10-35 納品1回目
転売屋を打倒するため、ゴローたちがせっせと薬を作った結果、かなりの量が完成した。
解熱鎮痛剤は10リル。
滋養強壮薬は30リル。
胃腸薬は丸薬なので1000回分。
薬瓶は販売用(0.1リル入り)は茶色が100、青が50。店頭用(1リル入り)が30。
加えて冷蔵庫1台。
「これだけあればオズワルドさんも喜ぶだろう」
「だろうねえ」
「ゴロー、在庫から計算して、この10倍くらいは、できる」
「それくらい作れば転売屋も大打撃を受けるだろう」
「うん」
「それじゃあ今夜、これを王都に運びます」
「頼むよ、ゴロー」
「何か買ってくるものはありますか?」
「あたしはないねえ」
と、ルナールから申し出が。
「ゴロー様、それでは塩と香辛料をお願いできますか」
「わかった、塩は10キムくらいでいいか?」
「はい」
「香辛料ということはコショウだけかな?」
「はい」
「わかった。それくらいならマッツァ商会で手に入るだろう」
気が付けばもう夕方である。
1日の仕事は終わり。
風呂に入って汗を流し(ゴローとサナは汗をかかないが)、ゆったりと夕食を食べれば気持ちものんびりする。
夕食の支度をしたのはルナール。
最近は料理をはじめとした家事全般に熟達し、誰からも文句が出ないレベルになっている。
今夜は焼きたてのパンにプレーンオムレツ、野鳥の手羽先、野菜サラダ。
「こうして美味しいものをたらふく食べると、なんか、明日も頑張ろうって気になるねえ」
「それはようございました」
すっかり険も取れ、仲間に溶け込んでいるルナールであった。
* * *
「それじゃあ、行ってきます」
「うん、気を付けて行っておいで」
その夜もゴローとサナは大荷物を積んだ『レイブン改』に乗って王都の屋敷を目指したのである。
そして何ごともなく屋敷に到着。
「お帰りなさいませ」
『屋敷妖精』のマリーが迎えてくれるのもいつもと同じ。
違うのは……。
「昼間、ローザンヌ王女殿下からの親書を持った使者が参りました」
「え?」
「これがその親書です」
『親書』とは、『直筆の手紙』である。
わざわざ王女殿下自ら書くとはどんな緊急な、あるいは重要な内容か、とゴローは緊張しつつ手紙を開いた。
『戻ってきたら知らせよ。たまにはゴローとサナの顔が見たい。 追伸 甘味を用意しておくように』
ずっこけかけるゴロー。
「マイペースな姫様だなあ……」
しかし、もしかすると手紙に書けないような心配事を抱えているのかもしれないなあと、あくまでも好意的に想像を巡らせたゴローであった。
* * *
それはそれとして、今夜の主目的を果たさなければならない。
「マリー、こっちの荷物は保管しておいてくれ」
「はい、承りました」
全部を一度に納品することは避け、とりあえずは半分から5分の1くらいで様子を見ることにした。
解熱鎮痛剤は3リル。
滋養強壮薬は10リル。
胃腸薬は500錠。
薬瓶は販売用(0.1リル入り)は茶色が40、青が20。店頭用(1リル入り)が10。
加えて冷蔵庫1台。
そんな内訳である。
それらをひとくくりにまとめたゴローは、背中に担いで屋敷を出た。
このくらいの荷物は身体強化をせずとも運べてしまう。
とはいえ、冷蔵庫が含まれているため大荷物に見え、ゴローを迎えたマッツァ商会の面々は驚いた顔をしていた。
* * *
「おお、ゴロー殿、これが『冷蔵庫』ですな! それにこんなにたくさんの薬、助かります!!」
「いえ、まずは確認して下さい」
「そうですな。……『鑑定士』を呼んでも?」
「ええ、どうぞ」
ゴローの許しを得たオズワルド・マッツァは鑑定士を呼んだ。
「お呼びですか、旦那様」
入ってきたのはひょろっとした男性。
「うむ。……ゴロー殿、彼が我が商会の専属鑑定士で、ナリシスといいます」
「ゴローです」
「ナリシスです。よろしくお願いします、ゴローさん」
ナルシスじゃなくてよかったな……と余計なことを頭の片隅で考えたゴロー。普通に失礼である。
ナリシスは30歳くらい。茶色の髪、茶色の目をしており、痩せている。
「ナリシス、早速だがこの薬を鑑定してみてくれ」
「わかりました。……『鑑定』『鑑定』……『鑑定』……おお! 旦那様、ここにある薬は皆効き目が素晴らしいものです」
