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11-18 変装

「ほう、そんなことがあったのかい」


 研究所に戻ったゴローは、早速ハカセに報告をした。

 ヴェルシアやティルダ、サナも同席している。


「バラージュのガラクタか……ちょっと興味あるねえ……」

「『セラック虫の樹脂』でしたらわかりますが、『巨大毛虫の内臓』は私にはわかりません」

「そうだよな……」


 どうしましょうか、とゴローはハカセに判断を委ねた。


「そうさね、ちょっと興味はあるけど……行くのはねえ……」

「やっぱり嫌ですか?」

「うん。……ただ、興味はあるんだけどねえ」


 何かあるごとに呼び出されたりするのは御免なんだよ、とハカセ。


「変装するとか、偽名を使うとか?」

「それでもねえ……」


 ハカセはよほど面倒事が嫌いなようである。


「……でしたら、ヴェルに来てほしいんですが」

「私ですか?」

「うん。サナが言うには、髪型を変えて髪を染めればまずわからないだろうって」

「うーん、そうだねえ……ヴェルの場合、いつまでもこの研究所にいるのはどうかと思うからねえ。その予行演習と思えばいいのかもね」

「……」


 当の本人は黙っている。


「ヴェルはどうなんだ? 普通の生活に戻りたくないのか?」

「そうですね……ここはすごく居心地がよくて落ち着きますから……皆さんいい方ですし」

「まあ慌てることはないさね。……とりあえず今回どうするかを決めようじゃないか」

「そうですね」

「そうですよね」


 ハカセの言葉に、皆頷いた。


「私は……ゴローさんのお役に立てるんでしたら行ってもいいですけど」

「それは助かるなあ」

「そうかい。そうしたら……ヴェルの髪だけど、どうしようかねえ」


 ヴェルシアは茶色の髪、茶色の目をしている。

 ある意味、この世界で最も多い色合いなのだ。


「変えすぎると、かえって目立ってしまうよねえ」

「あ、ハカセ、それは違いますよ」

「へえ?」

「強烈なイメージを与えておくと、かえってそのイメージとかけ離れていれば……」

「ああ、そういうことかい」


 あくまでも例えばであるが、鼻の頭に大きなほくろがあるとしよう。

 その場合、第一印象は鼻のほくろに気を取られ、他の顔の造作に気が回らなくなり、かえって印象がボケることがあるのだ。


「なるほどねえ。それも『謎知識』かい?」

「ええ、まあ」

「人間の心理、っていうのかねえ。それをうまく突いた話だね」


 ハカセも感心する内容だった。


「と、すると、髪の色は……そうだ、赤毛にしたらいいんじゃないかねえ?」

「あ、いいかもしれませんね」


 赤毛はそれなりにいるが、ぱっと見のインパクトが強いので好都合かも、とゴローは判断した。


「髪型も変えるとすれば……」


 助司祭だったころは清楚なボブカットだった。

 今はもうセミロングくらいの長さがある。


総髪そうがみなんていいんじゃないかねえ」

総髪そうがみ?」

「そうだよ。ゴローは知らないかね? 頭の後ろで髪をまとめて垂らす髪型さね」

「……ポニーテールのことですか?」

「ぽにーてーる?」

「『謎知識』がそう言ってます。小馬の尻尾のことらしいです」

「ああなるほど、確かに似ているかもねえ。……まあとりあえず、その『ポニーテール』でいいんじゃないかい? ちょっとやってごらん?」

「あ、はい」


 ヴェルシアはハカセに言われるまま、頭の後ろで髪を束ねてみせた。


「よさそうですね」

「うん、いいね。あとは髪の色を染めるだけだね。それはあたしに任せときな」

「お願いします」


 ということで、ハカセはヴェルシアを連れて研究室へと向かったのだった。


*   *   *


 ハカセたちが出ていくと、ティルダがゴローに話し掛けた。


「ゴローさん、手鏡、白木の枠ですが5つほど作ったのです」

「お、そうか、ありがとう」


 以前と同じデザインで、ウォールナット製の枠になっている。


「マッツァ商会に見せたら喜びそうだな……あ、そうだ」


 マッツァ商会でゴローは思い出した。


「顔料用のラピスラズリを頼まれていたんだった」


 ということでゴローは鉱石倉庫へ。


 ラピスラズリなら、せんだって採取してきたものがまだかなり残っている。

 そこから形が悪くても不純物の少なそうなものを3個ほど選び出した。


 そして居間に戻ると、ハカセとヴェルシアも戻ってきた。


