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10-30 イワタケ採り

 ゴローが外に出てみると、ちょうど散歩に出ていたポチが戻ってきたところだった。


「うぉん」

「お、ポチ、帰ってきたな。……あれ、何をくわえて来たんだ?」


 ポチの足元に、何やらくしゃくしゃっとした黒いものが落ちていた。


(キクラゲかな?)


 ……と一瞬思ったゴローだったが、生のキクラゲはぶにょっとした茶色い塊だ。なのでこれは違う。

 だから、


「あ、イワタケですね」


 というルナールの言葉にゴローはびっくりした。


「え? イワタケ? これが?」

「はい、間違いないです。故郷では何度も採りに行きましたから」

「へえ、これが……」


 くしゃくしゃっとしたそれを拾い上げるゴロー。

 ぱりぱりっとした感触。乾燥したワカメか昆布のようでもある。


「岩の上にくっついている時はそんな感じですね。霧が出たり雨が降ったりすると水気を吸って軟らかくなります」

「ああ、なるほどな」

「なので、霧の中で採るのが一番効率がいいですね」

「え、なんでだ?」

「乾燥した状態だときれいに剥がれないでぱりぱり砕けてしまうんですよ」

「ああ、そうか……」


 水を含むと軟らかくなって岩から剥がせるのだという。

 雨の日でもいいが視界が悪い上寒く、岩も滑るので、霧の日が丁度いいのだとルナールは説明した。

 だがポチは乾燥した状態でうまく剥がしていたが。


「なるほどな……ところで」

「はい?」

「ポチがこれを持ってきたということは、この上のどこかにイワタケがあるということだよな?」

「そうですね。私はありそうだと思っていますよ」

「そうか……こんど、ポチに案内してもらって採りに行ってみるか」

「わふ」


 ゴローの言ったことがわかるのか、機嫌がよさそうなポチであった。


「だけど……これってキノコじゃないよな……」


 イワタケはキノコのような名前が付いているが、『地衣類』である。

 キノコやカビに代表される『菌類』と、水草の仲間に多い『そう類』が共生したもの。

 菌類だけでは光合成できないが、藻類が共生しているので光合成によって栄養分を作り出せるのである。


「……菌類でもあるわけだから、一応ミューにも聞いてみるか」


 と判断したゴローは庭の奥へ行き、『エサソン』のミューを呼んだ。


「はい、どうしましたか?」

「やあミュー、さっきポチがこれを採ってきたんだが」

「あ、イワタケですね。いい出来です」

「わかるかい?」

「はい。これは身体にもいいですよ」

「そうなのか?」

「ええ。煎じて飲むと病気になりにくくなるでしょう」

「そうか、ありがとう」


 ミューによれば、このイワタケは薬効成分が豊富なのだという。


(『癒やしの水』で煎じたらどうだろう……)


