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09-27 ハカセ、怒る

 屋敷に戻ったゴローは、アーレンたちに顛末てんまつを報告した。


「モーガンさんが動いてくれるならそちらはお任せですね」

「そうなるな。……アーレン、必要な部品はこっちに持ってきてくれるか?」

「え? ああ、自動車もこっちで組み立てるんですね」

「その方がいいだろう」

「わかりました」


 そういうわけでアーレン・ブルーはブルー工房へ自動車用の標準部品を取りに戻った。


「さて、こちらだが……」

「ゴロー、納品は明日。もし、こっちも狙ってくるなら今夜」

「俺もサナの意見に賛成だ。それから……」

「何か、心配事?」

「ああ。ティルダがな」

「私なのです?」

「うん。例えばだが、誘拐されて『ヘリコプターをよこせ』とか要求されたらと思うと心配だ」

「こ、怖いのです」


 震え上がるティルダ。


「いや、だから万が一だし、そうならないよう今夜は一緒に研究所へ行こう」

「は、はいなのです」

「ルナールもな?」

「あ、はい」


 少なくとも『人間』はいないほうがいいだろうとゴローは判断したのである。


 そして少し早めの夕食を済ませたあと、ゴローは『新型ヘリコプター』で。アーレン・ブルーは『雷鳴(ドンナー)』で研究所へ向かったのである。

 もちろん自動車の標準部品も積んで、である。


*   *   *


「ふうん、そんなことがあったのかい」

「そうなんですよ」

「しかし、何のためにそんなことをするのかねえ」

「ですね」


 研究所に着き、ハカセに事情を説明すると呆れると同時に怪訝そうな顔にもなる。


「あたしの知るところだと、バラージュ国はエルフの国の中では比較的社交的な国だったんだよねえ」


 ハカセは世界中……とまではいかずとも、かなり各地を巡っているのでそれなりに事情通である。

 もっとも、興味のないことはとことん無視しているが。


「つまり、両国間の仲を悪くしようというのではない?」

「うん。このくらいじゃあ大した影響もないだろうねえ……あ、そうだ。以前、ゴローが銃で狙われたことがあったと言っていたねえ?」

「あ、はい」

「依頼主や真の目的はわからないけれど、実行犯は同じ可能性があるね」

「同じ……ですか?」

「ああごめん。同じといっても個人じゃなく組織という意味でだよ」

「組織……」

「お金をもらって、非合法なことをする組織があるのさね」


 ハカセの口から意外な情報が出てきた。


 以前モーガンからも『神敵を密かに消す』というような裏の仕事を請け負っていると聞いたことがあった。

 また、『ジャンガル王国』との親交を妨害しようという連中もいた。『プルス教』信者である。


「あたしはそっちの方にまったく興味はないけどね」


 大昔、知り合いが勧誘され、危うく騙されるところだったことがある、とハカセは言った。


「ええと、プルス教信者ですか?」

「そっちじゃないねえ」

「え」


 『プルス教』の他にも、反社会的な組織があるらしいと知り、ゴローは耳を疑った。


「まあ一般人は関係しないだろうけどねえ。裏組織ってのはどこにでもあるもんさね」


 さすが年の功、ハカセはそっちにも詳しいらしかった。


「あたしも何度か接触されたからねえ」

「そうなんですか」

「いろいろな武器とか暗器を作ってくれと言ってね。全部断ったけどさ」

「でしょうね」


 ハカセの性格的に、そういう連中と関わることはしないだろうなとゴローは思っている。


「嫌だねえ、まったく。俗世間というのは欲にまみれていてさ」


 ハカセはしみじみとした口調で言った。


「で、話を戻すと、お金で雇われて非合法なことをする連中がいるってことだよ」

「つまり、今回の騒動はそれだと?」

「決めつけるわけじゃないけどね。可能性があるってことさね」

「だとしたら、何かまずいことがあるんでしょうか?」

「見つからない可能性が大だね」


 ハカセの言葉に、ゴローは顔をしかめた。


「ハカセなら、どうやって盗みます?」

「そうさねえ……事前に準備をして、という前提でいいね?」

「はい」


 ぜひ聞いてみたい、とゴローは思っている。


「まず実行犯は複数。最低3人。1人は組み立て工場の鍵を内側から掛け直す役だね」

「はい」

「工場から人がいなくなったのを見計らって扉を開き、自動車を外へ出す。この時、外にももう1人仲間がいて、布をかぶせるなどの隠蔽工作をしている可能性がある」

