12-04 いろいろ準備して
1日で『ALOUETTE』は研究所に戻った。
「ゴロー、サナ、お帰り! おお、いっぱい持ってきてくれたねえ」
「はい、ハカセ」
ゴロー、サナ、フランクらは積んできた1トムほどの『竜の骨』を倉庫に収めた。
「おお、これは壮観だねえ。……で、『霧の中ゴーグル』はどうだった?」
「はい、すごく役に立ちました!」
「それはよかったよ。……で、あんたたちは何をしているんだい?」
「もう一度、行ってきます」
「はあ!?」
「せっかくの機会ですから」
「うーん、そういうことかい……うん、任せるよ。ただし気を付けるんだよ?」
「はい!」
ということでゴローとサナ、フランクは『ALOUETTE』であと2往復し、倉庫には4トム近い『竜の骨』が積み上がったのであった。
余談だが、あれきり『火の精』は姿を現してはいない。
* * *
「これは壮観だねえ」
前と同じセリフを繰り返すハカセ。
「それしか言いようがないんだから仕方ないさね」
「誰に言ってるんですか」
「いやなんとなく言いたくなったんだよ」
ゴローとのそんなやり取りのあと、ハカセは真面目な顔つきになった。
「まずは大きさ別に仕分けしようかね」
「それがいいかもしれませんね」
大きさ、太さが異なれば使い勝手も変わる。
まあ、最終的には溶かして使えば同じではあるのだが、わざわざ大きな骨から小さなモノを削り出すというのは効率が悪い。
そしてこちらが大事なのだが、この仕分け作業を行うことで『竜の骨』の在庫状況が頭に入るという利点がある。
フランクが一緒にやってくれるなら、在庫管理帳を作る必要がない。
仕分けは1時間で終了。
「いやあ、こうして並べてみると、使ってみたくなるねえ」
「本当ですね」
「はいなのです」
ハカセ、アーレン・ブルー、ティルダである。
「とはいうものの、たくさんあっても希少素材であることには違いないからねえ。無駄にはしないようにしよう」
「はい、ハカセ」
ハカセの意思表明に頷いたゴローたちであった。
* * *
「さて、それじゃあまず、フランクの改造を行おうかねえ」
「あ、それがいいと思います」
『ALOUETTE』の性能アップが著しかったので、ここは身近なところでフランクの性能アップ、ということになった。
「ほぼ作り直しだけどねえ」
骨格、筋肉、魔力庫、外装……。
ほとんど一新である。だがハカセは、これは『フランク』だよと言った。
「意思のあるものは、その意思こそがそのものをそのものたらしめているとあたしは思っているんだ」
とハカセは哲学めいたことを口にしたのである。
「『魔導炉』も追加しようかねえ」
フランクのエネルギー源は小さいながらも『哲学者の石』なのである。
が、小さいがゆえに取り出せる魔力も少ないので、ここぞというときのため、『魔導炉』を追加しよう、とハカセは言ったのだ。
「骨格が『竜の骨』ですからね。十分に耐えるでしょう」
ハカセが全体のバランスを見、アーレン・ブルーが実際の加工を担当。
ゴローとサナが助手として力仕事、ティルダは細部の仕上げ……というように作業分担をしたので、1日でフランクの改造は終了した。
「さて、それじゃあ……『〈Agedum〉〈exsurge〉』」
「はい、ハカセ」
専用の起動用命令語により、フランクは起き上がった。
「どうだい、調子は?」
「はい、とてもいい状態です」
「動作に問題はないかい?」
「少々お待ちください……バランス調整を行います…………済みました……はい、動作も問題なしです」
「ならいいさね。体重がおよそ半分、パワーは2倍になっているからね。短時間なら5倍まで出せるよ」
「……認識しました」
そのため、出力調整に数秒掛かってしまった、というわけだ。
ちなみに、数秒で済んだのはハカセが作り上げたフランクの動作制御系が高性能だからである。
これでさらに作業効率がアップすることであろう……。
* * *
「この工具、効率がよすぎるのです」
ティルダは工房で新作工具を使い、ノーマルな素材……『普通の銀』を削っていた。
