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09-19 大成功

 昼食後、『魔導炉(マギス・リアクトル)』製作は最後の仕上げとなる。


「これに雷属性魔法を浴びせれば完了さ。ただし、強すぎるのはだめなんだ。……サナに頼むとするかね」

「はい」


 ゴローはまだ魔力の制御に関し、サナにはかなわない。


「『(トニトゥルス)』」


 弱い電撃を浴びせる魔法だ。指向性はないが、おおよその狙いは付けられる。

 それをサナはるつぼの中に向けて放ったのだった。


 青白い電撃を受けたるつぼの中の金属は、一瞬淡い光を放ったあと、黒く変色した。


「あ……?」


 銀色だったものが黒くなったことで、ゴローはまさか失敗か、と危惧したが、ハカセは平然としていた。


「できたねえ」


 満足そうなハカセの様子に、ゴローはこれでよかったのか、と内心で安堵した。

 普通の水で冷まして、るつぼから取り出す。


「あれ、少し大きくなってませんか?」


 だいたい夏ミカンくらいの大きさである。

 ゴローが持ってみたところ、重さは変わっていないようだが、軽く感じる。

 つまり、比重が小さくなっているということ。


「そうなんだよ。おそらく発泡構造みたいになっているんじゃないかねえ」

「表面積が増えた分、マナ(外魔素)を取り込みやすくなっているんでしょうか」

「うーん、そうかもしれないねえ」


 ハカセにも本当のところはわからないようだった。

 神秘の秘奥義である『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』、その手前にある物質。

 それはやはり神秘のベールに包まれているようである。


「……で、これを普通の火で溶かして型に流せば、『魔導炉(マギス・リアクトル)』として働くはずさ」

「そうなんですね。黒くなってしまったから失敗かと」

「そうじゃないよ。これでいいのさ。使うときにこれは色が変わるんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。出力を上げると赤くなって、もっと上げると白くなるんだよ」

「へえ」


 炎の色と温度みたいだ、とゴローは『謎知識』からそう感じていた。


「これを普通の火でもう一度溶かして、型に流せばいいよ」

「あ、そうなんですね」


 石というより金属だもんなあとゴローは思いながら、ハカセの指示に従ってもう一度るつぼで溶かす準備を進めていくのだった。


*   *   *


 そして1時間。溶けた黒い物質を型に流し込む。

 型は六角柱のものをサナが用意してくれていた。


 1辺が1セル(cm)ほどの六角形で高さが2セル(cm)

 それが今回作り上げた『魔導炉(マギス・リアクトル)』だ。それが5つ。

 まだ2つくらいはできそうだったが、ハカセはより小さい型を使い、ごく小さい六角柱を9つ作り上げた。


「こんな小さいのは何に使うんですか?」

「魔導コンロとかいろいろ使えるよ」

「あ、そうですね」


 今現在魔導具に使っている『魔力庫(マギタンク)』をこれにすれば、いちいち魔力を充填する必要がなくなるわけだ。

 そしてそういう魔道具は幾つかある。

 研究所の空調装置や台所の湯沸かし器もこれに替えたら便利になるだろうなとゴローはハカセの意図を察した。


 ゴローのイメージとしては自動車のバッテリーと乾電池くらいの違いである。大きさも形も違うが。


「まあそっちはおいおい組み込むとして、まずは1つ、テストしてみようかねえ」

「待ってました」

「楽しみです!」

「楽しみなのです」


 まったく出番がなく、ただ見ているだけに徹していたアーレン・ブルー、ラーナ、ティルダらも、成果は気になっているようだ。

 なにしろ、これが成功すれば今後の航空機や自動車の開発に弾みがつくのだから。


*   *   *


 テスト機として選ばれたのは『レイブン改』。

 たび重なる改造によって、安心安定の性能を誇る。

 この機体の心臓部である『魔力庫(マギタンク)』『魔力充填装置(マギチャージャー)』『外魔素取得機(マナインポーター)』『魔力変換機(マギコンバーター)』などが小さな『魔導炉(マギス・リアクトル)』で置き換えられてしまう。

