11-19 有線から無線へ
ゴローとサナは王都の『屋敷』に帰らず、『研究所』に泊まった。
朝。
食事前にゴローはまず『水の妖精』のクレーネーに会いに行った。
「クレーネー、いるかい?」
すぐに水底から影が上がってくる。
「はい、ゴロー様、おりますですの」
「やあ、クレーネー、久しぶり」
「はいですの」
「……また少し大きくなったかい?」
何日かぶりに見たクレーネーは、また成長をしていた。
「はいですの。レベルが上がったみたいですの。……今なら『癒やしの水』を10リルくらい出せますですの」
「いや、無理しなくていい。いつもどおりでいいよ」
ということで2リルほどを容器に満たしてもらうゴロー。
「またこの後、数日来られないかもしれない」
「忙しいのです?」
「そうだな」
「お身体に気を付けてほしいですの」
「うん、ありがとう」
そしてゴローは研究所に引き返す……その足に、纏わりついてくるものがあった。
「わふ」
『クー・シー』のポチである。
「お、ポチ、しばらくぶりだな」
「くーん」
「構ってやれなくてごめんな」
「わふわふ」
すり寄ってきたポチを撫で回してやるゴロー。
しばらくすると、満足したのかポチは尻尾をふりふり茂みへと消えていった。
「ポチもでかくなってきたなあ……」
初めは体長30セル、体重1キムくらいだったのに、今は体長50セル、体重も3キムくらいはありそうだ。
「そのうち2メルくらいになるんだろうか……」
などと考えながらゴローは、今度こそ研究所へ戻ったのである。
* * *
朝食は焼いたトーストとハムエッグ、それに野菜サラダ。
加えてハカセは『癒やしの水』をコップ一杯。
最近肌艶もよくなり、しわも減ったなあとゴローは感じている。
やはり『癒やしの水』は若干だが若返り効果があるようだ。
「体質もあるかもねえ」
とはハカセの言葉。
「エルフ系の血を引いていると、ことさら効果があるのかもしれないよ」
「なんとなくわかります」
元々、『ヒューマン』に比べ、長寿のエルフである。
その長寿の理由の1つを『癒やしの水』が助長するのだとしたら。
(まあ、ハカセが長生きしてくれれば、それでいいや)
ちょっとそんなことを考えたゴローであった。
* * *
それはともかく、今日の課題は『遠距離でもハカセが物を確認できる装置』だ。
ゴロー、サナ、そしてフランクが助手として研究室に集合している。
「イメージはあるんですか?」
「あるよ。『目』と『耳』に相当する部分はゴーレムやガーゴイルの応用だねえ」
「あ、なるほど」
「問題はそれを有線でなく遠く離れた場所で受け取ることだよ」
「そうでしょうね……」
「で、それはゴローとサナの『念話』が応用できないかと考えているんだよ」
「なるほど」
「まずは『目』と『耳』を作るところからだねえ」
ということで、ハカセは早速作業を開始した。
フランクを作ったことがあるので作業は速い。
「ペンダントかブローチにして、サナに着けていてもらおうかねえ」
「あ、それはいいかもしれませんね」
使うのは『魔晶石』。
魔晶石は制御核をはじめとする魔法技術学で使われる結晶である。魔法を刻み込むことが容易にできるので重宝される。
『目』と『耳』は簡単にできた。白目はいらない(ないほうがいい)ので、そのままブローチ枠に収めればよさそうである。
『耳』も同様。
ここまでは順調だった。
「さあて、どうやってあたしがそれを見聞きするか……」
「『モニター』と『スピーカー』を作りましょうよ」
「なんだい、それ? それも『謎知識』からかい?」
「はい。『モニター』は……そう、『目』が見たものをそのまま映し出す装置です。『スピーカー』は音を出す装置です」
「なるほどね。『スピーカー』は『自動人形』……いやゴーレムの『声』を出す装置の応用でいいね。問題はゴローの言う『モニタ』だね……」
