12-25 王城でのやり取り
「さて、今日はこのまま王城に来てもらうぞ、ゴロー、アーレン」
「はい」(あ、やっぱり)
「はい……」(ああ、やっぱり……)
事前に、ほぼ予想したとおりの展開となった。
そのまま『飛行船Celeste』はゆっくりと飛び、王城の中庭に着陸したのである。
* * *
「さあゴロー、アーレン、好きなだけ食べてくれ」
「い、いただきます」
王城内でゴローとアーレンは少し遅い昼食を摂っていた。
時刻は午後1時、一緒にいるのはモーガン。
場所は騎士用食堂である。
ローザンヌ王女のはからいにより、来賓用の食堂は気詰まりだろうというわけでここになった。
ちなみに、一般兵用の食堂という場所もあるが、そこはさすがに格が落ちるだろうということで、中間的なこの騎士用食堂になったのである。
「食事が終わったら、『飛行船』についていろいろ聞かせてもらうことになる」
「ええ、わかってます」
「そうか。すまんが、頼む。今回の『飛行船』で、確実にエルフの技術を超えたと言っていいだろうからな」
モーガンも少し嬉しそうだ。
エルフの国……『バラージュ国』にマウントを取られ続けていることに辟易していたらしい。
「まあ、2時からだから、まだ時間はたっぷりある、ゆっくり食べてくれ」
「はあ」
モーガンもモーガンなりに2人へ気を使ってくれていた。
* * *
そして時間は流れ、午後2時、会議室。
出席者はローザンヌ王女、モーガン、宰相エドウィン・アボット、魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソン、軍務相ゴンザレス・クリムゾン、近衛騎士団長フレドリアス・ルドラファ。
その他にもパイロットのケニー・コスナーや飛行機工場初代工場長のウェスクス・ガードナーもいる。
「では、始めてくれ」
「はっ」
ローザンヌ王女の声で説明会が始まった。
議事進行を務めるのは元近衛騎士隊隊長で男爵のモーガンだ。
「まずはゴロー・サヴァナ名誉士爵とアーレン・ブルー工房長には、素晴らしい献上品の礼を述べさせてもらおう」
「きょ、恐縮です」
列席者から拍手が送られた。
「ではまず、2人から『飛行船』に付いて説明をしてもらおう」
「……ええと、ではまず俺……私から。『ヘリコプター』の開発中に、もっと静かに、もっと大勢乗れる航空機があったらいいなと思っていました」
「うむ、わかるぞ」
「そしてその開発中、素材として『亜竜の抜け殻』を使う機会がありまして」
「ふむ。……後で、その採取についても教えてくれ」
「はい。……その際に、『亜竜』はどうして空を飛べるのだろう、という疑問が思い浮かびました。そして、ヘリコプターが完成した後もそのことを研究していたわけです」
「なるほどな」
「……原理につきましては後ほど詳しくご説明いたしますが、その解明により、『浮く』ということができるようになったわけです」
「うむ、興味深い。続けてくれ」
「この原理を利用して、空を飛ぶ乗り物の形をいろいろ考えた結果、今回のようになったわけです」
だいぶ端折った感はあったが、『ヘリコプター』から『飛行船』への経緯の説明が終わった。
「それでは次に、『浮く』原理につきましてご説明させていただきます」
ゴローに代わってアーレンが語り始めた。
「うむ、それが聞きたかった」
魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソンが身を乗り出した。
「まず、『亜竜』はどうして空が飛べるのか、という疑問が湧きました」
「それはどうしてかね?」
「『ヘリコプター』を作ってみて、ものを浮かすのは大変なことだとわかったからです」
「うむ……なるほどな」
「あれだけの工夫をして、ようやく浮くことができたというのに、『亜竜』は悠々と空を飛んでいます」
「そういうことか」
「……これも別枠で説明しますが、『亜竜の抜け殻』を手に入れることができまして」
「うむ、あとでその辺のことも聞かせてくれ」
「はい。……で、その抜け殻には、当然翼膜も残っていました」
「ほう」
「この翼膜に何か秘密があることは間違いないと、研究をしたわけです」
「当然だな」
「そして苦労を重ねた末、『その『亜竜』の魔力』を流すことで浮力が発生することがわかったのです」
「なんと!!」
この結論には、列席者全員が驚いた。
「そうなんです。魔力ならなんでもいいわけではなく、『同じ亜竜』でなければならなかったのです」
「ふうむ……説明を聞けば頷ける話だが、何もわからないところから始めてそこに至ったのは大したものだ」
魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソンは素直に感心したようだった。
「そこまでわかればあと一歩です。それには、『魔力庫』の素材に『亜竜の抜け殻や骨』を使うことで解決しました」
「なるほど……おおよそは理解した」
魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソン、飛行機工場初代工場長のウェスクス・ガードナーらは大きく頷いた。
「さて、その素材をどうやって手に入れたか、ですが」
再びゴローが説明役である。
「行商で北の方へ行った際、噂を聞いたんです。王都から見たら北西、もしくは北北西方面に『亜竜の巣』があると」
「ほう」
「それで装備を整え、行ってみたわけです。そしてたどり着いた渓谷には、『元』亜竜の巣がありました」
「元?」
「はい。『亜竜』は、どうやら数年サイクルで巣の場所を変えるらしく、見つけたのは抜け殻と骨が残った巣だけでした」
「なるほどな」
「ですが、『元』でよかったと思っています。もしも『亜竜』がまだいたなら、抜け殻どころか何も持ち帰れなかったでしょうから」
「そういうことか、確かにな」
「とにかく、抜け殻と骨を持ち帰れたのは幸運でした」
ここで近衛騎士団長フレドリアス・ルドラファが質問をした。
「そこへ行けば、まだ『抜け殻』はあるのかな?」
「どうでしょうか……」
ここでゴローは小さな嘘をつく。
「我々以外にも採取に来ているグループがあったようですから」
「そうか。……それは残念だ」
「とはいえ、どこかに巣があるのは間違いないですし、それが複数あるのもまず間違いはないでしょう」
「おお、そうだな。探す価値はあるだろうな」
軍務相ゴンザレス・クリムゾンは期待を込めてそう言った。
「……ということで、駆け足でひととおり説明しましたが、何かご質問はありますか」
「では、1ついいだろうか」
「はい、宰相閣下」
「うむ。……あの『飛行船』はどのくらいの距離を飛べるのかね?」
「そうですね……条件によって変わりますが、移動だけでしたらほぼ無限に浮いていられます」
「ほほう……」
「推進機をフル稼働させ、最高速度を出すような飛び方ですと、搭載している『魔力充填装置』ではまかないきれなくなります」
「では『魔力充填装置』の数を増やせばよいわけだな」
「まあそうなります。ですが居住性や積載スペースを落とすことになります」
「なるほど、そうなるわけか」
「これは次の課題でもあります」
「君たちは向上心に溢れ、覇気があるなあ」
飛行機工場初代工場長のウェスクス・ガードナーがゴローとアーレンを称賛した。
* * *
それからも質疑応答が続き、列席者が落ち着いたのは午後3時半を過ぎたところ。
みな、お茶を飲みながら寛いでいる。
宰相エドウィン・アボットだけは、まだ仕事が残っていると言い、執務室へ戻っていったが。
ローザンヌ王女がお茶を飲み干してからゴローとアーレンに告げた。
「これだけのものを献上してもらったからには、何か褒美を渡したい。希望はあるか?」
「いえ、そういうつもりは……」
「もちろん、もう1機の『飛行船』の所有は認めるぞ」
『ANEMOS』がサヴァナ家所有の『飛行船』であることは周知徹底させる、とローザンヌ王女は請け合った。
王家公認ということで、他の貴族や権力者からの煩わしい干渉を防ぐことができるわけだ。
「本当に、それ以上は望みません」
「む……そうか……ならば、まずアーレン・ブルーに名誉士爵を授けよう。名誉貴族であるから納税や出仕の義務はない。ただ王城内で動きやすくなるくらいだ」
「それでしたら……」
「うむ、そうか。では明日の朝、叙爵式を行うことにしよう」
「こ、光栄です」
「ゴローには……そうだ、報奨金を授けよう。それならよかろう?」
「あ、はい。ありがたいことです」
「よし」
こうして、アーレンはゴローと同じ『名誉士爵』に。
ゴローの方は1000万シクロを貰えることになったのである……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は6月20日(木)14:00の予定です。
20240613 修正
(誤)応報内でゴローとアーレンは少し遅い昼食を摂っていた。
(正)王城内でゴローとアーレンは少し遅い昼食を摂っていた。
(誤)モーガンもモーガンなりに2人気を使ってくれていた。
(正)モーガンもモーガンなりに2人に気を使ってくれていた。
(誤)どうやら数年サイクルで巣の場所を変えるらしく、見つけたのは抜け殻を骨が残った巣だけでした」
(正)どうやら数年サイクルで巣の場所を変えるらしく、見つけたのは抜け殻と骨が残った巣だけでした」
(旧)
『ANEMOS』がサヴァナ家所有の『飛行船』であることは周知徹底させる、とローザンヌ王女は請け合った。
(新)
『ANEMOS』がサヴァナ家所有の『飛行船』であることは周知徹底させる、とローザンヌ王女は請け合った。
王家公認ということで、他の貴族や権力者からの煩わしい干渉を防ぐことができるわけだ。
20240614 修正
(誤)そこれからも質疑応答が続き、列席者が落ち着いたのは午後3時半を過ぎたところ。
(正)それからも質疑応答が続き、列席者が落ち着いたのは午後3時半を過ぎたところ。