表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/496

11-32 精霊種

 ゴローのペース……通常人の3倍くらい……で歩き続けて30分が過ぎた。


「うーん……それらしい気配はないな……」

〈ゴロー、様子はどう?〉

「サナか。まだ見つからないよ」

〈そう、気を付けて〉


 ……と、時折近況報告をしながら、ゴローは歩き続けた。


「うーん、変わり映えしない景色だな……」


 今のところ、有毒ガスの濃度も薄く、普通の人間にも害にならない程度。

 そして地面は岩だらけの荒れ地。


「一つわからないのは、どうして雪が積もっていないか、だな」


 地温が高いわけでもなく、地形が特殊なわけでもない。

 なのに、ゴローが歩いてきた周辺には雪のゆの字もないのである。


「……あら、それは、私が降らせないようにしているからですよ」

「!?」


 ゴローの独り言に応じるかのような声に、ゴローは身構え、あたりを見回した。

 だがその『声』の主の姿は見えない。


「あら? あなた、不思議な魂をしているのですね? ……身体も人間じゃないみたい」

「え? …………おま……あなたは、いったい?」

「私は『火の精(サラマンドラ)』、と呼ばれています」


 そして声の主は姿を現した。

 炎を体にまとう、妙齢の女性……に見える。

 が、人間ではない証拠に、爬虫類のような尾が生えていた。


「『火の精(サラマンドラ)』……四大精霊しだいせいれいの?」

「おや、よく知ってますね? そう、私は自然界の4つの元素エレメントのうち、『火』を司る『火の精(サラマンドラ)』。『火』という元素エレメントが意思を持ったもの、それが私です」

「……」

「ふうん……あなたからは『木の精(ドリュアス)』の祝福が感じられますね。それから……エサソン? 屋敷妖精(キキモラ)? クー・シー? 水の妖精(ナーイアス)? ……ピクシーも? あなた、どうなってるの?」

「そう言われても……」

「姿形は人間だけど、人間じゃないのですね……」

「え、ええ、まあ」


 『火の精(サラマンドラ)』はゴローが人ではないことも見抜いてしまった。


「まあいいでしょう。……それで、あなたは何をしにこんな場所に?」

「ええと、『真竜(ドラゴン)の墓場』を探しに来ました」

「そんなもの、ありませんよ……」

「ええっ!?」


 意外すぎる言葉にゴローの肩が落ちる。


「そもそも『真竜(ドラゴン)』は、私と同じ精霊種ですから、死という概念は当てはまりません」

「そうなんですか……」


 落胆したゴローだが、今目の前にいるのは人知を超えた存在だと思い直し、この機会にいろいろ教えてもらおうと決心する。


「ですが、『真竜(ドラゴン)の墓場』がある、と噂されていますし、俺の仲間は『真竜(ドラゴン)の骨』を見たことがあると言っていましたが?」

「噂……ですか。それはおそらく『真竜(ドラゴン)』ではなく『(ドレイク)』ですね」

「違うんですか?」

「ええ、違います。『真竜(ドラゴン)』は精霊種ですが『(ドレイク)』は生物です」

「そうなんですね。……では、『(ドレイク)』の墓場がこのあたりにあるのでしょうか?」

「それならあります。……が、人間には行けません……でもあなたは人間ではないのでしたね」

「はい」


 『火の精(サラマンドラ)』は、ゴローをじっと見つめた。


「魔法で合成された人造生命……ですか。よくできていますね。……ただ……」

「ただ?」

「魂……『精神体(スピリチュアルボディ)』が、いささか混沌としていますね」

「は?」

「これは……複数人の魂が混じり合っている? ……『人格』は1つ……でも『知恵ソフィアス』が混沌と? ……ふうん……」

「……何か?」


 自分を『人造生命(ホムンクルス)』だと見抜いた精霊の言葉なので、少し気になるゴロー。


「いいえ、気にするほどではないようです。……ただ、あなたの中には、複数の魂が混じり合っているように見えたから。でも、『精神体(スピリチュアルボディ)』はしっかりとしているので大丈夫そうですね」

