13-10 通信機
『夫婦石』の鉱脈を発見した翌々日、ゴローとサナは王都へと向かった。
探査行の結果をローザンヌ王女に報告するためである。
ハカセ、ティルダ、ヴェルシアは研究所に残った。
「こっちが鉱脈だったわけだが、向こうはどうだったんだろうな」
「……まだ着いていない可能性も、ある」
「それもそうか」
『ANEMOS』と『Celeste』では最高速が違いすぎるためだ。
もっとも、『Celeste』が向かった地点の距離が近いなら話は変わってくるが。
* * *
「おおゴロー、もう戻ったのか」
屋敷に戻ると、1時間足らずでローザンヌ王女とモーガンがやって来たのだ。
「ゴローの『ANEMOS』を日夜見張らせているからな」
とはローザンヌ王女の言葉。
見張りの兵士さん、ご苦労さまです……とゴローは内心で労っておいた。
「思ったより早かったな。で、首尾は?」
「はい、鉱床を見つけました」
「お、おお! そうか、よくやってくれた!!」
ローザンヌ王女は躍り上がらんばかりに喜び、ぱしぱしとゴローの肩を叩いた。
「うむむ、さすがゴローとゴローの仲間だ。サナも活躍したのだろう?」
「はい、それはもう」
有形無形に一行を支えてくれたことに違いはない。
「そうかそうか、ご苦労だった」
「はい。……で、これが詳細、そしてこっちが『遺跡』に当ててある『3次元帰還指示器』です」
「ん? ……待て待て、今、気になる言葉を2つも言ったな?」
「はい?」
「……まず、『3次元帰還指示器』とは何だ?」
「あ、向かう道中で開発した『帰還指示器』の発展型です。ほら、相手が地下にあった場合は針が下を指してくれるんですよ」
ゴローは実物を示して説明を行った。
「ふむ、なるほど……針が下も向くようにしたわけだな」
「そういうことです、殿下」
「1つ目はわかった。……ゴローよ、2つ目の『遺跡』とは?」
今度はモーガンからの質問である。
「ああ、それはですね、見つけた鉱脈は、どうやら先史時代のものらしく、入口に建物がありまして……」
ゴローは資料を示しながら説明を行った。
「お、なるほど。資料に書かれているのだな。……ふむ……寒いのか……」
「はい。行くのなら冬は避け、できれば夏がいいでしょう」
「後でじっくり読ませてもらおう。本当に、ご苦労だった。追加で何か褒美を与えたいが……なにか希望はあるか?」
「ええと、でしたら研究用に『夫婦石』を分けていただければ」
「うん? ……ゴロー、鉱床へ行って何も持って帰ってこなかったのか?」
「いえ。……あ、ここにあるだけ掘り出してきました」
ゴローはうっかり忘れていた『夫婦石』の入った袋をテーブルに置いた。
「ほう、そこそこあるな。……これで掘り尽くしたわけではないのだろう?」
「はい、掘り進めばまだまだ採れるかと」
「うむ、であれば、ここにある分は全てゴローにやろう」
「よろしいのですか?」
「かまわん。それくらいなら私の裁量でどうとでもなる」
「ありがとうございます」
ゴローはありがたく受け取った(差し出した袋を引っ込めた)のだった。
* * *
「もう1箇所の方はどうなっています?」
「うむ、ゴローたちの1日後に出発したが、まだ帰ってこない」
「そうですか」
「近衛騎士も同行しているから、大抵のことには対処できるはずだ」
「うむ、そうだな、モーガンの言うとおりだ。……鉱脈はゴローの方にあったわけだから、こちらには何があるのか、楽しみだ」
やはり先史時代の遺跡があるのかもしれんな、とローザンヌ王女は期待するように言った。
* * *
そして。
「うむ、やっぱりゴローのプリンは美味いな」
「あ、そうだ、これも掛けてみますか?」
「それは?」
「『コーヒーリキュール』といいます」
「ふむ、いただこう」
まずはモーガンが器を差し出した。
食べかけのプリンに数滴垂らしてみる。
「ほう、いい香りだ。味は……う、これは美味い! 姫、これは美味しいですぞ」
「そうか。ゴロー、私にも頼む」
「はい」
ローザンヌ王女のプリンにも数滴。
「ほほう……プリンの甘みにほのかな苦味が加わって、さらには香りも……カラメルとはまた違う味わいだな」
「お口に合ってよかったです」
「うむゴロー、これはいいものだ」
「作り方はあとでお教えします」
「ありがとう」
そんな一幕を経て、ローザンヌ王女とモーガンは城へ帰っていった。
* * *
「思わぬご褒美だったな」
「うん、ハカセ、きっと喜ぶ」
「とりあえず、戻って報告しようか」
「私は、構わない」
「よし」
ということでゴローとサナはその日のうちに研究所へとんぼ返り。
ハカセに報告をする。
「そうかい、それはよかったねえ」
『夫婦石』がごっそり入った袋を前に、ハカセはご満悦である。
「これで心置きなく研究ができるよ。まずは『通信機』だねえ」
ハカセは『夫婦石』を使った通信機の構想をずっと練っていたのである。
「構想が固まったんですか?」
「もちろんさね。ゴローとサナがいない間に予備実験をしたんだよ」
それを聞いて、やはりハカセだなあとゴローは思った。
「それで、どうでした?」
「もちろん成功さ」
「やりましたね!」
「あとは、音を増幅する方法だねえ」
「そういう魔法はないんですか?」
「一応あるよ」
「じゃあ、もうできたも同じですね! おめでとうございます!!」
「気が早いよ」
と言いつつも、ハカセはまんざらではないような顔をした。
「原理はどうなっているんですか?」
「うん、聞いておくれ」
ハカセによると、『夫婦石』の片方を振動させることで、もう片方の『夫婦石』にも振動が伝わることがわかったのだという。
そこで薄く加工した『夫婦石』に向かって音を出し、振動させると、離れた場所にある『夫婦石』の片割れも同じように振動して音が再現される、というわけだ。
原理としては糸なしの糸電話である(それを糸電話と呼べるかどうかはさておき)。
「セットする『夫婦石』を取り替えれば、別の相手とも通話できるようになるはずだから規格化が必要だろうねえ」
「ですね。『夫婦石』を融かしてリセットできることがわかったのは幸運でした」
「だねえ。……切り離したりスライスしたりにはゴローの『ナイフ』が役に立ってくれそうだよ」
「あ、そうですね」
そしてここで、音の増幅という話につながる。
「『拡声』っていう風属性の魔法があってね。これを使えば声を大きくできると思うよ」
「あ、よさそうですね」
「本来は戦場なんかで声を響かせる魔法なんだけどね」
「平和利用ですね」
「確かにねえ」
ゴローの表現に、ハカセもにっこり微笑んだのだった。
* * *
そして2日を掛け、『夫婦石』利用の『通信機』は完成した。
「できたねえ」
「できましたね」
「おめでとうございます、ハカセ」
「ありがとう、みんな」
途中、実験のためにゴローが『ANEMOS』で研究所を離れ、およそ300キル離れてもまったく問題なく通信できることも確認できている。
『夫婦石』の性質から見て、通信可能距離はほぼ無制限であろうことが期待できる。
こうして『夫婦石通信機』が完成したのである。
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次回更新は10月24日(木)14:00の予定です。