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13-02 冒険への発進

 ローザンヌ王女からの依頼。

 それは、


「この2つの方角の片方を調査してもらいたい」


 というものであった。

 王族からの依頼であるから、不可能なことならともかく、ゴローたちも産地には興味があったので引き受けることにした。


「10日分の食料と水、それに500万シクロ(日本円換算で約500万円)……でどうだ? 足りなければ、後で請求してくれていい」

「行けると思います」

「では、後ほどゴローの屋敷に必要な物資を届けさせよう。準備ができ次第出発してくれるか?」

「わかりました」

「ゴローに頼むのは、こちらだ」


 ローザンヌ王女は、北西を向いた『帰還指示器(リターンコンパス)』をゴローに渡した。


 こうして、公式に『夫婦石(カップルストーン)』産地調査に行くことになったゴローであった。


*   *   *


 屋敷に帰ったゴローは、早速その話を皆に伝えた。


「ふうん……ちょっと面白いねえ」


 ハカセは乗り気である。


「王国がある程度費用を持ってくれるというなら、行ってもいいかもね」

「うん、賛成」

「行ってみたいのです」

「未知の土地……ちょっと興味がありますね」


 ハカセ、サナ、ティルダ、ヴェルシアは行くことに賛成のようだ。

 ルナールは発言をしていないが、尻尾を見ると行きたそうな感じが伝わってくる。


「それじゃあ、みんなで行ってみましょう」

「そうだねえ。……それじゃあ、今日中に支度をととのえようかねえ」

「ゴロー、甘いものは?」

「食料は王家からも支給されると思うけど、砂糖とか小麦粉とか樹糖とかは持っていこう」


 『ANEMOS()』には簡易キッチンもあるので、ラスクやホットケーキくらいならすぐ作れる、とゴローは言った。


「うん、それなら、いい」


 サナもその答えに納得した。


「……で、何を持って行きましょうか?」

「そうだねえ。とにかく北の地らしいから、防寒装備は必須だねえ」

「あ、そうですね」

「特に手袋と靴は必須だろうね」

「確かに」


 その他、お湯を入れておける魔法瓶も多めに用意することにした。


「あとは、何があるかわからないから薬だねえ」

「『癒やしの水』も持っていきましょう」

「それはいいかもねえ」

「あとは、マリーとフロロか……」


 『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーと、『木の精(ドリュアス)』のフロロが付いてきてくれると心強い。


