12-29 カップリング
突然の入院でしたが無事退院できました。
活動報告にもあらましを書いています。
ぼちぼち更新していきます。
遠く離れた場所と会話する方法。
そして、闇夜でも自分の位置を知る方法。
それを考えるゴローたちであったが、『謎知識』は何も教えてくれなかった。
そしてさすがのハカセにも、その方法を思いつくことはできないでいたのである。
* * *
そんなある日のこと。
王都の屋敷に『マッツァ商会』から店員が使いとしてやってきた。
「ええと、私がお伺いすればいいんです?」
「はい、ティルダ様に、店へお越しいただきたい、と。できればゴロー様にもお出でいただきたいそうです」
「わかりましたのです。ちょうど納品する品物もありますし、すぐに行きますです」
「わかりました。伺いましょう」
ティルダはできあがったカトラリーの納品に、ゴローはその付添い(?)として、『マッツァ商会』へ行くことになった。
時刻は午前10時、早い春の日差しが心地よい。
『自動車』で2人、いや徒歩で来たという『マッツァ商会』の店員も乗せてあげたので正確には3人は出発した。
「おお、ゴロー様の自動車は、乗り心地がいいですね」
「ええ、ブルー工房の特注品ですからね」
「なるほど……これは少々高くても売れるかも……」
ゴローの説明を聞いた店員は何やら考えている。
商人は逞しいな、と感じたゴローであったが、自分も行商人という触れ込みであったことを思い出し、内心苦笑したのである。
* * *
「ティルダさん、ご足労おかけしましたな。ゴローさん、ようこそおいでくださいました」
『マッツァ商会』に着くと、商会主オズワルド・マッツァその人が自らティルダとゴローを出迎えた。
場所は店奥の商談室である。
「こんにちはなのです。まずは納品をいたしますのです」
「おお、カトラリーですな。ティルダ殿の作品は評判がよく、売れ行きも伸びておりましてな」
「そうなのです?」
「ええ。できれば、もう少し数を増やしていただけると……いかがでしょう?」
「2割増し、くらいでしたら、なんとかなるのです」
「おお、そうですか! ありがとうございます!!」
『竜の骨』でできた工具があるので、金属の加工速度が上がっており、そのくらいなら無理なく増産できるのだ。
オズワルド・マッツァは喜々として新たな契約書を用意。
内容としては、納期や数量を厳密に規定するものではなく、また納期が守れなかった場合にも違約金が発生するようなものではない。
ティルダが『作品』を他の商会に卸さないようにする、つまり専属職人としての契約書だ。
有効期限は1年間、その時が来たら再契約するもしないもティルダの自由である。
「うん、いいんじゃないか?」
「はいなのです」
ゴローも一緒に内容を読み、問題ないと判断してティルダはサインを行った。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそなのです」
これで契約に関しての話は終わり、ここからが本題である。
「ティルダさん、ゴローさん、では、場所を移したいのですが、こちらへいらしてください」
と、オズワルド・マッツァに誘われ、ゴローとティルダはさらに店の奥へと移動した。
* * *
案内されたのは倉庫の2階だった。
そこには簡素なテーブルと椅子が置かれ、休憩や談話が可能になっている。
オズワルド・マッツァはそこにゴローとティルダを座らせてから、何かを取りに棚の奥へと向かい、すぐに戻ってきた。
手には大きな巾着状の革袋を持っている。
「これなのですが」
「はい」
オズワルドは巾着をテーブルの上に置く。
ごとりと重そうな音が響いた。
次いで中身を見せてくれる。
「石……ですか?」
「ええ。たまたま手に入った……といいますか……正直に言いましょう。とある取引先が潰れて、そこの在庫を一手に引き受ける羽目になったのですが、その中にこれがありまして」
「はあ……それは大変でしたね」
商人としてそれは大損だったろうと、ゴローはオズワルドに同情した。
「いえいえ、担保として相手の倉庫の中身を丸ごと引き取れましたので、損害はわずかで済みましたよ」
「はは、なるほど」
一流の商人はリスクマネジメントもうまいようだ、とゴローは内心で感心する。
「それで、この中身なのですが……」
オズワルド・マッツァは袋から石をいくつか取り出し、テーブルの上に置いた。
「この石が、何かの役に立ちそうかそうでないか、鑑定していただきたいのです。我が商会の者は誰もわかりませんでした」
「なるほど……」
石の正体が掴めないため、『天啓持ち』(そういうことになっている)ゴローと、ドワーフの職人であるティルダの意見を聞きたかったらしい。
ゴローは石を眺めた。
六角柱で、直径は1セルくらい、長さは5セルくらい。
が、横方向に条線が入っていないので水晶ではない。
また、ほぼ黒色であるため、緑柱石である可能性も低い。
