12-15 『飛行船』完成!
『浮遊ベスト』を着たゴローが、自由に飛べることを報告すると、ハカセは嬉しそうに微笑んだ。
「そうかいそうかい。これは、飛行用の兜……『ヘルメット』って言ったっけ? ……も作っておいたほうがよさそうだねえ」
「『飛行船』だけでなく乗り物に乗るときは被っていたほうが安全かもしれませんが……」
「『竜の骨』で作れば、軽くて丈夫だろうね」
「さすがに足りなくなるんじゃ?」
「その時はまた採取に行ってきておくれ」
「いいですけど」
なにせ『カイラス山』には、それこそ山のように『竜の骨』が遺っているのだ。
大精霊である『風の精』も、拾っていくことに問題はないと言ってくれているので、そのうち拾いに行くことになるだろうと思われた。
「『亜竜』の素材はどうですか?」
「そっちもほしいねえ」
「前回集めに行ったあの場所は、もう巣が空っぽになっていますよね?」
「うん、でもあたしはもう1箇所、心当たりがあるんだよ」
「そうなんですか?」
さすがハカセである。
「どこなんです?」
「ずーっと東のほうさ。あたしが若い頃いた国のさらに東でね。歩いていける距離じゃないから候補外だったけど、今なら行けるよねえ」
「行けますね」
「でもそれなら『飛行船』が完成してから、行きたい」
「まあサナの言うとおりだろうね。『飛行船』の中で寝泊まりできるから、事実上どこへでも行けそうだものねえ」
何にせよ、今製作中の『飛行船』が完成すれば、素材の採集だろうが他国訪問だろうが、何でもできそうである。
「よーし、それじゃあまず、『飛行船』を完成させてしまおうかねえ」
ということで、ハカセとアーレンは『飛行船』の製作に戻ったのである。
* * *
そんなこんなで2日が経った。
その間、外は吹雪いていたのでゴローも外には出ず、ハカセたちの手伝いをしていた。サナも同様。
ヴェルシアはティルダとともに、シートやフロアマットなど内装の製作。
ルナールは簡易キッチンのレイアウトのアイデアを出し、ラーナがそれを形にしていった。
* * *
「ほぼできたねえ」
「やりましたね、ハカセ」
『ほぼ』というのは、まだ動作テストが済んでいないからである。
実際には『完成』と言ってもいいのであるが。
時刻は午後1時。
「テストは出来そうかねえ?」
「雪はやんでいるようですね。ところどころ青空が見えています」
「それなら飛ばせるね」
「はい」
というわけで、ゴローは『水の妖精』のクレーネーに除雪を頼むことにした。
「60セル以上積もったな……」
一昨日除雪したというのに、もう雪が積もっていたのでさすがのゴローも少々苦労しながらクレーネーが棲む池へと向かったのである。
「おーい、クレーネー、いるかい?」
「はいですの、ゴロー様」
「ああ、以前に言っていた除雪を頼みたいんだが」
「わかりましたですの。どこからどこまでやればいいですの?」
「そうだな、研究所前の大扉の前をざっと……30メルくらいかな」
「はいですの」
クレーネーは池から出て、研究所前へ。
「雪はどかした方がいいんですの? 水に戻すこともできるんですの」
「水にすると凍って後が大変そうだからどかしてくれるか? どかす先は向こうの広場がいいかな」
「わかりましたですの。では」
『水の妖精』のクレーネーは両手を前に突き出し、手のひらを雪に向けた。
そして詠唱もなしに、雪の塊を50メル以上先まで飛ばしていったのである。
「壮観だな……」
あの雪の塊は4トントラックよりも大きいな、と、『謎知識』に教えられ、妙な感心の仕方をするゴローであった……。
* * *
「おお、こりゃすごいねえ……」
『飛行船』を作っていた工房前の雪が綺麗さっぱりなくなってしまったことにハカセは驚き、喜んでいた。
「クレーネーって、もう大精霊なんじゃ……」
ヴェルシアも驚き呆れている。
「とにかく、これで試験ができるよ」
「ですね」
乗り込むのは『浮遊ベスト』を着込んだゴローと、『自動人形』のフランク。
この2人なら、何かあっても対処できるだろう、というわけだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「くれぐれも気を付けるんだよ、ゴロー、フランク」
「はい、ハカセ」
工房の中で、『浮かぶ』テストは行っている。
20セルほどではあるが、『飛行船』は浮くことが確認できているのだ。
推進装置はプロペラと『魔導ロケットエンジン』そしてもちろん『AETHER』による推進だ。
『AETHER』による推進は、ゴローの魔力を使った制御装置を通して行われる。
