09-32 納品
ゴローは『新型ヘリコプター』を高度500メルまで一気に上昇させ、ついで水平飛行に移った。
この高度なら、下方からの『丸い』弾丸は勢いが弱まるから、ダウンウォッシュだけで防げるだろうと考えたのだ。
また、もし届いたとしても、弱まった勢いでは金属製の外皮はそうそう貫けはしない。
上空から見下ろすと、王城前広場には大勢の見物人が集まっているのが見えた。
アーレン・ブルーが運転する『新型自動車』も、到着する寸前だ。
「よし、下降するか」
エンジンの出力を下げ、一気に降下するゴロー。
狙撃の狙いを付けにくくする意図もある。
下降するに連れ、集まった群衆の声もよく聞こえてくる。
「おお! すごいぞ!」
「王国バンザイ!」
王国を称える声がほとんどである。
そんな中へ、ゴローは『新型ヘリコプター』を降下させていった。
* * *
一方、アーレン・ブルー。
ゴローの屋敷を出たあとは、まず北西通りを王城へ向けて走り、環状2号に出て反時計回りに王都の南側へと向かった。
これは前日、ゴローと打ち合わせていたコースである。
このルートだと、建物の高さが揃っており、遠くから狙撃しづらいのだ。
以前、(おそらく)教会の尖塔あたりから狙撃されたゴローの体験から来た対策である。
そして同乗するサナが『空気の壁』を展開している。
「ここまでは順調ですね」
「うん」
「サナさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫」
ゴローのものより少し効率は落ちるとはいえ、サナも『哲学者の石』を持っているので、魔法の連続行使はお手の物。
『空気の壁』を何時間でも維持していられるのだ。
そして南通りを左折し、北上すれば王城前広場である。
集まった群衆が大歓声を上げていた。
* * *
「うむ、大盛況だな」
「はい、殿下」
王城前広場ではローザンヌ王女とモーガンが、今や遅しと納品を待っていた。
広場周りは衛兵で固められており、暴徒への対処は十分。
だが……。
「ここを狙えるような場所の監視は?」
「はっ、配下の者を向かわせております」
モーガンは元近衛騎士隊隊長であり、現『隠密騎士団』の中隊長なのである。
その配下を、教会の尖塔をはじめ、広場を見下ろすことのできる建物へと派遣し、怪しい者がいないか監視しているというわけだ。
「まったく……。我が国と『バラージュ国』の関係にヒビを入れようという輩か……厄介だな」
「は、殿下」
エルフの国バラージュ国とゴローらが住んでいるルーペス王国との仲はいいとは言えない。
そもそもエルフは人族を見下しているようなところがあり、今回の『贈答品』はそれを少しでも解消するためという意図もあるのだ。
「これを見て、少しは人族を見直してくれるといいのだがな」
この技術の大半が、ハイブリッドであるハカセと、人造生命であるゴローの産物であることを王女は知らない……。
が、それは些細なことである。
まずは『国』が認められること、それが第一なのだから。
* * *
「よし、順調だ」
『新型ヘリコプター』は広場上空50メルで降下速度を落とし、高度30メルで着陸位置を微調整。
高度10メルからはさらにゆっくりと降下し、『新型ヘリコプター』は芝生の上に軟着陸したのであった。
それとほぼ同時に、『新型自動車』も王城前広場に到着。
『新型ヘリコプター』に並んで停止したのだった。
「ゴロー、サナ、アーレン、ご苦労だった!」
ローザンヌ王女とモーガンがそこへ駆け寄り、褒詞を口にする。
「確かに受け取った。これをもって、依頼は完遂されたものと認める」
そして王女は受領書をゴローとアーレンに手渡したのだった。
* * *
「ヘリコプターも自動車も、従来のものと操縦方法は同じだな?」
「はい、もちろんです」
「よろしい。それではここから、こちらの要員が操縦する」
先日来、王城でもヘリコプターのパイロットや自動車のドライバーを育成していた。
ゆえに『新型ヘリコプター』も『新型自動車』も、問題なく扱えるのである。
「お気を……」
付けて、と言おうとしたゴローだったが、その声は途中で途切れた。
何故ならばサナが『空気の壁』をいきなり展開したからだ。
足もとには直径8ミルほどの鉛玉が転がっていた。
「ゴロー、あそこ」
「おう!」
サナが指差したのは王城の南城門の上。
弾丸が飛んできた方向から、瞬時にサナが逆算したのだ。
まさか王城側から狙撃されるとは、ローザンヌ王女もモーガンも想像すらしていなかったのだ。
ゴローは地を蹴って飛び出した。『強化』2倍を掛けたままで。
その速度は凄まじく、時速100キルは優に出ている。
その勢いで、ゴローは南の城門を目指した。
* * *
「サナ、いったい何が?」
事情を飲み込めていないローザンヌ王女に、サナは寄り添っていた。
自分と王女を包み込む『空気の壁』を展開している。
その大きさはモーガンも包み込んでいるので声が届く。
「何者かが、城門の上から、狙撃してきました」
そして地面に転がった鉛玉を指差した。
「何だと!」
モーガンは激怒した。
「姫様を狙ったのか!?」
「おそらく」
「うぬぬ、許せん!」
そして城門に目をやった。
そして信じられないものを目にする……。
* * *
数秒で城門の下に到着したゴローは、上を見上げた。
城門の高さは20メートルほどもある。
『強化』2倍でジャンプしたところで届かないだろう。
「だが、ぐずぐずしていたら犯人に逃げられちまう……そうだ!」
1つのアイデアを思いついたゴローは、早速それを実施してみることにした。
「『空気の壁』『空気の壁』『空気の壁』『空気の壁』」
『空気の壁』を水平に展開し、それを蹴って上へ行くのだ。
固体ではないので力が逃げてしまい、思ったようにジャンプできないが、それでも1回で5メルほどは跳べた。
つまり、4回ジャンプすれば20メルの城門に届くのだ。
『空気の壁』を足場に使い、ゴローは城門上を目指すのだった。
モーガンはそれを目撃したわけだ。
2秒で城門上にゴローは上り着いた。
その目に、今しも階下への階段に辿り着こうとしている人影を発見。
「待てっ!」
『強化』2倍で飛びかかるゴロー。
その目の前には、鈍く光る銃口があった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月14日(木)14:00の予定です。
20220707 修正
(旧)『空気の・壁』
(新)『空気の壁』
10箇所修正。