11-30 北上 2日目
さて、2日目である。
朝食は『魔法乾燥』食品を使う。
ご飯、スープ、肉をお湯で戻せば美味しく食べられる。
そして1日の活力のため(という建前)で甘味も一品。
今朝は『純糖』(和三盆糖もどき)であった。
気温はおおよそ摂氏1度、起きたときは寒かったが、日が差してくると防寒着を着ていれば耐えられるくらいになった。
* * *
「さて、いいお天気だから、昨日の打ち合わせどおり、フランクに『ALOUETTE』で上空に上がってもらって、高い山を探す、でいいかねえ」
「いいと思います。朝のうちのほうが空気も澄んでいそうですし」
「それじゃあフランク、頼むよ」
「はい、お任せください」
フランクは1人で(1体で)『ALOUETTE』に乗り込んだ。
ゴローとサナはハカセとヴェルシアの警護である。
『ALOUETTE』はぐんぐんと上昇していき、あっという間に見えなくなった。
* * *
「さて、昨夜も何ごともなかったわけだが、周囲を警戒しなくちゃな」
「うん」
ゴローとサナは一見のんびりしているように見せながらも、周囲の警戒を怠らない。
一方、ハカセとヴェルシアは、周囲に生えている珍しい草に興味を惹かれていた。
「これ、『ゲンチャナ』ですね。胃腸薬になるはずです」
「ほうほう。……そっと根ごと引き抜いて、研究所で栽培してみたいねえ」
「フロロさん……いえ、ルルさんがいますからできそうですね」
「あ、こっちには『ショウマ』がありました」
「ほうほう。確か発汗、解熱、解毒に効くんだったよねえ」
「あそこに『シーアル』(イワタケ)が」
「手が届く範囲で集めようかねえ」
といった感じで、退屈はしなかったようである。
* * *
さて、心配していた野獣や魔物の襲撃もなく、予定の30分が過ぎて『ALOUETTE』が戻ってきた。
「おかえり、フランク。どうだったんだい?」
「はい、ハカセ。北北東に、標高7000メルを超えると思われる山がありました。おそらくそれが目的の山ではないかと思われます」
「おお、やったね。……ゴロー、うまく行きそうだよ」
「そうですね。早速向かいましょう」
ということで、皆『ALOUETTE』に乗り込む。
そしてフランクの操縦で発進。
「フランク、高空に上がらずとも方向はわかるかい?」
「はいハカセ、大丈夫です」
フランクは高性能自動人形、信頼性の塊である。
心配はいらなかった。
離陸した『ALOUETTE』は北北東へと飛んでいく。高度は2500メルくらい。
「この方向に高い山がありました。距離はおおよそ200キル」
「なら、1時間くらいでそれとわかるねえ」
「はい、ハカセ」
「ああ、楽しみだよ」
* * *
そして1時間、山が見えてきた。
『ALOUETTE』の高度は3000メルくらいだが、それよりも遥かに高くそびえ立っている。
先端は鋭く尖った三角錐。
例えるならアンナプルナの『マチャプチャレ』に似ている。
今『ALOUETTE』のいるあたりから上は白銀に輝き、万年雪が積もっているのは明らかだ。
「どうです、ハカセ?」
「この山ですか?」
「……うーん……フランク、山を左へ回り込むように飛んでくれるかい?」
「はい、ハカセ」
フランクはハカセの求めに応じ、『ALOUETTE』を左へ向けた。
つまり山の周囲を右回りに巡るコースを取ったのである。
回り込むにつれ、山の見え方も変わってくる。
「ハカセ、どうですか?」
「うーん……この山じゃなさそうだね」
「ええ……」
「形がぜんぜん違うんだよ」
「そうなんですね」
「すまないねえ」
「いえ、いいんですけど、そうすると一体どこなのか……」
ここでフランクが報告。
「ハカセ、この山ほどではないのですが、ここより西に、もう少し低いですが、周りよりも高い山が見えました」
「そうかい。そっちへ行ってみよう」
「はい、わかりました」
フランクは『ALOUETTE』を西へ向けた。
