表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
423/496

12-16 風

 研究所のあるカルデラ上空を大きな円を描いて飛行していた『飛行船』が戻ってきた。


「おかえり、ゴロー!」


 ハカセはすっ飛んで行き、それを出迎える。

 サナやアーレンたちもハカセに続いた。


「ゴロー、おかえりなさい」

「ただいま戻りました」

「うんうん、どうだった?」

「快適でした。どこにも問題はなさそうです」

「よしよし、それじゃあ……」


 早速乗り込もうとしたハカセに、サナが待ったをかける。


「待って、ハカセ。点検しないと。……アーレンも」

「う、うん……」

「はい……」


 乗ってみたくてうずうずしているハカセとアーレンだったが、サナの言うことは正論なので言うことを聞く。

 時速600キル(km)超えで飛んだ機体のチェックは必須である。

 人の作るものに完全はないのだ。


 30分掛けて全体のチェックは終わった。


「うん、どこにも異常はないね」

「大丈夫ですね」

「『魔導炉(マギス・リアクトル)』も異常なしです」

「よし、それじゃあいよいよみんなで乗ってみよう!」

「その前に、重りを載せてテストです」

「う、ううん、そうだったねえ……」


 事前にテストの手順は決めてあり、それにのっとって行うことになっている。

 決めた本人が一番そわそわしているのだが……。


 それはともかく、100キム(kg)の重りを載せての飛行は問題なし。

 その後100キム(kg)ずつ増やして500キム(kg)まで載せても全く問題なく飛行することができたのである。


*   *   *


 というわけで、いよいよ全員で乗り込むことになる。


「ああ、楽しみだねえ!」


 船室へのタラップをまっ先に駆け上っていったのはハカセだった。

 続いてアーレン、ラーナ、ヴェルシア、ティルダ。

 そしてサナが乗り込み、ゴローが……。


「ほらルナール、早く来い」

「私も、よろしいんですか?」

「もちろんだ。さあ、行こうぜ」

「はい、ありがとうございます」


 これで全員が乗り込んだことになる。

 操縦士はそのままフランクが務める。


「シートベルトを締めてください」

「もう締めたよ」


 全員が締めたことを確認したフランクは、


「では、発進します」


 と宣言し、『飛行船』を浮上させた。


「お、お、浮いてるねえ……」


 窓から外を見たハカセは嬉しそうにつぶやいた。


 『飛行船』は地面から50メル()ほど浮き上がったあと、まずは停止。

 風が弱いこともあるが、非常に安定している。


「では、進みます」


 フランクは『飛行船』を前進させた。

 最初は時速10キル(km)くらいから。

 そこから少しずつ速度を上げ、時速100キル(km)に。


「おお、速いねえ」

「でも振動もないし、非常に安定していますね、ハカセ」

「大成功だね!」


 ハカセとアーレンは顔を見合わせて笑いあった。


 その間にも『飛行船』は加速を続けていく。


「時速、およそ200キル(km)です」

「おお、いいねいいね」

「300キル(km)です」

「すごい!」

「400キル(km)です」

「うーん、船体の振動もほとんどないね。凄いものができたねえ」


 そして、最終的には時速700キル(km)を出した。

 それでも船体の揺れや振動はほとんど感じられない。


「素晴らしいですね、ハカセ」

「うん。……フランク、速度を200キル(km)まで落としておくれ」

「はい、ハカセ」

「うん、このくらいならシートベルトを外してもいいかねえ」

「いいんじゃないでしょうか」


 巡航速度というのか、安全速度というのか、とにかく船内を歩き回ってみたくなったわけだ。

 これまでの様子から、『AETHER(アイテール)』で飛行している時はほとんど揺れがないようである。


「気を付けてくださいね、ハカセ」

「うん、手すりにつかまっていることにするよ」


 船内にはいたるところに手すりがもうけられており、船体が傾いた際に身体を支えられるようになっている。

 というものの、今のところ飛行は安定している。


「快適だねえ。すごい『飛行船』だよ、これは」


 窓から外を見たハカセはうきうきである。


