09-20 帰宅してみれば
22日(火)には更新ができずにご迷惑をおかけしました。
『魔導炉』完成。
それは、ハカセの製作意欲をさらに加速させ……るかと思われた。
だが。
「ハカセ、そろそろ一度王都に帰りましょう」
ゴローはハカセにそう提案した。
アーレン・ブルーとラーナが、王都の工房を空けすぎているのだ。
工房主が一度戻らないと、さすがにまずいだろうと思われた。
「食材も王都のほうが豊富ですし」
「新しいアイデアがひらめくかも」
研究所では『ありあわせ』の食材も交えての食事になるのは致し方ない。
そして、人が多く刺激の多い王都なら、新しい製作のためのヒントが得られるかもしれない。
「そうだねえ……そうしようかね」
そういうわけでハカセも納得し、一同王都へ戻ることとなったのである。
* * *
夜の帳が下りた頃、帰ることになる。
使うのはもちろん『レイブン改』だ。
「それじゃあフランク、あとを頼むよ」
「はい、ハカセ。ゴロー様、サナ様、ティルダ様、アーレン様、ラーナ様、ルナール様、お気をつけて」
ハカセはフランクに留守番を頼んだ。
「それじゃあ、しばらく留守にするよ」
「はいですの。ゴロー様、いってらっしゃいですの」
ゴローは水の妖精のクレーネーに声を掛け、
「それじゃあ、行ってくるね」
「うん。本体によろしくね。……って、もうみんなが帰ることは伝わっているんだけど」
サナはフロロ(の分体)に断りを入れた。
そしてエサソンのミューを再び『移動用鉢植え』に乗せ、マリー(の分体)にはこの研究所を守ってもらうことを頼んだ。
さらに『粉末樹糖』をたっぷりと積み込み、『レイブン改』は夜空に舞い上がった。
「うーん、やっぱりパワーが上がったというか、飛行に余裕ができましたね」
操縦士を務めているゴローは感慨深げに言った。
例えるなら360ccの軽自動車のエンジンを換装して660ccにしたようなものか。
定員上限、荷物満載にも拘わらずレスポンスが非常によいのである。
速度ももちろんその状態でも以前以上。
ゆえに1時間半くらいで『レイブン改』は『屋敷』に帰り着いたのであった。
* * *
早速フロロ(の本体)のところへ行き、留守の間の様子を聞いてみる。
「屋敷内のことはマリーに聞いてよね。で、外についてだけど……」
配下のピクシーを町に放つことができるフロロは、かなりの情報通である。
「もうまもなく、『バラージュ国』から使者がやってくるみたいよ」
「『バラージュ国』?」
「うん。ここのずっと東にある国で、エルフの国」
「エルフか……」
「それで王家を含めてドタバタしているわね。王女様の使者が今日の昼間、来ていたわ。留守だから帰っていったけど」
多分明日も来るだろう、とフロロは言った。
「また何か面倒ごとかなあ」
そう言いながらもちょっと楽しみなゴローである。
なにしろエルフである。
ハカセもエルフの血を引いているが、外見はほぼ人族であるし、先日会ったのはダークエルフであった。
これまでに会ったエルフはたった1人。旅の初めに出会った『探索者』の一員であるアイラだけだ。
人族とダークエルフと行動を共にしていたあたり、異端なのかもしれないとも思える。
ゴローの『謎知識』では『エルフ像』が幾つかあったりする。
曰く、美形な種族で耳が笹の葉のように長い。
曰く、1000年を生き、達観している。
曰く、森に住み、自然と共に生きる。
曰く、殺生を厭い、菜食主義である。
曰く、弓矢が得意で狩猟も上手い。
曰く、精霊とのハーフであり、魔力との親和性が高い。
曰く、先史種族の生き残りである。
曰く、手先が器用で、細緻な工芸品を作る。
曰く、王政ではなく家長制である。
等、等、など。
「どれが近いんだろう。どれも近くないのかもな……」
真の意味でエルフに会えるなら面倒ごとには目を瞑ろうと決めるゴローであった。
