09-07 結界越え
ミツヒ村かどうかは定かではないが、結界に覆われた場所を発見したゴローたち。
どうやってそこへ行くか、ゴローは悩んだ。
「そもそも、『レイブン改』を着陸させる場所もないしな……」
「うん、確かに」
「そうすると、少し……いやかなり離れた場所に着陸して徒歩で向かうしかないかな?」
「結界の場所さえわかれば、それでいけるかも」
「よし。とにかく着陸できる場所を探そう」
まずはそういうことにした。
結果、2キルほど離れた場所に小広い広場があり、まずはそこに『レイブン改』は着陸した。
だが、ここでも前と同じ問題が。
「やっぱり、置いていくのが気になるな」
「うん」
だからといって、フロロ(の分体)を留守番に置いていくというわけにもいかない。
今回は、結界の探知にフロロ(の分体)が頼りだからだ。
「やっぱりマリーセキュリティが欲しいな……」
と、ここでフロロ(の分体)が折衷案的なことを言い出した。
「いいことがあるわ。この周辺にもピクシーがいるみたいだから、一時的に機体の番をさせましょう。魔獣には無力だけど、いないよりマシでしょ」
「うーん、そうだな。フロロ、頼むよ」
「お願い、フロロ」
「サナちん、ゴロちん、任せなさい! ……ついては、甘いものでもあげるとなおいいんだけど」
「……じゃあ、これ」
サナが不承不承に『純糖』を取り出した。
「うん、それでいいわ」
そういうわけで、周辺にいたピクシーを3体手懐けたフロロ(の分体)は、その3体に『レイブン改』の番を任せることにしたのであった。
* * *
ゴローたちは道なき道を進み始めた。
「そう、もうちょっと右。……あ、ちょっとズレすぎたわ。左に寄って。……そのくらい。それで真っ直ぐ」
そんな指示を聞きながら、ゴローが先頭で進む。ティルダが真ん中、サナが殿である。
フロロ(の分体)はサナの肩の上だ。
「ティルダ、大丈夫か?」
「ゴローさんが歩きやすいところを選んでくれているから大丈夫なのです」
「もう少しだ。頑張れ」
「はいなのです」
道なき道を進むこと1時間半。
ついにゴローたちは謎の結界の近くまでやって来た。
「止まって。……うーん、10メルくらい先にものすごい違和感があるわ」
「違和感?」
「うん。多分そこが結界の境目ね」
「進んでも大丈夫かな?」
「多分大丈夫。例えば鳥や虫が偶然通過したとしても害されることはないでしょう」
「そうか。よし、慎重に進もう」
ゴローは既に『強化』2倍を掛けていたが、それを3倍まで引き上げた。
力も速度も反応も3倍。
これで対応できなかったら諦めるしかない。
「まず、俺が行ってみる。何ごともないようなら続いてくれ」
そう言い残したゴローは意を決して、結界に向け、足を踏み出した……。
* * *
「!!??」
ゴローの視界が不意に変化した。
鬱蒼とした樹林が、明るい疎林へと。
(これが結界の効果か……)
人造生命であるゴローの感覚をも騙してしまう幻影結界に、ゴローは驚愕していた。
振り返れば、3メルほど後ろにいたはずのティルダの姿が見えないではないか。
どうやら、結界内部からは外部が見えないらしい、とゴローは想像した。
再び前を向き、異常がないか見回す……が、動くものは見つけられなかった。
そこでゴローは来た道を少し戻る。……と、疎林は密林に変わった。
そして目の前に、ティルダとサナが現れたのである。
「ゴロー、どうだった?」
「い、今、ゴローさんが消えていたのです!」
「やっぱりな」
ゴローは、結界らしき境界を越えたら、自分からもサナとティルダが見えなくなった、と説明した。
そして危険はなさそうなので、3人で行ってみよう、とも。
そして。
「ええっ!?」
ゴローの背後から、ティルダの驚いた声が聞こえた。
「急に明るくなったのです!」
「……うん」
