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12-27 ドワーフの家族と身内

 ブルー工房をあとにしたゴローは、のんびり歩いて屋敷に戻った。


「おかえりなさい」

「ただいま、サナ。……ハカセは?」

「『ANEMOS()』の整備をしてる。ヴェルシアも手伝ってる」

「そっか。ティルダは?」

「工房でお仕事。『マッツァ商会』への定期納品分を作りためておくんだって」

「あ、なるほど」


 専属、というほどではないが、腕を見込まれたティルダは、月に一回、定期的な納品をする契約になっていた。

 ものは『銀食器』。

 スプーン、フォーク、ナイフ、小皿などである。

 内訳はティルダの裁量に任されており、卸値は納品分の重さと技術料を合わせたものになる。

 加えて、銀の素材は『マッツァ商会』持ちである。


「工具がよくなったから、効率も上がったろうな」


 『(ドレイク)の骨』で作った道具、特に切削工具は従来工具の倍近い作業効率をもたらしてくれている。


「作りためておくことも可能か……」

「そうみたい」


 不定期に『屋敷』を空けることがあるので、3ヵ月分くらいのストックは常に用意してあるのだ。

 納品は『マッツァ商会』から受け取りに来てくれるので、そこはマリーが対応していれば問題はなかった。


「お昼はどうなってる?」


 とゴローが聞くと、


「ルナールが準備中。今日は昼がゆだって」


 と、サナが答えた。


「……で、ゴロー、甘いものも作ってほしい」

「ああ、そうだな。昨夜は食べられなかったろうからな」

「うん」


 王城に招かれていたため、ゴローが甘味を作っている暇がなかったのである。

 作り置きの『純糖じゅんとう』やラスクはもうとっくに食べ終えていたようだ。


「時間がないから、『エッグノッグ』を作ってやるよ」

「……どんなの?」

「甘い飲み物だ」

「うん、それでいい。楽しみ」

「よし」


 ゴローは、ルナールが昼の支度をしている厨房へ。

 邪魔にならないよう、隅を使う。

 ルナールに恐縮されたが、ゴローは笑って済ませる。


「さてと……卵にミルク……メープルシュガーも使うか……」


 『エッグノッグ』は、いわば『飲むプリン』である(より正確(?)にはカスタードプリン)。

 全卵にミルクを混ぜ、砂糖で甘みを付け、弱火で温めてとろみを付ける。

 5分くらいが目安だ。

 あとはカップに注いで飲むだけ。

 シナモンで香り付けしてもよい。


「コーヒーリキュールができているだろうから……」


 コーヒー豆を癖のない蒸留酒に漬けて氷砂糖を加えて1ヵ月ほど置くと、コーヒーのエキスがしみ出したリキュールができる。

 ミルクで割ればアルコール度数の高いコーヒー牛乳となる。

 少量をバニラアイスやプリンに掛けると美味しい。


 で、ゴローはこれを『エッグノッグ』に加えたのである。


「そういえば、ニッキってないのかな? ……今度探してみよう」


 ニッキ、要するにシナモンである。

 シナモンパウダーを少し入れると、香りが引き立つのだ。

 そしてニッキは漢方薬の一種でもあるので、探せばありそうな気がしているゴローであった。


*   *   *


「はいよ、サナ。……みんなもどうぞ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「昼がゆには合わないかもだけど」


 甘い飲み物なので、おかゆには合いそうもない……が。


「これは、甘くて美味しいねえ」

「美味しいのです、甘いのです」

「何杯でも飲めそうです」

「本当に……ゴローさんの『天啓』には驚かされます」


 ハカセ、ティルダ、ヴェルシア、ルナールである。

 そしてサナの反応は……。


「美味しい。ゴロー、これって『飲むプリン』だね」


 気に入ってくれたようだった。


「ああ、カスタードだからな。いつも作っているのはカスタードプリンだから」


 『プリン』……日本で言う『プリン』とは、英語の『プディング』が日本人の耳にそう聞こえたからと言う。

 日本で『プリン』といえば『カスタードプリン』であるが、本来の『プディング』とは、小麦粉、米、ラード、牛乳、バター、肉、卵、果物などの材料を混ぜ、砂糖などの調味料で味付けし(香辛料で香り付けも)、煮る、蒸す、焼くなど熱して固めた料理の総称である。

 

