えて戻ってきた。
「これが、今うちにある青い石の原石です」
「拝見しますのです」
ティルダは箱の中から原石を取り出し、テーブルに並べ始めた。
オズワルド・マッツァとゴローも手伝う。
一応『サファイア』『ジルコン』『ゾイサイト』『ブルートパーズ』などに分けてあったので、戻す際に混じらないよう、テーブルを分けて並べていった。
「うーん……『サファイア』の中には混じってなかったのです」
「そうですか……」
次は『ジルコン』の原石を調べていくティルダ。
ジルコンは『ジルコニウム』のケイ酸塩鉱物で、純粋なものは無色だが、微量に混じった不純物によって発色する。
茶色の石がポピュラーで、これを熱処理すると青く発色する。
めったにないが天然のものでも、鉱床がマグマ等によって再加熱されたものは青くなることがあるらしい。
「『ジルコン』にもなかったのです」
「残念です……」
調べ終わった石は、紛らわしくないよう、箱に戻しておく。
次に取り掛かったのは『ゾイサイト』。
『ゾイサイト』は『黝簾石』または『灰簾石』ともいい、バナジウムによって青から青紫に発色する。
地球では、青いゾイサイトは、最初に発見されたタンザニアの名を取って『タンザナイト』とも呼ばれる。
「うーん……」
「ど、どうですかな?」
「これ、『ベニト石』なのです」
「おお、ありましたか!」
喜ぶオズワルド・マッツァ。
だが、次に続くティルダの言葉に、再び肩を落とすことになる。
すなわち、
「でも、色合いが最初のものとだいぶ違うのです」
ということ。
「昨日見せてもらった『ベニト石』はもっと濃かったのです……」
「確かに、そうですな……」
こちらは大分色が薄いように見える。
「残念です……」
「ブルートパーズも見てみるのです」
最後に残ったブルートパーズの原石も見てみたが、『ベニト石』は混じっていなかったのである。
「他のお店に聞いてみたのです?」
「いえ、まだです。……ティルダさん、ご一緒していただけませんか?」
ティルダの『加護』があれば、すぐに判別が可能である。
「はい、ご一緒しますのです」
「おお、ありがとうございます!」
「それじゃあ、俺が自動車に乗せていきましょう」
「ゴローさん、ありがとうございます」
ということで、オズワルド・マッツァとティルダは、ゴローの運転で一緒に他の店……ライバル店や問屋など……を回ってみることになったのである。
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次回更新は11月7日(木)14:00の予定です。
本日は 蓬莱島の工作箱
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も更新しております。
お楽しみいただければ幸いです。
20241031 修正
(誤)「まず、『古代遺物』を保存していた容器の中かた出てきた葉っぱは
(正)「まず、『古代遺物』を保存していた容器の中から出てきた葉っぱは