12-17 装備充実
一晩ぐっすりと休んだハカセたちは、朝食を済ませると工房へ向かった。
ゴローとサナ、ティルダも手伝いに駆り出される。
「サナはあたしを手伝っておくれ」
「はい」
「ゴローさんとティルダさんは僕を手伝ってください」
「いいぞ」
「わかったのです」
ということで、二手に分かれて作業開始である。
「ハカセ、何作るの?」
「大型の『ガーゴイル』だよ」
『ガーゴイル』は意思を持たず、命じられたことのみを行う魔導人形である。
「飛行船みたいに大型のものを建造するときに役立つだろうと思ってね」
「確かに」
「フランクみたいに自律していなくてもいいんだ。こっちの指示を聞いてくれればね」
「ああ、それでガーゴイル」
「うん」
ということで、ハカセとサナは重機代わりの大型ガーゴイル2体を作り始めたのである。
* * *
一方で、ゴローはティルダとともにアーレンの手伝いをしている。
「安全用のヘルメットを作りたいんですよ」
「それはいいな」
「『竜の骨』でなら、軽くて丈夫なものが作れると思います。ティルダさんにはデザイン面でアドバイスをもらいたくて」
「うーん……」
「ゴローさん、何か?」
「ヘルメットを作るなら、衝撃を吸収する内張りも工夫したいなと思って」
「どういうことです?」
「こんな感じで……」
ゴローは絵を描いて説明する。
硬い外装の内側に、軽い発泡材をライニングし、さらに肌触りのよい布などでクッション性を持たせて仕上げる。
現代日本で使われているバイク用のヘルメットのイメージだ。
ちなみに、この世界の騎士用の兜は、厚手の布が張られているくらいである。
「これはいいですね! ……ナイロン毛虫素材をうまく使えば、軽くて衝撃を吸収してくれて、なおかつ当たりが柔らかいものになりそうです」
アーレンは大喜びでヘルメットの設計と素材選定に取り掛かったのである。
* * *
そして、ヴェルシアとラーナ、ルナールらは、内装の改善点をピップアップし、どうすればいいか考えていた。
「ヴェルシアさん、ここのシートの位置ですが、半分横にずらしたらどうでしょう?」
「ああ、その方が、前の人の頭が邪魔にならないかもですね。……この簡易キッチンですが、高さを5セル低くしてもらいたいと思うんです」
「なるほど、ティルダさん(138セル)やラーナさん(135セル)にも使いやすくですね」
「そういうことです」
「それは、とってもありがたいです」
ちなみにルナールは174セル、ヴェルシアは155セル。
ついでに言うと、ハカセは160セル、サナは155セル、ゴローは172セル、アーレンは170セルである。
「低い分には屈めばいいですが、高いと使いづらいですから」
「そうですね……あ、調理台の高さが可変できるようにハカセに頼んでみましょうか?」
「それができたらすばらしいですね」
* * *
昼食時。
「ああ、いいねえ。食事は大事だよ」
「すぐにでも改造できますよ」
可能だった。
ハカセとアーレンは片手間でキッチンの改良をしてくれると断言したのである。
「そうだ……マリー?」
「はい、ゴロー様、何かご用でしょうか」
ふと思いついたことがあって、ゴローはマリーを呼び出した。
「今度作った『ANEMOS』だけどさ、マリーも乗れるかい?」
「はい。ゴロー様の魔力によく似ていますから」
「そうか。……それじゃあ、どんな設備がほしい?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
「でしたら、『家の模型』のようなものがあるとゆっくり休めます」
「そうか。それじゃあ用意しよう」
「ありがとうございます」
これで、マリーも一緒に『ANEMOS』に乗れることになった。
「フロロやルルは……休眠中か」
「うん。春になったら、聞いてみよう」
「そうだな」
休眠中の『木の精』たちについては保留となった。
「クレーネーは……ちょっと無理かな」
「あまり移動したがらないと、思う」
「それもそうだな……」
あとは『エサソン』のミューと、『クー・シー』のポチである。
「ポチは声を掛ければ付いてきそうだが、ミューは……」
「箱庭みたいなものを作れば?」
「いいな。『テラリウム』か……」
「てらりうむ?」
『テラリウム』とは、『テラ=陸』と『リウム=場所・空間』を組み合わせた造語である。
広くは、透明なガラス容器の中で動植物を育てる手法のことをいう。
