10-31 納品と情報収集
申し訳もないことに、投稿する話数を間違えておりました
<(_ _)>
ハカセとヴェルシアが作り出した『滋養強壮薬』。
いきなり飲むのも怖いものがある。
「液体のことなら、『クレーネー』?」
黙ってハカセたちの作業を見ていたサナがそんなことを口にした。
「そうか……まあ駄目で元々だ、ちょっと聞いてくるよ」
ということで、ゴローは『滋養強壮薬』を小瓶に移し替えて外へ。
真っ直ぐ池へ向かい、『水の妖精』のクレーネーを呼び出した。
「はいですの。ゴロー様、何か御用ですの?」
「うん。これ、もらった『癒やしの水』で作った薬なんだが、何かわかるかい?」
ゴローはクレーネーに瓶を差し出した。
「ええと……ああ、これって素晴らしいお薬ですの。軽い病気なら1日で治ってしまいますの」
「へえ?」
「健康な人が飲むのでしたら、10倍くらいに薄めて飲むと、身体が丈夫になりますの」
「そうか……あ、クレーネーがくれた『癒やしの水』で薄めたら?」
「でしたら100倍くらいに薄めても大丈夫ですの」
「すごいな……わかった、ありがとう」
「また御用の際は呼んでほしいですの」
クレーネーは水底に沈んでいった。
ゴローは研究所に戻って報告する。
「ふうん、なんかすごい薬ができたみたいだねえ」
「ハカセ、飲むのなら薄めて飲んでくださいね」
「……わかってるさ」
「その間はなんですか?」
「な、なんでもないよ」
「ご自分の身体で試さないでくださいね?」
「わ、わかってるよ」
「フランク、ちゃんと管理してくれよ」
「わかりました」
こうした貴重な薬は『自動人形』のフランクに管理してもらうに限る、とゴローは薬瓶をフランクに預けたのであった。
* * *
食堂でこれまでの成果を確認しあう一同。
アーレン・ブルーやラーナ、ティルダ、ルナールらも参加している。
「しかし、随分薬が充実したねえ」
「ですね」
目薬、膏薬、健胃腸薬、胃腸薬、解熱鎮痛剤、滋養強壮薬。
「これだけあれば、ルーペス王国の薬不足もなんとかなるかもねえ」
「あ、ハカセ、それですが」
ヴェルシアが発言をした。少し心配そうな顔である。
「……あんまり大量に卸すと、いらぬ目をつけられるかもしれません」
「ヴェル、どういうことだい?」
「教会はもうないようですが、軍に目をつけられると厄介だと思います」
「なるほどねえ」
仕入先はどこだとか、軍に優先的に回せとか、そうした干渉が心配だとヴェルシアは言う。
「それから、入手ルートが不明な薬も、胡散臭がられます」
「それはあるかもねえ」
普通なら得体のしれない薬を買って飲む気にはなれない、そういうことだ。
「うーん……かといって困った人に行き渡らないのはもっとまずい気がしますね」
眉をひそめ、ラーナが呟いた。
「『人族』はいろいろ面倒なんですね」
『獣人』であるルナールも少し呆れ顔だ。
「そうだな……種族として一番まとまりのないのが『人族』かもな……」
ゴローも少し寂しい思いを感じている。
(あれ? そうすると俺って、『人族』だという意識があるのかな?)