「やっぱり結界だったのね」
サナとフロロ(の分体)も結界を通過し、全員の姿がはっきりと見えるようになった。
「フロロの言うとおり、危険はなかった」
「でしょ?」
「でも、誰もいないぞ?」
強化されたゴローの感覚にも、人の気配は感じられなかった。
「ちょっと待って。……うん、もう1つ結界がある」
「え?」
「それが多分、人の気配を遮断してるんだわ」
「……凄いな」
そんな結界を張れることも凄いが、それを探知してしまうフロロ(の分体)も凄い、とゴローは感心した。
「行きましょ。このまま真っ直ぐ進んで」
「わかった」
今度は間隔を空けず、付かず離れずの距離……つまり固まって歩いていくゴローたち。
そして結界があると思われる場所を過ぎ……。
「え?」
いきなり人の姿が現れた、かと思うと、ゴローたちは剣を向けられていたのである。
「止まれ。お前たちは何者だ?」
ゴローに剣を向けている女性が声を発した。
やや浅黒い肌、尖った耳。どうやらダークエルフらしい、とゴローは察した。
「答えろ」
「え、ええと、俺はゴロー。この子はサナ。そっちの子はティルダといいます」
「あたしはフロロよ」
ゴローに紹介されなかったフロロ(の分体)は自分で名乗った。
「……! まさか、『ドリアード』か?」
「ええ。『分体』だけどね」
ダークエルフの女性はフロロ(の分体)を認めると、剣を下げた。
サナとティルダに剣を突きつけていた男たちも剣を下ろす。
ティルダはほっと息を吐いた。
「これは失礼した。ドリアードに認められた方々なら、この里に害をなすようなことはすまい」
「もちろんよ。このあたしが保証するわ」
「ドリアード殿のお言葉、しかと受け取りました」
「ならいいわ。……村に案内してくれる?」
「それは……」
ここでダークエルフの後ろにいた老人が進み出た。
「儂はミツヒ村の村長でジクアスという。君たちの目的は何かね? それをまず聞かせてもらいたい」
「樹糖です」
即答するゴロー。
「何?」
「ですから、樹糖が欲しくてやって来ました」
「そんなものが欲しいと?」
「そんなもの、なんかじゃ、ない」
サナが村長の発言を非難した。
「樹糖を煮詰めると、とても甘くて美味しくなる」
「……サナさん、と言ったか。言うことはわかる。が、煮詰めるには薪が大量に必要になる。それには木を伐らねばならず、我らとしてはやりたくないのだ」
「村長の言うとおりだ。我らダークエルフは自然との共生を願う。ゆえに伐採は必要最小限にしか行わない」
ダークエルフの女性も補足した。
が、ゴローも黙ってはいない。
「それは薄々わかっていました。ですので、火を使わずに煮詰める魔導具を持ってきました」
「何?」
「それは本当かね?」
ダークエルフと村長がゴローに尋ねた。
「はい」
ゴローは背負った荷物を指差した。
「そうか。ならば、その言葉を信じよう。来るがいい」
村長はそう言ってゴローたちに付いてくるように言った。
これで少し交渉が進んだかな、とゴローは安堵する。
そしてサナとティルダを促して歩きだそうとした。
が。
「ほっとしたら足が……」
ティルダはへなへなとその場にへたり込んでしまった。
「大丈夫か?」
「……ちょっとだけ、待ってほしいのです」
深呼吸し、ぴしゃりと自分の頬を叩いて気を入れ直すと、なんとかティルダは立ち上がった。
「もう、大丈夫なのです」
「そうか。無理するなよ?」
「はいなのです」
今度こそ、ゴローたちは村長の後をついて歩き出したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
まことに申し訳ございませんが、本年の更新はこれで終わりとさせていただきます。
次回更新は2022年1月6日(木)14:00の予定です。
今年1年ご愛読ありがとうございました。
作者 拝