12-03 新装備開発
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
『水の妖精』のクレーネーに助言をもらったハカセは、工房に籠もって何かを作り始めた。
アーレン・ブルーは『竜の骨の粉』を添加した素材を使い、『魔力庫』『魔力充填装置』『魔力変換機』『外魔素取得機』を作っている。
「まずは『ALOUETTE』、次は『レイブン改』に搭載しましょう」
そうすれば、稼働可能時間が延びるだけでなく、パワーもアップするはず、というわけだ。
ハカセの『霧の中での視界確保』と合わせれば、より多くの『竜の骨』を持ち帰れるだろう。
* * *
途中で2回ほど、食事をさせるためハカセを強引に食堂へ引っ張っていったが、1日ほどでハカセの魔導具は完成した。
その半日前にアーレンの『魔力庫』『魔力充填装置』『魔力変換機』『外魔素取得機』も完成し、現在『ALOUETTE』への換装を終えている。
「いやあ、難しかったよ」
と言いながらも嬉しそうなハカセである。
形状はまさかの『暗視ゴーグル』風である。
「試してみたいけど、霧が出ていないと無理だねえ」
「じゃあ風呂場を使えばいいんじゃないですか?」
「ああ、その手があったね。ゴロー、ありがとうよ」
寒い風呂場にお湯を撒けば湯気でもうもうとなる。
その湯気をものともせずに見通せれば成功というわけだ。
準備は5分で整い、実験結果は……。
「成功だよ!」
「よく見えますね」
「これはすごいなあ」
代わる代わる『霧の中ゴーグル』を付けてみて、その効果に驚くゴローたちであった。
* * *
さてティルダは、工房で作業をしていた。
『竜の骨』でカメオ……厚い貝殻、大理石、瑪瑙などに浮き彫りを施した工芸品である。
象牙も使われるので、『竜の骨』が使われてもおかしくはない。
『加工結界機』を作動させておき、鋼鉄のタガネやヤスリで彫刻し、形を整えていく。
そんな時、背後から声がした。
「ほうほう、熱心なお嬢さんじゃ」
「え!?」
ティルダが振り向くと、赤い三角帽子を被った、小柄な老人が立っていた。
身長は15セルくらい、白くて長い顎髭を生やしている。
その姿はまるで……。
「あ、あ、あの、おじいさんは……グ、『地の精』なのです!?」
「おお、正解じゃ。賢い、賢い」
『地の精』はほっほっほと笑った。
そしてぴょんと作業台に飛び乗る。
「ここはいい場所じゃ。大地の力も潤沢じゃしな」
と、真面目な顔になり、告げた。
「『火の精』の奴が火床に『分体』を置いていったので、儂もちょっとだけ手をかそうと思ってのう」
「え……!」
「お嬢ちゃんはドワーフ族じゃから、儂らや火の連中と相性がいい」
火の連中、というのは『火の精』のことかな、とティルダは思いながら、『地の精』の話に耳を傾ける。
「ということで、儂からお嬢ちゃんへの贈り物じゃ」
「え? え?」
「ちょっと頭をお出し」
「は……はいなのです」
ティルダは屈んで頭を差し出した。
「愛し子に、大地の祝福を。……では、の」
「あ……」
『地の精』は作業台からぴょんと飛び降りた。
そして、
「儂らも、大地がある限りどこにでもおる」
と告げると、床に溶けるようにして姿を消したのである。
「あ、あわわわ……」
今のが夢ではないかと頬をつねってみるティルダ。
「痛いのです……夢じゃないのです……」
とりあえず、ハカセやゴローたちに報告しようと工房を出るティルダであった。
* * *
ちょうど夕食の時間だったので、その席で説明を行ったティルダ。
「ええ? 『地の精』に会った!?」
「はいなのです」
食堂で皆に話すと、全員がびっくりした。
「はあ……会ってみたかったねえ……」
「ハカセ、大地がある限りどこにでもいらっしゃるそうですから……」
「うん、次の機会に期待しようかね。……で、もらった加護ってどんなものなんだい?」
「ええと……まだよくわからないのですが、『石の声』っていうのです」
「石の声?」
「はいです。ええと、鉱石の種類や加工法、鉱脈の在り処がわかるようになる……らしいのです」
「ほほう……それは、重宝しそうな加護だねえ……」
鉱石の種類や加工法がわかるというのは、特に職人であるティルダは重宝するだろう。
そして鉱脈の在り処がわかるというのも、間接的にではあるが非常にありがたい。
「あの、それで、ちょっと試してみたら、ここの地下に『金剛石』が少しですがあるみたいなのです」
「へえ……いろいろな鉱石が採れるけど、『金剛石』はないと思っていたんだよねえ。ティルダ、ありがとうよ」
「はいなのです」
こうして、また1つ、新たな力が増えた、と言えよう。
* * *
「それじゃあ明日、もう一度『ALOUETTE』で『竜の骨』を集めに行く、でいいね?」
「はい、ハカセ」
「行くのはゴローとサナ、フランクに頼むよ」
人数を減らしたのは、積載量を増やすためと、『二酸化炭素』の心配があるからだ。
前回、『竜の骨』があった場所は、二酸化炭素濃度が非常に高かったのである。
