10-26 再びのミツヒ村
ゴローはポチを探しに行った。
ポチはわりと気まぐれで、ゴローの部屋に寝そべっていたかと思うと庭でエサソンのミューと戯れていたりする。
どうやらミューと気が合うようなのである。
「ポチー」
「わう!」
ゴローが呼ぶと、庭の方からミューを背中に乗せたポチが駆けてきた。
「あ、ゴローさん、こんにちは」
「やあ、ミュー。楽しそうだな」
「はい。ポチさんと遊ぶの、とっても楽しいです」
「それはよかった。……ところで明日、ちょっとポチを連れて出掛けようと思うんだが」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「ポチもいいか?」
「わふ」
いいよ、と言っているような気がするので、ゴローはポチの頭をひと撫ですると、それじゃあ明日、と言って研究所に戻ったのだった。
* * *
「いいそうです」
「そうか……って、ゴローは本当にクー・シーの飼い主になったんだねえ」
「よくわかりませんが」
「まあいいさね。それじゃあ明日の朝、行っておいで。……誰と誰が行くんだい?」
「俺とサナ、それに……ヴェルシア、行ってみるか? 薬草の話があるし」
「あ、それじゃあ行ってみます」
そういうわけで、『ミツヒ村』へはゴロー、サナ、ヴェルシア、それにポチが行くことになった。
「あ、『レイヴン改』の留守番はどうしよう……」
「んん……」
「道案内も兼ねて、またフロロ……じゃない、ルルに頼もう」
「そうだな」
『ミツヒ村』には隠蔽系の魔法というか幻術というか、そうした術が掛かっている。
それを無効にできるのはフロロやルルのような精霊が適任なのだ。
「ルルに枝をもらって、来る」
今度はサナが庭へと走り出ていった。
そして3分もすると戻ってくる。
「もらってきた。花瓶に水を入れて差しておけば4、5日は保つ、って」
「わかった」
これで留守番も道案内も心配いらない。あとは明日、『ミツヒ村』へ行くだけである。
* * *
「ああ、これはいいね」
「便利ですね」
ハカセとヴェルシアは、さっそく『薬草用ロールミル』を使い、乾燥した薬草を擂り潰している。
手でゴリゴリやっていた時に比べ、4倍くらい効率がアップしたようだ。
「……たくさんできたねえ」
「できましたね」
ハカセとヴェルシアの前には、粉砕されて粉になった薬草=生薬が。
「保存容器に入れて保管しましょう」
「それがいいね」
いっぺんに全部を使う必要もないので、乾燥させ冷暗所で保存することにした。
その様子を見たゴローは、『だんだん『薬種問屋』みたいになっていくなあ……』と思ったらしい。
* * *
そして特に何ごともなく、1日が暮れた。
ゴローとサナはそれぞれの寝台に寝転がり、『念話』で話をしている。
〈明日は『ミツヒ村』だな〉
〈うん〉
〈前に行ったのが春だったから、かれこれ3ヵ月くらい前か〉
〈かげつ、って何〉
〈え? ……あ、そういえば、こっちでは今何月って言わないな〉
そこでゴローは、自分の知る『箇月』の概念を説明して聞かせた。
〈……それもゴローの謎知識? すごく便利そう。だけど、この世界では『春』『夏』『秋』『冬』という季節でしか分けていない〉
〈みたいだな。日付は?〉
〈『春の45日』みたいな表現をする〉
今更ながら、ようやくこの世界の『暦』を知ったゴローであった。
〈そうすると、今日は?〉
〈多分、『夏の27日』〉
〈1年って何日あるんだ?〉
〈確か368日〉
〈すると四季は92日ずつ?〉
〈そう〉
〈なるほど……〉
ここへきて、ようやく暦の全貌が見えてきた思いのゴローだった。
〈あんまり暦って使わないよな〉
〈それは、同感〉
〈ということは、季節の移り変わりに鈍感なのか?〉
〈どうして?〉
〈これまで会った人たちってさ、それほど日付を気にしてはいなかったからさ〉
