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09-24 3日目・4日目朝

 3日目、思ったとおりこの日もローザンヌ王女の来訪があった。

 時刻は午前9時。


「……あまり進んでおらんな?」


 どことなくがっかりしたような声である。


「殿下、それは仕方がないかと」

「わかっておる! ……ゴロー、邪魔したな」

「……」


 不平を鳴らしたローザンヌ王女は護衛のモーガンにたしなめられ、少々ふくれっ面で帰っていったのだった。

 ごくごく短期間の来訪だったので、ゴローはほっとし、30分ほど前にやってきて組み立てを進めていくアーレンの手伝いに戻った。


 今日は内部構造の組み付けだ。

 外板を張る前に済ませなければならないので、すでにできあがっている構造材の内部での作業となり、見ていて面白みがないのは事実。

 それでもこれは手順としても不可欠の作業である。


 エンジンの組み立て。

 ゴローが持ってきたタングステン製の円盤は、エンジンの最重要部品である。

 仕込まれた魔法により高回転を、そしてその質量と強度により途轍もないトルクを生み出すのだから。

 とはいえ、それは純粋に物理的・機械的な性質なので、秘匿する必要はない。

 むしろ一般に広まって、素材としてより安価で手に入るようになったら、もう鉱石採取から行わなくてもいいのに、というのがハカセの言である。

 チタンもジュラルミンも同じ。

 そうした素材の値下がりは技術者や職人にとって大歓迎なのである。


 ただし『魔導炉(マギス・リアクトル)』だけは別。

 神秘学と錬金術と魔法学の粋を集めたこの『準古代遺物(アーティファクト)』は、まだ一般人の手に委ねることはできないのだ。


 閑話休題。

 『雷鳴(ドンナー)』とほぼ同型だが、『魔導炉(マギス・リアクトル)』を持たない『新型二重反転ヘリコプター』は着々と形をなしていく。

 形とは外見だけではなく、内面も含めてである。

 『雷鳴(ドンナー)』よりも2割ほど効率をアップした円盤式エンジンが取り付けられ、『魔導炉(マギス・リアクトル)』の代わりに『魔力変換機(マギコンバーター)』や『魔力庫(マギタンク)』などが据え付けられていく。

