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10-29 天秤

 帰路は何ごともなく、ゴローたちは『レイブン改』に戻れた。

 その後『レイブン改』は順調に飛行して研究所に到着。


 ヴェルシアはハカセに報告、サナはルルに『分体(ブランチ)』を返しに。

 ゴローは荷物を下ろし、フランクは『レイブン改』を倉庫に格納した。

 そしてポチは庭の奥へと駆け出していったのである。


*   *   *


 その後、ゴロー、サナ、ヴェルシアはハカセに報告を行った。

 『純糖じゅんとう』のお菓子をかじり、お茶を飲みながら。


「…………と、いうわけです」

「なるほどねえ、なかなか有意義な情報をもらってきたね。それにこのお土産」


 長老ジャニスがくれた小さな包みには、生薬のサンプルがいろいろと入っていた。

 名称と説明書き付きで。


「これはあたしとヴェルとで研究しておくよ」

「そうしてください」

「あとはイワタケとマンネンタケ、ねえ」

「はい、向こうでクロエが教えてくれました」

「マンネンタケかどうかは知らないけど、そんな感じのキノコはどっかで見たことがあるねえ……どこだったかねえ……」


 ハカセも思い出そうとしてはいるが、思い出せないようだ。


「ハカセ、ゴロー、キノコのことならミューに聞いてみるといいんじゃない?」

「あ、そうか」


 考え込むハカセに、サナが助言をしてくれた。


「そうだな、この後ミューに聞いてみよう」

「うん」

「そうすると、あとはイワタケだねえ……あれがそうなのかねえ……」

「見たことがあるんですか?」

「あるよ。高い山の上で、岩に生えている黒いくしゃくしゃっとしたやつならね」


 鉱石を探して山を登った時によく見る、とハカセは言った。


「ああ、それっぽいですね」

「あれ? それなら……」


 そこへやって来たルナールが、何か思いついた顔をした。


「イワタケでしたら、ここの上の方に少し生えていましたよ」

「え?」

「……私ども『ジャンガル王国』でもイワタケは食べますから。ただ、高い山の上にしか生えないので採ってくるのが大変ですけどね」

「ほうほう、ルナール、もう少し詳しく聞かせておくれ」

「はい、ハカセ」


 意外にも狐獣人(ビーストマン)のルナールがイワタケについて詳しいようだったので、ハカセはここぞとばかりにいろいろ聞き始めた。

 その間に、ゴローは『エサソン』のミューに、マンネンタケについて聞いてくることにしたのである。


*   *   *


「ええと、マンネンタケ、ですか? ……それって『サルノコシカケ』のことでしょうか」

「サルノコシカケか……」


 このキーワードにもゴローの『謎知識』は反応した。

 サルノコシカケは堅く、棚のような形をしたキノコの総称である。

 それこそ、木に生えた『腰掛け』のようなので『猿』が腰を掛ける、ということで『サルノコシカケ』という。

 おそらく薬効があるのはその一部だろうとゴローは思った。


「薬になる種類って……わからないよなあ」

「いいえ、わかりますよ?」

「えっ?」


「時々、具合の悪そうな森の獣がかじっていますから」

「へ、へえ……」


 ゴローの『謎知識』では煎じて薬効成分を滲出させてそれを飲む、というものだったが、この世界の生物は齧って薬にするらしい。

 いずれにせよ、薬になるものを見分けられればよし。

 どうやら、ミューに聞けば判別してくれそうでもある。


「見つけたら持ってくるから、判定してくれるかい?」

「はい、いつでも」

「うん、その時は頼むよ」


 そうしてゴローはミューと別れ、ハカセたちのところへと戻った。


*   *   *


「ゴローさん、おかえりなさい」

「お帰りなさい」

「おかえりなさい、なのです」

「やあ、アーレン、ラーナ、ティルダ。ここのところあまり顔を見なかったけど、何かやっていたのかい?」


 食事のときくらいしか顔を見なかった3人である。


「あ、ええと、ハカセに頼まれて、部屋を増やしていました」

「ほう?」

「ああ、それね。ゴローとサナは忙しそうだったから、3人に頼んだのさね」

「そうだったんですか」

「うん。で、何の部屋を増やしたかというと、工房さね」

「そうなのですよ」


 宿泊用の部屋は元々なぜか10部屋もあり、今の人数でも余っている。

 が、ハカセとしては、ティルダ専用のアクセサリー工房と、ヴェルシア専用の調合室を用意してやりたかった、ということである。