はじめは、船で植物を輸送する時に枯れてしまわないような工夫からだった。
当時は開発者の名前を取って『ウォードの箱』とも呼ばれていたという。
「それも、『謎知識』?」
「そうらしい」
「ほう、面白いねえ。……それができれば、フロロやルル、ミューも一緒に乗れるわけだ」
ハカセも話を聞いて興味を持ったようだ。
「何か作ってあげればいいのかい?」
「それじゃあ、透明な容器を」
ゴローは、120センチ水槽くらいの大きさの容器を『竜の骨』で作ってくれるように頼んだ。
「幅が120セルで高さが60セル、奥行きが60セルかい。蓋もいるんだね?」
「はい、お願いします」
「任せておいておくれ」
そういうわけで、『竜の骨』製の透明水槽が用意されることになったのである。
とはいえ、今の庭園は雪で覆われているため、『エサソン』のミューも、春にならないと呼び出せそうもなかったが……。
* * *
「あとはポチの犬(?)小屋か……」
ポチはどんな環境を好むんだろう、とゴローは考えてみたが、『謎知識』は何も教えてくれなかった。
とりあえず毛布を用意し、小さな小屋を木で作っておく。
あとで呼んで気に入ったようなら『ANEMOS』に積み込むつもりだ。
ということで、これで大体ゴローのできる準備は終了。
……と思ったら。
「ゴロー、日持ちのする甘いものを作っておいて」
とサナに頼まれてしまった。
「わかったわかった」
二つ返事で引き受けるゴロー。
「じゃあ、まずは『純糖』菓子、それに……」
水分(含水率)が少ないほど、雑菌が繁殖しづらく、日持ちする菓子になる。
砂糖はJAS法(日本農林規格等に関する法律)で『賞味期限を表示する必要がない食品』となっている。
が、純糖は砂糖(和三盆糖)そのものとはいえ、菓子としての風味を考えると、1ヵ月から10ヵ月と、製品によって異なる賞味期限が設定されていたりする。
乾燥した保存環境で、虫や小動物に荒らされなければ、1年は優に保つであろう。
「蜂蜜入りのクッキーもいいかもな」
クッキーのような焼き菓子も、水分量が少ないので日持ちする(乾燥した保存環境)。
「あとはジャムか」
砂糖をたっぷり入れてよく煮込んだジャムもまた、冷蔵しておくことで長期保存が可能である。
冷凍すれば1年以上保つ。
そして3時のおやつ用にプリンを作っておくゴローであった。
* * *
「うーん、ようやくできたよ」
身長4メルの『ガーゴイル』2体。
重機代わりである。
汎用機なので、ブルドーザーやパワーショベルのような専用機と比べたら作業性ではやや劣るかもしれないが、操縦者がいらない分使い勝手はいいかもしれない。
「こっちもできました」
「おお、いいねえ」
全員用のヘルメットである。
外見はオートバイ用の『ジェットヘル』と『オフロードタイプ』の中間くらいか。
シェル(外殻)は後頭部までを覆うのはもちろん、両頬から顎までをガード。
額の上は一体型のバイザー(日除け)が、少し庇状に伸びている。
総重量は約0.8キム。
バイク用のヘルメットが1.2キロから1.4キロだから、かなり軽い。
まあ、軽ければいいというわけではない(強度が落ちる)が、『竜の骨』製なので強度の心配はない。
内部にはナイロン毛虫素材の衝撃吸収材が張られている。
「最終的には、一人一人に合わせて成形します」
「ああ、だから色が違って、額にイニシャルが書かれているんだね」
「そういうことです」
ハカセのヘルメットの色は白色で、イニシャルは『D』(Doctor=ハカセ)。
ゴローは黒色、イニシャルは『G』。
サナは赤、イニシャルは『S』。
ティルダは薄紫色、イニシャルは『T』。
ヴェルシアは薄桃色、イニシャルは『V』。
ルナールは黄色、イニシャルは『R』。
ラーナは黄緑色、イニシャルは『L』。
そしてアーレンは青色でイニシャルは『A』となっている。
また、フランクにも用意されており、色は銀色でイニシャルは『F』である。
「予備も5つ、作っておきました」
「おお、いいねえ」
ハカセも、アーレンの手際の良さに感心したのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月25日(木)14:00の予定です。
20240418 修正
(誤)ふと思いついたことがって、ゴローはマリーを呼び出した。
(正)ふと思いついたことがあって、ゴローはマリーを呼び出した。