「どうだい、ゴロー?」

「わあ、凄いですね、ハカセ」


 ヴェルシアの落ち着いた茶色の髪は燃えるような赤毛に変わっていたのだ。

 それをポニーテールにまとめているから、いつもと全く印象が違う。


「結構似合うよ」


 とゴローが褒めると、ヴェルシアは顔を赤らめた。


「そ、そうですか?」

「ああ。これならヴェルシアだと分かる人もいないだろう」


 ここでハカセはもう一押し。


「仕上げはこれさ」


 ハカセはヴェルシアの口元に『付けぼくろ』をくっつけたのである。

 それだけでもかなり顔の印象が変わる。


「鼻の頭だとコミカルすぎますけど、口元って色っぽくなりますね」

「えっ!?」


 更に顔を赤らめるヴェルシア。


「おや? ゴロー、あんた、『色っぽい』ってわかるのかい?」

「え? ……ああ、うーん…………『謎知識』がそんなこと言ってますね」

「なんだ、『謎知識』かい」


 ハカセによれば、そもそも『人造生命(ホムンクルス)』に性別はない……はずなのだ。

 みかけは男女の区別をしていても、繁殖はできないし、異性に対して特別な感情を持つこともないだろうとハカセは考えていた。

 だが、ゴローはハカセの予想を超える成長を見せている。

 そしてサナもまた、そんなゴローの影響を受けて成長している。


 だからハカセはゴローが『色っぽい』と口にした時におや、と思ったのだった。

 だが、どうやらそうではない、と思い直し、ふっ、と苦笑いを漏らしたのである。

 だが。


「おや、サナ? どうしたね、その顔は?」

「顔?」

「そうさ、顔」

「私の顔が、何か?」

「ふくれっ面してたからさ」

「ふくれっ面? 私が?」

「ああ。今は元に戻ったけど」

「……わからない」

「ふうん……」


 ハカセはサナの顔と、離れた場所でヴェルシアと話しているゴローとを代わる代わる見て、ちょっと首を傾げたのだった。


「で、ハカセはどうします?」

「え、ああ、あたしかい。……やっぱり今回は遠慮しておくよ」

「そうですか……」

「バラージュのガラクタには興味があるんだけどねえ」

「だったら……」

「それでも、あんまり目立つことは……あ、そうか……もしかしたら……」


 どうやらハカセは何やら思い付いたらしい。


「ハカセ?」

「……うん、あたしが行かなくても、そのガラクタを『見る』方法があるかもしれない」

「ええ!?」

「……ちょっと試してみたいねえ……ゴロー、王都に帰るのは明日の夜にしておくれでないか?」

「今夜は泊まっていく、ってことですよね? 構いませんが」

「よし、決まり! 明日は、あたしが思い付いた手段を実現させるためにいろいろ実験するよ!」

「その手段というのは、どんなものですか?」


 ゴローが尋ねる。


「例えばサナが見たり聞いたりしたものを、離れた場所であたしも共有する方法さね」

「そんなことができるんですか?」

「いやあ、まだできるとは確信していないね」


 ハカセは困ったような顔で微笑んだ。


「ゴローとサナの『念話』を応用できないかと思ってねえ」

「念話……」

「10キル(km)くらいまでしか届かないから、そうだねえ、『自動車』にでも積んでマッツァ商会に近付けばいいだろう」

「『ALOUETTE(アルエット)』で空から、という手もありますよ」

「お、それも面白いねえ」


 というわけで、『研究所』はにわかに活気づいた。

 果たして明日、ハカセの研究は成功するのだろうか……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月3日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
ゴロー自体は謎知識の分本人がピンと来て無いだけで感覚的な部分があってサナは自覚してないだけでそういった情緒が育っているんじゃないかな?
[一言] ゴローとサナの『念話』やハカセが開発しようとしている通信技術って、通信可能距離の限界はマナやオドの出力や指向性が原因になっているのかも知れませんね。 ゴローとサナの『念話』は思念波を全方向…
[一言] >11-18 変s ハ「いーやーだーよーーーっっ!!!だぁ~れg o...行くもんk...rz ハ「そこまで駄々こねないよ(呆」必要があれば変装してでも王都へ行くさね ←かなぁ? >「バラ…
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