「はあ……」


 すると『火の精(サラマンドラ)』はにっこりと微笑んで、


「少し話しすぎたかしら、そろそろ私は消えることにしましょう。あまり物質世界に干渉しすぎるのもまずいですから」


 と言った。

 ゴローは慌てて尋ねる。


「あ、あと1つ、教えてください。……『(ドレイク)』の墓場はこの近くにあるんですね?」

「ありますよ。……この『上』に」


 そう言い残し、『火の精(サラマンドラ)』は姿を消したのである。


「……上?」


 ゴローが、霧に隠れて見えない頂上方面を見上げた、その直後。


〈ゴロー、ゴロー!〉


 サナからの『念話』が届いた。

 心なしか切羽詰まったような印象を受ける。


〈サナ、どうした?〉

〈……ああ、よかった。やっと繋がった〉

〈え?〉

〈……いきなり、ゴローと『念話』が繋がらなくなって、心配、した〉

〈そうだったのか?〉

〈うん。私がゴローに呼びかけていたら、いきなり……そう、扉を閉められたかのように。距離が離れたとかじゃなく、唐突に〉

〈そうだったのか……〉

〈……何か、あったの?〉

〈うん、あった〉

〈え? それって……〉

〈とりあえず、一旦戻るよ。戻りながら、説明する〉

〈うん〉


 ということで、ゴローは来た道を戻り始めた。

 そして道々『念話』でサナに説明を行う。


〈……と、いうわけだ〉

〈……そう、だったの……〉

〈ハカセたちに説明しておいてくれよ〉

〈ううん、それは、ゴローが直接話したほうが、いい〉

〈そうか?〉

〈うん〉


 サナとの話し合いで、そういうことになったのである。


*   *   *


 無事『ALOUETTE(アルエット)』に戻ったゴローは、一部始終を詳しく説明した。


「『火の精(サラマンドラ)』!? そんな存在に会ったのかい!?」

「……はい」

「で、『真竜(ドラゴン)』は精霊種だから墓場はない、と……なるほどねえ」

「でも『(ドレイク)』の墓場が上にある、って言われたんですよね?」

「うん。でも、人間に行けるところじゃない、とも言われた」

「……それにしても、『火の精(サラマンドラ)』は、どうして部分的に雪を降らせないようにしていたんでしょう?」


 ヴェルシアがもっともな疑問を口にした。


「ああ、それは聞きそこなったな……」


 『火の精(サラマンドラ)』という常識外の存在に出会ったことで気が動転していたらしい、とゴロー。


「それは仕方ないねえ。……四大精霊ともなると、我々にはわからない理由があるのかもしれないしね」


 ハカセがフォローしてくれた。


「……それよりも、あたしが気になったのは、ゴローの『精神体(スピリチュアルボディ)』だよ」

「ええ、複数人の魂が混ざりあっている、って言って………………あ」

「うん、どうしたね、ゴロー?」

「……ハカセ、ヴェルシアが聞いてますが」

「ああ、いいんだよ。ヴェルにはみんな話してしまったのさね」

「え?」


 ゴローからの『念話』が突然途切れたことで、サナが大慌てしたことが発端となり、ゴローとサナが『念話』で会話できることがバレた。

 それを説明するいい口実も急には思いつかず、この際真実を伝えることにしたのだと言う。


「ゴローが戻ってくるまでの間に、ひととおり説明したのさね」

「そうでしたか」


 ゴローがヴェルシアの方をちらっと見ると、彼女はニコッと笑った。


「ゴローさん、サナさん、お二人が『人造生命(ホムンクルス)』だったとしても、今更驚きませんよ。……そりゃ少しは驚きましたけど」


 ヴェルシアは微笑みながら心情を説明する。


「むしろお二人がいろいろ不思議なことができるというのが納得できた、といえますね。でも、これからも、ゴローさんはゴローさん。サナさんはサナさん、ですよ」

「そういうわけで、ヴェルシアはこれからも仲間だよ」

「ええ、よろしくお願いしますね」

「そういうことでしたか」


 こうして、ヴェルシアも本当の意味で仲間になったようである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月9日(木)14:00の予定です。


 20231102 修正

(誤)屋敷妖精(キキモラ)? ク―・シー? ……ピクシーも? あなた、どうなってるの?」

(正)屋敷妖精(キキモラ)? クー・シー? 水の妖精(ナーイアス)? ……ピクシーも? あなた、どうなってるの?」

(誤)落胆したゴローだが、今目の前にいるのは人知を超えた存在だと思い直し、この機会に色いろいろ教えてもらおうと決心する。

(正)落胆したゴローだが、今目の前にいるのは人知を超えた存在だと思い直し、この機会にいろいろ教えてもらおうと決心する。


 20231103 修正

(誤)ゴローからの念話が突然途切れたことで、サナが大慌てしたことが発端となり

(正)ゴローからの『念話』が突然途切れたことで、サナが大慌てしたことが発端となり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これってゴローの魂に何人かの知識がくっついた状態で召喚されてホムンクルスに生まれ変わったって事だよね。(こうなっている理由は召喚された時に術式が何か引き起こしたか、魂の周りにあった転生時に忘れる知識部…
[一言] >「私は『火の精(サラマンドラ)』、と呼ばれています」 >炎を体にまとう、妙齢の女性……に見える。 >が、人間ではない証拠に、爬虫類のような尾が生えていた。 炎を体にまとっている時点で普…
[一言] >>3倍くらい 仁「やっぱり赤くして」 明「角は・・・無いのもあったっけ」 56「まてや」 >>火の精 仁「某艦隊旗艦用戦艦・・・」 明「最後が違うんじゃ・・・」 56「あっちは最後が『ル…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