〈……あ、確かに〉
〈だからさ〉
〈ゴローが言いたいことは、わかった。確かに、のんびりしているかもしれない〉
〈だよなー〉
などと、他愛ない話を念話で交わす2人だった。
* * *
そして翌日。
暦で言うと『夏の28日』となる。
朝食を済ませ、『クレーネー』から『癒やしの水』をもらってきてハカセに渡す。
今日は2リル近くももらうことができた。
「少しもってお行き。何かの役に立つかも知れないから」
「あ、そうですね。それじゃあ0.5リルくらい」
「うん、それでいいよ」
そういうわけで『癒やしの水』を0.5リルほど瓶に入れて持っていくことにした。
その他の荷物は前日に積み込んでおいたので問題なし。
「それじゃあ、行ってきます」
「気をお付け」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「ポチも気を付けてね」
「わふ」
ゴロー、サナ、ヴェルシア、ポチ、そしてルルの分体を乗せた『レイヴン改』は研究所の空に舞い上がった。
そのまま南へ向かい、『ジメハーストの町』が見えたら左すなわち東へと向かう。
「あ、このへんで着陸したほうがいいわ」
「わかった」
ナビゲーターとして乗ってもらっている『木の精』のルルの分体の指示に従い、ゴローは『レイヴン改』を下降させる。
「あ、何か見覚えのある広場があるな」
以前着陸した場所らしい、とゴローは、ルルの分体の指示の確かさに感心するのだった。
* * *
「それじゃあここは、ピクシーに見張らせておくわ」
「頼むよ」
『レイヴン改』の留守番にはルルの分体が呼び寄せたピクシー5体に任せる。
お礼は『樹糖』だ。
「それじゃあ、頼むわね」
ルルの分体の言葉に頷いたピクシーは『レイヴン改』の周りを飛び回っている。
非力な妖精に見えるが、近寄る人間や低位の魔物を『化かす』ことくらいはできる。
加えてルルが簡単な領域設定をしていくので、中位の魔物も近寄らないだろう。
高位の魔物はこの辺にはいないのでこれで十分である。
「さ、それじゃあ、出発!」
「よし」
「うん」
「は、はい」
「わう」
ゴローが荷物を背負い、サナとヴェルシアは自分の荷物を持って出発だ。
ルルの分体はサナの手の中にいて、方向を指示してくれる。
先頭がサナ、真ん中がヴェルシア、殿がゴロー。
ポチは……遊撃?
そんな一行は、かすかな踏み跡を辿って森の中を行く。
ルルの分体のおかげで虫も寄ってこないので助かる。
「そこの大木の間を通って」
「その大岩は右に回り込んで」
「そこは真っ直ぐでいいわ」
などというアドバイスを聞きながら進む一行。
そしてついに……。
「着いた」
「うん」
「ここが……」
「わふ」
ゴロー一行は『ミツヒ村』に着いたのだった。
* * *
「おお、誰かと思えばゴロー殿とサナ殿ではないですか、ようこそ」
「ゴロー殿、サナ殿、ようこそ!」
村長ジクアスと護衛のイーサスが出迎えた。
というより訪問者があるようなので様子を見に来たらゴローたちだった、というわけだ。
「お久しぶりです。……この人はヴェルシア、我々の仲間です。それにこっちはポチ、クー・シーです」
「ク、クー・シー…………相変わらずゴロー殿は精霊に好かれますなあ」
村長ジクアスが半ば感心、半ば呆れたように言った。
「それで本日のご用向は?」
「薬草についてお伺いしたくて」
「なるほど、でしたらダークエルフの集落ですな。……イーサス殿、案内して差し上げてくださいますか」
「お任せを」
そうしてゴローたちはイーサスの案内でダークエルフの集落へと向かったのである。
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次回更新は11月24日(木)14:00の予定です。