* * *
エサソンのミューを庭に戻したり、荷物(主に粉末樹糖)を倉庫に運んだりしたあと、食堂で寛ぐゴローたち。
ちなみにアーレン・ブルーとラーナは、まだ宵の口だからと工房へ戻っていった。
「……バラージュから国使でも来るのかねえ」
「ハカセ、ご存知なんですか?」
「まあ、ちょっと暮らしていた国だからねえ……」
しばらくは研究所にでも行っていようかねえ、とハカセは言った。
「どんな国なんですか?」
「一言で言うと学者の国だねえ」
「学者ですか」
「学問の国と言ってもいいね。でも頭でっかちじゃあなく、ちゃんとモノづくりもしているよ。手先が器用だからねえ」
ハカセによれば、エルフの器用さは人族以上、ドワーフ以下だという。
また、ドワーフよりも細かい細工が好きな傾向にあるそうだ。
「あと、あたしから見たら無意味な装飾が好きだねえ」
「そうなんですか」
「そうなんだよ。例えば、自動車を作ったら、絶対に窓枠に飾り彫りや縁取りを入れるだろうし、ドアに家紋、正面にエンブレムくらいは標準でやるだろうねえ」
「……なんとなくわかりました」
「あたしはそういうのが性に合わなくてねえ」
「それもなんとなくわかります」
ここでゴローは、ふと思い浮かんだ質問をしてみる。
「ええと、『亜竜ライダー』ってのがいる国でしたっけ?」
「ああ、それはバラージュじゃないねえ。もう少し北にある『シナージュ』ってところだよ」
「そうなんですね。……あれ、『王国』じゃないんですか?」
「ああ、違う違う。エルフには王はいないからね。基本家長制で、それがあつまって集落というか町を作り、その代表が集まって国を運営しているのさ。『長老』みたいなのはいるけどね」
合議制といったところか、とゴローは解釈しておく。
「あたしの推測だけど、『ヘリコプター』や『自動車』を王室に納めただろう?」
「ああ、はい」
「それを見に来るんじゃないかと思うねえ」
「なるほど……」
「あの国のエルフは無駄にプライドが高いからねえ」
「そうなんですか」
「あたしが言うんだから間違いないよ」
もしかするとハカセはバラージュ国に血縁者もいるのかもしれない、と思ったゴローである。
「……うん、話をしていたらますますここにいるのが嫌になってきた。ゴロー、研究所に帰ろう」
「ハカセ、せめて明日にしてください」
「今日はゆっくり休んで」
「……わかったよ」
戻ってきてもう研究所に帰りたがっているハカセであるが、ゴローとサナに説得され、最低一晩は泊まっていくことになった。
「皆様、お風呂の支度ができました」
話のキリがいいタイミングで、屋敷妖精のマリーがやってきた。
そこでゴローたちは話を終え、のんびりと風呂で寛いだあと、ぐっすりと休んだのであった。
……ゴローとサナを除いて。
〈サナはエルフの国へ行ったことあるのか?〉
〈ううん、ない。ハカセから少し、話を聞いたことがあるだけ〉
〈そうか。エルフに会ったことは?〉
〈それもない。……ゴローと旅を始めた時に会ったのが最初〉
〈俺と同じか〉
〈うん。だから、エルフを見るのが、ちょっと楽しみ〉
〈俺も〉
〈でも、ハカセは会いたくなさそう〉
〈だな。明日の夜にでも、研究所へ連れて行くか〉
〈それが、いいかも〉
そんな『念話』をしつつ、夜は更けていったのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月27日(日)14:00の予定です。
20220224 修正
(誤)工房主が一度戻らないと、さすにまずいだろうと思われた。
(正)工房主が一度戻らないと、さすがにまずいだろうと思われた。
20230906 修正
(誤)定員上限、荷物満載にも関わらずレスポンスが非常によいのである。
(正)定員上限、荷物満載にも拘わらずレスポンスが非常によいのである。