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11-06 衛生観念

 王都に戻ったゴローとサナ。

 夜が明けるのを待って、ゴローはプリンを作り始めた。

 もちろん、今日来るであろうローザンヌ王女用だ。


「ゴロー、私の分は?」

「もちろんあるぞ」

「それなら、いい」


 ということで、ゴローは10個のプリンを作った。


「これも、『滅菌』して冷蔵庫に入れておけばもっと長保ちしそうだな」


 物が腐るのは腐敗微生物が繁殖するからで、滅菌しておくことで長保ちさせることができる。

 パスツールが発見した『低温殺菌』(摂氏63度から65度で30分間加熱殺菌する)で牛乳が腐りにくくなったのは有名。


「……瓶詰めや缶詰めができれば食品を長保ちさせられるんだがな」


 事前の殺菌消毒と、無菌状態での瓶詰め(缶詰め)作業ができるかどうかが問題である。


「まだちょっと無理かなあ……」


 ゴローは考える。

 この世界では『トップダウン』が基本になる。

 この場合、上に立つものが規範を示し、実例を作り、実践して見せなければならない……と。


「『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば人は動かじ』……?」


 『謎知識』が教える人材育成論である。これは山本五十六の言葉と言われる。


「人の教育というのは難しいものだなあ……」


 そんな独り言を、サナが聞き付けた。


「ゴロー、どうしたの?」

「え?」

「難しい顔、してた」

「そうか? いや、ちょっと考え事をな……」

「……王女様が、来た」

「え、こんな早くか!?」


 まだ午前8時前である。

 ゴローは慌てて身支度を整え、王女を出迎えた。

 いつもどおり、モーガンも一緒にやって来ている。


「ゴロー、おはよう!」

「おはようございます」

「あの薬な、よく効いたぞ!」


 ローザンヌ王女が言うには、昨日城へ戻って、希望者5人の患部に塗布したのだという。

 さすがに1度目では変わりがなかったが、3度目には少しかゆみが収まったといい、4度目にはもっと楽に。

 就寝前に5度目を塗り、朝起きたら患部の皮膚の状態も少しよくなっていたというのだ。


「いやあ、よく効く薬だな!」

「それはよかったです」


 『癒やしの水』との相乗効果だろうか、とゴローは少し嬉しかった。


*   *   *


「うむ、いつもながらゴローの『プリン』は美味しいな!」


 ローザンヌ王女は、昨日と違い、今日は少し落ち着いている。

 だからプリンも食べていくことになった。


「それでですね」


 プリンを食べ終わった王女に、ゴローはもう1つの提案……『殺菌装置』の話をすることにした。


「こういうものがあります」


 まずは現物を見せる。


「うむ? これは何だ?」

「これは『殺菌装置』と言いまして、対象物を殺菌できる魔導具なんです」

「ほほう? それは凄いな! ……で、どう使うのだ?」

「はい、こうして……」


 ゴローはローザンヌ王女に『殺菌装置』の使い方を説明した。


「おおお、これは凄い!」

「ゴロー、これで靴の中も殺菌できるのだな?」


 モーガンも『殺菌装置』が気になるようだ。


「はい。食べ物も殺菌できますので、腐りにくくなります」

「なるほど、菌が増えて腐らせる、のだったか」

「そのとおりです。……そこで殿下に1つ、進言をしたく」

「聞こう。ゴロー、言ってみよ」

「国民の皆さんに、少しずつ『衛生観念』を浸透させていったらどうでしょうか」

「衛生……以前ゴローが言っていた概念だな?」

「はい。『生』を『まもる』ことです。要は理にかなった健康管理をしましょうということですね」

「うむ。……民の健康は国力を増すことになるからな」

「そのとおりです」


 ローザンヌ王女は、ゴローが言いたいことをすでに理解してくれていた。


「具体的にはどうすればよい?」

「はい。まずは『手洗い』と『うがい』ですね。これを、上に立つ方に実践していただき、一般庶民にも広めていただけたら、と思います」

「なるほどな。ゴローの提案は理に適っておる」


 ローザンヌ王女は大きく頷いた。


「その際ですね、病気の元が『病原体』という名称だと受け入れられづらいのではないかと思うのです」

「うむ、その可能性はあるな」

「ですので『目に見えない悪いもの』というような、一般に受け入れられそうな言葉で言い換えたいんです」

「おお、それなら『瘴気しょうき』というものが……」

「いや、それはまずいでしょう」


