13-01 王家への報告
『帰還指示器』を完成させた翌日、ゴローとオズワルド・マッツァは王城に来ていた。
* * *
前日の午後に、と思ったのだが、献上用の『帰還指示器』を用意するのに思ったより時間が掛かったのだ。
というのも、1つには、オズワルド・マッツァから、サンプルではなく献上用のものを用意したほうがいいと言われたからである。
そして、もう1つ。
オズワルド・マッツァが所有する『夫婦石』を全部調べて、欠けたものがないかを確認するのに時間が掛かったのが最大の原因だった。
その数は1000個を優に超えていたのである。
それを、商会の従業員の3分の1を動員して選別したのだ。
そしてその中に、欠けた『夫婦石』は21個見つかった。
そのうちの7個は袋の中に欠けた片割れがあったので、実質14個。
これが午後3時のこと。
それをゴローは屋敷へ持ち帰って、ハカセに相談したのだ。
「この14個を『帰還指示器』に加工して、いくつかが同じ方向を指していたら、そちらに産地があるかもしれないということだねえ」
「そうなりますね」
時刻は午後3時半。
簡易型(針状の支持架の上でバランスを取るだけ)の『帰還指示器』14個が出来上がったのが午後4時半。
「さて、どうかねえ……」
全員が見守る中、同じ方向を指すには指したのだが、それは3方向に分かれたのだった。
「これは……」
「どれかが産地で、残る2つは……何だろうね?」
とりあえず3組に分け、それぞれ仲間が少ない順にA、B、Cとグループ分けをした。
Aには3個、Bには5個、Cには6個。
それぞれおおよそ北西、北東、北を向いている。
「この北を向いているCのグループは、運んでくる途中とか袋詰の際などに割れた欠片に反応しているんじゃないのかねえ」
その際に目についた欠片を廃棄したんじゃないかとハカセは言った。
「一番少ないAが有力でしょうか?」
「いや、それもわからないよ。意外とBが産地を指すかもねえ」
「うーん……」
ゴローたちは少し考え、その結果。
「ちょっとだけ、『ANEMOS』に乗せて飛んでみましょう」
というゴローの意見が出て、それにみんな賛成したのである。
* * *
「西へ向けて飛んで見ればいいでしょう」
それぞれ北西、北東、北を指しているので、東西に移動してみることで対象物の距離がわかるというわけだ。
無論、それだけで産地を特定できるわけではないが、仮に近距離の場所を指していたとすれば、それは産地ではなく、運搬中に廃棄した欠片であろう、というわけである。
その結果は……。
「やはり、Cは違うな」
100キルほど西へと飛んだだけで、指し示す方角が北から北東へと大きく変化したのである。
大雑把な計算では、王都から100キル程度の場所を指していることになる。
「サンバー町とギーノ町の間に集落があったな……」
大体その辺だろう、とゴローはアタリを付けた。
となると、残るAとBが有力な手がかりだ。
その2つを見てみると、2つとも元の方位より数度動いただけである。
つまり、同程度に離れた場所を指しているということになる。
「これ以上は、今日中には無理ですね……」
時刻は午後5時、そろそろ戻る必要がある。
それでも、2つに1つまで絞れたのは大きい。
「それなら、王家に報告する価値もありそうだしな」
産地を探すのは王家に任せるという方法もあるわけだ。
* * *
……というのが、前日の話である。
「ふうむ、興味深い報告だな。王女殿下はすぐにいらっしゃるから、詳しい報告はそれから聞こう。まずは茶でも飲んでくれ」
応接室でゴローとオズワルドを出迎えたモーガンはそう言って2人にお茶を勧めた。
「では、いただきます」
「い、いただきます」
ゴローはいつもどおり、オズワルドは少し緊張しながら、出されたお茶を口にした。
「美味しいですね」
「だろう? 最近南から入ってきた茶葉だそうだ」
そんなやり取りをしていると、ローザンヌ王女が姿を見せた。
「おお、ゴロー、オズワルド、よく来てくれた」
「殿下にはご機嫌麗しゅう……」
オズワルドが挨拶をし始めると、ローザンヌ王女はそれを押し留めた。
「ああ、よいよい。ここは非公式の場だ。普段から王家に尽くしてくれているそなたらであるから、七面倒な挨拶はいらぬ」
「は、はあ……」
「それで、今日は何を持ってきてくれたのだ?」
「はい……」
