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01-20 行商人との再会

遅れまして申し訳ございません

 翌朝、6時頃にティルダは目覚めた。

「よく寝たのですよ。おかげですっきりなのです」

「そりゃあよかったな」

「ゴローさんのおかげなのです。今日はばりばり働くのです!」

 張り切るティルダ。その前に朝食だ。

「悪いとは思ったけど、台所借りたよ」

 ゴローは5時前には起きて、朝食の準備をしていたのだ。

 まず、フライパンに油を引いて、練った小麦粉を流し、ミルクがあればな……と思いながらクレープ生地のようなものを作った。

 そこに干しイチゴを挟んだり木イチゴジャムを塗ったりして食べるのだ。


「お、美味しいのです!」

「うん、甘くて美味しい」

 ティルダもサナも喜んで食べていた。ただ、

「もう砂糖がないな……」

 ティルダのところにも、またゴローとサナの荷物にも、砂糖はからっ欠になってしまったのだ。

「買いに行こう」

 間髪を入れずサナが提案する。それにはゴローも賛成であった。

「ああ。どうせ今日は町を見て歩く予定だしな」

 ただし、もう少ししてから、だが。

 何せ時刻はまだ午前7時前である。


*   *   *


 大半の店が開く午前8時までは、ティルダの作業を見学していたゴローであったが、

「店が開く頃。ゴロー、行こう」

「わかったよ」

 と、8時少し前になるとサナにせっつかれて出掛けることにした。

 買い物もする予定なので、肩掛けのバッグも持っていくことにする。

 中には、ハカセからもらった素材を、適当に少し入れておく。万が一、高価なものがほしくなった時にお金に替えられるようにだ。


 まずは中央公園へ。

「へえ……」

 植え込みには花が咲き、街路樹の影にはベンチもあって、なかなか整備された公園である。

 が、意に反して、まだ軽食の屋台は営業していない。

「それもそうか」

 時刻は午前8時を回ったところ。普通の人間は朝食を済ませたばかりのはずだ。

「……むう」

「しょうがないさ。先に両替しに行こう」

 アテが外れて残念そうなサナを宥め、まずは買い物をするためのお金を両替しに行こうとゴローは言った。

 『ジメハースト』の町で、少しだけ両替しただけだったのだ。

「……うん」

 ということで、両替屋のある商店街へとまず向かった2人。

「ここは?」

 何軒かある両替屋のうち、一番公園から近い店の前で立ち止まり、ゴローはちらと中を覗いてみた。

「……うーん、やめよう」

 そこには、ティルダに金を貸した『シャロッコ』という男の店だったのだ。

 なんとなく気にくわないので、100メル()ほど離れた場所にある両替屋に行ってみることにした。

 シャロッコがいた店よりは小さいが、なかなか凝った作りの両替屋だった。

 ゴローとサナが入っていくと、『いらっしゃい』と、カウンターの向こうにいた、店主らしき中年の男が声を掛けてきた。


「ええと、両替をお願いしたいんですが」

 ゴローが用件を言う。こういう場面ではサナは黙っていることにしたようだ。

「手数料は5だが、いいかね?」

 以前手数料は5から1割、と聞いていたので、これなら良心的価格だろうとゴローは判断した。

「ええ、お願いします」

 ゴローはゴル金貨を2枚、カウンターに置いた。

「ほう、これは……」

 店主らしき男は、その硬貨をつまみ上げ、目のそばに持っていき、しげしげと眺めた。

「なかなか綺麗な硬貨ですね。未使用とまでは言えないが美品ではある」

 そしてこんどは天秤を取り出し、1枚ずつ重さを量った。

「間違いなくゴル金貨、それも150年ほど前に作られたものですね。これでしたら、手数料を引いて2枚で21万シクロでどうでしょうか」

 それを聞いてゴローは驚いた。ゴル金貨のできた年代で価値が異なるということ、そしてハカセがくれた金貨が、そうした値打ちモノだったということに。

(確かに、硬貨って発行年で価値が違うっていうからなあ)

