11-24 コーヒーの感想
『コーヒー豆』の焙煎を終えたゴロー。
「さて、これをすり潰さないとな」
コーヒーミル(コーヒー挽き)などというものはないので、今回はすり鉢ですり潰すことにする。
試しに一握りのコーヒー豆をすり潰してみた。
「うん、効率は悪いがなんとかなりそうだ」
ゴローの力で行っているので問題なく豆を粉にすることができた。
「あ、いい匂い」
コーヒーの匂いに誘われてサナがやって来た。
「まだ駄目だぞ」
「つまんない。……これが、コーヒー?」
「そのままじゃ美味しくないんだってば」
「ほんと?」
「あ、よせ」
ゴローが止めたのだが、サナは聞かずに挽いたコーヒーをひとつまみ口に運んでしまった。
「にぎゃい」
……当然、こうなるわけである。
「だから言ったのに」
「……」
無言で厨房を出ていくサナであった。
「……しょうがないな……」
気を取り直したゴローは、挽いたコーヒー豆の3分の1をビンに入れ、そこに氷砂糖とウオッカを注ぎ込んだ。
「本当はホワイトリカーがいいんだが……」
要は度の強い蒸留酒、そして癖がなければよし、である。
「これを冷暗所に置いて、まあ10日だな」
「お預かりします」
マリーはコーヒーを漬け込んだウオッカのビンを地下の貯蔵庫へと運んでいった。
残ったのは挽いたコーヒー豆、3分の2。量としては400グムくらいか。
「それじゃあコーヒーを淹れてみるか」
「はい、お手伝いさせてください」
戻ってきたマリーが手伝いを申し出た。
「そうだな。マリーに覚えてもらえば安心だな」
「はい」
今回はドリップ式で淹れるので、それなりに準備が必要だ。
「ええと、とりあえず『漏斗』を用意して、中に目の細かい、きれいな布を敷く」
「はい」
「それを容器の上に設置する。容器は人数分のコーヒーを入れて置ける大きさのものだ」
「はい」
「この『フィルター』に挽いたコーヒー豆を人数分入れる。1人はだいたいこのスプーンに1杯くらい。重さはだいたい10グム掛ける人数分だ」
「はい」
「で、ここに沸かしたお湯を注ぐ。一気に入れすぎず、ゆっくり注ぐ。コーヒー一人分は0.12リルくらいだな」
「はい」
ということで、ゴローは簡易的にドリップしてみたわけである。
* * *
「……あ、いい匂い」
再びサナが厨房へとやってきた。
「お、いいところへ来たな」
「?」
「新しい飲み物だ」
「……泥水?」
確かに、マグカップに注いだコーヒーは焦げ茶色で、そう見えなくもない。
「違う違う。『コーヒー』っていってな、このままでは苦いんだが、砂糖とミルクを入れると飲みやすくなるんだ」
「……ほんと?」
先程文字どおり苦い思いをしたため、サナは少々懐疑的になっている。
「味見しながら砂糖とミルクを入れていって、どのくらい入れたら好みの味になるか調べるんだ」
「うん、わかった」
まず小さじに1杯ずつ砂糖とミルク……『渋い顔』。
小さじに2杯ずつ追加……まだ駄目。
さらに小さじに1杯ずつ追加……。
「あ、少し飲みやすくなった」
そこでもう2杯ずつ追加すると、
「これなら美味しい」
と、ようやく気に入ったようである。
「ほろ苦さが、とろんとした甘さを引き立てる」
「そうだろ。その苦さと香りがコーヒーの魅力なんだ」
と言いつつ、ゴローはブラックでコーヒーを飲んでいる。
「うん、香りはいいな」
そしてそこにミルクと砂糖を小さじ1杯ずつ投入。
「これが飲みやすそうだ」
ゴローはゴローなりに、自分の好みのレシピを見つけたのであった。
「ハカセとヴェルにも味見してもらおう」
というわけでゴローは2人に声を掛ける。
「うん?」
「なんです、ゴローさん? ……あ、いい匂い」
「うん。実は新しい飲み物……『コーヒー』っていうんだけど、試してみてくれないかなあと思って」
「ええ、いいですよ」
「美味しいのかい?」
「このままだと苦いです。ですので砂糖とミルクを入れると飲みやすくなります」
「なるほどねえ」
「サナは小さじに6杯ずつミルクと砂糖を入れてました」
ゴローのアドバイスに従い、2人はまずブラックで飲んでみた。
「……うん、意外といけるね」
「私にはちょっと苦いです……」
ハカセはブラックを気に入ったようである。
そしてヴェルシアは砂糖2杯、ミルク1杯がお気に入りの味となるようであった。
「これが『コーヒー』かい……」
「眠気覚ましにもなるんですよ」
「ああ、そりゃいいねえ」
「いえ、ハカセはちゃんと寝てください」
などというやり取りもあったりして、なんとか『コーヒー』のお披露目は終わったのだった。
* * *
「でもこれが売れるかねえ?」
コーヒーを飲み終わったあと感想を聞くと、ハカセは懐疑的であった。
「うん、どうしても飲みたくなるほど、じゃ、ない」
サナもまた、そこまで飲みたい味ではない、と言う。
「うーん、まあ、嗜好品だからな」
ゴローも、無理に飲んでもらおうとは思っていない。
ただ、熟成中のものだけは試してもらいたかった。
「まあ、約束だからマッツァ商会へ行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
そういうわけで、ゴローは『コーヒー』の試飲をしてもらうためにマッツァ商会へと向かったのであった。
* * *
「ゴローさん、これは美味しいですね!」
そして意外なことに、マッツァ商会では、商会主のオズワルド・マッツァがコーヒーをいたく気に入っていた。
「これはもっと仕入れなくては! 王都にはやらせますよ!」
と、息巻いている。
そんなオズワルドにゴローは焙煎の仕方や保存方法、ドリップ方法を詳しく伝授。
「ゴローさん、ありがとうございます!」
礼金は、いろいろ協議した結果、100万シクロとなった。
オズワルドは向こう3年間のコーヒーの売り上げの3割を提案したのだが、ゴローはそうした定期的な契約は好まなかったのだ。
そしてゴローは、
「他の使い方もできますので、10日くらい待ってください」
と言い残し、マッツァ商会を後にしたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月14日(木)14:00の予定です。
20230907 修正
(誤)コーヒー一人分は0,12リルくらいだな」
(正)コーヒー一人分は0.12リルくらいだな」
(旧)
「はい?」
「なんです、ゴローさん? ……あ、いい匂い」
(新)
「うん?」
「なんです、ゴローさん? ……あ、いい匂い」
20230908 修正
(誤)コーヒーを飲み終わったああと、感想を聞くと、ハカセは懐疑的であった。
(正)コーヒーを飲み終わったあと感想を聞くと、ハカセは懐疑的であった。