表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/496

12-09 『浮く力』

 『充填された『魔力庫(マギタンク)』の中身に『AETHER(アイテール)』の性質を付加』。

 この研究が進めば、大空への夢がさらに広がることになるだろう。


「ということで、できたみたいだよ」


 翌朝、ハカセは朝食の場でゴローたち皆に報告した。


「え、もうですか?」

「まさか、徹夜したんですか、ハカセ?」


 ゴローが顔をしかめた。


「しないしない。……実験の手配をして、あとはフランクに見守っていてもらったのさね」

「フランクに……そうですか」


 ほっとするゴロー。

 ハカセの健康は、彼らにとって最重要事項なのだ。


「……で、どんな結果が?」


 今度はサナからの質問。


「うん、超小型の『魔力庫(マギタンク)』を用意して、そこに『緑に光る石』を触れさせておいたのさ。で、一晩放置してどうなるかをフランクに見届けてもらったというわけだよ」

「ああ、それならいいですね。……で、結果は?」

「うん、大成功さ。フランクによると、だいたい5時間で『魔力庫(マギタンク)』の中身は『AETHER(アイテール)』の性質を帯びた『マナ(外魔素)』になったみたいで、天井まで浮かんでそこに張り付いているよ」

「浮く力はどうなんでしょう?」

「それなんだけどね、フランクによると、100キム(kg)近くの浮力があるみたいだよ」

「100キム(kg)……!」

「それは凄いですね!」


 皆、大喜びだ。

 同じものを10個用意すれば1トム(トン)の物を持ち上げられることになる。

 ここでヴェルシアが疑問を口にした。


「……あの、その超小型の『魔力庫(マギタンク)』ってどのくらいの大きさなんですか?」

「気になるだろうねえ。大体このつぼくらいさ」


 ハカセが指し示したのは食卓上に置かれた、漬物の入った壺。

 直径10セル(cm)、高さも10セル(cm)くらいである。

 その大きさで100キム(kg)を持ち上げるというのはすごい。


「あとハカセ、『魔力庫(マギタンク)』の向きは影響しませんよね?」

「お、ゴロー、いい質問だね。そのとおりだよ。『上へ』向かう力は、容器の向きに影響を受けないみたいだねえ」


 つまり、これを積んだ航空機は、どんな姿勢になっても『上へ』昇るわけだ。


「あとは、この効果が永続的かどうかだよね」

「容器の密閉度を上げないといけませんね」

「だろうねえ……」


 今使っているのは『魔力庫(マギタンク)』なので、『マナ(外魔素)』や『オド(内魔素)』が導線を通じて出入りするわけだ。

 この導線をなくしても、少しずつ漏れ出てしまいそうだということが想像できた。


「漏れ出さないようにするいい方法……何かないですかねえ」

「いい方法か……難しいねえ」

「そもそも『マナ(外魔素)』や『オド(内魔素)』を充填しなければならないんですからねえ」

「充填するためには入り口が必要だからね……」


 皆で知恵を出し合って考えていく。


「あの……これは素人考えなんですけど」


 珍しく、狐獣人(ビーストマン)のルナールが意見を口にした。


「この前集めてきた……『(ドレイク)の骨』は使えないんですか?」

「え……ああ、そうか……! ……うん、使えるかもしれないねえ!」


 『魔力庫(マギタンク)』の封印のことばかり考えて、そっち方面には考えが及ばなかったとハカセは苦笑した。


「さっそくやってみようかね。……ゴロー、手伝っておくれ」

「はい」


 『(ドレイク)の骨』をカットするには、ゴローの持つナイフが便利である。


「使いやすくするなら、円盤状に切ってみようかね」

「わかりました」


 直径が6セル(cm)くらいの骨を、厚さ1セル(cm)くらいにカット。

 円盤状で、分厚いコースターのようだ。


「これって、このまま『AETHER(アイテール)』の性質を付与できるかねえ……」

「やってみてくださいよ」


 やり方は簡単。『緑に光る石』をカットした円盤の上に載せてみる。


「さあ、どうなるかねえ」

「『AETHER(アイテール)』が見えるといいんですけどね」

「そういう道具を考えてみたいねえ」


 そんなことを言っている間に、円盤が動き出した。


「おや」

「あ、軽くなった……というか、浮くようになったみたいですね」

「ゴロー、ちょっと押さえていておくれ」

「はい」


 ハカセは10キム(kg)の重りを用意し、円盤に縛り付けた。


「これでもう一度『緑に光る石』を載せて、と」

「あ、もう浮き始めましたよ?」