「船体にも全く異常はないようですね」


 アーレンも、船内をあちらこちら見て回って満足そうだ。


「ハカセ、この『飛行船』の名前は?」


 サナが尋ねた。


「名前かい? そうだねえ……」

「ハカセの名前……」

「絶っっ対にやめておくれ」


 サナが言い掛けた言葉に被せるように拒絶するハカセ。


「それじゃあ共同開発者のアーレンの名……」

「嫌ですっ」


 アーレンも嫌だと言った。


「じゃあ……『風の精(シルフ)』のおかげでできあがった『飛行船』だから『(アネモス)』というのはどうでしょう?」


 ヴェルシアからの提案である。


「お、いいね」

「いいと思います」

「いいんじゃないかねえ」

「いいと思う」

「いいと思うのです」


 ゴロー、アーレン、ハカセ、サナ、ティルダである。

 ルナールは、自分は意見を言えるような身分じゃないと言っていたが、特に異存はないということだった。


「よし、それじゃあこの『飛行船』は『ANEMOS()』と名付けよう」


 そういうことになった。


*   *   *


 そして『ANEMOS()』は着陸。


「いやあ、思った以上のできだったねえ」


 ハカセは満足そうである。


 時刻は午後4時、もうあたりは薄暗い。


「ああそうだ、ハカセ、探照灯とか、船灯とか付けましょうよ」

「探照灯はわかるけど、船灯ってなんだい?」

「夜でも船の向きがわかるようにした明かりですよ」


 船外灯、航海灯ともいい、 右舷側が緑、左舷側が赤と決まっている。

 これにより、暗闇でも船の進む向きがわかるわけだ。

 ちなみに飛行機は『航空灯』という。

 これにも、観察者から見える位置に、と細かい指定があるわけだが、ここでは割愛する。


「なるほどね。それも『謎知識』かい」

「はい」

「難しいことじゃないし、いいだろうね。隠密行動の時は消せばいいわけだし」

「そうですね」


 夜中にこっそり王都へ行っている『レイブン改』は明かりなしで飛んでいたりする。


 とにかくその日はそれで終了。

 夕食まで、『ANEMOS()』の改良点を話し合うことになった。


「乗り心地は問題ないねえ」

「速度も十分です」

「外もよく見えましたけど、真下が見えるといいかもしれません」


 ヴェルシアが言った。


「ああ、そうだね。真下が見えるような窓……ついでに真上も見えるような窓を追加するかねえ」

「いいですね、それ」


 これで1つ決まった。


「後はどうだい?」

「座席も文句ないですし」

「あ、ちょっと寒かったです」


 ラーナが言った。


「空調だね。……うん、確かに改良の余地はありそうだね」

「密閉度が上がっていますから、酸欠にも注意したいですね」

「ああ、アーレンもいいところに気が付いてくれたね。そのあたりだねえ」


 ライト類、窓、空調。このあたりが改良すべき点として、ハカセとアーレンは再び知恵を絞るのだった。


*   *   *


 とはいえ、時刻は午後5時半。


「今日は少しのんびりしてください」


 と、ルナールがハカセとアーレンに釘を刺した。


「う……わかったよ」

「はい……」


 普段とは違うルナールの様子に、2人とも素直に従ったのである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月18日(木)14:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >早速乗り込もうとしたハカセに、サナが待ったをかける。 >「待って、ハカセ。点検しないと。……アーレンも」 >「う、うん……」 >「はい……」 >乗ってみたくてうずうずしているハカセとアーレ…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >その間にも『飛行船』は加速を続けていく。 未来の礼子「此方の世界特有の法則を利用した飛行船ですね。 お父様も興味を持たれそうですが、最終的には再現を放棄さ…
[一言] どのくらいの加速性能あるんだろうなぁ 少なくとも瞬間的に時速700Km/hにはならないだろうけど (なったら座席の染みになる)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