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09-17 製作開始

 そして4日目の朝が来た。


「フランクももう戻ってくるだろうね」

「先に『太陽の黄金』を回収しましょうか」

「それでいいよ」


 ということで、ゴローとハカセは非常階段を上り、『太陽炉』へと向かった。


「おお、いい感じに仕上がっているねえ」


 まだ朝のため太陽光は弱く、黄金は溶けていない。


「それじゃあ止めるよ。……『停止(ストープ)』」


 ハカセは集光の魔法陣を停止させ、ゴローは固まった黄金を取り出した。

 こころなしか、最初よりも輝きが強くなったような気がする、とゴローは思った。


「ああ、それは気のせいじゃないよ」


 戻りながらハカセに聞くと、説明してくれた。


「『太陽の黄金』は不純物がなくなった上に『光』の『元素(エレメント)』をたっぷり含んでるからねえ」

「光の元素(エレメント)ですか」

「そう。そのために三日三晩太陽光で錬成(エイジング)していたのさ」

「光にも元素(エレメント)ってあるんですねえ」

「そりゃああるさ」


 『フォトン』だろうか、とゴローの『謎知識』がささやいた。


「……それじゃあ、『月の水銀』も?」

「そういうことさね」

「月の光は何の元素(エレメント)なんです?」

「もちろん『闇』だよ」

「……闇?」


 闇に元素(エレメント)なんてあるのか、とゴローは疑問に思った。

 むしろ『光もなにもない』のが闇なのではないか、と。

 それをハカセに聞くと、


「お、ゴロー、いいところに気が付いたね。ちゃあんとあたしの講義を理解してくれているようで何よりだ」


 と、喜ばれてしまった。


「で、どうなんですか?」


 ハカセに褒められたゴローは面映おもはゆさを隠すため、質問の答えをせっついた。


「ゴローの言うとおり、『闇の元素(エレメント)』はないよ」

「やっぱり?」

「ああ。単にそう呼ぶのは慣習だねえ」

「慣習ですか」

「うん。……つまり、『闇の元素(エレメント)』というものがあると思われていた時代にそう呼ばれることが定着して、違うということがわかった今でもそのまま呼ばれているわけさ」

「なるほど」


 酸素と水素も、本来の働きを考えたら逆だ、とも言われている。

 ざっくり言って『酸』は『水素』イオンが遊離した水溶液だし、水は『酸素』に『水素』が結合した物質だからだ(そういう意味では大きく間違ってはいない?)。


 あるいは熱線と冷線か。

 熱線に対し、『冷線』という波動が存在すると考えられた時代もあった。

 『冷線』を浴びせるとその物体は冷やされる、というものだ。

 氷の塊が『冷線』を出しているのではないか、という実例も挙げられた。

 そばに置かれた物体が『冷える』からだ。

 だがこれは『放射冷却』などで説明でき、冷線の存在は否定されている。

 SFでは『冷線銃』とか『冷凍銃』はロマン武器ではあるが……。


 閑話休題。


「じゃあ、『月の水銀』って、どんな『元素エレメント』を含ませようというんですか?」


 まさか『ダークマター』とか『反物質』とかいうんじゃあ……と、ゴローの『謎知識』が警鐘を鳴らす……。

 が。


「なくすんだよ」

「え?」

「余計な混ざりものを全て闇の中に吸い取ってもらって、より純粋にするのさね」

「つまり『闇』とは『虚無』ですか?」

「大当たりだよ」

「つまり、『闇属性魔法』ってのは……」

「『虚無』あるいは『空間』、と今では捉えられているねえ」

「『元素エレメント』を持たない属性?」

「そうもいえるね」

「……『無属性』との違いはなんですか?」

「お、ちゃんと属性も覚えてるね。感心感心。……でだ、『無属性』というのは、『どの属性にも偏らない』。『闇属性』は『元素エレメントが全く存在しない』。こう分類できるだろうね」