その点、人間ではないゴローとサナ、フランクなら大丈夫というわけだ。
ちなみに『霧の中ゴーグル』は3人分が完成しているので、ちょうどよかった。
「わかりました」
「ゴローさん、『ALOUETTE』の性能は1.5倍くらいになっていますから、そのつもりで」
「ああ、そうだな。わかったよ」
天候が安定しているうちに、ということで、夜のうちに出発することにした。
「行ってきます」
「気を付けて行っておいで。無理だけはするんじゃないよ」
「はい、ハカセ」
そしてゴローとサナ、フランクを乗せた『ALOUETTE』は夜空へと飛び立ったのである。
* * *
『カイラス山』の方角はフランクが正確に記憶してくれているので、道中に苦労はなかった。
性能アップした『ALOUETTE』で昼夜兼行で飛んだ結果、翌日の午後の早い時間には『カイラス山』に到着できたのである。
「相変わらず雲に覆われているなあ」
「うん」
「じゃあここから『霧の中ゴーグル』を付けて雲の中へ入ろう。……フランク、念のためゆっくり突入してくれ」
「了解」
3人は『霧の中ゴーグル』を装着した。
「おお、よく見える」
ここの雲の中でも遠くを見通すことができた。
「さすが、ハカセ」
「うん」
「山頂まで見えますね」
「お、フランクには見えているのか。なら、頼む」
「はい」
『カイラス山』山頂の端にある爆裂火口、その底に『竜の墓場』がある。
霧を見通すことができる今、『ALOUETTE』ならひとっ飛びであった。
「あそこだ」
「うん、間違いない」
「……そういえば、瀕死の竜がいたはずだが、どうしたろう?」
「ゴロー、あれじゃない?」
「うん? ……ああ、あれかも」
『竜の墓場』の隅に、巨大なモノが横たわっていた。
「もう動いていないな」
「うん。でも、油断は禁物」
「そうだな。……骨を集めるなら、できるだけ離れた場所のものを集めよう」
そういうことになった。
* * *
『ALOUETTE』は、『竜の遺骸(?)』からできるだけ離れた場所に待機。
フランクが残り、いつでも発進できるようにしておく。
ゴローとサナは集められる限りの『竜の骨』を集める。
十分に集め終わったら速やかに帰還。
という計画である。
『竜の骨』は、それこそ『山のように』あるので、集めるのに苦労はしない。
おそらく何百頭という『竜』がここで骨になっていったのだろう。
「『ALOUETTE』に積めるだけ積んでいこう」
「うん」
ゴローとサナはせっせと骨を拾い集めていく。
大きすぎる骨はゴローのナイフで切り分け、小さいものは束ねて。
30分ほどで、前回の4倍くらいの量が集まった。
「この辺が限界だな」
「うん」
それでも『竜の骨』は減ったように見えない。
前回と今回で集めた分は、総量の100分の1にもなっていないようである。
それはそうだろう、1頭分の骨は1トムくらいもあり、それが数百頭分たまっているのだ。
ゴローたちが1トム分を回収したとしても、1パーセントにも達していないということになる。
「さっそく来ましたね、ゴロー」
「うわっ! ……『火の精』さん……」
「ふふ、そんなに驚かなくてもいいのですよ」
そうは言っても、気配も感じさせず、いきなり後ろから声を掛けられたら、ゴローでなくても驚くと思うわけで。
「え、ええと、また骨をいただきにきました」
「いいのですよ。好きなだけお持ちなさいな。……それにしても、あなたのお仲間は有能ですね」
この霧の中を見通す魔導具の開発をしたことを、『火の精』は称賛した。
「物質に依存している生命体だからこその手段なんでしょうね」
「あの、また集めに来ても、いい、ですか……?」
「構いませんよ。あなた方が有益に使ってあげてください。そのための最低限の術はもう持っているようですしね」
「あ、はい。……ティルダが『分体』をありがたがってました」
「ふふ、知ってますよ。あれもまた『私』の一部なんですから」
「そうでしたね」
「それに『地の精』もその子を気に入ったようですし」
「ええ、そうなんですよ」
「そのうち『風の精』や『水の精』も会いに行くかもしれませんね」
「だったら嬉しいですね」
「うふふ、ゴロー、サナ、あなたたちはそのまま、変わらないでいてくださいね。では、またね」
『火の精』は消えた。
「……ゴロー、帰ろう」
「ああ、そうだな」
ゴローとサナは『ALOUETTE』に乗り込み、研究所へと戻っていったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月18日(木)14:00の予定です。
20240111 修正
(誤)そうは言っても、気配も感じせず、いきなり後ろから声を掛けられたら
(正)そうは言っても、気配も感じさせず、いきなり後ろから声を掛けられたら
20240112 修正
(誤)『カイラス山』の方角はフランクが正確に記憶していくれているので、道中に苦労はなかった。
(正)『カイラス山』の方角はフランクが正確に記憶してくれているので、道中に苦労はなかった。