01-25 店巡り
サンバーの町は大きく、雑多だった。
アントニオが教えてくれたのは、日用雑貨の大手『日々の友』、アクセサリー店『星の雫』、それに大手食料品店『食欲館』。
最後のネーミングはどうなんだとゴローは突っ込みたかったが、ここで言っても仕方ないので言葉を飲み込んだ。
まずは日用雑貨を見に行く。ゴローとしても、けっこう興味があったのだ。
『日々の友』。
アントニオは、カーン村へ持っていく雑貨はここで仕入れていくと言っていた。
「ここか……」
間口も広く、繁盛しているようだ。
オズワルド・マッツァ商会よりも大きいかもしれないな、とゴローは思いながら、店に足を踏み入れた。
フロアの広さは学校の教室4つ分くらい。
台所用品、食器、金物、大工道具っぽいもの、嗜好品などで分かれている。
その分類でいいのかという気もするゴローだが、まあまあ見て回るにはわかりやすいと納得している。
「ゴロー、これ、きれい」
「磁器か……」
カーン村近辺では見ない、白い磁器に絵付けをした器が並んでいた。絵も品がよく、従って高価だ。
カーン村で使われていたのは木の器が多く、素焼きの土器も少しあった。白い陶器は高級品で、お祝い事の時にしか使わないと言われていた。
「『ゴブロス焼』……?」
またしても、ハカセの所業のようだ、とゴローは半ば感心し、半ば呆れた。
(要するに磁器用の土を選定して、高温で焼成できる窯を開発した、と……ハカセ……いろいろやってるなあ)
「ゴロー、こっち」
「はいはい……って、おお!?」
ずらっと並んでいる包丁。サイズはまちまち、形もまちまち。
「ゴローのナイフと、どっちが切れる?」
「いや、それを比べちゃダメだろう」
「わかってる。冗談」
「ああ、そう……」
サナの冗談はわかりにくい、とこっそり溜め息をつくゴローであった。
「これ、かわいい」
サナは人形を見つけたようだ。
「ゴローが作ったものに、ちょっと、似てる」
マネキンのことを言っていると思われる。
その人形も、関節が可動するようになっていたのだ。
「お、こんなものもあるんだ」
店を見て回っていたゴローは、『虫眼鏡』を見つけた。
(水滴でレンズ効果を発見したとか、ありそうだしな)
「ゴロー、こんな石も売れるの?」
サナが指摘したのは縞模様の入った緑色の大きな石。下は平らになって台座が付いている。いわゆる『置物』の石だ。
「見た目が綺麗だからな。置物として買う人がいるんだろう」
と説明しておくゴローだった。
ひととおり見て回ったゴローとサナ。
ゴローは大きな虫眼鏡を買ったが、サナは何も買わずに店をあとにした。
* * *
次に入ったのはアクセサリー店『星の雫』。
「ほほう……」
流行りかどうかはわからないが、銅や真鍮製のアクセサリーがたくさん並んでいた。
ちょっと店員に聞いてみたところ、これは見本で、気に入ったデザインのものを金、銀でオーダーするらしい。
もちろん既製品も並べられていた。そちらは銀製が多いようだ。
(この世界でも金の方が銀より価値があるのか……)
と、ゴローは謎知識により感心する。
というのも、冶金技術が未熟な世界では、砂金として産出する金よりも、天然に産出しにくい銀の方が高価なことがあるのだ。
「これ、かわいい」
サナが見つけたのは銀製の髪飾りだった。小鳥の形をしていて、目には赤い石がはめ込まれている。
さっきの雑貨屋では、ゴローは買い物したがサナは買わなかったので、今度はそれを買ってあげたゴローである。
「似合うよ」
「……そう?」
さっそく髪に付けてみたのでゴローはそう評し、それを聞いたサナは、なんとなく嬉しそうだった。
* * *
「早く、行こう」
「……わかってるよ」
3軒目は大手食料品店『食欲館』。サナが早く行こうと、ゴローの手をぐいぐい引いている。
その『食欲館』は、お昼前という時刻だったため、非常に混雑しており、店に入ることを2人に躊躇わせた。
「混んでるな……」
「うん。……でも、よく見ると、偏りが、ある」
「ほんとだ。……なるほど、飲食スペースが混んでいて、食材コーナーはそれほどでもないみたいだ」
店の中に軽食を出すコーナーがあって、そこが混雑しているようだと見極めたゴローとサナは、食材を見に行くことにした。
この店には『買い物かご』があって、そこに欲しい物を入れ、店を出る時に精算するシステムになっているようだ。
なんとなく懐かしい、と感じたゴローは、
(……なんで懐かしいのかな?)
と、自分の感情に首を傾げていたりする。
そして、2人がやってきたコーナーは……。
「これ、何?」
「香辛料か……」
コショウらしき粉と、トウガラシらしき粉が置いてあった。
「この2つがあるだけでも随分違うな。……高いけど」
ゴローは今後のために、コショウとトウガラシを買うことにした。
「甘いの?」
とサナが聞くが、ゴローは首を振って、
「いや、辛い」
と答えた。それを聞いたサナは興味をなくしたらしく、他のコーナーを見に行ってしまうのだった。
「おーい」
ゴローは買い物かごにコショウとトウガラシを入れ、慌ててサナを追いかける。
万が一はぐれても『念話』があるから迷子になる心配はないのだが。
そのサナが立ち止まっていたのは、やはり甘味のある場所。
砂糖の他に、『蜂蜜』と『樹糖』というのがあった。
「蜂蜜はわかるが、樹糖ってなんだ?」
そう呟いたゴローに、近くにいた店員が教えてくれる。
「木から取った樹液を煮詰めた蜜ですよ」
と。
(メープルシロップみたいなものかな? あるいは白樺の樹液とか)
またしても謎知識。
北海道やロシアでは、春の一時期だけ、白樺の幹に穴を空けて樹液を採取する人々がいる。
ほんのり甘く、ミネラル分も多い……らしい。
日持ちしない(2日は保たない)と言うことだが、水分が多いからだろう。
煮詰めて水分を飛ばし、糖分を濃くすることで雑菌が繁殖しなくなるのだ。
(これはそうやったらしいな)
同じ樹種かどうかは別として、サナがじっと見つめているので、それも買うことにした。
ついでといってはなんだが。蜂蜜も買い物かごに入れた。
サナが舐めてみたそうにじっと見ているが、
「帰ってからな」
と、釘を刺しておいた。
野菜類は、珍しいものもあったが、食指は動かなかったのでパス。
穀物類も、小麦粉と大麦くらいだったのでパス。
だが、
「お、サツマイモがある」
どう見てもサツマイモにしか見えない芋があったので、それも買っておくことにしたゴローであった。
それだけ買って、しめて8900シクロ。だいたい8900円だ。
(円って……なんだ?)
と思いながら代金を払ったゴローであった。
そして。
「あー……買い物袋を持ってくればよかった」
うっかりして手ぶらできたため、持ち帰り用の手提げ袋を500シクロで購入する羽目になったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は9月5日(木)14:00の予定です。
20190903 修正
(誤)これは見本で、気に入ったデザインものを金、銀でオーダーするらしい。
(正)これは見本で、気に入ったデザインのものを金、銀でオーダーするらしい。
(誤)野菜類は、珍しいものも合ったが、食指は動かなかったのでパス。
(正)野菜類は、珍しいものもあったが、食指は動かなかったのでパス。