「あたしの研究室は散らかってるし、埃っぽいからねえ」

「それはハカセが掃除しないからじゃ……」

「……ゴロー、なんか言ったかい?」

「いえ、別に」


 ハカセに限らないが、研究者は自分の仕事場が散らかっていることを気にしない者が多い(個人の感想です)。

 それは『散らかっている』のではなく、『いつでも使えるようにそこにおいてある』からだそうな。

 道具類に関してはそういうことで、ゴミに関しては目に余るようになるとようやく捨てる、といった感じだ。


 もっともこっちにも『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーの『分体(クローン)』がいるので、多少のお手伝いをしてもらえる(本体のある屋敷よりは劣る)。


 アクセサリーのように細かい加工をする、また薬作りのように清潔な環境……とは言い難いので、専用の工房を用意した、ということなのだろう。


 もはやこちらも『家』と化しつつあるな、とゴローは感じている、が、それもまたよし、とも思っていたりする。


(本宅と別荘を行き来するスローライフだってあるものな)


 ……というのが半ば本音かもしれない……。


*   *   *


「へえ、こうなっているのか」

「はいなのです」


 ティルダ専用の工房を見せてもらったが、王都の屋敷のものとよく似ていた。

 同じ配置なら使い慣れているだろうという配慮からだ。


 そしてヴェルシア(とハカセも使う)調合室。


「お、なんかそれっぽいな」

「でしょう?」


 壁と天井は白塗りにして清潔感を出し、薬品用の大きな棚が2つ。

 調合済みの薬を保管する冷蔵の魔導具が2つ。

 がっしりした作業台が1つ。もちろんその上には『薬草用ロールミル』が置かれている。


 まあ、棚はほとんどがまだ空っぽなのだが、そこはこれから埋めていけばいい。


「調合用の天秤がほしいな」

「ですが、分銅が手に入らないので」

「ティルダに作ってもらえばいいよ」

「ですが、重さが……」

「純水1リル(リットル)で1キム(kg)だから、それを利用すれば作れると思う」

「あ、そう……ですね」


 そのためにも精密な天秤がほしいところ。

 が、それは分銅も含め、ハカセのところにあった。


「錬金術には不可欠だからねえ」

「あ、そうですよね」


 軸受部にはルビーが使われ、摩擦抵抗を極限まで減らしている。

 しかもその天秤は……。


「う、『上皿天秤』ですか……? これって、伝説の錬金術師ダングローブが作ったという……」

「それ、多分ハカセだぞ」

「え……ええええっ!?」


 衝撃の事実に驚きを隠せないヴェルシア。

 ゴローとしては、むしろ、今まで知らなかったのかと思っていた。


 ところで『上皿天秤』とは、計量用の皿が上にあるもののことを言う。

 この世界で『天秤』もしくは『天秤秤』と言えば、通常は横棒の両端に皿をぶら下げた形式のものを言う。

 この形式だと、皿をぶら下げる紐が計量の邪魔になる。


 だが『上皿天秤』の場合はそのような邪魔者はない。

 しかし、構造を工夫しないと、ぶら下げ式の天秤に比べて安定しない。

 これを解決したのが、現代日本で『ロバーバル機構』と呼ぶ仕組みである。

 平行四辺形状のリンクを用いることで安定させているのだ。


 これをハカセがその昔に考案した、というわけである。


「ハ、ハカセが、あの……伝説の……」

「うーん、まあ、そうみたいだねえ……自分じゃ全然自覚ないんだけどさ」

「……」


 これまでも十分驚いてきたヴェルシアだったが、まだ驚き足りなかったようである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は12月15日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>>どっかのゲームから >> なんでしたっけ? DQ7からくり兵イベント
[一言] > ヴェルシアはハカセに報告、サナはルルに『分体ブランチ』を返しに。 > ゴローは荷物を下ろし、フランクは『レイブン改』を倉庫に格納した。 > そしてポチは   よっろこっびにっわかっけまっ…
[一言] >>庭の奥へと駆け出していった 仁「そこにアレが設置してあるのか」 明「我慢してたんだな」 56「まぢ?」 >>黒いくしゃくしゃっとしたやつ 仁「・・・・キクラゲ?」 明「それは調理済みじ…
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