「そうか、ご苦労」
薬の鑑定士は、いわば薬剤師のような地位にある。
鑑定結果には責任を持つ必要があるのだ。商会のお抱えということは、かなり実力のある鑑定士ということだ。
「ゴローさん、うちの鑑定士が保証してくれます。いくらで販売しましょうか? ご希望はありますか?」
「いえ、特に。それよりも転売屋対策の方が気になります。適正な価格で販売しましょう」
「仰るとおりですね。解熱鎮痛剤は1瓶2000シクロ(0.1リル)、滋養強壮薬は1瓶1000シクロ(0.1リル)、胃腸薬は10錠で1000シクロでどうでしょうか」
「相場をよく知らないのですが、単純に薬としてみたら、そのくらいかと思います」
「ふむ。……で、空き瓶を持ってきてくれたら50シクロ値引きする、というのはどうでしょう」
「ああ、いいかもしれませんね」
ゴローの謎知識は、飲み物の空き瓶を持ってくると、その分値引きしてくれる、という制度がある国のことを告げていた。
「その場合、瓶の欠けや割れには注意して下さい」
「ええ、もちろんです。洗浄もきっちりやりますよ」
「そうしてください」
そういった打ち合わせを行ったあと、ゴローは冷蔵庫の説明を行った。
「これが冷蔵庫です。中はだいたい摂氏5度くらいまで冷えます」
「おお、なるほど」
「魔力の補給は……。注意事項としましては……」
ゴローは特に結露についての注意をした。
「なるほど、暖かい場所へ出す時は特に注意ですな」
「そういうことです。まずは試しに使ってみて下さい」
「ありがとうございます」
注意事項も伝えたので、相談の末ゴローは代金として……。
小瓶1つが200シクロ、60個なので1万2000シクロ。
大瓶1つが400シクロ、10個なので4000シクロ。
解熱鎮痛剤3リルで2万1000シクロ(1リル7000シクロ)。
滋養強壮薬は10リルで3万シクロ(1リル3000シクロ)。
胃腸薬500錠で5万シクロ(1錠100シクロ)。
冷蔵庫が20万シクロ。
……計31万7000シクロとなった。
その後ルナールに頼まれた塩と香辛料を買い、差し引き31万5000シクロを受け取ったゴローは帰途についたのであった。
* * *
屋敷に戻ったゴローは、『屋敷妖精』のマリーに尋ねてみた。
「さて、ローザンヌ王女は明日あたり来る気かな?」
「わかりませんが、あの方のことですから、ゴロー様がお帰りになるまで毎日でもお見えになりそうな気がします」
「ああ、それはありそうだ」
どうするかな、とゴローはちょっとだけ考え、
「一旦研究所に帰ってハカセたちに話をして、もう一度戻ってくるか……」
そんなことをすれば日付が変わってしまうだろうが、睡眠の必要がないゴローなら可能である。
そしてもう1つ。
「なあマリー、向こうの『分体』とやり取りはできないのかな?」
「申し訳ございません、なにぶん距離がありますので、わかるのは無事かどうかくらいで、細かなやり取りは……」
済まなそうに項垂れるマリー。
「いやいいんだ。気にするな」
ゴローは萎れたマリーの頭を撫でて慰めた。
* * *
「それじゃあ行ってくる」
「はい、お気をつけて」
サナを屋敷に残し、ゴローを乗せた『レイブン改』は再び闇の中へ飛び立ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月2日(木)14:00の予定です。
20230126 修正
(誤)胃腸薬500錠で1万5000シクロ(1錠300シクロ)。
(正)胃腸薬500錠で5万シクロ(1錠100シクロ)。
(誤)冷蔵庫が10万シクロ。
(正)冷蔵庫が20万シクロ。
(誤)……計18万2000シクロとなった。
(正)……計31万7000シクロとなった。
(誤)差し引き18万シクロを受け取ったゴローは帰途についたのであった。
(正、差し引き31万5000シクロを受け取ったゴローは帰途についたのであった。
20230908 修正
(旧)「申し訳ございません、なにぶん距離がありますので……」
(新)「申し訳ございません、なにぶん距離がありますので、わかるのは無事かどうかくらいで、細かなやり取りは……」