 これはとんでもない技術革新であった。

 もっとも、一般に公開できないというところがつらいが。


「すごいですねえ……」

「本当に。一抱えもあった装置が握り拳よりも小さくなってしまいました」


 重さも、50キム(kg)が0.5キム(kg)、つまり100分の1に減ったわけだ。

 これにより積載量もその分増えることになる。


「よし、交換終了です、ゴローさん、ハカセ」


 交換の作業はアーレン・ブルーが行った。

 その後ハカセがチェックと調整を行う。


「これならよし。それじゃあゴロー、試してみておくれ」

「わかりました」

「出力特性が変わっていると思うからその点に気を付けておくれよ」

「はい」


 ハカセの説明によると、『魔導炉(マギス・リアクトル)』は『素直』な特性のはずなので、ついつい出力を上げすぎてしまうかもしれない、ということだった。


 ゴローはその忠告を念頭に、試験飛行を行うことにする。


「『魔導炉(マギス・リアクトル)』、起動」


 始動キーをひねると『魔導炉(マギス・リアクトル)』が動き出す。

 ……そのはずであるが、何も感じない。


「ははあ……アイドリングなしでいいわけか」


 まったくスロットルを開けていないのだから、魔力が生み出されていないのも当然である。

 こういう点をハカセは『素直』と表現したのだな、とゴローは察した。


「それじゃあ、慎重に……スタート!」


 ゆっくりとスロットルレバーを前に倒していくゴロー。

 すると、衝撃も揺れも感じさせず、『レイブン改』は地面を離れた。


「おお、この感覚はこれまでとちょっと違うな……」


 完全に、出力がスロットルレバーの動きに比例しているとゴローは感じ取った。

 これまでは、横軸にスロットルレバーの角度、縦軸に出力を取った場合上に凸、すなわち最初は急激に出力が増加し、次第に増加率が減っていく……というようなカーブを描いていたのだ。


「でも、これならすぐ慣れそうだな」


 先入観なしに操作するなら、こちらのほうが操縦しやすいだろうとゴローは感じた。


 そして、そうした感覚を掴んでからは楽だった。

 上昇、下降、旋回と、『レイブン改』をこれまで同様に操縦してみせたのである。


「うーん、速度も少し上がっている気がする」


 それは『魔導炉(マギス・リアクトル)』の出力上限がこれまでよりも遥かに上だからである。

 スロットルレバーの可動域が物理的・機械的なリミッターになってはいるが、『魔導炉(マギス・リアクトル)』の性能は思った以上に優秀だったようだ。


「でも、これなら応用が利くな」


 気の済むまで『レイブン改』を飛ばしたゴローであった。


*   *   *


「大成功のようだね」


 着陸した『レイブン改』に駆け寄ってきたハカセは満足そうな顔だった。


「はい、ハカセ。仰るように出力特性はすごく素直でした。慣れれば扱いやすいと思います」

「そうかい」

「それに出力上限も上がったので、全体の性能も2割くらい増したと思います」

「そうかい、それもよし悪しだねえ」

「どういうことですか?」

「いや、想定以上の魔力を加えていたら傷んでしまう部分が出てくるだろう?」

「ああ、確かにそうですね」

「リミッターは掛けていたつもりだけど、もう一度見直そう」

「わかりました」


 『魔導炉(マギス・リアクトル)』自体はほとんど発熱もしておらず、今の負荷で全く問題なし。大成功である。


 その後、『アルエット』も同様に換装し、試験飛行も成功。


 その夜は『魔導炉(マギス・リアクトル)』完成の打ち上げパーティが行われたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により2月22日(火)14:00の予定です。


 20220217 修正

(誤)銀色だったものが黒くなったことで、ゴローはまさか失敗蚊か、と危惧したが、ハカセは平然としていた。

(正)銀色だったものが黒くなったことで、ゴローはまさか失敗か、と危惧したが、ハカセは平然としていた。

(誤)まったくスロットルを開けていないいのだから、魔力が生み出されていないのも当然である。

(正)まったくスロットルを開けていないのだから、魔力が生み出されていないのも当然である。

(誤)「でも、これなら応用が効くな」

(正)「でも、これなら応用が利くな」


 20220420 修正

(誤)なにしろ、これが成功すれば今度の航空機や自動車の開発に弾みがつくのだから。

(正)なにしろ、これが成功すれば今後の航空機や自動車の開発に弾みがつくのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒いものを溶かして型に流し込む……実質バレンタイン回??
[一言] >>魔力の制御 仁「使わないと慣れないぞ」 明「・・・」(羨 >>一瞬淡い光を放った 仁「何処ぞの極限綱かな?」 明「加工が大変だって事だけど」 >>型に流せば 56「既に過ぎているなぁ…
[一言] ただでさえ航空機の性能で先を行っているのに動力部まではるか先に……
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