 その分キャビン内が少し狭くなるが、致し方ない。

 それから座席、操縦装置、計器類……、空調設備も先に取り付けてしまうことになる。


 ここまでで3日目の日が暮れかかり、アーレン・ブルーは自動車の製作の管理をするためにブルー工房へと戻ったのだった。

 そしてゴローも『レイブン改』で研究所に戻っていった。


*   *   *


 研究所では『雷鳴(ドンナー)』をベースに、静音化のアイデアをゴローとハカセがいろいろと試していた。


「うんうん、ローターブレード表面を粗くするのはやっぱり効果があるねえ!」


 こちらは1割程度の静音化が達成されていた。

 湾曲ブレードと合わせ、2割の静音化である。

 まずまずの成果と言ってよかった。

 だが、まだハカセは満足していない。

 余裕はあと1日くらいあるので、時間いっぱい、尽力したいのだ。


「あと1割、減らしたいねえ」

「そうですね……あ」

「何か思いついたかい?」

「ええ、うまくいくかどうかわかりませんが」

「それを確認するのが実験さね。聞かせておくれ」

「そうですね。ええと……」


 ゴローは、ブレードの取り付け位置を少しずらしたらどうか、と言った。


「ああ、前のブレードから発生した渦の中を、後ろのブレードが通らないようにするんだね?」

「そうです」


 ブレードスラップ……ローターブレード後端に発生した空気の渦に別のローターブレードが突っ込む際に生じる圧力変動による騒音を少しでも減らそうというわけだ。

 とはいえ、目立つほど位置をずらせないので、どの程度効果があるかは疑問だった。

 また、今回は二重反転式ということで、4枚ローターブレードが2組あるので、バランス上、向かい合うローターブレードの高さは同じにした。


 結果。


「うーん……1割も減っていないねえ」

「その半分……5分ってところですかね」


 期待したほどには静音化にはならなかった。

 とはいえトータルで2割5分、つまり25パーセントほどの騒音低減ができた。

 これは十分に有意差を感じることができるレベルだ。


 魔法を使ってブレード後端から空気を吹き出して渦を消すアイデアは今回使わなかった。

 消費魔力が大きくなりすぎるからである。


 そして、ハカセのその日の作業は終わった。


「明日の朝、『雷鳴(ドンナー)』で帰ってみますよ」

「そうだね。向こうはどんな感じだい?」

「多分、明日は外板を張ったり、ブレードを取り付けたりでしょうね」

「で、明後日完成して試験飛行、手直しをして明々後日(しあさって)納品かねえ」

「そうなると思います」

「それまでは……仕方ない、ヘリコプターの部品づくりだねえ」

「……すみません……まあ、『雷鳴(ドンナー)』はまだまだ手を加える機会がありますから」

「それもそうか。うん、それが終わったら、思う存分飛行機を作ろうかねえ」

「はい、ハカセ」


 口では嫌だ嫌だと言ってはいても、王都に住むゴローたちの立場を理解しているハカセであった。


*   *   *


 翌日、王都に8時半頃に着けるよう逆算し、ゴローは研究所を7時前に出た。

 今の『雷鳴(ドンナー)』の速度は時速300キル(km)、研究所——王都間約400キル(km)を1時間半弱で翔破する。

 そして、目算どおり8時半に王都の屋敷に到着。

 それは、しくも、ローザンヌ王女の訪問と時を同じくしていた。


「おお、ゴロー、どこかへ行っていたのか?」


 開口一番、ローザンヌ王女はゴローに問いかけた。


「ええと、実は『静音化』の実験をしておりまして、その試験飛行です」

「静音化か……うむ、確かに以前より少し静かになったな」

「そう思いますか?」

「思うぞ」

「ならよかったです」


 ゴローはこの結果を製作中のヘリコプターに盛り込む、と説明し、ローザンヌ王女は大いに納得した。


「ふむ、ゴローたちはこんなときにも改良する気概を忘れないのだな」


 モーガンもまた、感心するように呟いた。


「ええ、ヘリコプターは音が最大の問題点ですから。そしてそれが技術者というものだと思います」

「なるほど、そうかもしれんな」

「できあがるのが楽しみだ」


「ゴローさん、最終的にこれと同じでいいんですよね?」

「ああ。そうしてくれ」

「わかりました!」


 アーレン・ブルーは8時前にはもうやって来ていたので、ゴローが乗ってきた『雷鳴(ドンナー)』を見て、何を変えたのかすぐに把握していた。


 取り付け高さを微妙にずらしたローターブレード。

 ローターブレードの上面後端を粗くする。

 ローターブレードをわずかだが湾曲させる。


「さすがですねえ」


 この3つの改良点を製作中のヘリコプターに盛り込むわけだ。

 もはやベテランといっていいレベルの職人となったアーレン・ブルーはテキパキと作業を進めていく。

 その手際は見事で、ローザンヌ王女もモーガンも見とれてしまうほど。


「ずっと眺めていたいが、そうもいかないのでな」

「ゴロー、また来ると思う」


 午前10時頃、ローザンヌ王女とモーガンは後ろ髪を引かれながら帰っていった。

 完成を楽しみにしている、と言い残して……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月13日(日)14:00の予定です。


 20220310 修正

(誤)もう鉱石採取から行わなくてもいいのに、というのハカセの言である。

(正)もう鉱石採取から行わなくてもいいのに、というのがハカセの言である。

(誤)バランス状、向かい合うローターブレードの高さは同じにした。

(正)バランス上、向かい合うローターブレードの高さは同じにした。


(旧)そしてゴローも『雷鳴(ドンナー)』で研究所に戻っていった。

(新)そしてゴローも『レイブン改』で研究所に戻っていった。

 冒頭では何で王都へ戻ってきたか書いていませんが、雷鳴(ドンナー)は研究所でハカセがいろいろ試していますのででレイブン改にしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>この日も 王妃「・・・・」(^ω^#) >>構造材の内部での 56「あんな姿勢やこんな姿勢でボルト締めに溶接に・・・」 明「・・・溶接あるんか?」 仁「融合させちゃえば早いぞ」 >>…
[一言] >そしてゴローも『雷鳴』で研究所に戻っていった。 これ『雷鳴』ではなく『レイブン改』では?
[一言] 騒音対策の2割で思ったけど、定量的な音量の計測方法ってあるんでしょうか? ……リアルにあるデシベル計測する機械も理屈を知らないので偉そうに言えないんですが!w
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