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09-21 一夜明けて

 さて、翌日。

 薄曇りの天気である。

 ルナールは朝から張り切って食事の支度をしている。


「ハカセ、今朝はお米のお粥です。お味噌汁もあります」

「おお、こりゃいいねえ」


 ハカセはお粥やおじやが好きである。

 前回研究所に行った際、運んだお米の量が少なかったので、帰る頃にはほとんど食べ尽くしていたのだ。


「ゴロー、研究所にもお米をたくさん貯蔵しておくれよ」

「……はい」


 もはやどっちがメインかわからないほどだが、ハカセ自身はあくまでも『研究所』が自宅で、王都の屋敷では『お客』という意識らしい。


「さあて、それじゃあ研究所へ持っていきたい物をまとめるかねえ」


 ハカセの中では、今夜にも研究所へ戻ることは確定のようだ……。


*   *   *


「ゴロー様、モリーユがたくさん採れました」

「お、ありがとな、ミュー」


 ゴローが庭を見回っていると、エサソンのミューが現れて、庭で採れた春キノコのモリーユ(アミガサタケ)を籠にいっぱい届けてくれた。

 そして去り際に、


「あ、それからフロロ様が呼んでましたよ」


 と、伝言も。


「ありがとう」


 ゴローはその足でフロロのところへ行く。


「あ、来た来た。ゴロちん、蜂蜜が溜まったからあげるわ」

「それはありがたい」


 配下のピクシーが、さらにミツバチを使役して集めた蜂蜜。

 若干の魔力も含んでいるため、味がよく、長期保存ができる。


 かねてから渡しておいたガラス瓶にいっぱいの蜂蜜、それが3つ。

 ゴローはありがたくそれを受け取って屋敷へと戻ったのであった。

 蜂蜜を見てサナが喜んだのは言うまでもない。


*   *   *


「ゴロー様、お客さまがお見えです」


 午前8時半、屋敷妖精(キキモラ)のマリーが来客を告げた。


「来たか……思ったよりも早かったな」


 ゴローが玄関に向かうと、来客とはモーガンであった。


「よう、ゴロー、やっと帰ってきていたな」

「モーガンさん、お久しぶりです」

「おう。……まったく、どこへ行っていたんだ。まあ、それはいい。私事わたくしごとだからな。それより、重大な用事があるんだよ」

「……なんですか? ……あ、それを聞くのならこちらで」

「すまんな」


 ゴローはモーガンを応接室に通し、改めて話を聞くことにした。


*   *   *


 ゴローはサナも呼んだ。


「サナちゃんも久しぶり。……まあ、聞いてくれ。……まもなく、隣……といっても500キル(km)くらい離れているんだが、『バラージュ国』から国使が来ることになった」

「……」

「バラージュ国、というのはエルフの国でな。特に細かい細工が得意な職人が多いんだ。まあそれは置いといてだな」

「はあ」

「……ヘリコプターと自動車、あれに興味を持ったらしくてな」


 確かにそれはわからなくもない、とゴローは思ったが……。


「ブルー工房に移管してあるはずですが」

「うむ。もちろんそっちにも連絡が行っているぞ」

「そうでしょうね」

「それでだな、ここからが本題だ……」


 モーガンが言うには、『バラージュ国』向けの『ヘリコプター』と『自動車』を各1台、大至急作って欲しいということだった。

 ブルー工房にももちろん話が行っており、自動車はともかくヘリコプターはゴローたちの助力がないと作れないことがはっきりしているのだそうだ。


(まあ、そうだよな……)