ゴローは『夫婦石』とそれから作った『帰還指示器』のことをこと細かに説明した。
「ううむ……それはすごい!」
「出発地点に片割れをセットしておけば、帰り道がわからなくなることもないな」
「いえ殿下、それももちろんですが、『飛行船』や『ヘリコプター』に使うといいと思っているのです」
「おお、なるほど。空には目印がないからな!」
「確かにいいと思う」
モーガンもまた、その有効さには納得しているようだ。
「2箇所に片割れを設置しておけば、2つの『帰還指示器』の角度から、自分の位置が推測できますし」
「な、なになに? どういうことだ? ゴロー、説明してくれ!」
この説明ではよくわからなかったと見え、ローザンヌ王女はゴローに詳細な説明を要求した。
「は、はい。ええと、紙とペンを……」
「では、これを使え」
「ありがとうございます」
モーガンが紙とペンを用意してくれた。
ゴローはそこに2つのバツ印と、1つの丸を描いた。
「この紙が地図だとします。そしてこのバツが片割れを置いた場所です。仮に、1つはこの王都で、もう1つは……そう、ジャンガル王国の王都としておきます」
「ふむ」
「そして丸印が飛行船です。積んでいる『帰還指示器』は、この王都とジャンガル王国の王都を指しています」
「そうなるな」
「地図上でこの王都とジャンガル王国の王都を通る2本の線が引けるわけです」
「うむ」
「その2つの線が交わったところが、この『帰還指示器』がある場所、つまり自分のいる位置です」
「おお、よくわかったぞ」
今度はローザンヌ王女も理解できたようだ。
「前提として、できるだけ正確な地図があるといいですね」
「確かにな」
「それから、片割れ……『マーカー』と呼びましょうか、その『マーカー』を置く場所は多い方が、より正確に自分の位置を特定できるでしょうね」
「うむ、よくわかった」
ついでに、正確な地図は空から眺めて作った方がいい、とも助言しておく。
「うむうむ、ゴロー、助言感謝するぞ」
ローザンヌ王女もモーガンも、この『帰還指示器』がどれだけ役に立つか、よくわかったようである。
「そして本日は、その素材となる『夫婦石』も献上いたします」
「おお、大儀である」
袋いっぱいの『夫婦石』を見て、ローザンヌ王女は満足そうに頷いた。
「この1袋は献上品として、まだ在庫はあるのか?」
「はい、あと7袋と少し」
「うむ、それでは5袋は王家で買い取ろう。価格は後ほど、財務官と話し合ってくれ」
「承りました」
と、ここまでは順調であった。
「ところでマッツァ、産地はわかっているのか?」
とモーガンから、当然の質問がなされる。
「いえ、閣下、それがわからないのです」
オズワルド・マッツァは、たまたま入手した経緯を説明した。
「ううむ……破産した商人から買い取ったのか。その商人はどうした?」
「それが、その後夜逃げしたようで、行き先不明です」
「むむ……どうしようもないか……」
ここでゴローが補足。
「それでですね、欠けていた『夫婦石』を使って『帰還指示器』を作ってみたんです」
「おお、なるほどな。それで?」
「大別すると2箇所を示してます」
昨日確認した王都の近くは除外して伝えるゴロー。
「ほう」
「ここに、その『帰還指示器』を持ってきています」
ゴローは、『帰還指示器』のサンプルと共に、それぞれ別の方向を指している『帰還指示器』も出して見せた。
「ふむ、これが実物か。これはまだ『マーカー』がセットされていないものだな。……で、この2つが、未知の場所を指している『帰還指示器』か」
「はい」
「つまり、これをたどっていけば産地に行き当たる可能性があるというわけだな」
「あくまでも可能性、です」
その片割れがある場所が、必ずしも産地であるとは限らない、とゴローは説明した。
「それは確かにな。運ぶ途中で落とした可能性もあるか」
「だが、調べてみる価値はあるな。……うーむ……2箇所、か……」
ローザンヌ王女はしばらく考え込んだあと、ゴローに向かって、
「ゴロー、私からの依頼を受けてくれるか?」
と尋ねたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月22日(木)14:00の予定です。
20240815 修正
(誤)今度はローザンヌ王女も理解できたよょうだ。
(正)今度はローザンヌ王女も理解できたようだ。