「ああ、そういう」

「で、扉を閉めたら鍵を掛け直す。これで内側から鍵の掛かった状況が完成だ」

「はい」


 実行犯が複数、それも多人数であることまではゴローも考えたが、具体的な役割分担までは想像していなかった。


「布をかぶせた自動車は、これも用意していた馬車の後部に繋留けいりゅうして牽引していくのさ」

「あ、その手がありましたね」

「馬車は少し派手にしておくとそっちに気を取られるから、かえって牽引しているものはあまり目立たないかもね」

「なるほど、参考になりました」

「で、目的はバラージュ国との付き合いにヒビを入れようというんだろうかねえ……。はああ、これだから俗世は嫌いだよ」


 ハカセは大げさにわざとらしくため息をいた。


「それじゃあ『新型ヘリコプター』をこっちに持ってきたのは正解だったでしょうか?」

「そうだね、正解だろうね」

「あと自動車の方はどうしましょう」

「それさね」


 ハカセの口調が少し変わった。


「職人たちが一所懸命に作り上げた製品をくだらない目的のために盗み出す。気に入らないねえ」


 ハカセは、そういうのは大っきらいだ、と吐き捨てるように言った。

 そして、


「……面白いじゃないか。このあたしの縁者に嫌がらせをするなんてさ。……よしよし、嫌がらせなんて意味がなかった、って思わせてやろうじゃないかね」


 と、怒りを露わにしたのである。


「あたしの意地にかけて、間に合わせてやろうじゃないかね」


 ハカセはそう宣言し、


「ゴロー、サナ、アーレン、今夜は徹夜で作業だよ!」


 と号令を掛けたのである。


*   *   *


 ゴローもサナも睡眠を必要としない身体なので、徹夜は苦にならない。

 それを知っているハカセは最初にきっちりとした段取りを付けた。


 また、アーレンと協力者であるティルダ、それにルナールにはちゃんと睡眠を取る時間を設け、最低でも2時間は睡眠が取れるように設定した。


「さあフランク、ゴロー、サナ、作るよ!」

「はい、ハカセ」

「はい!」

「はい」


 そういうわけで、ハカセの監督のもと、自動車作りが行われた。

 アーレン、ティルダ、ルナールにはちゃんと睡眠時間を取り、無茶はさせない。

 ハカセ自身も指示を出したあと仮眠を取ることで体調管理を忘れない。


 だがその段取りは正確で、効率よく自動車を組み上げていった。

 その意味で、この『チーム』はブルー工房のベテラン職人10人と同等以上の製作能力を発揮したのである。


 具体的に言うと、一晩で自動車が形になったのだ。

 これは『魔力充填装置(マギチャージャー)』、『外魔素取得機(マナインポーター)』、そしてエンジンの製作時間が短縮されたことが大きい。

 なにしろ、フランクがサポートしたハカセの製作速度は人間業ではないからだ。

 そこにゴローとサナが加われば、常識を遥かに超えて、短時間での完成を見ることができたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月24日(木)14:00の予定です。


 20220321 修正

(誤)実行犯が複数、それも多人数であることまではゴローも具体的な役割分担を想像していなかった。

(正)実行犯が複数、それも多人数であることまではゴローも考えたが、具体的な役割分担までは想像していなかった。


 20220323 修正

(誤)そういうわけで、博士の監督のもと、自動車作りが行われた。

(正)そういうわけで、ハカセの監督のもと、自動車作りが行われた。

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― 新着の感想 ―
ハカセが研究所に引きこもったのってプルス教も原因なんだろうか? 縁者に嫌がらせって言葉にアーレンも家族や仲間だと思っているのかな?と思った
[気になる点] >実行犯が複数、それも多人数であることまではゴローも具体的な役割分担を想像していなかった。 ゴローも[考えたが、]具体的な~、かな? [一言] 次に開発するのは防犯システムになるかな …
[一言] 盗まれたなら作って間に合わせるは犯人サイドも予想はしても実際に出来るとは思わないやつですよねえ しかし成し遂げてしまうのがハカセクオリティ!
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