「とすると、『無属性』の高度なものが『闇属性』ですか?」

「そう思うだろう?でも違うんだよね」

「え?」

「『無属性』をいくら極めても『闇属性』にはならないんだよ。これは経験則だけどね」

「ど、どうしてですか?」

「だから経験則だって言ったろう? そのあたりはこれから研究されていくだろうさ」

「なら、『闇属性』ってどうやって使う、あるいは習得するんですか?」

「いい質問だね。それは……」


 ハカセが口を開きかけたとき、空から黒いものが降下してきた。フランクの乗る『レイブン』である。


「おお、いいタイミングで帰ってきたねえ。ゴロー、魔術講義はまた今度。『魔導炉(マギス・リアクトル)』を作るよ!」

「は、はい」


 ちょっと残念だったが、ハカセが楽しそうなのでそれ以上『闇属性』について聞くことは諦めたゴローであった。


*   *   *


 ハカセは着陸した『レイブン』に駆け寄ると、フランクが差し出した『月の水銀』が入った容器を受け取った。「おお! これはいい出来だね! フランク、ありがとうよ」

「はい、ハカセ」


「……これが、水銀ですか?」

「そうだよ」


 それは『液体』ではなく、『固体』のように見えた。常温では液体のはずの水銀が、である。


「いったいどんな作用が……」

「これが『月の水銀』さね」


 空にあった間に、何が、どう作用したのかわからないが、金属水銀が固まってしまったのである。


「秘密は、容器の下に描いた魔法陣さ」

「え……」


 ハカセに言われてゴローが見てみると、確かに水銀を入れた容器、それを置いていたトレーに魔法陣が刻んであった。


「あたしも全て解明したわけじゃないけどねえ」


 どうやらハカセもまた、『原理はわからないまま使っている』技術があるようだった。


「これと『太陽の黄金』を混ぜて、あれこれしてから『パラジウム』に吸収させ、もういちどあれこれするのさ」

「そのあれこれっていうのは?」

「一言ではいえない、面倒な手順だよ」


 やってみせるから見て覚えな、とハカセは言い、研究室へと向かった。


「ハカセ、用意は、できてる」

「おお、ごくろうさん」


 研究室ではサナが準備を整えて待っていた。


 ハカセは『黒鉛』のるつぼを用意し、そこに『太陽の黄金』と『月の水銀』を天秤ばかりで計り、同じ重さ……1キム(kg)ずつ入れた。

 その際、黄金の方がひとつまみ残った。


「ま、これは次の機会にとっておこうかねえ」


 ハカセはそう言って黄金の塊を瓶に入れ、固く封をした。


「さて、始めるよ」

「はい」

「まずはこのるつぼを加熱する。『火の元素エレメント』を含むように、『火属性魔法』による加熱だよ」


 ハカセはるつぼを『魔導コンロ』に載せ、加熱を開始した。


「3時間くらい掛けてじっくりと溶かしていくんだ」

「はい」

「その間にもいろいろと手を加え、処理をしていくんだよ」


 ハカセはまず『属性』の付与を行うと説明した。


「あくまでも『属性』にさらす、ということだよ。『元素エレメント』を加えるんじゃないからね」


 せっかく純粋な『光』と『闇』で錬成(エイジング)したのだから、とハカセは言った。


「るつぼは『土属性』さ。そういう作り方をしたからね」

「はい」

「そこへ、この装置を使って、『風属性』を加える」


 ハカセが持ってきたのは、るつぼの中に魔法による風を吹き込むための装置であった。


「これで光・闇・土・火・風の5属性が加わったわけだ」

「ですね」

「残りの属性はわかるかい、ゴロー?」

「あとは木・水・雷の3つですね」

「そうだよ。水属性は、冷やすのに魔法で作った水の中に入れることで付与する」

「木属性と雷属性は、どうするんですか?」

「さあてね。……考えてごらん?」


 まだ時間はたっぷりある。教わるだけでなく、自分で考えてみろとハカセはゴローに課題を与えたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月13日(日)14:00の予定です。


 20220210 修正

(誤)ちゃなんとあたしの講義を理解してくれているようで何よりだ」

(正)ちゃあんとあたしの講義を理解してくれているようで何よりだ」

(誤)「お、ちゃんと属性も覚えてるね。関心関心。

(正)「お、ちゃんと属性も覚えてるね。感心感心。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばサナと魔法の訓練とかはしてましたけどハカセからちゃんと魔法の授業?講義?ってしてもらったことなかったですね
[一言] >>輝きが強くなった 仁「某フィールドを発生出来るほどに?」 明「あのコンデンサはこう言う・・・」 56「な、ナニを言っているのかな?」汗 >>フォトン 明「それは光子じゃないのかな?」 …
[一言] >「『太陽の黄金』は不純物がなくなった上に『光』の『元素エレメント』をたっぷり含んでるからねえ」 『光』の『元素』……かぁ~……こっちの世界だと『光』は『粒子』と『波』の性質を併せ持つとされ…
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