「ゴローさんのナイフとまではいかないですが、従来の工具の5倍くらい効率がいいのです」
『強化版竜の骨』で作った工具は、銀の塊をさくさく削っていた。
超硬合金の工具で石膏を削っているような、と言えば少しは伝わるであろうか……。
とにかく、ティルダの作業効率は大幅に向上。
もっとも切断・切削・研削だけが作業の全てではないので、トータルで見たら2倍程度に収まるのであるが、それでも破格の効率アップである……。
* * *
アーレン・ブルーはラーナとともに、次に製作するものについて考えていた。
「僕らも、ここにずっといられるわけじゃないからね。今のうちにやりたいこと、やるべきことは済ませておきたいよね」
「そうですね」
「まずは工房で使えるような道具を作ろうか」
「それには異論はありません」
アーレン専用の道具として、他者には貸し出さないようなもの。
彫刻刀やハサミ、切り出しナイフなどの小型の工具ならいいだろうと考えた2人である。
「これらも、いざというときにだけ使いましょう」
「そうだね。ラーナの言うとおりだ」
「もし見つかったら、ゴローさんから購入したということに……」
「それもいいんだけど、ゴローさんには話しておかないとね」
というわけでアーレンはゴローたちにその話をした。
「そういうことか。……そうだな、それでいいよ」
ここでサナも意見を口にする。
「ゴロー、私たちも、何か『仕入れた』物を持っていた方が、いい」
「そうだな……」
いざという時用に、ローザンヌ王女に献上する短剣は用意した。
それ以外にも、何か同時に仕入れていたことにできそうなものを考える。
「ナイフ……がいいかな」
「うん。ただ、デザインは考えたほうがいいかも?」
「ああ、そうか」
いわゆる『異国風』のような感じにしたら、というわけだ。
「いいかもな……。でも、どこで手に入れたことにする?」
「それは……」
サナもそこまで考えていなかったようだ。
「同じような行商人から仕入れた、ということにしたらどうです?」
と、ラーナが助言をくれた。
「そうだな……お互いどこから来てどこへ行くのかは気にしなかった、ということにするか」
「その行商人も、北の方で別の商人から買ったか、何かの対価にもらった、ということにすれば、なおいいのではないでしょうか」
「うん、ラーナの案を採用しよう」
そういうことになったのである。
で、ティルダに協力してもらい、ちょっと変わった形のナイフを作った。
1枚板を打ち抜いて作ったような形と、ダガーナイフと呼ばれるような両刃のタイプの2つ。
ダガーナイフの方は多少の装飾を施す。
やりすぎるとティルダの作と見破られかねないので、ごくあっさりと、である。
「これを一応持っていればいいだろう」
「かっこいいですね」
アーレンは打ち抜きタイプのナイフが気に入ったようだ。
軽量化とデザイン性を兼ねて数ヵ所丸く打ち抜いてあるのが目新しい、という。
「じゃあ、アーレンも作ればいい」
「いいんですか?」
「自分の手にあった大きさにすればもっといいだろう」
「あ、、そうですね」
ということで、手の大きさに合わせ、微妙に大きさを変えたナイフを1丁、追加で作ったのである。
こうして、『竜の骨』を使った、カモフラージュ用のナイフ作りは一段落したのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月25日(木)14:00の予定です。
20240118 修正
(誤)前と同じセリフを繰り替えすハカセ。
(正)前と同じセリフを繰り返すハカセ。
20240509 修正
(誤)1枚板を撃ち抜いて作ったような形と、ダガーナイフと呼ばれるような両刃のタイプの2つ。
(正)1枚板を打ち抜いて作ったような形と、ダガーナイフと呼ばれるような両刃のタイプの2つ。
(誤)軽量化とデザイン性を兼ねて数ヵ所丸く打抜いてあるのが目新しい、という。
(正)軽量化とデザイン性を兼ねて数ヵ所丸く打ち抜いてあるのが目新しい、という。