09-06 まずはジメハーストへ
「いい天気だな」
『ミツヒ村』への出発の日は、朝から快晴であった。
朝食を済ませたゴロー、サナ、ティルダは『レイブン改』に乗り込む。
もちろん、『フロロ』の分体も一緒である。
「それじゃあ、行ってきます」
「気を付けていっておいで」
「ゴローさん、サナさん、ティルダさん、行ってらっしゃい」
「お気を付けて」
皆に見送られ、『レイブン改』は晴れた空に舞い上がった。
そのまま南を目指す。まずはジメハーストの町だ。
「やっぱりお空を飛ぶのは気持ちいいのです!」
はしゃぐティルダ。サナも同意する。
「乗り心地も少しよくなったみたい」
「2重になっていた浮遊円板を1つに合わせたからな。空気抵抗が減ったし、少しだが風にも煽られにくくなったんだろう」
そんな話をしているうちにジメハーストの町近くまで来てしまう。
研究所との距離はおよそ150キルなので、時速200キルで飛べば1時間と掛からないのだ。
「少し離れたところに着陸するぞ」
「うん」
ゴローはジメハーストの町から1キルくらい離れた空き地に『レイブン改』を着陸させた。
「あー……ここに放置していくのも気になるな……」
飛ばすことはできなくとも、誰かにいたずらされたり魔獣に壊されたりというのは避けたいものだ、とゴローは思ったのだった。
「なら、マリーの『分体』を連れてくるといいわよ」
「え?」
フロロは、『屋敷妖精』のマリーなら、屋敷だけではなくこうした機体も守ってくれるだろうと言った。
もっとも数日のスパンに限る、ということだが。
「それでもありがたいな」
「『マリーセキュリティ』だな……」
ファンタジー技術万歳である。
とりあえず今日のところはフロロ(の分体)が機体を守っていてくれるというので、ゴローたちは3人揃ってジメハーストの町へ向かうのだった。
* * *
20分ほどでジメハーストの町に到着。
まずは知り合いのディアラとライナのところへ。
以前、『帰りに寄る』と言ったのをすっかり忘れ、研究所から真っ直ぐ王都に帰ってしまったことがあったのだ。
「あの時は、気が付いて焦ったよな」
「うん。夜通し走ってもう一度ジメハーストへ行った」
「そんなことがあったのです?」
「そうそう」
だから今回はまず顔を出そうと思ったゴローとサナなのであった。
「おやまあ、ゴローくん、サナちゃん」
「こんにちは」
「そちらは?」
「僕らの仲間でティルダっていいます」
「こんにちは、ティルダです。ドワーフなのです」
「おや、そうかい。あたしはディアラだよ。まあ、お上がりな」
ディアラに促され、『それではおじゃまします』と、ゴローたちは上がらせてもらった。
「これ、お土産です」
昨年たくさん作った梅ジャムを手土産に差し出すゴロー。前回の再訪時もこれを手土産にしたのだ。
「まあまあ、すまないねえ。この前もらったのも美味しかったよ。ライナが気に入ってねえ」
「そういえばライナちゃんは?」
ライナの姿がないでのゴローが尋ねると、
「友達と遊びに行ってるんだよ」
と答えが返ってきた。
「そうですか。残念だなあ」
「……で、今日はどうしたんだい?」
「いえ、以前聞いた『ミツヒ村』を探しに行こうと思いまして」
「気持ちはわかるけど、見つかるかねえ……?」
すでに何十人もの人々がミツヒ村を探しに行き、成果を挙げられずにすごすごと引き返してきた、とディアラは言った。
「そうなんですか」
「そうだよ。……それじゃあ、あたしの知っていることを教えてあげようかねえ」
「是非お願いします」
ミツヒ村に関する情報を集めていくゴロー。
どうやら、行商に来る者は決まっており、以前ゴローが『樹糖』を買った男の他、3人くらいが入れ替わりでやって来ているようだった。
「ミツヒ村から来ている行商人の後を付けていってもいつの間にか見失っているということだからねえ」