 それはそれとして、この『エッグノッグ』はハカセ以下、全員が気に入ったようである。


*   *   *


 昼食の昼がゆもちゃんと食べた一同。

 のんびりとお茶を飲みながら、ゴローは城での出来事を報告した。


「いろいろあったんだねえ。ご苦労さん、ゴロー」

「うん、お疲れ」

「アーレンさんも準貴族ですか……」

「まあ、それだけ功績が大きいということだよ」


 ところで、とゴローは言葉を一旦切って、ハカセとティルダを見た。


「ブルー工房でラーナから、ちょっとだけドワーフの国について聞いたんですけど」


 ゴローがそう言うと、ハカセとティルダの顔色が少しだけ変わった。


「ああ、そうか……あの子も、ゴローとアーレンを『身内ファム』とみなしたんだねえ」

「『身内(ファム)』?」

「『身内(ファム)』というのはね、血縁とは関係なしに、『家族』とみなした仲間のことさね」

「そうなんですか」

「うーん……ここらで話しておいてもいいだろうよ。ねえ、ティルダ」

「はいなのです」

「ドワーフの習慣というかしきたりというか……、あまり国のことを外部に話してはいけない、というものがあってねえ」

「ラーナはそこまでは言っていませんでしたが」


 ここでティルダが一言。


「ハカセ、今はそこまでは厳しくはないのです」

「そうなのかい」

「はいなのです」

「それじゃあ、もう少し気軽に話してもよかったのかねえ……まあいいさね」


 改めてハカセは語り始めた。


「ドワーフの国のしきたりはねえ……あまり他人様(ひとさま)に話したいようなものじゃないんだよねえ」

「そうなのです」

「まあ、それでもあんたたちは皆『身内(ファム)』だから、一度は話しておかないとねえ」

「伺いましょう」


 ここで、ルナールは無言でお茶を継ぎ足した。

 ありがとう、と言ってハカセは話を続ける。


「ドワーフはものすごく保守的な種族でねえ……職人の家柄だと、一子相伝で技を伝えたりするんだよ」

「そうなのですよ」

「兄弟姉妹は? やっぱり家を出ていく?」


 サナが尋ねた。

 ゴローはラーナに少し聞いていたので、多少の見当はついていた。


「うん、まあ、最終的にはそうなるんだけどね。まずは教室に通わせるかねえ。……ティルダはどうだったね?」

「私の家もそうでしたのです」

「ああ、やっぱりそうかい。……前にゴローが言っていたような『学校』なるものは存在しないから、『教室』というものに通わせるんだよ」

「教室?」

「そうさ。そこでドワーフ技術の基礎を学ばせるのさ。跡取りだけは親が手取り足取り教えるんだけどね」

「ははあ……なるほど。扱いからして違うんですね」

「違うねえ」

「でも、そうなると、親子の絆が弱くなりませんか?」

「え? ……ああ、ないねえ、そんなもの」


 ゴローの言葉に、ハカセは苦笑した。


「親は、子供を成人まで育てるだけの存在と言っていいかもしれないね」

「なんというか、ドライですね」

「跡取りだけは懸命に育てるけどね」

「……でも、その、なんというか……事故とか病気とか、どうにもできない理由で跡取りがいなくなることだってあるんじゃないですか?」


 言葉を濁しつつ、ゴローは気になったことを聞いてみる。


「あるねえ。……そうなったら、『教室』に通わせていた子供の1人を選んで跡取りに据えることになるよ。大抵は次男が選ばれるけどね」

「それで次男から不満は出ないんですか?」


 長男がいなくなったから手のひらを返したようにちやほやする……不満が溜まりそうだ、とゴローは思った。


「まあ、家を継げる、という事実が大きいしねえ。それにそういうものだという、何ていうのかね、そう、『社会通念』があるからねえ」

「そうなんですか……」

「で、話を戻すよ。……『教室』は、基本的、基礎的なことしか教えてくれないから、そこから先は自分で学んでいくことになるんだよ」

「ええ、そうなのです」


 このあたりは、ハカセの時代もティルダの時代も変わっていないようだ。


「そのためには家を出て、これはという職人に弟子入りするか、外に出るかだねえ」

「弟子入り……できるんですか?」

「できるさ。……一番いいのは、子供のいない職人のところだね」

「ああ、そうか」

「まあそういうところは、大抵数人の弟子がいるけどね」


 その弟子の1人が後を継ぐことになる、というわけだ。


「継げなかった弟子はどうなるんです?」

「工房のナンバー2、つまり職人頭になるか、独立するか、だねえ」

「私は独立を選んだのです」


 ティルダが誇らしげに言った。


 ハカセとティルダによるドワーフの国の話はまだ続く……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月4日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ただいま、サナ。……ハカセは?」 >「『ANEMOS風』   で逃げ帰t ハ「そうしようと思ったけど、説得されてね」しょうがないから整備して待ってたよ ←とか↑なんとかでもしょおがないか…
[一言] >>銀食器 仁「カトラリーか」 明「マナーに合わせて用意するのがなぁ・・・・」 56「使う方もだが・・・・・」 >>飲むプリン 仁「プリンは飲み物です?」 明「普通のプリンでも飲める物は・…
[一言] ドワーフの国の情報が出回らないのも含めて大昔からよく続いてるもんだなあ
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