元になった『魂』が人間のものだったのかな、と考えるゴローであった。
* * *
「そういうわけで、今夜王都に行ってこようかと、マッツァ商会へラピスラズリを持っていく約束もありますし、何らかの情報は得られるでしょう」
「そうだねえ、そろそろ情報がほしいよねえ」
「俺とサナで行ってきますよ。その結果次第で、アーレンたちは王都に戻れるかも」
行商人であるゴローとサナ、個人経営の職人であるティルダ、執事見習いのルナールらはどうにでもなる。
ハカセは自由人であるし、ヴェルシアは一応手配犯ということになるので、こちらにいたほうが居心地はいいだろう。
「そうですね、工房の方も心配ですし」
「ここは楽しいからずっといたいくらいなんですが」
「駄目ですよ、アーレン様」
「わかってるよ……」
とはいうものの、心底残念そうな顔のアーレンであった。
* * *
その夜、ゴローとサナは『レイブン改』で王都へと向かった。留守居役にフランクを乗せている。
もうすっかり慣れた道中、何の問題もなく王都の外、北西部に着陸。
『抜け道』を使って屋敷に戻った。
「おかえりなさいませ」
『屋敷妖精』のマリー、その本体が出迎えてくれた。
「ただいま。変わりはなかったかい?」
「はい。前回のお帰りからこちら、特には」
「それはよかった。……で、現状は?」
「はい。『バラージュ国』の使節は帰国しました」
「そうか、そりゃよかった」
おかげで王都内も静かになったようだ。
教会への糾弾も、関係者がほぼ全員処分され、一段落ついたという。
「それじゃあ、懸念事項はなしか」
「はい、我が家に関しましては」
「よし」
次にゴローは『マッツァ商会』に顔を出すことにした。
頼まれていたラピスラズリの他にも、薬のサンプルも積んできているので、それも持っていく。
サナは屋敷に残った。
ゴローは夜の闇の中を駆け、マッツァ商会に着いたのは午後9時半。
「おお、ゴローさん」
商会主、オズワルド・マッツァが出迎えてくれた。
すぐに上級商談室に通される。
ゴローはまず、注文の品を背嚢から取り出した。
「ラピスラズリを持ってきました」
鶏卵大のラピスラズリを3つ、ゴローはテーブルに置いた。
宝石にするのではないので、幾分扱いがぞんざいである。
「おお、早かったですな! 拝見いたします」
オズワルド・マッツァはそれを手に取り、しげしげと眺めた。
「文句なしの品質です。磨けば宝石にもなりますなあ」
「これで大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます。……他にも何か?」
「はい。薬が手に入りましたので見本を少し」
「ほうほう、どんな薬ですかな?」
「これです」
ゴローは背嚢から小瓶を3本取り出した。
「これは解熱鎮痛剤、これは胃腸薬、これは滋養強壮薬です。他に、目薬と膏薬、健胃腸薬も手に入りそうです」
「な、なんと……! 素晴らしい。解熱鎮痛剤は特に品薄なので助かります。……ですが、1つ問題が」
「効き目と安全性、ですね?」
「ご存知でしたか」
「薬を手に入れた際に聞きました」
ヴェルシアが言っていたとおりだなと、ゴローは内心で溜息を吐いた。
「薬につきましては専門家に調べてもらおうと思います。よろしいでしょうか?」
「もちろんです。……ちなみに、専門家、というのはどういう人か教えていただいてもいいですか?」
「ええ、もちろんですとも。私どもが専属契約している薬師です」
「薬師……薬の専門家ですね」
この世界の薬師は、薬を調合するだけではなく、それを用いて患者を治すことまで行う。
傷の縫合などの手術は行わないので、内科医に近いかもしれない。
「ええ。なかなか優秀な方で、薬の分析もできるのです」
「ほう」
「ですので、効能だけでなく、期限切れや毒性もわかるのですよ」
「なるほど、それなら安心して販売できますね」
「そうなんです」
「では、確認してもらってください」
ということで、ゴローは解熱鎮痛剤、胃腸薬、滋養強壮薬のサンプルをオズワルドに渡した。
「ところで、今の王都の情勢はどうでしょうか?」
「そうですなあ……」
果たしてオズワルドの答えは……?
お読みいただきありがとうございます。
2022年の更新はこれで終わりです。
今年1年、ありがとうございました。m(_ _)m
次回更新は2023年1月5日(木)14:00の予定です。
20221222 修正
*話数を間違えて10-26を二重投稿していたのを10-31に直しました
(誤)真っ直ぐ池へ向かい、『木の精』のクレーネーを呼び出した。
(正)真っ直ぐ池へ向かい、『水の妖精』のクレーネーを呼び出した。
orz
(誤)「はい。『バラージュ国』の施設は帰国しました」
(正)「はい。『バラージュ国』の使節は帰国しました」