袋の中には、より大きいものはないようだったが、直径0.2セル、長さ1セルくらいの小さいものはたくさん入っていた。
「うーん……」
考え込むゴローを見て、オズワルド・マッツァは少し肩を落とした。
「ゴローさんでもわかりませんか……」
「すみません」
ゴローは、今回も遠隔でハカセに見てもらえるよう手配してくればよかったと後悔した。
が。
「……これ、『夫婦石』なのです」
ティルダが突然、正体を口にした。
(そうか、ティルダには『地の精』からもらった加護、『石の声』があるんだったな……)
はっと、そのことに気が付くゴロー。
加護『石の声』は、鉱石の加工法や鉱脈のありかがわかる、というものである。どうやら名称や利用法もわかるようだ。
鉱物限定だが、非常に有能な加護であった。
「か、『夫婦石』ですか? それはどういうものなのですか?」
「ええと、この石を2つに割ると、どんなに遠く離れていても元のとおりくっつこうとするらしいのです」
「ほう?」
(…………)
「おそらく、『割符』として使われるものなのではないかと思いますのです」
「なるほど、割符ですか」
『割符』は、重要な取引の際に、相手が正当な当事者であることの証拠品である。
木の札に文字や絵を描いたものを2つに割って使うことが多いが、これは、この石同士が文字どおり引かれ合う特性を利用するらしい。
「では、この小さめの石で試してみてよろしいですかな?」
「いいと思いますです。……では、割ってみますのです」
(………………)
ティルダが小さめの『夫婦石』を2つに割り、1つをテーブルの端に置いた。
そのままティルダがそれを押さえ、もう1つはオズワルドが反対側の端に置いたのである。
「では、1、2、3で手を放しますぞ」
「はいなのです」
「1、2、3。……おお!」
割った時から感じていたが、2つに割られた『夫婦石』はじりじりと動き出し、やがてテーブルの中ほどで割れた面同士がくっついた。
もちろん一体化したわけではない。
磁石のような感じでくっついたのだ。
手で引っ張れば当然簡単に離れる。
「ふうむ……面白いですが、割符として使う以外には用途はなさそうですなあ……」
「なのです」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「ゴローさん? なにか?」
「これ……もしかすると、ものすごい使い道が見つかるかもしれない」
「そうですか? ……いや、ゴローさんがそう仰るならそうなのかもしれませんね。何か『天啓』が?」
「……ええ、ただ、まだ漠然としていて、少し屋敷に持ち帰ってティルダと研究してみたいんですが」
「そういうことでしたら、半分ほどお持ち帰りくださって結構ですよ」
太っ腹なオズワルドである。
「いえ、それでは多すぎます。10分の1ほどで結構ですよ」
「わかりました。それでは……」
オズワルドは頷き、袋の中から石を取り出し、別の袋に詰めていく。
結果的に6分の1くらいの石を預かったゴローであった。
「では、結果が出ましたらお知らせします。……ああ、ちなみにこの石って、これで全部なんですか?」
「…………いえ、あと9袋あるんです」
まさかの返事であった……。
* * *
屋敷に戻ったゴローは、早速ハカセに報告している。
「……で、この石を預かってきた、というんだね」
「そうなんです。ハカセは何かご存知ですか?」
「いや……『夫婦石』なんて、あたしも初めて聞いたねえ」
「そうですか……」
さすがのハカセも『夫婦石』については何も知らないようだった。
逆に、そんな石の情報がわかる『石の声』という加護は規格外のようだ、とゴローは思った。
(『天啓』なんて誤魔化しているけど、『謎知識』もその内容に偏りがあるしなあ)
「……で、ゴロー、この石を何に使おうというんだい?」
物思いに耽っていたゴローは、ハカセの声に我にかえった。
「ええとですね、2つに割ったこの石の間には、磁力でもない、電力でもない、重力でもない、『何らかの力』が働いていると思うんですよね」
「ふんふん……ああ、つまり『通信』に使えるんじゃないか、というんだね?」
さすがハカセ、僅かなヒントでゴローの思惑を察してしまった。
「それです、ハカセ。それともう1つ……」
「拠点に帰るための方向指示器、だね?」
「そ、そのとおりです」
そしてもう1つの意図も先んじて察してしまう。
「なるほどね、これはまさに天与の素材かもねえ……やる気が出てきたよ」
通信装置と航法装置、その2つについて、希望が出てきたようである……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月1日(木)14:00の予定です。
20240801 修正
(誤)できればゴロー様にもお出でいただきたそうです」
(正)できればゴロー様にもお出でいただきたいそうです」