が、まずはプロペラによる微速前進だ。
「では、スタートします」
「うん。フランク、こっちはいいぞ」
操縦士はフランク、内部機構の監視と確認はゴロー。
「浮上開始」
『AETHER』に制御信号が流れ、『飛行船』はゆっくりと浮かび始めた。
ここまでは扉を閉じた工房内で確認済みだ。
30センチ浮いたところで『飛行船』は静止した。
「うん、いい感じだねえ」
外から観察しているハカセは満足そうに頷いた。
「微速前進」
フランクは推進器をスタートさせる。
ゆっくりと『円盤式エンジン』が始動、プロペラが回り始めた。
プロペラ推進は、微速前進用であると同時に、『AETHER推進』のカムフラージュでもある。
「おお、進み始めたよ!」
「成功ですね!」
「やったよ!」
「やりましたね!」
ハカセとアーレンは快哉を叫んだ。
兎にも角にも、『飛行船』は宙に浮かび、自力で進んでいるのだから。
時速1キルくらいの速度で『飛行船』は前進。
時間を掛け、その船体は研究所の外に出た。
無塗装の船体は陽の光を受け、アイボリーに輝いている。
「よし、もう少し高度を上げよう」
「了解」
ゴローの指示でフランクは『飛行船』の『浮上』レバーを調整。地面からの高度を5メルにまで上げた。
「よし、プロペラ推進で速度を上げていこう」
「了解」
プロペラの回転数が上がり、『飛行船』の速度も上がっていく。
「いいぞ……」
対地速度は時速10キルほどまで上がった。
そのままゴローとフランクは『飛行船』を飛ばし、雪原の上をぐるりと巡ってみる。
「どこにも問題はないな。よし、プロペラ推進の最高速度を出してみよう」
「了解」
『円盤式エンジン』がフルパワーで回転。『飛行船』の速度はおよそ時速20キルとなった。
「この辺がプロペラの上限かな」
「はい、ゴロー様」
「よし、プロペラ停止。高度をもう少し上げよう」
「了解」
『飛行船』の高度は10メルまで上がった。
「『魔導ロケットエンジン』起動」
「了解」
『飛行船』はぐん、と加速を始めた。そのまま、研究所のあるカルデラ上空を大きな円を描いて飛行する。
「お、いい感じだな」
「速度、およそ時速50キル……60キル……70キル……」
とりあえず、時速100キルで飛ぶことにしたゴローは、『飛行船』の各部のチェックを行っていった。
「どこにも異常はないな。よし、もう少し加速だ」
「了解」
さらに加速する『飛行船』。
「対地速度、およそ時速250キルです」
「船体各部、異常なし。……いよいよ『AETHER駆動』を試してみるか。……『魔導ロケットエンジン』停止」
「了解」
「高度をもう少し上げよう」
「了解。……高度、およそ20メルまで上げました」
「いいだろう。『AETHER駆動』開始」
「了解」
『魔導ロケットエンジン』による加速よりも体感的には穏やかだったが、実際の加速度はずっと大きいようで、たちまちのうちに速度が上がっていく。
「対地速度、およそ時速500キル……550キル……600キル……」
「よし、この速度を維持」
「了解」
時速600キルという高速で飛んでいるにも関わらず、船体にはほとんど振動は感じられない。
「軋みもないし、異音もないな……もう少し速度を上げてみよう」
「了解」
再び『飛行船』の速度が上がっていく。
「時速650キル……700キル……750キル……」
さすがに空気抵抗はものすごいことになっているはずだが、『竜の骨』でできた船体はびくともしていない。船尾の安定翼も振動してはいなかった。
そして『AETHER』で浮かんでいる効果なのか、高度の変化がほとんどないのである。
最初に設定した高度を保ってくれるのだ。
これは『AETHER』による浮遊の大きな効果のようだった。
* * *
ハカセたちは研究所の屋上部分から『飛行船』の様子を観察していた。
「完全に成功だね!」
「はい、ハカセ。……今、時速600キルくらい出ていると思う」
「すごいねえ。で、船体に異常は?」
「ないみたい。あ、さらに速度が上がった」
「大成功だよ! ……ああ、早く戻ってくればいいのに」
乗ってみたくてたまらないハカセであった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月11日(木)14:00の予定です。
20240404 修正
(誤)なにせ『カイラス山には、それこそ山のように『竜の骨』が遺っているのだ。
(正)なにせ『カイラス山』には、それこそ山のように『竜の骨』が遺っているのだ。
20240412 修正
(誤)フランクは推進器をスタートさせる
(正)フランクは推進器をスタートさせる。