12-19 献上用飛行船、製作
『ANEMOS』は、床下の倉庫に『亜竜』素材を満載して帰ってきた。
「日帰りできるなんて、最初の頃には考えられなかったねえ」
「技術の進歩ですね」
「まったくだよ」
ハカセとアーレンは喜び合っている。
「ゴローのおかげだよ」
「いえ、ハカセとアーレンの技術がなければ完成しませんでしたし」
「いやいや、ゴローとサナがいなければ『竜の骨』を手に入れられなかったし、『風の精』から『緑に光る石』をもらうこともできなかったろうさ」
「はあ……」
「まあ、賛辞は素直に受けておいておくれ」
「はあ……」
そんな会話をしつつ、『ANEMOS』から素材が運び出されていく。
とにかくたくさんあるので、ハカセ、アーレン、ティルダ、ヴェルシアらも手伝っているのだ。
もっとも、一度に運べる重さはゴローの5分の1くらいだが……。
* * *
「倉庫が1つ埋まったねえ」
「これだけあれば献上用の飛行船を作っても十分余るよ」
「よかったですね」
「うんうん」
そういうわけで、翌日からさっそく飛行船の建造を始めることになったのである。
「で、詳細な仕様を詰めておこうと思ってね」
夕食後、ハカセがそんなことを言いだした。
「作業はしないから、このくらいはいいだろう?」
「そうですね……」
お茶を飲みながら、雑談の延長というノリで始まる検討会。
「外形は『ANEMOS』と同じにしようかねえ」
「それでいいんじゃないですか?」
「ただ、外見は多少豪華にしたほうがいいかもですが」
「だねえ……献上品だものねえ」
デザインはティルダとヴェルシア、ラーナで決めておくれ、とハカセは言った。
「性能的にはだいぶ落ちるんですよね」
「どうしてもね。とはいえ『ANEMOS』と比べたら、の話だからねえ」
「これまでに献上した『ヘリコプター』よりは格段に速いはずですけどね」
納品した『ヘリコプター』の最高速度は、無理をしても時速100キルは出せない。
が、今回作る『飛行船』なら、時速150キルくらいは出せそうである。
「抜け殻がたくさんあったから、翼膜も大量に手に入ったしね」
『亜竜の翼膜』は、特殊な魔力を流すと浮力を生じるのだ。
あの巨体が飛べるのはこのためである。
「『飛行船』の上半分に翼膜を貼れば、かなりの浮力が得られるよ」
「その分、魔力も喰いますよ?」
「そこはそれ、『外魔素取得機』も『魔力変換機』も『魔力充填装置』も『魔力庫』も大きくするかたくさん積めばいいからね」
「そのくらいのゆとりは出ますか……」
「出るね。これだけの『亜竜素材』が使えるんだからねえ」
構造材はジュラルミン系で作り、外板に『亜竜素材』を使うつもりだ、とハカセ。
武装は付けない、という。
「それは向こうさんが考えることだろうからねえ」
「それでいいんじゃないですか」
「まあ、これで製作に入れますね、ハカセ」
「そうだねえ」
装飾はともかく、大きさや構造は『ANEMOS』と同じにするのでかなり楽に作れるだろうとハカセもアーレンも頷いている。
「じゃあ、足りない素材はないんですね」
「大丈夫だよ」
そういうことで、その晩の打ち合わせは終了となったのである。
* * *
翌日も曇り。
気温はやや高め、そろそろ冬の終わりも近いかなと思わせる陽気である。
「クレーネー、そろそろ春が近いのかなあ」
とゴローが『水の妖精』のクレーネーに聞くと、
「はいですの。水が少しずつですが温んできていますの」
との答えが帰ってきた。
「そっかー、やっぱり春が近いんだな」
「はいですの」
「雪も減ったしな」
「もう、目に見えて積もるような日はないと思いますの」
「そうか、ありがとな」
と礼を言い、『癒やしの水』1リルを持って研究所に戻るゴローであった。
「フロロ……じゃなくてこっちはルルだったな……ルルが目を覚ます日も近そうだな」
* * *
朝食の時に春が近いようだ、とゴローが言うと。
「そうか、もう春が近いんだねえ」
「雪はもう減っていく一方らしいですよ」
「春になったら『ANEMOS』で遠出したいねえ」
「いいですね」
「その前に献上用の『飛行船』を作らないといけないけどねえ」
などと話が弾む。
食後のお茶を飲み終えると、いよいよ『飛行船』の建造である。
「さあ、まずは骨組みだよ」
巨大ガーゴイルも出来上がったので、作業は非常にやりやすい。
『ANEMOS』を作ったときよりも1.5倍くらいは効率がアップしている。
おかげで、なんと午前中には骨組みができてしまった。
「さすがにガーゴイルがあると速いねえ」
「ですね、ハカセ」
ゴローとサナも手伝ったのだが、それ以上に巨大ガーゴイルの威力が大きかった。
大きく重い部材も軽々と持ち上げ、支えてくれる。
「重機があると違いますね」
「作ってよかったよ」
午前中に、骨組みの8割が出来上がったのである。
* * *
昼食はハカセのリクエストで焼きおにぎりに緑茶。
香ばしさが病みつきになるとのこと。
「ああ、お茶も美味しい」
休憩時間にハカセが寛いでいるのはいいことだ、とゴローも思う。
つまりは、『ANEMOS』を作った時ほどの情熱がない(2機目なので)ということなのだろう。
ゴローとしては、ハカセが無理をしないならその方がいいと思っている。
* * *
食休み後、再び製作だ。
床を張ったり、内装の一部を取り付けたり。
推進器も取り付けを行う。
「メインはプロペラですか?」
「そうなるねえ」
プロペラでも、使い方次第で時速200キルは出せることがわかっている。
この大きさで時速100キル以上出せたなら十分な性能だろう、とハカセは考えたようだ。
「『魔導ロケットエンジン』だと、整備できないだろうしねえ」
「そうかもしれませんね」
「浮く力は『亜竜の翼膜』頼りだから、まあいいだろうさ」
剥がしたり大穴を開けたりしない限り、効果はなくならないだろうというわけだ。
「内装はどうします?」
「多少豪華にしたほうがいいだろうね」
「シートは革張りにします?」
「そうしようかねえ……使っていない革が大量にあるだろう?」
「『イビルウルフ』の革と毛皮なら」
「それでいいよ」
『イビルウルフ』は脅威度ランク2(1が低く、5が最大)。群れを作って、獲物を襲う狼型の魔物である。
研究所のある台地にはいないが、周囲の森には多く生息しており、買い出しに行く際襲ってくるので時々退治している。
その際に手に入れた毛皮がたまる一方なのだ。
一部は鞣して皮革素材となっている。
ややゴワゴワしているが丈夫な革である。
「操縦系統はこれまでと共通ですね?」
「変える意味がないしねえ」
「ですね」
飛行船とヘリコプターは運用方法が似ている(飛行機と比較した場合)。
基本的に宙返りやロール(きりもみ飛行)は行わないからだ。
機体の上下、前進後進、左右への方向転換。
加えて静止状態での方向転換が基本的な動作である。
『ANEMOS』は浅い角度での上昇・下降も可能だが……。
「あとは空調くらいですか」
簡易キッチンは付けなくていいだろうとゴローは思っている。
「まあ、冷蔵庫くらいは付けておこうかねえ」
「そうですね。長時間の飛行の場合、飲み物があったほうがいいですからね」
と、細かな装備の打ち合わせをしつつ、『献上用飛行船』は作られていったのである。
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次回更新は5月9日(木)14:00の予定です。