 思わずツッコミを入れてしまったゴロー。

 そもそも『瘴気しょうき』は(この世界には)存在するのだから。


「それもそうだな。では『悪しき気』というのはどうだ?」

「ああ、それならいいと思うます」

「うむ。『悪しき気』にまとわりつかれぬよう手を洗い、口をすすぐ、ということでよいな?」

「はい、是非」

「よし、帰ったら父王に奏上しておこう」

「ありがとうございます。つきましてはこれを献上いたします」


 ゴローは『殺菌装置』をローザンヌ王女に献上することにした。


「む、よいのか?」

「はい。この魔導具はその『悪しき気』を払える、ということで」

「わかった。父王に代わってありがたく受け取ろう」


 というわけで『殺菌装置』は王家に渡り、『悪しき気』を寄せ付けないために手洗いとうがいを奨励することをローザンヌ王女は約束してくれたのであった。


*   *   *


 ローザンヌ王女とモーガンが帰った後、少し早い昼食を済ませたゴローは、依頼された宝石の原石と薬を届けにマッツァ商会へ行くことにした。


「さて、それじゃあ俺はマッツァ商会へ行ってくるよ」


 ゴローはサナに声を掛けた。


「うん、行ってらっしゃい」


 時刻は正午少し前。

 屋敷に置いてある『自動車』を使い、マッツァ商会へ向かう。


「少しずつ、人出も戻ってきている感じだな」


 薬の流通が滞った当初は、王都全体がなんとなく沈んでいる感じがしたものだ。

 要は景気が冷え込んだということなのだろうとゴローは推測している。

 それが徐々に回復してきているようなのだ。

 世界経済が低迷したわけではなく、あくまでも王国内での話なので、回復も早いのだろう、とゴローは想像してみた。

 残念ながらこのことについては『謎知識』も何も教えてはくれなかったのである。


*   *   *


「おおゴローさん、助かります!」


 薬を届けに来たゴローを、商会長オズワルド・マッツァは諸手を挙げて歓迎した。


「でも、そろそろ流通も落ち着いてきたのではないですか?」

「それはおっしゃるとおりですな。でも、まだまだ薬の需要はありますので」

「転売の方はどうだったのですか?」

「ほとんどなかったですね。いろいろと手を打ったのがよかったのでしょう」

「それは朗報ですね」


 薬品が本当に必要な人の手に渡る、それだけのことなのになかなか難しい。


「とりあえず、今回の納品が最後になるかもしれません。これ以上はまた薬の原料を採取しに行く必要があるようです」

「ああ、そうなんですね。……少々残念ですが、なんとかなるかと思います」

「では」


 今回の納品は以下のとおり。


 ガラス瓶……小瓶が100個、大瓶が50個。

 解熱鎮痛剤6リル(リットル)

 滋養強壮薬は30リル(リットル)

 胃腸薬が3000錠。

 冷蔵庫1台。


 実際には仲間内の分として少しだけ確保してあるが、屋敷の在庫のほとんどとなる。

 価格はこれまでどおり。

 小瓶が2万シクロ、大瓶が2万シクロ。

 解熱鎮痛剤が4万2000シクロ。

 滋養強壮薬が9万シクロ。

 胃腸薬が30万シクロ。

 冷蔵庫が20万シクロ。

 合計67万2000シクロとなった。


「それから、こちらが宝石の原石です」

「おお、これはこれは」


 さて、こちらにはどのくらいの値が付くであろうか……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月11日(木)14:00の予定です。


 20230504 修正

(誤)ゴローは

(正)ゴローはサナに声を掛けた。

 20230506 修正

(旧)、回復も早いのだろうかな、とゴローは想像してみた。

(新)、回復も早いのだろう、とゴローは想像してみた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『滅菌装置』が量産可能なら、少なくとも王公貴族や富裕層の子供達や兵士達の病気や怪我での死亡率が低下しそうですね、子宝に恵まれなくて後継者不足に困っていた王公貴族には朗報になりますよ。 部屋…
[一言] >「これも、『滅菌』して冷蔵庫に入れておけばもっと長保ちしそうだな」 (中略) > 事前の殺菌消毒と、無菌状態での瓶詰め(缶詰め)作業ができるかどうかが問題である。 > >「まだちょっと無理…
[一言] >「さて、それじゃあ俺はマッツァ商会へ行ってくるよ」  ゴローは ゴローは の後に何か文章の続きがあるのでは?
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