表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/503

01-25 店巡り

 サンバーの町は大きく、雑多だった。

 アントニオが教えてくれたのは、日用雑貨の大手『日々の友』、アクセサリー店『星のしずく』、それに大手食料品店『食欲館』。

 最後のネーミングはどうなんだとゴローは突っ込みたかったが、ここで言っても仕方ないので言葉を飲み込んだ。


 まずは日用雑貨を見に行く。ゴローとしても、けっこう興味があったのだ。

 『日々の友』。

 アントニオは、カーン村へ持っていく雑貨はここで仕入れていくと言っていた。

「ここか……」

 間口も広く、繁盛しているようだ。

 オズワルド・マッツァ商会よりも大きいかもしれないな、とゴローは思いながら、店に足を踏み入れた。

 フロアの広さは学校の教室4つ分くらい。

 台所用品、食器、金物、大工道具っぽいもの、嗜好品などで分かれている。

 その分類でいいのかという気もするゴローだが、まあまあ見て回るにはわかりやすいと納得している。


「ゴロー、これ、きれい」

「磁器か……」

 カーン村近辺では見ない、白い磁器に絵付けをした器が並んでいた。絵も品がよく、従って高価だ。 

 カーン村で使われていたのは木の器が多く、素焼きの土器も少しあった。白い陶器は高級品で、お祝い事の時にしか使わないと言われていた。

「『ゴブロス焼』……?」

 またしても、ハカセの所業のようだ、とゴローは半ば感心し、半ば呆れた。

(要するに磁器用の土を選定して、高温で焼成できる窯を開発した、と……ハカセ……いろいろやってるなあ)


「ゴロー、こっち」

「はいはい……って、おお!?」

 ずらっと並んでいる包丁。サイズはまちまち、形もまちまち。

「ゴローのナイフと、どっちが切れる?」

「いや、それを比べちゃダメだろう」

「わかってる。冗談」

「ああ、そう……」

 サナの冗談はわかりにくい、とこっそり溜め息をつくゴローであった。


「これ、かわいい」

 サナは人形を見つけたようだ。

「ゴローが作ったものに、ちょっと、似てる」

 マネキンのことを言っていると思われる。

 その人形も、関節が可動するようになっていたのだ。


「お、こんなものもあるんだ」

 店を見て回っていたゴローは、『虫眼鏡』を見つけた。

(水滴でレンズ効果を発見したとか、ありそうだしな)


「ゴロー、こんな石も売れるの?」

 サナが指摘したのは縞模様の入った緑色の大きな石。下は平らになって台座が付いている。いわゆる『置物』の石だ。

「見た目が綺麗だからな。置物として買う人がいるんだろう」

 と説明しておくゴローだった。


 ひととおり見て回ったゴローとサナ。

 ゴローは大きな虫眼鏡を買ったが、サナは何も買わずに店をあとにした。


*   *   *


 次に入ったのはアクセサリー店『星のしずく』。

「ほほう……」

 流行りかどうかはわからないが、銅や真鍮製のアクセサリーがたくさん並んでいた。

 ちょっと店員に聞いてみたところ、これは見本で、気に入ったデザインのものを金、銀でオーダーするらしい。


 もちろん既製品も並べられていた。そちらは銀製が多いようだ。

(この世界でも金の方が銀より価値があるのか……)

 と、ゴローは謎知識により感心する。

 というのも、冶金技術が未熟な世界では、砂金として産出する金よりも、天然に産出しにくい銀の方が高価なことがあるのだ。


「これ、かわいい」

 サナが見つけたのは銀製の髪飾りだった。小鳥の形をしていて、目には赤い石がはめ込まれている。

 さっきの雑貨屋では、ゴローは買い物したがサナは買わなかったので、今度はそれを買ってあげたゴローである。


「似合うよ」

「……そう?」

 さっそく髪に付けてみたのでゴローはそう評し、それを聞いたサナは、なんとなく嬉しそうだった。


*   *   *


「早く、行こう」

「……わかってるよ」

 3軒目は大手食料品店『食欲館』。サナが早く行こうと、ゴローの手をぐいぐい引いている。

 その『食欲館』は、お昼前という時刻だったため、非常に混雑しており、店に入ることを2人に躊躇ためらわせた。

「混んでるな……」

「うん。……でも、よく見ると、偏りが、ある」

「ほんとだ。……なるほど、飲食スペースが混んでいて、食材コーナーはそれほどでもないみたいだ」

 店の中に軽食を出すコーナーがあって、そこが混雑しているようだと見極めたゴローとサナは、食材を見に行くことにした。


 この店には『買い物かご』があって、そこに欲しい物を入れ、店を出る時に精算するシステムになっているようだ。

 なんとなく懐かしい、と感じたゴローは、

(……なんで懐かしいのかな?)

 と、自分の感情に首を傾げていたりする。


 そして、2人がやってきたコーナーは……。

「これ、何?」

「香辛料か……」

 コショウらしき粉と、トウガラシらしき粉が置いてあった。

「この2つがあるだけでも随分違うな。……高いけど」

 ゴローは今後のために、コショウとトウガラシを買うことにした。

「甘いの?」

 とサナが聞くが、ゴローは首を振って、

「いや、からい」

 と答えた。それを聞いたサナは興味をなくしたらしく、他のコーナーを見に行ってしまうのだった。

「おーい」

 ゴローは買い物かごにコショウとトウガラシを入れ、慌ててサナを追いかける。

 万が一はぐれても『念話』があるから迷子になる心配はないのだが。


 そのサナが立ち止まっていたのは、やはり甘味のある場所。

 砂糖の他に、『蜂蜜』と『樹糖』というのがあった。

「蜂蜜はわかるが、樹糖ってなんだ?」

 そう呟いたゴローに、近くにいた店員が教えてくれる。

「木から取った樹液を煮詰めた蜜ですよ」

 と。

(メープルシロップみたいなものかな? あるいは白樺の樹液とか)

 またしても謎知識。

 北海道やロシアでは、春の一時期だけ、白樺の幹に穴を空けて樹液を採取する人々がいる。

 ほんのり甘く、ミネラル分も多い……らしい。

 日持ちしない(2日は保たない)と言うことだが、水分が多いからだろう。

 煮詰めて水分を飛ばし、糖分を濃くすることで雑菌が繁殖しなくなるのだ。

(これはそうやったらしいな)

 同じ樹種かどうかは別として、サナがじっと見つめているので、それも買うことにした。

 ついでといってはなんだが。蜂蜜も買い物かごに入れた。

 サナが舐めてみたそうにじっと見ているが、

「帰ってからな」

 と、釘を刺しておいた。


 野菜類は、珍しいものもあったが、食指は動かなかったのでパス。

 穀物類も、小麦粉と大麦くらいだったのでパス。

 だが、

「お、サツマイモがある」

 どう見てもサツマイモにしか見えない芋があったので、それも買っておくことにしたゴローであった。


 それだけ買って、しめて8900シクロ。だいたい8900円だ。

(円って……なんだ?)

 と思いながら代金を払ったゴローであった。


 そして。

「あー……買い物袋を持ってくればよかった」

 うっかりして手ぶらできたため、持ち帰り用の手提げ袋を500シクロで購入する羽目になったのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月5日(木)14:00の予定です。


 20190903 修正

(誤)これは見本で、気に入ったデザインものを金、銀でオーダーするらしい。

(正)これは見本で、気に入ったデザインのものを金、銀でオーダーするらしい。

(誤)野菜類は、珍しいものも合ったが、食指は動かなかったのでパス。

(正)野菜類は、珍しいものもあったが、食指は動かなかったのでパス。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