「早いね……『(ドレイク)の骨』は効率がいいのかねえ?」


 5分ほどで10キム(kg)の重りを持ち上げるほどになっている。

 ハカセはそれに紐をつけ、さらに10キム(kg)の重りにくくりつけた。

 さすがに20キム(kg)を持ち上げる力はないようで、風船のように浮いている。

 10キム(kg)の重りが浮いているのはシュールな光景である。


「今はこのくらいでやめておこうかね」


 これで様子を見て、時間が経って浮く力がなくなるようなら『(ドレイク)の骨』も今ひとつ、ということになるわけだ。


「ついでに『亜竜(ワイバーン)の骨』でも試してみようかねえ」

「あ、いいですね、それ」


 そういうことになり、同じような過程を経て、10キム(kg)の重りがもう1つふわふわ浮き上がることになった。


「あとは様子見だね」

「ですね。……あ、マリーにもちょっと見てもらいましょうよ」

「おお、そうだねえ」


 ゴローはマリー(の『分体(クローン)』)を呼んで、この光景を見てもらった。


「……すごい眺めですね」


 マリー(の『分体(クローン)』)も驚く眺めのようだ。


「ええと、どちらからも、魔力も『AETHER(アイテール)』も漏れていないようですけど」

「お、そうかい。ありがとうよ、マリー」

「マリー、ありがとう」

「いえ、いつでもお呼びください」


 にも角にも、『(ドレイク)の骨』と『亜竜(ワイバーン)の骨』は、それ自体が『AETHER(アイテール)』の性質を帯びることがわかったのである。


「あとは、『AETHER(アイテール)』の性質がなくならないならいいんだけどねえ」

「ですね、ハカセ」

「……でも、降りる時はどうするの?」

「え?」


 いつの間にかサナがやって来ており、疑問を口にしたのだった。


「降下か……」

「あまり強力な上昇力があったら、降りて来られませんね」

「中の魔力を抜いてしまえばいいんだろうけど、さすがにもったいないねえ」

「浮力を遮断することってできませんかね?」

「遮断かい……」


 さすがのハカセも、できるともできないとも口にしなかった。

 この件は要研究ということなのだろう、と、ゴローとサナは研究室をそっと後にした。


「助手としてはフランクがいるから大丈夫だろう」

「うん」


*   *   *


 そして昼食時。

 なかなかハカセがやってこないので、ゴローは研究室へ様子を見に行った。

 すると……。


「ああ、ちょうどよかった。ゴロー、手伝っておくれ」


 天井にひっついた円盤を取ろうと、作業台の上に上ろうとしているハカセがいた。


「危ないですから、俺がやりますよ」

「頼むよ、ゴロー」


 ゴローは『空気の(アエル・)(パリエス)』を使い、空気の踏み台を作って天井へと手を伸ばし、円盤を手に取ったのだった。

 その時にふと思い付く。


「ハカセ、『AETHER(アイテール)』の効果を遮断する方法、何かありましたか?」

「うーん、思いつかなかったねえ……」

「そうですか。……あの、空気をなくしたらどうなりますかね?」


 『AETHER(アイテール)』が、天空の上方にあるとされた、澄み渡った輝く大気のことだとしたら、その『大気』がない場所ではどうなるのか、とゴローは思ったのである。


「なるほどねえ。……やってみる価値はあるね。まずは……」

「あ、その前に、お昼ごはんです」


 実験を始めようとしたハカセを現実へと連れ戻すゴロー。


「ああ、そうか、もうそんな時間かい」

「はい」


 渋々ながら、ゴローと一緒に食堂へと向かうハカセであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月29日(木)14:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「それなんだけどね、フランクによると、100kg近くの浮力があるみたいだよ」 「それは凄いですね!」 >同じものを10個用意すれば1トンの物を持ち上げられることになる。 >ここでヴェルシ…
[一言] >>大空への夢が 仁「更に空を越えて・・・・」 明「星の彼方げ?」 56「古いなぁ・・・・」 >>あとはフランクに 仁「ぶん投げたのか」 明「普通の使い方じゃ無いか?」 56「一定間隔で起…
[一言] >「うん、超小型の『魔力庫マギタンク』を用意して、そこに『緑に光る石』を触れさせておいたのさ。で、一晩放置してどうなるかをフランクに見届けてもらったというわけだよ」 ↑で、 >「うん、大成功…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