「それでも行ってみたいんです」
「まあ、大きな危険はないみたいだから、止めはしないけどね……そうだ、見つかっても見つからなくても、帰りにもう一度寄っとくれ。ライナが会いたがるだろうからね」
「わかりました。それじゃ」
「ああ、見つかるといいね」
そうしてゴローたちはディアラの家を出た。
そして町中を見て回る……が、この日はミツヒ村からの行商人は来ていないようであった。
「それじゃあ、昼をここで食べてから行くことにするか」
「うん」
「賛成なのです」
というわけで3人は食堂に入った。
昼の日替わりランチを3人とも頼む。
この日はパン、スープ、ベーコン、野菜サラダにミックスフルーツジュースという献立であった。
ゴローたちは数日ではあるがジメハーストに滞在していたことがあるので、一応評判のいい店を選んだおかげで、まずまず満足できる味である。
惜しむらくは量がやや少ないことだが、大食いはいないのでまあまあ満足できたと言えよう。
* * *
あまりフロロに留守番をさせるのも気になるので、昼食を終えたゴローたち3人は急ぎ『レイブン改』に戻った。
「おかえりなさい」
『レイブン改』は変わらぬ姿で着陸地点にあった。
「何ごともなかったわよ」
事もなげにフロロ(の分体)が言う。
実際、小動物が寄ってきても、フロロが少し本気を出して威嚇すれば逃げていってしまうのだ。
さすがに魔獣の場合はどうなるかわからないが。
まあ、あまり魔獣は昼間は活発に動かないのだが。
「戻ったらセキュリティを考えよう」
そう考えながらゴローは『レイブン改』に乗り込む。
サナとティルダも乗り込んだことを確認し、ゴローは『レイブン改』を発進させた。
「さて、ここから東へ向かえばいいのかな」
「10キルくらい、という話だった」
「だな。まずは上空から見下ろしてみよう」
「うん」
そういうわけで、ゴローは『レイブン改』を高度500メルほどまで上昇させてからゆっくり東へと向かった。
眼下は見渡す限りの樹林である。
針葉樹と広葉樹が混じっているので、針葉樹は深い緑に、広葉樹は新緑に見え、モザイク模様のようだ。
『レイブン改』なら10キルの移動は5分も掛からない。
「10キルと言うとこのくらいなんだが」
「樹林しか見えないのです」
「だなあ」
上空から見下ろせば何か人工物や伐採の跡が見えるかと思ったのだが、あてが外れた。
と、フロロ(の分体)が助言をくれる。
「もう少し低く飛んでくれる? 今のままでは遠すぎてよくわかんないのよ」
『フロロレーダー』は樹木に協力してもらうものなので、あまり木々から距離が離れると探知できなくなるのだそうだ。
「わかった、降下する」
ゴローはゆっくりと『レイブン改』を降下させていった。
高度500メルから400メルに。そして300メル、200メル……。
高度100メルくらいになった時、フロロ(の分体)が何かを感じたようだ。
「ちょっと止まって」
「わかった」
ゴローは『レイブン改』を停止させる。
フロロ(の分体)は何かを探るように目を閉じ、10秒、20秒……。
「わかったわ!」
「え?」
「……あそこに周りよりちょっとだけ高い木が見えるでしょ?」
「ああ、あれか」
「あのあたり一帯に、魔法の気配があるから、きっとそれね」
フロロ(の分体)によれば、幻影のような人の感覚を惑わせる結界があるようだ、という。
「下りて歩かないと無理かな?」
そもそも探していたミツヒ村なのかどうかもまだわからない。
「さて、どうしようか……」
悩むゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月23日(木)14:00の予定です。
20211219 修正
(誤) 「『マリーセキュリティ』だな……」
(正)「『マリーセキュリティ』だな……」