「はい、一緒にまいります」


 マリーはすぐに頷いてくれた。


「先日の『(ドレイク)の骨』のおかげで、力も増していますし、いろいろお役に立てると思います」

「頼むよ」

「はい」


 そして、フロロ。


「……と、いうわけなんだけど」

「うん、いいわよ。『分体(ブランチ)』を作ってあげる」

「ありがとう、フロロ」

「他ならぬサナちんの頼みだしね」


 こちらも、『分体(ブランチ)』を出してもらえることになった。


「じゃあ、ここに」

「あ、『(ドレイク)の骨』で作った花瓶?」

「うん。そこに『癒やしの水』を入れてみた」

「いいわね。一月ひとつきは優に活動できそう」


 そういうことになったのである。


*   *   *


 夕方4時半に、王城からの荷が届いた。

 中身は乾パン50キム(kg)、小麦粉50キム(kg)、砂糖10キム(kg)、ワイン1樽(約50リル(リットル))、水4樽(約200リル(リットル))。

 それに銀貨で500万シクロ。


「重すぎて積めないようなら屋敷の備蓄にしてくれて構わないそうです」

「太っ腹だねえ」

「まあ『ANEMOS()』なら問題なく積めますけどね」


 ということで、食料関係はゴローたちの持ち分からも持っていくことになる。

 特に蜂蜜や樹糖、ジャムなどは必須だ(主にサナの要望で)。

 それからドライフルーツ、お米、醤油、味噌も持っていく。


「こんなものかねえ」


 ひととおり準備を終えたところで、ハカセがチェックを行い、満足そうに頷いた。


「『ANEMOS()』なら、大抵の事態に対処できると思うんですけどね」

「油断は禁物だよ」

「はい」

「『亜竜(ワイバーン)』に襲われたらどうなるかわからないしね」

「あ、個人装備としてトウガラシスプレーも持っていきましょう」

「それがいいね」


 『ANEMOS()』は安全でも、降りて調査している時の安全にも心を配る必要がある。


「あと、間に合うなら『アイゼン』と『ピッケル』も用意しましょう。それから『ザイル』も」

「なんだい、それ? ザイルはわかるけど……あ、『謎知識』のお告げかい?」

「はい。……『アイゼン』というのは靴に取り付ける器具で、『ピッケル』というのはこういう杖のようなものです」


 ゴローは図を描いて説明した。


「なるほどね……鉄でいいなら間に合うと思うよ」

「今回はそれでいいと思います。そのうち『(ドレイク)の骨』で作り直せば」

「わかったよ。……ティルダ、手伝っておくれ」

「はいなのです」

「あ、ハカセ、『フランク』は?」

「もう整備は完了しているよ。大丈夫、連れて行くさね」


 『自動人形(オートマトン)』であるフランクがいてくれれば何かと心強い。

 これで『アイゼン』と『ピッケル』が用意できれば、安心である。


*   *   *


 夕食を挟んで3時間で、ハカセとティルダは全員分の『アイゼン』と『ピッケル』を用意してくれた。

 『(ドレイク)の骨』製の工具が威力を発揮したともいえる。


「これで準備は万端かい?」

「だと思います」

「よし、それじゃあ明日に備えて寝るとしようかねえ」

「そうしましょう」


 と、ハカセの言葉に従い、皆休んだのである。


*   *   *


 翌日朝。

 屋敷の庭に、全員勢揃いだ。


「さあ、行くよ」

「はい、ハカセ」


 時刻は午前8時。

 朝食を終えたゴローたちは『ANEMOS()』に乗り込んだ。

 操縦士はフランクが務める。


「フランク、発進だよ」

「はい、ハカセ」


 フランクの操縦で、『ANEMOS()』はふわりと浮き上がった。

 人員と荷物でかなり重いはずだが、まったくそんな様子はなく、まるで重さがないかのように宙に浮かんでいる。

 しかし風が吹いても微動だにせず、『空間』に作用して浮いていることがよくわかる。


「それじゃあ『ANEMOS()』、出発! 進路、北西!」

「了解」


 ハカセの号令で、フランクは『ANEMOS()』を北に向け加速させた。

 時速はおよそ200キル(km)

 空は薄曇り、風も弱く、遠くもよく見える。

 絶好の飛行日和であった。


*   *   *


 『ANEMOS()』の発進は、王城からも見えていた。

 望楼ぼうろうに立ってそれを見ていたローザンヌ王女は、


「ゴローたちに先を越されたな」


 と呟いた。

 王家の飛行船『Celeste(セレスト)』はまだ準備中なのである。


「ゴロー、無事に帰ってこいよ」


 ローザンヌ王女は、視界から消えようとする『ANEMOS()』に向かって、心の中でそっと呟いたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月29日(木)14:00の予定です。


 20240822 修正

(誤)足りなければ、、後で請求してくれていい」

(正)足りなければ、後で請求してくれていい」

(誤) そういうことになったのである・

(正) そういうことになったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] スプレーよりも蓄圧式水鉄砲の方がよさそう
[一言] >>片方を調査して 仁「両方じゃないんだ」 明「まず片方なのかも知れない」 56「え?」 >>尻尾を見ると 仁「まだまだ隠せないか」 明「自由の身は遠い?」 56「いや、奴隷じゃ無いんだが…
[一言] >「あ、個人装備としてトウガラシスプレーも持っていきましょう」 亜竜にカプサイシンの受容体が無い場合は効き目が無かったりして。
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