表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
431/496

12-24 高度

 『飛行船Celeste(セレスト)』を献上する、その日。

 朝から快晴、無風という絶好の飛行日和であった。


 この日の朝は……。


 午前6時    全員起床

 午前6時半   朝食

 午前7時    『飛行船』最終チェック

 午前7時15分 アーレン、来る

 午前7時20分 身支度

 午前7時40分 『飛行船』出発


 である。


「気を付けて行っておいで」

「はい、ハカセ」

「いって、きます」


 そしてゴロー、サナ、アーレン・ブルーらは『Celeste(セレスト)』に乗り込んだ。

 その1分後、『Celeste(セレスト)』は浮かび上がる。


 ハカセ、ヴェルシア、ティルダ、ルナールらに見送られ、『飛行船Celeste(セレスト)』は朝の青空に消えていった。


*   *   *


 午前7時50分。


「おお、来たぞ!」

「来ましたな」


 ローザンヌ王女が北西の空を指差して叫んだ。


「おお!」

「大きい……」

「あれが飛ぶとは……」

「しかも、静かですな……」


 王城前広場には宰相エドウィン・アボット、魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソン、軍務相ゴンザレス・クリムゾン、近衛騎士団長フレドリアス・ルドラファなど、そうそうたる面々が集っていた。

 そして空には王国の飛行機工場製『ヘリコプター』2機も飛んでいた。


 その2機のヘリコプターを圧倒する大きさで『Celeste(セレスト)』は近付いてくる。


「ううむ……静かですな……音といえば推進用プロペラの音くらいだ……」


 軍務相ゴンザレス・クリムゾンが唸るように言う。


「そして、あの大きさ。サヴァナ卿とブルー殿はなんというものを作り上げたのだ……」


 皆、呆気にとられつつも、近付いてくる『飛行船Celeste(セレスト)』から目が離せないようだ。


 そして『Celeste(セレスト)』は王城広場上空で停止すると、ゆっくりと降下してきたのである。


 風がないため降下も安定しており、午前8時丁度に、『Celeste(セレスト)』は王城前広場に着陸したのであった。


*   *   *


 『Celeste(セレスト)』が着陸すると、歓声が上がった。

 いつの間にか大勢のギャラリーが集まっていたのだ。

 空を飛んできた時点で目立っていたので無理もない。

 もちろん、護衛の兵士によって近付かないよう抑えられているが、それでも距離をおいたまま喝采かっさいしている。


「うむ、何度見ても素晴らしいな!」


 ティルダとヴェルシア、アーレンが頑張った装飾は華美すぎず地味すぎず、朝の光の中で華麗に輝いていた。


 ゴローとアーレンは、近衛騎士を左右に従えたローザンヌ王女の前にひざまずいた。


「名誉士爵ゴロー・サヴァナ、ブルー工房主アーレン・ブルー、つつしんで王女殿下に『飛行船Celeste(セレスト)』を献上いたします」

「うむ、大儀である」


 こんな場所なので略式とも言えないほど簡単な儀礼のあと、起動キーを渡して『Celeste(セレスト)』献上は終了した。


*   *   *


「さあ、飛ばし方を教えてくれ、ゴロー、アーレン!」


 儀礼が済むやいなや、ローザンヌ王女は『Celeste(セレスト)』に乗り込もうとした。

 が、それはお付きのモーガンに止められる。


「姫、それはお待ちを」

「なぜだ! 今さっき飛んできたのだぞ?」

「はい、ですが、今一度……城の者が操縦を覚えるまでお待ちくださりたく」

「うむう……わかった」


 ローザンヌ王女はわがままを言うこともあるが、聞き分けが悪いわけではない。今回もモーガンの進言を素直に……いや、若干不満そうにだが、受け入れた。


「ではゴロー! 我が配下に操縦方法を伝授してくれ!」

「はい、殿下」


 ということで、選出されたパイロットはケニー・コスナー。以前ヘリコプターで競争した相手である。


「ゴロー殿、よろしく頼む」

「はい、こちらこそ」


*   *   *


 『飛行船』の操縦方法はヘリコプターとほとんど同じ。

 なのでもうベテランと言っていいケニー・コスナーは、すぐに操縦をマスターした。


 時刻は午前10時半。


「モーガン、今度こそ乗るぞ!」

「仕方ありませんな」


 そういうわけで、ローザンヌ王女、モーガン、宰相エドウィン・アボット、魔法技術相ブレイトン・セルム・エリクソン、軍務相ゴンザレス・クリムゾン、近衛騎士団長フレドリアス・ルドラファ、それに近衛騎士2名らが『飛行船Celeste(セレスト)』に乗り込んだ。

