13-08 新たな古代遺物
フロロの『分体』が地表に魔力を探知した。
そこでゴローたちの乗った『ANEMOS』は一旦停止。
ゆっくりと高度を落としていく。
「あ、私にもわかるように、なった」
「俺も」
まずサナが気付き、すぐにゴローも気が付いた。
地表は疎林とでも言うべき、灌木と中高木がまばらに生えている緩傾斜地。
木の高さは高くても10メルには届かない。
そこで『ANEMOS』は15メルほどの高さまで降下した。
「あのあたりに魔力が」
「うん、わかる。……何だと思う、フロロ?」
「うーん……魔物や魔獣じゃなさそう。かといって人間でもない、というか生き物じゃないと思う」
「じゃあ何だ?」
「……わからないわ」
フロロの『分体』にもわからない魔力反応。
ゴローたちはどうすべきか話し合うことにした。
「危険がないなら調べてみたいけどねえ……」
「フロロ、どうなの?」
「うーん……大丈夫そうだとは、思う……」
「フロロがそう言うなら、調べてみるか」
ゴローとしても気になっている。
以前『ナイフ』を見つけた時の状況ともちょっとだけ似ていたからだ。
「それじゃあ、慎重に調べてみるということで」
「うん、それでいいよ」
ゴローの言葉に頷くハカセ。そして他のメンバーも異議は唱えなかった。
* * *
ヘルメット着用の上、『飛行ベスト』を使う。
手には1メルほどの鉄棒を持つ。
ゴロー自身も『強化』を掛け、もしもの時に備える。
「それじゃあ、行ってきます」
「ゴロー、気を付けるんだよ」
「はい」
そんなやり取りをしたあと、ゴローは装備を確認後『ANEMOS』から降下した。
下は枯れた草原状の空き地である。
魔力反応はそこからわずかに離れた疎林の中。
「特に変わったことはないな」
地面に降り立ったゴローは、周囲を確認する。
野生動物や魔獣の気配はない。
地面は雪解けの影響で湿り気を帯びているが、泥濘んでいるというほどではない。
気温は摂氏5度くらい、一般的には『肌寒い』陽気だ。
そのせいか、昆虫類も全く見かけない。
ゴローはゆっくりと、魔力反応へと近付いていった。
鉄棒は右手に持ち、油断をせず周囲に気を配りながら……。
「……あっけなく着いたな」
何ごともなく魔力反応のある地点に到着した。
「土の下かな?」
見える場所には何も見当たらなかったので、埋まっているのだろうとゴローは考えた。
そこで、『念話』を使いサナに報告。
〈サナ、…………というわけなんだが、土を掘る魔法ってあったっけ?〉
〈ある。『土・掘る』……ゴローにも昔、教えたはず〉
〈え……あ、そうだったそうだった〉
〈深く掘るなら『土・掘る・深く』でもいい〉
〈思い出したよ。ありがとう〉
〈うん、気を付けて〉
〈おう〉
そういえばあの時も遺跡らしき場所を掘り起こしたんだった、とゴローは懐かしく思い出した。
その時に見つけたのが何でも切れる『ナイフ』である。
今度は何が見つかるんだろう、と少し期待しながら『土・掘る』で土を除けていく。
この魔法は『土』のみを動かすので、埋まっているものを掘り出すには都合がいい。
まあ、木の根や石はそのままなので、そちらはそちらでどかす必要があるのだが……。
〈ゴロー、どう?〉
〈うん……1メル掘ったがまだ何も見つからない〉
〈そう、頑張って〉
そしてさらに1メル、土をどかすと……。
「お?」
金属製の球体のようなものが見つかった。
直径は60セルくらい、鈍い輝きを持っており、錆びた様子はない。
魔力の感じでは、間違いなくその球体が目的のものである。『古代遺物』であろう。
〈……こんなものが見つかった〉
〈……ゴロー、広場へ持って来られる?〉
〈大丈夫……だな〉
ゴローはそれを持ち上げてみたが、さほど重くはない。
〈そう、じゃあお願い。ハカセが見てみたい、って〉
〈わかった〉
そこでゴウは球体を持ち上げて空き地へと運んでいく。重さは30キムくらい、見かけより重くはない。
「さて、一体何が入っているのか……」
おそらくこれはカプセルのようなもので、中に何か重要なものが入っているのだろうとゴローは想像している。
軽く叩いてみるが、内部の様子はわからない。
が、魔力的な変動は全く感じられないので、5分ほど様子をみたあと、おそらく安全だろうと、ゴローは『念話』でサナに合図をした。
