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09-38 解れゆく心

5月は家のことでいろいろと忙しく、少し短めです……。

 ゴローと助司祭の問答は続いている。

 ゴローとしては、多少の詭弁きべんを用いてでも、助司祭に『自分で考える』きっかけを与えたいと思っているのだ。

 それで、本来の己の宗教観とは異なるようなことも口にしている。


「人は弱いものだ。時には何かにすがりたくなることもあるだろう。迷うこともあるだろう。そんな時に助けになってあげるのが宗教の役割の1つじゃないのか?」

「それは……そうかもですが……」

「他にもあるぞ。『いつでも神様が見ている』という意識を持てば、おのずと生活態度はりっせられるだろう」

「……」

「それなのに、君たちがやっていることはどうだ? 国と国との関係を壊そうと画策してみたり、人を平気で傷つけようとしてみたり」

「それは……」

「そんな行為が、本当に神の御心に叶うと思っているのか?」

「う…………」


「ゴロー、そのへんにしておきな」


 ハカセがゴローを止めた。

 助司祭は項垂うなだれ、考え込んでいるようである。


「あんたはまだ若いんだ。道を誤っても、また戻ってくればいいのさ。少し、考えてみるといいさね。……ゴロー、この子をどこかの部屋に連れて行ってやっておくれでないか?」

「はい」


 ハカセに言われ、ゴローは縛り付けた椅子ごと抱え、使っていない部屋へと助司祭を連れて行った。

 中には小さいテーブル、スツール、それに簡素な寝台が置かれている。一応簡易トイレもある。本来は使用人用の部屋の1つなのだ。

 窓もなく、ドアが1つだけなので、逃げられる心配は少ない。

 まして『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーがいるのだから。


「少しゆっくり考えてみな。あとで食事は持ってきてやるよ」


 そう言葉を掛け、助司祭の縄をほどいた後、ゴローはドアを閉めた。

 外から鍵は掛けられないので、ドアの前に大きなテーブルを運んできて置いておく。


「さて、少し遅いけど、あいつに何か食べるものを用意してやらないとな」


 こういう時は『温かいもの』『甘いもの』が、かたくなになった心をほぐす定番である。


 軽めのもの、ということで飲み物は『蜂蜜レモン(ホット)』。それにラスクを用意したゴロー。

 ドアの前のテーブルをどかし、そっとドアを開けてみると助司祭はまだ考え込んでいるようだったので、小テーブルの上にトレイごと置いて出ていったゴローであった。


*   *   *


「………………」


 考え込んでいた助司祭が、ふと気がつくと小テーブルの上に湯気を上げる飲み物と、固いパンのようなものが置かれていた。

 昼から何も食べていなかった助司祭は『蜂蜜レモン(ホット)』を一口。


「美味しい……」


 空腹にしみわたるような温かさであった。

 そして固くなったパンのようなものをかじる。

 それは思いがけずさっくりと砕け、口の中でほろほろと甘さが溶けていく。


「甘い……」


 ふと気がつくと、助司祭は頬が濡れていることに気がついた。

 思えば、このような食べ物を口にしたのはいつぶりだったか、思い出そうとしても思い出せない。

 はるか昔……、子供の頃に食べて以来だったような気がする……と助司祭は思い、涙を流しながらラスクを食べ、蜂蜜レモンを飲むのだった。


*   *   *


 ゴローたちはリビングで話し合っていた。


「まあ、寝床もあるし、明日までほっといてやりな」

「それでいいんでしょうか?」

「自分で考えないと駄目だからねえ。おそらく、『教会』の呪縛は少し緩み始めているよ」

「だったらいいんですが」

「まあ、おかしなことしないように、マリーちゃんに頼んで見張ってもらったほうがいいかもねえ」

「お任せください、ゴロー様」

「わかった、頼むよ」


 というわけで、そろそろ休むことに。

 ハカセ、ティルダ、ルナールらは少し疲れた顔をしていたようだ……。


*   *   *


 さて、翌日。

 早めの朝食を済ませたゴローたち。


「あの助司祭はどうしているかな?」

「朝食を持って行きがてら見てくれば?」

「そうだな」


 サナの助言に従い、ゴローはトレイの上に朝食のパンとスープ、ホットミルクとデザートの木イチゴを載せ、助司祭を閉じ込めた部屋へと向かった。

 ドアの前に置いたテーブルをどかし、一応ノックをしてからドアを開ける。その間トレイはテーブルの上に置いておいた。


「おはよう」

「……おはようございます」


 助司祭はもう起きており、身支度を整え、ベッドに腰掛けていた。


「よく眠れたか? ……朝食を持ってきたよ」

「はい、昨夜はそこそこ眠れたような気が……します」

「そっか。ここに置いておくよ」

「ありがとうございます」


 朝食を載せたトレイを置き、昨夜の『ラスク』と『蜂蜜レモン(ホット)』を載せておいたトレイを持って、ゴローは部屋を出ていった。


*   *   *


「……どうだった、ゴロー?」


 リビングに戻ると、サナが聞いてきた。


「うん、随分と落ち着いてるな。大分素直になった……ような気がする」

「そう、よかった」

「ゆっくり休めれば、洗脳も解けるよ」

「そうですよね」

「長い時間を掛けて刷り込まれた思想なんだ。ゆっくりほぐしていけばいいさね」


 ハカセの言葉に、ゴローは頷いた。


「で、今日はどうするね?」

「そうですね……きっとお城からなにか言ってきそうな気がします」

「ああ、そうだねえ。……そんじゃあたしは奥へ引っ込んでいることにするよ」

「そうしてください」


 目立つことと面倒なことが大嫌いなハカセであった……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により5月19日(木)14:00の予定です。


 お知らせ:12日(木)は夕方まで不在となります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20220512 修正

(誤)「それでいんでしょうか?」

(正)「それでいいんでしょうか?」

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― 新着の感想 ―
こういった宗教で良く問われる事は自分が信じる神様の前で誇れる事をしているかだよね それによって幸せな人が居ましたか?といった感じで プルス教は信者に小さな暖かさすら与えないんかね?(こういった優しさ…
[一言] > それで、本来の己の宗教観とは異なるようなことも口にしている。 の『己』って、ゴロー?『謎知識』?? ゴ「元は『謎知識』だろうけど、既に俺のものになってるよ」 ←かな? >「人は弱いもの…
[一言] >>問答は続いて 仁「押し?」 明「禅?」 >>う………… 仁「わーん?」 明「mゲフンゲフン」 56「後者、何を言おうとした?」 >>縛り付けた椅子ごと抱え 腐「何という・・・」fns…
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