12-13 アーレン、合流
『浮遊ベスト』が完成した、その日の夜、天候は晴れ。
ゴローが王都へアーレン・ブルーを迎えに行くことになった。
「それじゃあ、行ってきます」
「ゴロー、気を付けるんだよ」
「はい」
「ゴロー、食料の補充もお願い。特にお砂糖」
「わかってるって」
サナからの要望も笑って受け取ったゴローは『レイブン改』に乗って王都へ向け出発した。
空は満天の星である。
「冬の空は晴れたら星が綺麗だな」
通い慣れたルートを、『レイブン改』はひたすら飛んでいく。
道中は特に何ごともなく、午後8時に王都の屋敷に到着。
「お帰りなさいませ、ゴロー様」
『屋敷妖精』のマリーが出迎えてくれた。
「やあマリー、ただいま。変わりはなかったかい?」
「はい。モーガン様も王女殿下もお見えになりませんでした」
「珍しいな……まあいいや、またじきに戻らなくちゃならないんだ。食料とか砂糖なんかを積み込むのを手伝ってくれ」
「はい、承りました」
屋敷の庭に『レイブン改』を着陸させ、まずはマリー(の本体)に手伝ってもらって食料その他を積み込む。
「そうだ、こっちのマリーにもこれを渡しておこう」
ゴローは、持参してきた『竜の骨』で作った腕輪をマリーに手渡した。
これはティルダが試しでいろいろ作ったアクセサリーの1つだ。
前回は単に『竜の骨』を渡して屋敷内に置いておいてもらっただけだったが、これはマリーが直接身につけられる。
「ゴロー様、ありがとうございます。これをつけていると力が増えてくるような気がします」
「危険はないよな?」
「はい、それは大丈夫です」
「うん、それじゃあ身につけていてくれ。俺はこれからアーレンを迎えに行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
* * *
「あ、ゴローさん!」
「アーレン、迎えに来たよ」
「ありがとうございます! 昨日から待ってました!」
「昨日は、向こうはまだ天気が悪かったんだよ」
「そうだったんですね。支度はもうできています」
「ラーナは?」
「もう来ると思います。……ああ、来ました」
結構な大荷物を担いだラーナがやって来た。
「ゴローさん、こんばんは。わざわざのお迎え、ありがとうございます」
「ラーナ、アーレンと2人で来て大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
「そ、そうか。……なら、行こうか」
『自動車』に大荷物と2人を乗せ、ゴローは夜の王都を屋敷へと戻る。
「そういえば、夜が静かになったな」
「ええ、すっかり治安も戻ったみたいです」
「エルフの国の……いや、それは研究所に戻ってから聞こう」
「そうですね」
そして『自動車』は屋敷に到着。
さっそく『レイブン改』に荷物を積み込む。
食料などは先に積み込んでおいたので、あとは忘れ物がないかチェックしたら出発するだけだ。
「大丈夫です、忘れ物はありません」
「よし、じゃあ行くか」
「ゴロー様、お気をつけて。トウガラシも、次回いらっしゃるときには収穫できるかと思います」
「うん、世話は頼んだ。じゃあ、行ってくる」
マリーに見送られ、『レイブン改』は夜空に飛び立ち、研究所を目指したのである。
その道中で、ゴローはアーレンとラーナに『風の精』に会ったこと、『緑に光る石』を貰ったこと、それを使うと『竜の骨』などの素材に『AETHER』の性質を持たせることができること、などを説明した。
「えええ! 『風の精』に会ったんですか!? しかも凄いものを貰ったんですね!」
「それを使うと空が飛べるんですか」
「新しい飛行船ができますね!」
「楽しみです」
そんな話をしていたので、帰りの道中は退屈しなかったゴローである。
* * *
「おかえり、アーレン、ラーナ」
「ハカセ、ただいま……でいいのかな?」
「いいんだよ」
ハカセはもうすっかり2人を家族扱いしていた。
「さあさあ、話したいことがたくさんあるんだよ」
「『浮く円盤』とか『緑に光る石』とか『AETHER』のことは、あらましをゴローさんに聞きました」