 ……と、謎知識は謎知識として、

「それでいいです」

 ゴローは21万シクロを金貨1枚、銀貨100枚、白銅貨100枚にしてもらった。

「これはサービスです。いい取引ができました」

 美品、未使用品のゴル硬貨、特に金貨は蒐集家しゅうしゅうかがいるのだそうで、サービスに財布用の革袋をくれたのである。


「重くなったな」

 念のためサナとゴローで半々に分けておく。

 両替屋でもらった袋に入れた金はサナ、今までの袋に入れた金はゴロー。

 買い物をする気もあるので、2人とも肩掛けの袋を持ってきていたから、そこに金をしまった。


「じゃあ、買い物しよう?」

「そうだな」

「まず、お砂糖」

「わかったよ」

 ゴローは苦笑しつつ頷いた。

 そこで砂糖を売っていそうな店を探す。

 すると、かなり大きな店が目に付いた。

「雑貨屋……かな?」

 見たところ、乾物系の食料品や、日用品を売っている店のようだ。

 店を覗き込んでいたら、見知った顔を見つけた。

「あれ? あの人……」

 それは、カーン村に来ている行商人であった。

 そこで、ゴローとサナはその店に入ってみることにした。

「いらっしゃ……あ、サンちゃん、ゴー君」

 行商人も2人を見つけて驚いた顔をした。

「行商人さんは、この町に住んでいたんですか」

「うん、そうなんだ。……その『行商人さん』はやめてもらえるかな? 俺はアントニオ。アントニオ・マッツァっていうんだ。このマッツァ商会のせがれさ」

「あ、はい」

 行商人の名前を初めて聞いた2人だった。


「で、2人はどうしたの?」

「ええと、広い世の中を見て回ろうと旅に出たんですよ」

 さすがに本物の行商人を前にして『行商人見習いに』とは言えなかったゴローである。

「へえ、そういうのもいいなあ。……おっと、お客様、何かお入り用でしょうか」

 店の奥から、父親らしき中年の男が出てきたので、アントニオはフランクな口調を改め、店員としての態度に早変わりした。

「ええと、砂糖を探してます」

「砂糖ですね。こちらでございます」

 アントニオは2人を店の奥に案内した。

 そこには、壺に入った砂糖と、大袋に入った砂糖とが置かれていた。

「大袋の方が割安になっております」

「単価は? おいくらですか?」

「大袋は10キム(kg)入りで5000シクロ。壺は1キム(kg)入りで600シクロです」

「うーん、どうしようかな」

 壺入りの方は、おそらく壺の単価も入っているのだろう、やや割高である。

 大袋は……さすがに多いような気もする。

 そうやってゴローが悩んでいると、見かねたサナが結論を出した。

「大袋で」

「……わかったよ」

 荷物が10キロ増えたところで問題はないのだ。

「毎度ありがとうございます」

 ということでゴローとサナは砂糖を10キム(kg)、購入したのであった。


 その他にも、何か買っておいた方がいいようなものはないかと、店の中を回ってみるゴロー。

「ああ、ここってアクセサリーも扱っているのか」

 さすが雑貨屋、と思っていると、

「うちは『なんでも屋』ですからね」

 と、アントニオの父親らしき男の声が。

「ええと、ゴーさん、サンさん、でよろしいのでしょうか? 私はアントニオの父親でこの商会のあるじ、オズワルド・マッツァと申します」

 やっぱり父親だったか、とゴローは納得した。

 茶色の髪に茶色の目、それに体格もよく似ていたからだ。

「あ、これはどうも。俺はゴロー、こっちはサナと言います」

「ゴローさんにサナさんですか。こいつは、お客様の名前すらちゃんと覚えないで……」

 こつん、とアントニオの頭を叩くオズワルド。

「痛えよ、父さん」

 が、オズワルドはアントニオの苦情には取り合わず、

「あなた方がカーン村からお見えになったということで、少々ご相談したいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

 と尋ねてきた。

「ええ、大丈夫ですが……」

 とゴローが答えると、

「それでは、こちらへいらしてください」

 と、奥へといざなうオズワルドであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月25日(日)14:00の予定です。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばアントニオさん村で名前を名乗らなかったのだろうか?(下手したらカーン村全員行商人さんとしか覚えてない………………?)
[良い点] なんか『謎知識』が四○元ポケットに思えてきた件w いいぞもっとやれ。どんどんチートしてください。 [一言] >「あ、これはどうも。俺はゴロー、こっちはサナと言います」 >「ゴローさんにサナ…
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