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11-34 山頂到着

 ゴローとサナは霧の中を黙々と登っていく。

 黙々と……とはいえ『念話』で会話はしているのだが。


〈足元しか見えないな〉

〈うん〉

〈大分登ってきた気がするんだが〉

〈うん、気圧も下がってきた気が、する〉

〈そういえばそうだな……お?〉

〈どうしたの?〉


 ゴローはかがんで足元に転がっていたものを拾い上げた。

 真っ白で、透明感のある物体だ。

 大きさは3セル(cm)四方くらい。


〈なに、それ?〉

〈骨の欠片かけら……かもしれない〉

(ドレイク)の?〉

〈それはわからない。俺は(ドレイク)の骨って見たことないから〉

〈なるほど、それは道理〉

〈一応、拾っておこう〉


 そんな会話を『念話』で交わしながら、ゴローとサナは霧の中、斜面を登っていった。

 そして、それは突然終わりを告げる。


〈おお〉

〈わあ……〉


 雲……いや、ゴローたちにとっては霧が晴れたのである。

 正確には、山肌から霧が消えたのだ。

 空は一面灰白色に覆われているので、山を覆う雲がなくなったわけではない。

 ただ、山と雲の間に隙間ができたわけである。

 それだけでも、視界が抜群によくなった。

 これまでは足元しか見えなかったのに、いきなり50メル()先まで見えるようになったのだ。

 ゴローとサナが思わず声を上げるのも無理はない。


 そしてそこに広がっていたのは真っ赤な『草紅葉』であった。


〈夏はきっと、ここは高山植物のお花畑になるんだろうな〉

〈うん、きっと、きれい〉


『ようやく、少し晴れたようだね』


 ハカセからの通信が入った。

 ハカセにも、一面の草紅葉が見えているはずなのだ。


『草紅葉っていうのかい。なかなか見事だねえ』

「でも、まだ『(ドレイク)の墓場』は見つかりません。もう少し登ってみます」

『うん、頼むよ、ゴロー、サナ』

「はい」


 そしてゴローとサナは登山を再開。

 視界がよくなったので、ペースは倍以上になった。

 ひょいひょい、と登っていく2人。

 2人は息切れや高山病とは無縁なので、倍どころか3倍、4倍の速さである。


 あっという間に草紅葉のエリアを抜けて、ザレ場……小石でザラザラした斜面……の下までやって来た。


〈ここは登りにくそうだな〉

〈うん〉

えてここを登る必要はないだろう。右手の小尾根を登ろう〉

〈うん、ゴローに、任せる〉


 小石、小砂利が溜まっているということは、そこは僅かながらも凹んだ谷状になっているということ。

 なのでゴローは小さな尾根状に出っ張った部分を登ろうと言ったわけだ。


〈尾根のほうが落石も少ないしな〉

〈そういうもの?〉

〈『謎知識』がそう言ってる〉

〈そう……〉


 ゴローとサナはそんな会話をしながら、小尾根をすいすい登っていった。


 霧が晴れてから、標高差にして2000メル()は登っただろうか。

 2人の目の前に、今度は雪の斜面が現れた。


「ハカセ、雪が出てきました」

『みたいだねえ。登れそうかい?』

「凍っていないので、行けるとは思います」

『そうかい。……可能なら、登ってみておくれ』

「わかりました」


 ハカセの希望をいれ、2人は雪原を登り始める。

 ザラメ状に凍った雪だったので、足を取られることなく登ることができる。


〈新雪でなくてよかった〉

〈新雪だと、何がまずいの?〉

〈軟らかいから足を取られるだけじゃなく、雪崩が起きやすいんだ〉

〈ああ、それで……〉

〈いざとなったら『空気の(アエル・)(パリエス)』で空中に逃れて雪崩をやり過ごすこともできる……かもしれないけどさ〉

〈リスクは避けたほうが、いい?〉

〈そういうことだ〉


 そして2人は更に上へ。

 気温は既に氷点下。人間ならとっくに行動不能になっているが、ゴローとサナはものともせずに登り続ける。


 そうやって、さらに標高差で1000メル()は登ったであろうか……。


〈ゴロー、雪が消えた〉

〈うん、消えたな〉

〈傾斜が緩んだみたい〉

〈間違いないな〉

〈地面が、温かい〉

〈……不思議だ〉


『もしかして、その先になにかあるかもしれないよ。2人とも、気を付けるんだよ?』

「はい、ハカセ」


 そして。


〈……山頂だ〉

〈てっぺんに来た〉


 2人は『カイラス山』の山頂、その一角に立っていた。


〈……何もないな……〉

〈……雪も、ないね〉

〈雪がないのはおかしいな〉

〈地面が温かいからじゃないの?〉

〈いや、そうなんだが……何で温かいんだ?〉

〈わからない〉


 正直なサナである。


〈考えられることは、ここは元々は火山で、そのため地熱が高いのかな?〉

〈ハカセの意見は?〉


「ハカセ、どう思います?」