 大至急ということなら、構成素材のジュラルミン1つ取っても、ハカセの協力が必要になる。


「……わかりました。ブルー工房と連絡をとって、大至急取り掛かります」

「頼むぞ」

「で、希望納期はあるのでしょうか?」

「3日以内……ということだが、5日で頼む」

「わ、わかりました」


 それはモーガンなりの精一杯の譲歩だったのだろう、とゴローは察した。


「仕様はどうなんでしょう?」

「もうこうなったら、細かい仕様は任せるが、自動車は6人乗り、ヘリコプターは最低でも4人乗り、で頼む。操縦士込みでな」

「わかりました」

「費用に関しては、前回納めてもらったものの倍までなら出せる」

「いいんですか?」

「もちろん、急ぐゆえの代金だ」

「そういうことですか」


 人手や素材手配に費用を掛けていいから大急ぎで作れ、ということだろうとゴローは納得したのである。


「では頼む。納品は5日後、いつもの城門前にな。……もちろん、前日に私が打ち合わせに来よう」

「はい。……あと、何か要望はありますか?」

「……それなのだがな」


 ゴローに尋ねられたモーガンは、済まなそうに話を続ける。


「進捗状況を確認しに、私以外の者が来ると思う」

「仕方ないですね。ですが、ちゃんと身分証みたいなものは持ってきてほしいですね」

「うむ、徹底させよう」

「もうありませんか?」

「ああ、できれば機体と車体の色は明るい色で頼む」

「……金色とか?」

「いやそれはさすがにな……」

「じゃあ急ぐということで無塗装にして銀色にするのは?」

「……いいかもしれん」

「わかりました」


 このように伝えたモーガンは、製作の邪魔をしないようにと急いで帰っていった。


「……私、いた意味、ある?」


 ほとんど喋らなかったサナがぽつりと言った。


「いや、いてくれて助かった」

「どういうこと?」

「俺はこれからブルー工房へ行って、アーレンを連れてくる。サナはハカセにこの話を伝えておいてくれ」

「あ、そういうこと。……うん、わかった」


 そういう役割分担をし、ゴローは自動車でブルー工房へと向かったのであった。


*   *   *


 ゴローがブルー工房に行くと……。

 アーレン・ブルーのところにも、王城からの使いが来て帰ったばかりということだった。


「あ、ゴローさん、大変なことになりましたよ!」

「うん、俺のところにも来たよ」

「急いで打ち合わせをしましょう!」

「わかってる。……俺のところでハカセとサナが準備しているよ」

「じゃあ、すぐ行きます」


 筆記用具や身の回りの品を掻き集めてカバンに突っ込んだらしいアーレン・ブルーは、息を切らして自動車に乗り込んできた。


「ラーナはいいのか?」

「彼女には申し訳ないですが、僕らがいなかった時に溜まった書類を任せてきました」

「ああ……」


 ご愁傷さま、と心の中でラーナに手を合わせたゴローであった。


*   *   *


「来たね、アーレン」

「昨日ぶりです、ハカセ」

「なんだかえらいことになったみたいだねえ」

「そうなんですよ。どうかご協力お願いします」

「わかってるよ。……やれやれ、今夜には研究所に帰りたかったんだがねえ……うんん!?」

「どうしました、ハカセ?」

「……いや、もしかして、研究所で作ったほうが早いんじゃないかとおもってねえ」


 少なくとも航空機関連を作るなら、王都より研究所の方が設備も素材も整っている、とハカセは言った。


「あ、確かにそうです」


 研究所の設備は、部分的にだがブルー工房をしのいでいる。

 主に一品生産において。


「自動車の方はブルー工房に任せておいて大丈夫だね?」

「はい、それはもう」


 主に貴族向けであるが、3日に1台の割合で、自動車の生産が始まっていたのだ。


「その1台を注文に当てるとして、やっぱり問題はヘリコプターですよね」

「アーレンの言うとおりだねえ。そっちを研究所で作るとしようじゃないか」

「それがいいですね」

「よし、決まり! それじゃあ、今日中に設計を済ませて、今夜研究所へ向かうよ」

「わかりました」


 そういうことになったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は3月3日(木)14:00の予定です。


 20220227 修正

(旧)帰る頃にはほとんど食べられなくなっていたのだ。

(新)帰る頃にはほとんど食べ尽くしていたのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自動車はともかく、航空能力は国家機密にするのかと思ってた。 バラージュ国との国家格差があるのかな?あるいは防衛協定で新兵器となる技術は共有することになってるのか。
[気になる点] 研究所のほうが早く作れるとはいえ、進捗状況を確認しに来る人がいるとなるとどう説明するのやら……。
[一言] > もはやどっちがメインかわからないほどだが、ハカセ自身はあくまでも『研究所』が自宅で、王都の屋敷では『お客』という意識らしい。 いやそりゃそうだろう(呆 ハ「そう思うだろう?」 ゴ・サ((…
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