「そうかい。それなら話が早いね。次に作る『飛行船』の検討をするよ!」
「ハカセ、ホットミルクを用意しますから、その続きは食堂で……」
「あ、ああ、そうだね」
玄関で話を始めたハカセをなだめ、食堂へと誘うゴローであった。
そして用意されるホットミルク。
「ああ、あったかいねえ」
「甘くて、おいしい」
サナのものは特別に甘くしてあるのだ……。
「さて、それじゃあ、まずは情報のすり合わせだね。こちらで検討しておいたことを説明するよ」
「お願いします」
「まず、『竜の骨』に……」
ハカセはこれまで行った実験結果を説明していく。
「ああ、それは興味深いですね。で、ゴローさんにしか制御できない、と」
「正確にはゴローの魔力でしか、だね」
「興味深いですね」
「まあ、研究は研究として、まずは『飛行船』を作りたいよねえ」
「そうですね、ハカセ」
「……で、検討中のメモがここにあってね……」
「拝見します。……なるほど、いいですね」
「詳細はアーレンと一緒に詰めたいねえ」
「ありがとうございます」
と、ここでゴローとラーナから待ったが掛かる。
「ハカセ、もう10時ですから、続きは明日にしましょう」
「明日に備えて寝てください」
「……わかったよ」
「……そうだね」
2人からたしなめられて、ハカセとアーレンは渋々ながらも床に就くことにしたのであった……。
* * *
翌朝。
いつもより少し早く起きたゴローは、台所でお湯を沸かしていた。
「ゴロー様、早いですね」
ルナールがゴローを見て驚いている。
「うん、おそらくハカセもアーレンも早々と起きてくるだろうから、朝食も少し早めにしてあげようかと思ってさ」
「わかりました、すぐ支度します」
ゴローの説明にルナールもピンときたようで、大急ぎで朝食の準備に取り掛かった。
「ゴロー、おはよう」
「おはよう」
サナも起きてきた。
そしてゴローの予想どおり、ハカセとアーレンはいつもより30分早く起きてきたのである。
「おはようございます。朝食の支度はもうすぐできますよ。……『癒やしの水』をどうぞ」
「ありがとね。……いつもより早いんだねえ」
「というか、ハカセもアーレンも早いとわかってて起きてきているじゃないですか」
「うん……まあ、そうなんだけどねえ」
そうやって賑やかにしていたら、ティルダとヴェルシア、ラーナも起きてきた。
「おはようございます。……皆さん、お早いですね」
「やっぱり寝ていられなかったのです?」
「う……うん、まあね……」
「では、朝食にしましょう」
みんな揃ったので朝食となった。
焼いたトースト、ベーコンエッグ、野菜サラダにフルーツジュースである。
トーストにはバター、イチゴジャム、メープルシロップ、はちみつの中から好きなものを選んで掛けて食べる。
ゴローはバター、サナはメープルシロップ、ハカセはイチゴジャム、ティルダもイチゴジャム。
ヴェルシアははちみつ、ルナールはバターである。
そしてアーレンはバター、ラーナはイチゴジャムという嗜好であった。
* * *
そして早めの朝食が終われば……。
「さあアーレン、検討会だよ!」
「はい、ハカセ!」
「……やれやれ……」
ハカセとアーレンは研究室にすっ飛んでいき、ゴローはため息をつきつつその後を追った。
「アーレンと設計した『飛行船』の形状はそのままにして、構造や『浮く方法』を変えていこうと思うんだよ」
「当然ですね」
「検討していたパラシュートよりも『浮遊ベスト』の方がよさそうだし」
「後で見せてください」
「もちろんさね」
「それで、ここの制御ですが……」
「ああ、いいねえ。でもここは……」
喜々として検討を行うハカセとアーレンであった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月28日(木)14:00の予定です。
20240321 修正
(誤)空は満点の星である。
(正)空は満天の星である。
20240322 修正
(誤)そうやって賑やかにしていたら、ティルダとヴェルシアも起きてきた。
(正)そうやって賑やかにしていたら、ティルダとヴェルシア、ラーナも起きてきた。