 と、ゴローは想像してみた。


 今日の段階で、『水の妖精(ナーイアス)』のクレーネーは、1日あたり2リル(リットル)ほどの『癒やしの水』を出してくれる。

 そろそろ頭打ちになりつつあるようだが、それでも十分すぎる量だ。


「ハカセに朝昼晩で1リル(リットル)、それでも1リル(リットル)余るもんなあ……あ、アーレンやラーナ、ヴェルシアにティルダ、ルナールもいるから余ることはないか」


 そんなことを考えながら、ゴローは研究所に戻ったのである。


*   *   *


「へえ、これがイワタケかい」

「そうらしいです」

「これはどうやって食べるんだろうね?」

「水で戻してきれいに洗い、天ぷらとか酢の物とか」

「ふうん? どんな味なんだろう?」


 そんなハカセの疑問にはルナールが追加で説明してくれた。


「あ、イワタケ自体にはほとんど味らしい味はないんです」

「そうなのかい?」

「だから……今だからわかります。その『味がない』ことを活かす調理が必要だって」

「なんとなくわかるな、それ」


 加えられた『味』に染まる食材だからこそ、加える『味』を厳選する。

 それが素材を活かすということ、とルナールは感じるのだろう、とゴローも共感した。


「俺の『謎知識』ですと免疫力アップ……つまり身体を健康に、丈夫にしてくれるようですよ」

「ふうん、なるほどね」

「それじゃあ薬にもなりますね」

「なると思う。粉にして『癒やしの水』で練るだけでも何倍にも効果が上がる気がする」

「食材より薬にするかねえ」


 大量に採れるものではないので、食べるよりは薬に、とハカセは判断したのだ。

 ということで、ヴェルシアも呼んで検討することにした。

 否、呼ぶというよりもヴェルシアのいる『調剤工房』へハカセとゴローが向かったわけだ。


*   *   *


「これがイワタケ、ですか。名前は知っていましたが、初めて見ました」

「ミューによると、これは特に薬効が高いそうだ」

「煎じて飲むといいんですか……やってみますか?」

「ああ。『癒やしの水』もあるしな」

「それじゃあやってみようかねえ」


 ハカセが飲んだ分を除き、昨日と今日の分合わせて2リル(リットル)ほどが手元にある。


「まずは0.5リル(リットル)ほど使って、このイワタケの半分を煎じてみましょう」

「まあそんなもんだろうね」


 ハカセが喜々として手伝い始めたので、ゴローはそっとその場を離れた。

 そして再び外へ。


「ポチー」


 ポチを呼ぶと、すぐに走って飛んできた。


「わう」

「よしよし。……さっき採ってきたイワタケのある場所へ案内してくれるか?」

「わふ」


 ゴローの言うことを理解したのか、ポチは身を翻して岩山の上へと向かった。

 ゴローも『強化(ホプリゾーン)』2倍を掛け、ポチの後を追った。


 ポチは岩山を苦もなく駆け上がっていく。

 ゴローも負けじと追い掛けるが、少しずつ差が開いていく……。


「『強化(ホプリゾーン)』3倍だ」


 今のゴローにできる最大の『強化(ホプリゾーン)』。

 これでポチの後を追えるようになった。

 とはいえそれほど余裕があるわけではなく、まあ無理しないでなんとか……というレベル。


 とにかく5分足らずで研究所のあるテーブル台地の外輪山、その最高峰へ登ってしまったゴローたちである。


「わふわふ」

「このあたりにあるのか?」

「わう」


 ポチが立ち止まったのは小さなテラス状の岩棚。

 そこから見上げる岩壁の高さはおよそ50メートル。


「わん」


 ポチは顔を上げて岩壁の上の方を指し示した。


「どれどれ……ああ、あれかな?」


 斜度70度を超える岩壁の上の方にイワタケらしきものが生えているのが見えた。


「ポチ、採ってこられるか?」


「わん!」


 ゴローの言葉に一声吠えたポチは、軽々と岩壁を駆け上がり、たちまちのうちにイワタケが生えている所へ。

 そして全部を採ることなく、3割ほどを残し、イワタケをむしり取ってゴローの所へ戻ってきたのである。


「見事だな。それに全部採らないあたり、賢いぞ」

「わふわふ」


 イワタケを受け取ったゴローはポチの頭を撫でてやる。

 嬉しそうに尻尾を振るポチ。

 イワタケを背負ったザックに入れたゴローは、


「他にも生えている場所があるのかい?」


 と尋ねる。

 ポチは『わん』と一声答え、岩壁を回り込むようにトラバースしていった。

 ゴローもそれに続く。

 危なそうな箇所では『空気の(アエル・)(パリエス)』で足場を作り、急場をしのいだ。


 そして別の岩壁の下。

 見上げると30メートルほど上にイワタケがたくさん生えていた。


「あ、ここにもたくさんあるな」

「わう」


 今度は自分が採ってくると、ゴローは岩壁を登っていく。

 そして半分ほど残して採取。

 あまり欲張ることはしない。


「よし、これで帰ろう。ポチ、ありがとうな」

「わふ」


 帰りもポチの先導で足場のしっかりした場所を辿って帰ったのだった。


*   *   *


「こりゃまた、いっぱい採ってきたねえ」


 帰り着いてハカセに成果を見せると、驚き喜ばれた。


「こっちも薬、完成したよ」


 そしてできあがった『滋養強壮薬』を見せてくれた。

 茶色の液体で、無臭。

 味は飲んでみないとわからない。


 さて、効果の程は……?

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は12月22日(木)14:00の予定です。


 20221215 修正

(誤)それが素材を活かすということ、とルナールは感じのだろう、とゴローも共感した。

(正)それが素材を活かすということ、とルナールは感じるのだろう、とゴローも共感した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 12月も後半の折り返しになりました、年末年始に向けて更に御多忙なられるかとは思いますが、体調には気を付けて頂きつつ、ゴロー達、仁達、アキラ達の物語を綴って下さいね。
[一言] >(キクラゲかな?) > > ……と一瞬思ったゴローだったが、生のキクラゲはぶにょっとした茶色い塊だ。なのでこれは違う。 うん……キクラゲ旨いけどなんで『くらげ』なんだか似てないし思いつつ検…
[一言] >「『強化(ホプリゾーン)』3倍だ」 >今のゴローにできる最大の『強化(ホプリゾーン)』。 「オラのカラダ、もってくれよ!!」 って幻聴が聴こえるんですが… もしかして、 『強化(ホプリゾ…
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