ハカセは考え込んだ。
ゴローもなんとかできないかと、思いつきをアドバイスしてみる。
「ハカセ、『目』の逆ってできませんか?」
「逆? ………………ああ、そうか、そうだね。できるよ。でも大きくはできないねえ」
「でしたら、こう、目の前に持ってくるんですよ」
ゴローは両手の人差し指と親指で輪を作り、目の前に持って行ってみせた。
イメージは『VRゴーグル』である。
「ああ、そうか。近くなら小さくてもいいしね。できそうな気がしてきたよ」
ということでハカセはイメージが固まったらしく、製作を開始したのである。
* * *
ゴローとサナ、フランクの手伝いは効率がよく、2時間で試作が完成した。
「まあ、まだまだ不格好だけどねえ」
『目』はむき出しの『魔晶石』だし、ゴーグル部はただのメガネである。
『耳』もまたむき出しの『魔晶石』で、スピーカー部も同じ。
そして無線ではなく有線で繋がっていた。
「試してみようかねえ」
「ハカセ、俺が実験台になりますよ」
万が一にもハカセに何かあってはいけないとゴローが実験台を買って出る。
「そうかい。じゃあ頼むよ、ゴロー」
「はい」
ゴローはハカセに言われるがまま、VRメガネ(?)を掛け、スピーカーを肩に置いた(まだヘッドホン状にはしていない)。
サナに『目』と『耳』を持ってもらい、『目』は窓の外に向けた。
『耳』はサナに話し掛けてもらうことになる。
「よしよし、それじゃ起動するよ」
「はい、どうぞ」
「『起動』!」
「おっ」
「どうだい、ゴロー?」
「……そうですね……うーん……何か見えてはいますが不鮮明ですね……」
「音は? 」
「小さすぎて聞こえません」
「わかったよ。……『停止』」
ハカセは装置を一旦停止させ、何やら調整を行った。
そして再度起動。
「今度はどうだい?」
「見え方は大分よくなりました。音はまだ小さいです」
「サナ、もっと大きな声でしゃべってごらん」
「うん。……ゴロー、き こ え る ?」
「……やっと、だな」
「うん、わかったよ」
ハカセはもう一度停止させ、再調整を行った。
そんなことをもう2度繰り返し、
「いいですね。視界もよくなりましたし、サナの囁き声も聞こえます」
「よしよし、試作はまあ成功だねえ」
これを使いやすくデザインするのは問題ない。
問題は無線化することである。
「これはゴローとサナの『念話』を参考にしているんだよねえ」
と言いながら、ハカセは『魔晶石』を用意し、それを半分に割った。
「こうすることで、ほぼ同じ品質の『魔晶石』が2個、手に入ったわけさね」
ハカセの理論では、『魔力の共鳴』という現象で、2つの『魔晶石』の間に魔力的なつながりができると考えている。
「ゴローとサナの場合は、あたしが作り上げた『哲学者の石』の魔力特性が同じだから『念話』が成立するのだと思うよ」
「そういうことですか……ありそうですね」
ゴローも、ハカセの理論を聞いてなるほどと思った。
そしてハカセは2個1組の『魔晶石』をいろいろと加工していく……。
* * *
もうすぐお昼ごはん時、となって、
「……できた」
無線接続装置(仮称)が完成したのである。
「じゃあ、お昼ごはん前にちゃちゃっとテストしてみようかねえ」
2分で有線から無線に変更、ゴローが実験台になってテストである。
「『起動』! ……どうだい、ゴロー?」
「ええ、有線のときと変わらず見えます」
「……ゴロー、聞こえる?」
「サナの声もよく聞こえます」
「うん、成功だね! これでお昼ごはんを美味しく食べられるよ」
ということで一同、ルナールが用意してくれた昼食を美味しくいただいたのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月10日(木)14:00の予定です。