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10-06 帰宅

 ゴローに対し、『我らが国へ来い』と言ってのけたバラージュ国の使者。

 折りよくそこにローザンヌ王女がやってきて、それをさえぎってくれた。


「ほう? 王女はこの者にご執心か?」

「そうかそうでないかと問われたなら『そうだ』とお答えしましょう」

「ほほう、これは面白い」


 はたで聞いているゴローとしては、ちっとも面白くないよ、と言いたかった。口には出さないが。


「この者は平民であろう?」

「いいや、ゴローは我が国で『名誉士爵』、ジャンガル王国で『名誉男爵』を叙爵している」

「ほう……」

「ふん、ケダモノの国と蛮族の国での爵位に何の意味があろう」


 正使イポメアー・サガは少し感心したようだったが、副使のラミウムス・ノザはさらに傲慢な口を利いた。


「イポメアー殿、このような獣臭い男にはもうお構いなさるな」

「……」

「我々にまで獣臭さが移りますぞ。おお臭い臭い」

「…………」


「ラミウムス殿、それくらいにしてもらおうか」


 あちゃー、とゴローは思った。

 この流れなら、もうすぐ退席できそうだったのに……と。

 ゴローの代わりにローザンヌ王女が憤ったのである。


「ゴロー……ゴロー・サヴァナ殿は我が王家にとっても恩人である。それを一方的におとしめられては、黙っているわけにはいかぬ」


 ゴローは、代わりに怒ってくれたローザンヌ王女の心情をありがたく思うと同時に、これで余計に面倒なことになるという予感も持つのだった。


「ほう、黙っていないというのは、具体的にどうする気かな、王女様?」

「……もうやめなさい、ラミウムス」


 エスカレートするラミウムスの暴言を止めたのは正使のイポメアー。

 だがそれは、


「蛮族と言い合いをするというのは、同じ地面に立つことですよ」


 という言葉でも分かるとおり、2国間の仲を気遣ってのことではなかった。


(……これがエルフか……ハカセが言ってたことがよく分かるな……)