『……』


 だが、『魔導(マギ)モニター』は沈黙したままであった。


〈交信可能距離を超えたみたいだ〉

〈残念〉

〈……我々で判断するしかないな〉

〈うん。……どうする?〉

〈どうするったって、ないものはないんだから……とりあえず、山頂をぐるっと一周りしてみよう〉

〈うん〉


 山頂、といえる範囲はかなり広い。サッカーのグラウンド2面分くらいはありそうである。

 雪はないが、大きな岩がゴロゴロしており、しかも不安定なのでゴローとサナでも歩きづらい、と思うほどだった。


 そして山頂を3分の1周、つまり登ってきた場所の反対側近くまで来た時、足元がすっぱり切れ落ちていることに気が付いた。


〈火口壁みたいだな。やっぱりここは元は火山だったんだろう〉

〈それも『謎知識』?〉

〈うん〉


 火山が水蒸気爆発など、爆発を起こした際に火口の岩を吹き飛ばすことがある。

 そうすると、火口壁はすっぱりと切れ落ちたような形状になることがあり、これを『爆裂火口壁』という。

 日本では八ヶ岳の硫黄岳にこうした地形が見られる。


〈やっぱりこの山は火山だったんだな。だから山頂付近の地熱が高いのかもしれない〉

〈それで雪が積もらない?〉

〈そうだ〉

〈……『火の精(サラマンドラ)』が雪を溶かしている、という方が、ロマンがある〉


 サナの口からロマンという言葉が出てきたことにゴローは少なからず驚いた。

 が、その後のサナの言葉に、もっと驚かされることになる。


〈あ、ゴロー、あれ、見て〉

〈どれだ?〉

〈ずっと下の方〉

〈……ええ? ……あれは!?〉


 火口壁の下方……旧火口が岩で埋まったと思われる、すり鉢状の窪みに、白く光るものがあった。


〈あれは……骨か?〉

〈だと、思う〉

〈骨だとすると……かなり巨大な生物の骨だぞ〉


 かなり完全な形で残っており、元の体長は30メル()ほどもあったと思われる。

 そんな巨大な生物を、ゴローもサナも知らなかった。


〈……と、いうことは、あれが『(ドレイク)』?〉

〈その可能性は高いな〉


 『(ドレイク)の墓場』を、ついに見つけたのかもしれなかった。


〈あそこまで、行って、みる?〉

〈うん……いや、待て〉

〈どうしたの?〉

〈……ふっと、『火の精(サラマンドラ)』が言ってたことを思い出した〉

〈人間が行くのは無理、というような内容だったっけ?〉

〈そうだ〉


 だとすると、何かリスクがあるに違いない、とゴローは考えたわけである。


〈……ハカセに聞けないのが地味に不便だな〉

〈少し戻って、聞いてみる?〉

〈いや、そこまでの時間はないかもな〉

〈そっか〉


 既に時刻は正午を過ぎており、下山の方が速いと仮定しても、あまり時間的な猶予はない。


〈荷物の中身は……ロープと小型スコップ、皮の袋に水筒、それに背負子しょいこか……〉

〈ゴロー?〉


 ゴローは、自分が腰にロープを縛って下りてみる、とサナに言った。

 何かおかしいとサナが判断したら、そのロープを引っ張って自分を引っ張り上げて欲しい、とも。


〈危険があると、思ってるの?〉

〈いや、大丈夫だろうとは思う。でも、万が一のためさ〉

〈……わかった。気を付けて、ゴロー〉

〈うん〉


 こうして、腰にロープを縛り付けたゴローは、確保をサナに任せ、慎重に穴の底へと下りていくのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月23日(木)14:00の予定です。


 20231118 修正

(誤)〈……何もないは……〉

(正)〈……何もないな……〉

(誤)〈あれはあ……骨か?〉

(正)〈あれは……骨か?〉


 20231122 追記

(旧)〈荷物の中身は……ロープと小型スコップ、皮の袋に水筒か……〉

(新)〈荷物の中身は……ロープと小型スコップ、皮の袋に水筒、それに背負子しょいこか……〉

 背負子を追加しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ゴローは屈かがんで足元に転がっていたものを拾い上げた。 >真っ白で、透明感のある物体だ。 >大きさは3セルcm四方くらい。 >〈なに、それ?〉 >〈骨の欠片……かもしれない〉 〈竜(ドレイ…
[一言] >>一応、拾っておこう 仁「最近のは光ってるんだっけ?」 明「拾えるポイントがね」 56「いやいやいやいや」 >>それは突然終わりを告げる 仁「落下か」 明「吹き上げかも知れない」 56「…
[一言] > ゴローとサナは霧の中を黙々と登っていく。 > 黙々と……とはいえ『念話』で会話はしているのだが。 > >〈足元しか見えないな〉 えゴローアイなr ゴ「霧の中まで見通せないぞ(呆」さすがに…
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