空き地の端にカプセルを置いて待っていると、『ANEMOS』がゆっくり降下し、着陸するや否や、ハカセが飛び出してきた。
「これかい、ゴロー!」
「あ、はい、ハカセ」
「うーん……見たことのない金属だね……アルミやジュラルミンじゃないし……ステンレスでもない、チタンでもない」
ゴローが『謎知識』で得た情報を伝えているので、一般的な金属や合金についてもハカセは知っているのだ。
そして、サナとフロロがそばに付いており、魔力の異常な動きがないかも見張っている。
「うーん……どこから開けるのかねえ」
「ハカセ、溶接……ではないのですが、閉じてから一体化したのではないのです?」
「うーん、ここまで調べて継ぎ目がわからないということは、ティルダちゃんの言うとおりだろうね」
だとすると、切り開く必要がある。
「ゴロー、頼むよ」
「はい、ハカセ」
ゴローの『ナイフ』の出番である。
ポケットから出した『ナイフ』を使い、ゴローは慎重に『カプセル』を開けていった。
「おお、開いた開いた」
「さて、中身は……なんだろうね、これ」
『ぶにょっと』という擬音が似合うようなゼリー状の物質が中に詰まっていた。
「瓶を持ってきて保管しようかね」
「あ、ハカセ、私が取ってくる」
サナがそう言って『ANEMOS』へと駆けていった。
30秒もしないうちに大きめの瓶を21本、かごに入れて持ってきた。
「大瓶は、これで全部」
「ありがとうよ、サナ」
瓶の大きさは1リル入り。
21本あれば21リル入るので、中に詰まっていたゼリー状物質は全部瓶に移し替えることができた。
「これって、緩衝材かねえ?」
「その可能性は高いですね」
だが問題は、何を保護していたのかである。
「また何か球があるねえ」
今度は直径25セルくらいの球体が見つかった。
「でもこっちは開け方がはっきりしているね」
シームレスではなく、継ぎ目がはっきりしていたのである。
まるで巨大なガチ◯カプセルだなとゴローの『謎知識』は囁いていた。
そんな内部カプセルの中に魔力反応がある。
フロロの『分体』は、危険はないだろう、と言ってくれた。
「じゃあ、開けてみるよ」
ハカセがそっとカプセルを開けていく。
中にはくしゃくしゃになった木の葉が詰められていた。
「この木の葉、ください。太古の植物だとしたら、調べてみる価値はありそうです」
ヴェルシアがそう言うので、ハカセは任せることにした。
そして木の葉を取り除くと、中にあったのは……。
「望遠鏡?」
思わずゴローが呟く。
双眼鏡ではなく単眼鏡と呼ばれるタイプの望遠鏡によく似たものだった。
「これを覗くのかい?」
「ええ。望遠鏡なら遠くが見えるはずです」
「どれどれ……おやあ?」
「どうしました、ハカセ?」
「なんにも変わらないよ?」
「そうなんですか?」
ハカセから『単眼鏡』を受け取って、ゴローも覗いてみる。
「……ですね。……逆から見ても変わらない……」
ピント合わせのようなリングを回してみたが、やはり同じ。
「見え方も変わらないしね」
「使い方についてなにか書かれていないんでしょうか?」
「ああ、そうだね」
ゴローの質問を受け、ハカセは『単眼鏡』の鏡筒を調べてみたが何も書かれてはいなかった。
次にカプセルの中を探ってみたが、取説のたぐいは見当たらない。
「うーん……」
「魔力に反応はしているようなんですけどね」
悩むゴローとハカセに、サナが意見を口にした。
「ゴローの『ナイフ』もそうだったけど、覗きながら魔力を流してみたら?」
「ああ、なるほどねえ」
「それじゃあ、俺がやってみますよ」
どれくらいの魔力を使うかわからないので、事実上無尽蔵の魔力を使えるゴローが、まずは試してみることになった。
果たして何が起きるのか……?
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月10日(木)14:00の予定です。
20241003 修正
(誤)〈ある。『土・掘る』・……ゴローにも昔、教えたはず〉
(正)〈ある。『土・掘る』……ゴローにも昔、教えたはず〉
(誤)どれくらいの魔力を使えかわからないので、事実上無尽蔵の魔力を使えるゴローが、まずは試してみることになった。
(正)どれくらいの魔力を使うかわからないので、事実上無尽蔵の魔力を使えるゴローが、まずは試してみることになった。