 当事者であり傍観者でもあるゴローは、どこかめた意識で言い合いを聞いていた。


「……と、いうことだ、ゴロー、アーレン。ここから去ろう」

「あ、はい」

「待て」

「いや、待たぬ。そちらも蛮族と同席するのは気分が悪かろう。ゆえに出ていく。行くぞ、ゴロー」


 そしてゴローとアーレン・ブルーは、ローザンヌ王女に半ば引きずられるようにしてその場を退席したのであった。


*   *   *


「済まぬな、ゴロー、アーレン」

「いえ……」

「助かりました」


 ゴローの言葉は本心からだった。

 あの場に長居していたらどうなったか、まるでわからない。

 それは『謎知識』も教えてはくれなかったのである。


「でも、よかったんですか?」

「うん? 何がだ?」

「エルフたちの機嫌を損ねるようなことをして、ですよ」


 バラージュ国からは貴重な薬品を購入しているということを聞いているだけに、外交への影響を考えるゴローである。


「構わぬ」


 思いがけぬ言葉が王女の口から出た。


「まだ非公式だが、そろそろ薬のことでバラージュ国に依存するのはやめようという動きが出ているのだ」

「そ、そうなんですか」

「……そ、それを我々に聞かせていいんですか?」

「本当はいけないんだろうがな……まあよかろう」

「そんなあ」


 どうやら勢いで口にしてしまったらしいローザンヌ王女であった。

 アーレン・ブルーはそう聞かされて少し腰が引けている。

 無理もないなとゴローは少し同情した。


 ローザンヌ王女は構わず話を続ける。


「さすがに連中も、いきなり薬の供給をストップするようなことはするまい」

「でも、されたら大変なのでは?」

「……一応半年分くらいのストックはあるし、我が国でも薬の研究・開発は進めているからな」

「そうなんですね」

「うむ。だからゴロー、アーレン、気にするな」

「はあ……」

「そう言われても……」


 ゴローもアーレンも渋い顔をせざるを得ない状況である。


「……そうだ、輸入している薬について、教えてもらえませんか?」

「うん? ……ああ、『天啓』でなんとかなるかもしれんということか?」

「まあそうです。……当てにしてもらっても困りますが」

「そうだな。最早ゴローもアーレンも無関係ではないしな。よかろう。ついてこい」


*   *   *


 ローザンヌ王女に導かれ、到着したのは王城の地下。

 温度変化の少ない場所で、倉庫が多い。酒蔵さかぐらや食料庫もこの階にある。


 その倉庫の1つが薬品庫であった。

 警備の兵がいたが、ローザンヌ王女は顔パス。

 お供のゴローとアーレンも問題なく中に入ることができた。


「ここが薬品庫だ。どうだ、ゴロー、アーレン?」

「すごいですね」


 広さは高校の教室2つ分くらいか。

 所狭しと棚が並んでおり、そこに薬が分類されて置かれている。


 ほとんどの棚はいっぱい、あるいは9割方埋まっていたのだが、2箇所ほどガラガラの棚があった。


「ここは?」


 ゴローが尋ねると、ローザンヌ王女は残念そうに言う。


「うむ、そこの2つが問題なのだ」

「何の薬ですか?」

「解熱剤と腹痛の薬だ」

「ああ……」


 確かにその2つは需要が大きそうだ、とゴローも納得した。


「で、それぞれ、どんな薬なんですか?」

「どちらも丸薬だ。特有の薬臭い臭いがする。それ以上は……わからん」

「そうですか……」


 考え込むゴロー。その様子を見たローザンヌ王女は、


「やはりここを見たくらいではゴローの『天啓』は閃かないか」

「はい、すみません」

「いや、責めているわけではないから気にするな」


 だがゴローは諦めない。


「もし、よかったらほんの少し、サンプルをいただけませんか?」

「む? ……そうだな、ほんの少しだぞ?」

「はい」


 もしかしたら、ハカセとヴェルシアに協力してもらえば作れるかもしれない……とゴローは期待したのだ。

 それで、丸薬状の薬をそれぞれ3粒ずつもらったのである。


「さて、それでは帰ったほうがいい」

「……いいんですか?」

「よい。呼び出しの目的は達成したのだ。それ以上のことなど知るものか。何かあったら私の責任で済ませてやる」

「……申し訳ない気がします」

「構わんと言ったろう。特にゴロー、お前は私の命の恩人でもあるしな」


 狙撃犯の弾丸から守ったことを言っているのだ。


「……それでは、お言葉に甘えまして」

「うむ。……そうだ、できれば王都から離れてもいいかもしれん」

「心に留めておきます」

「そうしろ。使用人が使う出入り口を教えてやるから、そこから帰るといい」

「ありがとうございます」


 そういうわけで、ゴローとアーレンは王城からこっそりと帰ることができたのであった。


*   *   *


「ゴロー、おかえり」

「大変だったみたいだねえ?」


 サナとハカセが迎えてくれた。


「はい、聞きしに勝る酷さでした」

「やっぱりかい」

「でもローザンヌ王女が便宜をはかってくれまして」

「そうだったのかい」

「ええ。で、できれば王都を離れていたほうがいいとも言われました」

「そうかい。それじゃあ今夜、『研究所』へ行こうかねえ」

「そうですね。あ、行くならアーレンも誘いましょう」

「そうだねえ」


 そこでゴローたちは研究所へ行く支度を始めた。

 ブルー工房のアーレン・ブルーにはルナールが知らせに行く。おそらく十中八九行くと言うであろうが。


「夜中の11時には出発しないとね」

「そうですね。あ、俺、ちょっと食材を買ってきます」


 今は午後8時半。


 少々ばたばたしたが、午後10時にはすっかり支度が調ったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により7月7日(木)14:00の予定です。


 20220630 修正

(誤)副使のラミウムス・ノザはさらに傲慢な口を聞いた。

(正)副使のラミウムス・ノザはさらに傲慢な口を利いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 解熱剤と腹痛の薬ですか。 解熱剤はともかく「腹痛の薬」は一種類しかない雰囲気なのが怖い話です。
[一言] >解熱剤と腹痛の薬だ~どちらも丸薬だ。特有の薬臭い臭いがする。それ以上は……わからん ・腹痛の薬=正露丸?。 ・解熱剤=サブロン顆粒? 調べてみましたが違うかもしれません。
[一言] >10-06 帰宅 あ無事帰ってこられたんだ? ゴ「じゃなくて、バラージュ国にお帰り願っt ゴ「な訳ないだろうが(呆」めんどおくさいし ←でも言いたいよね~、(・∀・)カエレ!!って >(…
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