10-12 神話
ヴェルシアはゴローのナイフを『古代神具』と呼んだ。
「『古代神具』?」
「そうですよ! はるか昔、神話の時代に神々が使っていたといわれる道具です。それがごくまれに出土するんですが、それを教会関係者は『古代神具』と呼ぶんです」
「神話の時代?」
「ええ。……『教会』ではそう呼んでました」
ヴェルシアは簡単に説明をする。
* * *
太古の昔、神々は天上で暮らしていた。
その生活に少し飽きた神々の幾柱かは地上に降り立ち、暮らし始めた。
暮らすとは言っても、休暇を観光地で過ごすような感覚であり、終の棲家としたわけではない。
そんな地上には人間が暮らしていた。
神々の姿は人間そっくり……いや、神々が自分たちに似せて人間を作ったのだが。
神々はそんな人間に、戯れに『知恵』と『力』を授けた。
神々にしてみれば、ペットを構うくらいの感覚であったのだろうが、人間にとっては大いなる福音であった。
『知恵』は言葉、衣服、食べ物、家、そして道具。
『力』は『武器』と『魔法』。
神々が使う技術は『神技』、法術は『神法』と呼ばれた。
対して人間が使えるように簡易化された『神技』はただの『技術』、『神法』は『魔法』と呼ばれるようになった。
人間は神々の庇護下にあって、かつてない繁栄の時を迎えた。
ところで、神々は長命で、その1日は人間の100年にあたるという。
神々は短い遊興を地上で楽しんだ後、やがて天上へと戻っていった。
だが地上では1000年が経っており、その間に神々から受けた影響は計り知れない。
しかし。
神々がいなくなった世界は次第に荒廃していく。
人ならぬ人……『亜人』が現れ、繁殖し始めた。
山は火を噴き、地は鳴動し、海は荒れた。
祝福された黄金の時代は去ったのである。
『人族』という分類がなされたのはこの頃である。
人族は亜人たちと時には争い、時には手を取り合って激動の時代を乗り越えた。
やがて、繁栄の時も激動の時も歴史の彼方に去り、世界はそれなりに落ち着きを取り戻した。
時折、『神話の時代』の道具類が出土するので、過去にそうした時代があったことがわかる。
『教会』は、『神々』が自らの姿に似せて作った『人族』を至上の存在とみなし、いつの日か再び『神々』が地上に降臨される日のために世界を浄化する役割を自ら選んだのである。
* * *
「……と、いうのが『教会』に伝わる『神話』の概要です」
「……ふうん……なんだか、人族に都合のいい改変がところどころなされているみたいだねえ」
「はい。私も、今となってはそう思います」
『教会』による『洗脳』から解放されたヴェルシアの判断は、少なくともハカセやゴローたちと大きく異なるようなことはない。
むしろ『事情通』ということで、ハカセたちは非常に助かっている。
* * *
そんな話をしていると、フランクが戻ってきた。
「ただいま帰りました」
「おお、ご苦労さん、フランク。それじゃあこっちの容器にあけておくれ」
「はい」
フランクは担いできた袋の中身をもう1つのコンテナにあけた。
「フランク、これは凄いね……」
1度目の採集で要領を掴んだフランクは、2度目の採集では、
ラピスラズリ 25個
紫水晶 10個
めのう 7個
蛍石 10個
黄鉄鉱(結晶)10個
コランダム(薄いピンク) 15個
鉄ばんざくろ石 67個
白金族 35個
砂金 3個
という成果となった。無価値の石は1つもない。
さらにフランクは、
「もう一度行ってきます」
と言って、三度ズーミ湖へと向かったのである。
「すごい成果だねえ。なのにもう一度行っちまったよ……」
「そうそうこっちへ来るとは思えませんから、いいんじゃないですか?」
「まあそうだねえ」
などと言いながら鉱石を仕分けしていくゴローたちであった。
* * *
そして3度目の成果。
ラピスラズリ 21個
紫水晶 12個
めのう 9個
蛍石 9個
黄鉄鉱(結晶)14個
黄銅鉱 9個
コランダム(薄いピンク)17個
鉄ばんざくろ石 43個
白金族 56個
砂金 5個
……で、ある。
これで合計は、
ラピスラズリ 52個
紫水晶 27個
水晶 9個
めのう 21個
蛍石 31個
黄鉄鉱 26個
鉄ばんざくろ石 132個
コランダム(ほぼ透明) 8個
コランダム(薄いピンク) 32個
白金族 94個
砂金 8個
色がきれいなだけの石 34個
となる。
「これだけあれば、いろいろできそうだねえ」
「少ないけど、砂金も採れるんですね」
「石英鉱脈があるからかもしれませんね」
『謎知識』を参照しつつゴローが言う。
「なるほどねえ。鉱物ってそれぞれ、関連性があるわけだからね。ベテランの『山師』が鉱脈を見つけられるのもそういう経験に基づいた知識があるからだろうね」
ハカセはゴローからの情報をそう解釈したのだった。
* * *
「じゃあ、そろそろ採集はいいから、夕食にしようかねえ」
「そうですね」
いつの間にか日は落ち、時刻は午後7時になっていた。
夕食も保存食。
魚を捕まえようかとも思ったのだが、フランクが、
「この湖ではほとんど魚を見かけませんでした」
と報告したので諦めたのだった。
そういうわけで、夕食は用意してきたラスクとベーコン、それにドライフルーツ類を食べて終了。
食べ終わって一服しているうちに周囲が真っ暗になったので『ALOUETTE』で飛び立ち、暗闇の中、北を目指す。
「短かったけど、楽しかったのです」
「虫には辟易したけどねえ」
「本当ですね……」
そして日付が変わって午前1時、研究所の明かりが見えてきた。
「やっぱりああして目印があるといいねえ」
「ですね。何か、離れても出発点がわかるような魔道具があると便利そうですが」
「それは面白そうだね」
ゴローの何気ない要望を聞いたハカセは、非常に興味を惹かれたようであった……。
* * *
「おかえりなさいませ」
「ご無事のご帰還、お喜び申し上げます」
研究所前に着陸すると、ルナールとマリーが出迎えてくれた。
「うん、ただいま」
「ふあ……とりあえず寝るよ」
「はい、ごゆっくりお休みください」
ハカセとティルダ、ヴェルシアはもう眠そうだ。
詳しい話は明日。荷降ろしはフランクにお任せ。
一同、朝までの短い時間を研究所で寛ぐのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月18日(木)14:00の予定です。
20220811 修正
(誤)そして日付が変わって午後1時、研究所の明かりが見えてきた。
(正)そして日付が変わって午前1時、研究所の明かりが見えてきた。