 パイロットはケニー・コスナー、補佐としてゴローも乗り込む。そしてアーレン・ブルーは解説役だ。


「うむ、座り心地もよいな」

「内装もなかなか品がいいですな」


 宰相と軍務相は気に入ったようだ。


「シートベルトを締めてください」

「うむ」

「発進します」


 ふわり、と『飛行船Celeste(セレスト)』は浮かび上がった。


「おお、なんというか……『軽い』感じだな」

「はい、強引に浮いているというより、浮くべくして浮いているという感じですな」


 王女の言を引き取って魔法技術相が的を射た表現をした。


「はい。『亜竜(ワイバーン)の翼膜』は、魔力を流すと浮く性質を持っています。それを利用してこの『飛行船』は飛ぶのです」

「ほほう……」


 アーレン・ブルーの説明に、魔法技術相は感心した様子だ。


「それだけではあるまい?」

「はい、仰るとおりです。流す魔力につきましても……」

「いや、待て」


 説明をさえぎったのは軍務相。


「飛行の原理などは後ほど、関係者だけで聞こう」

「わかりました」


 その言葉の意図を察したアーレンは、飛行原理などの突っ込んだ説明はやめておくことにした。


「床下には収納スペースがあります。そして地上を見やすくするため、床の一部は透明になっております」

「なるほどのう」

「下が重いほうが安定しますからな」


「しかし、静かなものですな」

「まったく。この点では『ヘリコプター』より数段乗り心地がいい」

「ただ、小回りは利きそうにないですからな」

「そこは用途に応じて、でしょう」


 そんな会話をしている面々を尻目に、


「おお、ゴロー、速度はどれくらい出るのだ?」

「最高で時速150キル(km)くらいでしょうか」

「なかなか速いな!」


 ローザンヌ王女はうきうきである。


「ならば、せめて100キル(km)を出してくれ!」

「それくらいなら……ケニーさん」

「ケニー、行け!」

「了解であります」


 王女殿下からのご下命とあって、ケニー・コスナーは『Celeste(セレスト)』の速度を上げていく。


「おお、加速を感じるぞ」

「ケニーさん、高度ももう少し上げたほうが」

「了解」


 300メル()くらいだった高度を、1000メル()まで上げていくケニー。


「おお。、これは壮観だ」


 1000メル()まで高度を上げると、王都のかなりの部分がひと目で見えるようになる。


「この高度だと、時速100キル(km)というのもそれほど感じぬな、ケニー」

「はい、殿下」


 操縦しているケニーも同感のようだ。


「殿下、この『飛行船』の真骨頂は、高度を上げられることです」

「何?」

「これまでのヘリコプターでは到達できない高度まで昇れます」

「ほう……?」

「ケニーさん、とりあえず王都を一望できる高度まで上昇してみてください」

「了解」


 『Celeste(セレスト)』は王都の上空に静止したまま高度を上げていく。


「おお、なるほど。王都全体が見えてくるな」


 王都の大きさはおよそ10キル(km)四方。

 人間の『有効視野』は60度から70度くらいと言われているので、『ひと目』で全体を見るなら高度10キル(km)くらいから見下ろしたい。

 折からの快晴、『Celeste(セレスト)』はぐんぐん高度を上げていった。


 そして高度7キル(km)くらいになれば、なんとか視野に全体を収められるようになる。

 この高度はヘリコプターには無理だ。


「ううむ、素晴らしいな、ゴロー、アーレン。改めて礼を言うぞ!」


 高度10キル(km)

 前人未到(と思われる)高度である。


 ローザンヌ王女は上機嫌でゴローとアーレンを褒め称えたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月13日(木)14:00の予定です。


 20240606 修正

(誤)時刻は午前Ⅰ0時半。

(正)時刻は午前10時半。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 軍務相(この高さから岩を落としたら…いや兵士の運送に使うべきか) どうしても軍事転用されちゃうな
[一言] >>気を付けて行っておいで 仁「とても色々な意味で・・・・」 明「今夜は帰さない?」 56「なんと色気の無い・・・・」 >>起動キーを渡して 仁「でっかい鍵の模型と一緒に記念写真を・・・」…
[一言] > 『飛行船Celesteセレスト』を献上する、その日。 > 朝から快晴、無風という絶好の飛行日和であった。 > > この日の朝は……。 > > 午前6時    全員起床 > 午前6時半  …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