「……あの山を見て思い出したけど、あたしが見た山はもっとずんぐりしていたねえ」
「ずんぐり、ですか?」
「うん。あんなに尖った頂じゃなく、こう、ドーム型って言うのかね、丸っこい感じで。だけど高い山なんだよ」
「なるほど、それなら特徴的ですから、見ればすぐわかりますね」
「そう願うよ」
この付近にある山の標高は3000メル前後なので『ALOUETTE』は高度3500メルほどを飛んでいる。
ゆっくり高度を上げたので、今のところハカセもヴェルシアも高度障害は起きていないようだ。
そのまま西へ向かう。
時速100キルで1時間ほど飛ぶと、行く手には大きな雲の塊が立ちはだかっていた。その中に突っ込むのは危険そうだ。
眼下には大きな湖が見える。
「凄くきれいな湖だねえ」
深いアクアブルーに輝く水面が美しい。
「人が住んでいる気配はありませんね」
「1年を通して寒いだろうからね」
「でも、周りに雪が積もっているのに、あの湖は凍っていませんよ?」
「ああ、本当だね」
「湖の周辺にも、雪がない部分がありますね」
「うーん……ちょっと気になるねえ」
ここでゴローが提案。
「ハカセ、もうすぐお昼時ですから、着陸してお昼にしませんか? 雲も晴れるかもしれません」
「あ、それはいいね。フランク、適当な場所に着陸しておくれ」
「はい、ハカセ」
そういうわけで『ALOUETTE』は湖のほとりに着陸した。
危険がないかの確認のため、まずゴローが外に出てみることに。
さっと出て素早く扉を閉める。
「……寒いことは寒いけど……思ったほどじゃないな」
標高はおそらく2500メルくらい。かなり北に来ているので、お昼時とはいえこの気温はありえない。
「……地熱が高いのかな?」
地面に触ってみると、かなり温かいではないか。
「このせいで雪が積もっていないんだな」
火山が近くにあるのかと、空気にも注意を払うが、特に火山性のガスは感じない。
それで皆を呼ぶことにした。
「大丈夫です。出てきてください」
ハカセが真っ先に飛び出してきた。
「ほほう、思ったより暖かいねえ」
「地面が温かいんですよ」
「なるほどなるほど」
「もしかすると地下深くに火山性のなにかがあるのかも」
溶岩とかマグマとかがあって、地面を温めているのではないかとゴローは推測したのである。
「そのせいで湖も凍らないんじゃないですかね」
水質は普通そうなのに、とゴロー。
「どれどれ……『鑑定』」
鑑定の魔法である。以前薬の鑑定でナリシスが使っていたが、ハカセも使えたようだ。
「うん、普通の水だね。飲めそうだ」
「水はたっぷり持ってきていますから、生水を飲むのはやめてくださいね? 最低でも煮沸してからにしてください」
「わかってるよ」
とはいえ、火山性の物質が溶け込んでいなくてよかった、と安心したゴローである。
* * *
お昼は乾パンやラスクでさっと済ませる。
そして『ALOUETTE』に乗り込もうとして……。
「あ……あれは……!」
西の空にわだかまっていた大きな雲が薄くなって、その向こうに山が見えてきたのである。
その山は7000メルほどの高さにどっしりとそびえている。
全体の形はドーム状だ。
「あれだよ!」
指さして喜ぶハカセ。
ついに目指す山が見つかったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月26日(木)14:00の予定です。
20231019 修正
(誤)といった感じで、退屈はしなかったうようである。
(正)といった感じで、退屈はしなかったようである。
(誤)「はい、ハカセ。北北東に。標高7000メルを超えると思われる山がありました。
(正)「はい、ハカセ。北北東に、標高7000メルを超えると思われる山がありました。
(誤)離陸した『ALOUETTE』は北東へと飛んでいく。
(正)離陸した『ALOUETTE』は北北東へと飛んでいく。