表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
388/496

11-19 有線から無線へ

 ゴローとサナは王都の『屋敷』に帰らず、『研究所』に泊まった。


 朝。

 食事前にゴローはまず『水の妖精(ナーイアス)』のクレーネーに会いに行った。


「クレーネー、いるかい?」


 すぐに水底から影が上がってくる。


「はい、ゴロー様、おりますですの」

「やあ、クレーネー、久しぶり」

「はいですの」

「……また少し大きくなったかい?」


 何日かぶりに見たクレーネーは、また成長をしていた。


「はいですの。レベルが上がったみたいですの。……今なら『癒やしの水』を10リル(リットル)くらい出せますですの」

「いや、無理しなくていい。いつもどおりでいいよ」


 ということで2リル(リットル)ほどを容器に満たしてもらうゴロー。


「またこの後、数日来られないかもしれない」

「忙しいのです?」

「そうだな」

「お身体に気を付けてほしいですの」

「うん、ありがとう」


 そしてゴローは研究所に引き返す……その足に、纏わりついてくるものがあった。


「わふ」


 『クー・シー』のポチである。


「お、ポチ、しばらくぶりだな」

「くーん」

「構ってやれなくてごめんな」

「わふわふ」


 すり寄ってきたポチを撫で回してやるゴロー。

 しばらくすると、満足したのかポチは尻尾をふりふり茂みへと消えていった。


「ポチもでかくなってきたなあ……」


 初めは体長30セル(cm)、体重1キム(kg)くらいだったのに、今は体長50セル(cm)、体重も3キム(kg)くらいはありそうだ。


「そのうち2メル()くらいになるんだろうか……」


 などと考えながらゴローは、今度こそ研究所へ戻ったのである。


*   *   *


 朝食は焼いたトーストとハムエッグ、それに野菜サラダ。

 加えてハカセは『癒やしの水』をコップ一杯。


 最近肌艶もよくなり、しわも減ったなあとゴローは感じている。

 やはり『癒やしの水』は若干だが若返り効果があるようだ。


「体質もあるかもねえ」


 とはハカセの言葉。


「エルフ系の血を引いていると、ことさら効果があるのかもしれないよ」

「なんとなくわかります」


 元々、『ヒューマン』に比べ、長寿のエルフである。

 その長寿の理由の1つを『癒やしの水』が助長するのだとしたら。


(まあ、ハカセが長生きしてくれれば、それでいいや)


 ちょっとそんなことを考えたゴローであった。


*   *   *


 それはともかく、今日の課題は『遠距離でもハカセが物を確認できる装置』だ。

 ゴロー、サナ、そしてフランクが助手として研究室に集合している。


「イメージはあるんですか?」

「あるよ。『目』と『耳』に相当する部分はゴーレムやガーゴイルの応用だねえ」

「あ、なるほど」

「問題はそれを有線でなく遠く離れた場所で受け取ることだよ」

「そうでしょうね……」

「で、それはゴローとサナの『念話』が応用できないかと考えているんだよ」

「なるほど」

「まずは『目』と『耳』を作るところからだねえ」


 ということで、ハカセは早速作業を開始した。

 フランクを作ったことがあるので作業は速い。


「ペンダントかブローチにして、サナに着けていてもらおうかねえ」

「あ、それはいいかもしれませんね」


 使うのは『魔晶石』。

 魔晶石は制御核をはじめとする魔法技術学で使われる結晶である。魔法を刻み込むことが容易にできるので重宝される。

 『目』と『耳』は簡単にできた。白目はいらない(ないほうがいい)ので、そのままブローチ枠に収めればよさそうである。

 『耳』も同様。


 ここまでは順調だった。


「さあて、どうやってあたしがそれを見聞きするか……」

「『モニター』と『スピーカー』を作りましょうよ」

「なんだい、それ? それも『謎知識』からかい?」

「はい。『モニター』は……そう、『目』が見たものをそのまま映し出す装置です。『スピーカー』は音を出す装置です」

「なるほどね。『スピーカー』は『自動人形(オートマトン)』……いやゴーレムの『声』を出す装置の応用でいいね。問題はゴローの言う『モニタ』だね……」


 ハカセは考え込んだ。

 ゴローもなんとかできないかと、思いつきをアドバイスしてみる。


「ハカセ、『目』の逆ってできませんか?」

「逆? ………………ああ、そうか、そうだね。できるよ。でも大きくはできないねえ」

「でしたら、こう、目の前に持ってくるんですよ」


 ゴローは両手の人差し指と親指で輪を作り、目の前に持って行ってみせた。

 イメージは『VRゴーグル』である。


「ああ、そうか。近くなら小さくてもいいしね。できそうな気がしてきたよ」


 ということでハカセはイメージが固まったらしく、製作を開始したのである。


*   *   *


 ゴローとサナ、フランクの手伝いは効率がよく、2時間で試作が完成した。


「まあ、まだまだ不格好だけどねえ」


 『目』はむき出しの『魔晶石』だし、ゴーグル部はただのメガネである。

 『耳』もまたむき出しの『魔晶石』で、スピーカー部も同じ。

 そして無線ではなく有線で繋がっていた。


「試してみようかねえ」

「ハカセ、俺が実験台になりますよ」


 万が一にもハカセに何かあってはいけないとゴローが実験台を買って出る。


「そうかい。じゃあ頼むよ、ゴロー」

「はい」


 ゴローはハカセに言われるがまま、VRメガネ(?)を掛け、スピーカーを肩に置いた(まだヘッドホン状にはしていない)。

 サナに『目』と『耳』を持ってもらい、『目』は窓の外に向けた。

 『耳』はサナに話し掛けてもらうことになる。


「よしよし、それじゃ起動するよ」

「はい、どうぞ」

「『起動(スタルト)』!」


「おっ」

「どうだい、ゴロー?」

「……そうですね……うーん……何か見えてはいますが不鮮明ですね……」

「音は? 」

「小さすぎて聞こえません」

「わかったよ。……『停止(ストープ)』」


 ハカセは装置を一旦停止させ、何やら調整を行った。

 そして再度起動。


「今度はどうだい?」

「見え方は大分よくなりました。音はまだ小さいです」

「サナ、もっと大きな声でしゃべってごらん」

「うん。……ゴロー、き こ え る ?」

「……やっと、だな」

「うん、わかったよ」


 ハカセはもう一度停止させ、再調整を行った。

 そんなことをもう2度繰り返し、


「いいですね。視界もよくなりましたし、サナのささやき声も聞こえます」

「よしよし、試作はまあ成功だねえ」


 これを使いやすくデザインするのは問題ない。

 問題は無線化することである。


「これはゴローとサナの『念話』を参考にしているんだよねえ」


 と言いながら、ハカセは『魔晶石』を用意し、それを半分に割った。


「こうすることで、ほぼ同じ品質の『魔晶石』が2個、手に入ったわけさね」


 ハカセの理論では、『魔力の共鳴』という現象で、2つの『魔晶石』の間に魔力的なつながりができると考えている。


「ゴローとサナの場合は、あたしが作り上げた『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』の魔力特性が同じだから『念話』が成立するのだと思うよ」

「そういうことですか……ありそうですね」


 ゴローも、ハカセの理論を聞いてなるほどと思った。


 そしてハカセは2個1組の『魔晶石』をいろいろと加工していく……。


*   *   *


 もうすぐお昼ごはん時、となって、


「……できた」


 無線接続装置(仮称)が完成したのである。


「じゃあ、お昼ごはん前にちゃちゃっとテストしてみようかねえ」


 2分で有線から無線に変更、ゴローが実験台になってテストである。


「『起動(スタルト)』! ……どうだい、ゴロー?」

「ええ、有線のときと変わらず見えます」

「……ゴロー、聞こえる?」

「サナの声もよく聞こえます」

「うん、成功だね! これでお昼ごはんを美味しく食べられるよ」


 ということで一同、ルナールが用意してくれた昼食を美味しくいただいたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月10日(木)14:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「クレーネー、いるかい?」 (中略) >「はいですの。レベルが上がったみたいですの。……今なら『癒やしの水』を10リルリットルくらい出せますですの   もうひとつレベルが上がったら50リル…
[一言] >「そのうち2メルくらいになるんだろうか……」 現実世界の大型犬もそれくらいに成長するものがいますね、精霊や妖精、魔物などにはもっと大きな体格に成長するものもいるでしょうね。 >やはり『…
[一言] >>レベルが上がった 仁「あの効果音が・・・・」 明「多くの者が思い浮かべる・・・・」 56「それ以上いけない」 >>そのうち2メルくらいに 仁「最大はもう一桁くらいかな・・・」 明「そし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