09-02 新技術開発
骨髄の粉を水に入れ、かき混ぜ、魔力を流す……。
それでも溶けないものを網で濾すと、わずかに緑みを帯びたような水を得た。
「それを繰り返すのよ」
「よし。みんな、手伝ってくれ」
「はい」
「はい!」
「はいなのです」
フロロの指示に従い、ルナールやラーナやティルダにも手伝ってもらって、粉砕した骨髄を全て処理するのに14回掛かった。
できあがったのは20リルほどの緑みがかった液体。
「そこから水分を飛ばしていくのよ」
「魔法でやってもいいんだったね」
「ええ」
ということなので『脱水』を試してみる。
いっぺんにはやらず、1リル程度を別容器に取り、試してみることにした。
「『脱水』……お?」
ハカセが軽く脱水を掛けたところ、液体が粘りを増したようだ。
「もう一度……『脱水』……おおお?」
「……煮こごり……いや、ゼラチンみたいですね」
水分を失った液体はぷるるんとした状態となった。
ゴローの目には緑がかったゼラチンのように見える。要するに『ゲル状物質』となったのだ。
骨髄からできた物質だからあながち間違ってはいない……のかもしれない。
「フロロ、これでいいの?」
「いいわ。その状態だと、もっのすんごく魔力を吸うわよ?」
「どれどれ」
ゴローが試しに『オド』を流してみる……と。
「お、おおお!?」
何の抵抗もなく吸い込んでいったではないか。
そして、こころなしか色が濃くなったようだ。
面白くなって魔力を加え続けるゴロー。
傍目には全くわからないが、ゴローの『哲学者の石』は20パーセントほどの稼働をしている。
これは極大魔法を何発も撃てるような魔力量である……が、緑色のゼラチンは平然とそれを吸い込んでいった。
そして、吸い込むにつれ緑色が濃くなっていく。
これは充填状況が目に見えるということで、思わぬ有用な性質を発見してしまったことになる。
「凄いねえ……」
「うん」
ハカセとサナには、その状況がわかったらしい。
「ああ、そういうことかい。……仮に、このぷるぷるが亜竜1頭分だとしたら、それだけの魔力を蓄えることができるわけだものね」
「うん、そういうことね。さすがハカセね。でも、余計なものを削ぎ落としているから、もっと効率がよくなっているはずよ」
要は不純物がなくなった分、充填時間が短くなっているとフロロは言うのだ。
「実際には、これで亜竜1頭の10分の1くらいよね」
「まあそうだろうねえ」
拾ってきた亜竜の骨はせいぜい2頭分。
そこから20リル分を作ることができたわけだから、1リルで10分の1頭ならちょうど計算が合う。
「だとすると、亜竜って、ものすごい魔力の塊?」
「サナちん、正解。亜竜はその身体を維持するためにも魔力を使っているからね」
「なるほど、あの巨体を支えるためにも魔力を使っているわけか」
「ゴロちんの言うとおり。飛ぶために使っているのは魔力全体の3分の1くらいかしらね」
亜竜の重さは3から4トムくらいはあるという(アフリカゾウの最大級のもので6トン)。
それを飛ばすための魔力がかなりのものだというのは理解できる。
「じゃあ、亜竜はそれだけの魔力……オドをどうやって得ているんだい?」
当然の疑問をハカセは口にした。
「ああ、それね。亜竜は呼吸の時にマナを身体に取り入れているわね」
「うん、それはそうだろうねえ」
ハカセたちが作った『外魔素取得機』と『魔力充填装置』も、半強制的に空気を取り入れ、空気中のマナを魔力庫に充填するシステムである。
「でもね、亜竜の呼気にもかなりのマナが残ってるって知ってた?」
「え……!?」
「かなり、の……?」
「ああ、呼気にも酸素は相当残っているっていうしなあ」
呼気の中に酸素は15〜17パーセントも含まれているという。
吸気中の酸素濃度は21パーセントくらいだから、利用率はかなり低いということになる。
もっとも、そのおかげでしばらく『息を止める』ということが可能になっているわけだが。
閑話休題。
「つまり、取り込んだマナの利用率をもっともっと上げることができるということだね?」
「そういうことね」
取り込んだ空気中のマナの大半をオドに変えると、排出される空気中には、マナはほとんど残っていないことになる。
が、呼吸とは違うので、ゆとりがなくとも問題ないわけだ。
マナを取り込めない場合には『魔力庫』があるわけだから。
「取り込んだ空気を排出するまでの間に、どれだけマナを取り込めるかだねえ」
「サナちん、ゴロちん、今はどうやってるの?」
「今は網目状にした魔導繊維のフィルターを通してマナを取り込んでいるな」
「確か、3重にしていた」
フロロの質問にはゴローとサナが答えた。
その答えを聞いていたハカセは、
「そうだったね。なら、フィルターを倍にすれば倍のマナが取り込めるよねえ」
計算上はそうなる。
もっとも、空気の流れが悪くなるだろうから、もう少し効率は下がるかもしれないが。
「ですね。なら、3倍、4倍も可能ですね」
「そうだねえ」
基本構造は簡単だ。筒状の本体内部にマナを吸収する魔導繊維でできたフィルターを設けておき、そこにマナを含んだ空気を流すわけである。
この『魔導繊維』とはマナをよく通す繊維である。静電気に対する導電繊維のようなもの。
つまりその魔導繊維でできたフィルターに、同じく魔導繊維でできたケーブルを繋いでおけば、マナを取り込めるわけである。
マナを取り込むフィルターを増やす。本体長さも増やせば、10倍くらいまでは吸収効率を上げられるだろうと考えたのである。
この『外魔素取得機』を複数積むという方法もあるが、重量との兼ね合いで、フィルタ数を増やすほうがよいとハカセたちは判断した。
「吸気用のプロペラも付けて、強制的に吸い込みましょうか」
「ああ、いいねえ」
「まずは試作ですね」
ハカセ、ゴロー、アーレンたちはノリノリである。
サナ、ラーナ、ティルダ、そしてフロロらは少し呆れ気味にその様子を見ていた……。
* * *
夕食前には試作が完成。
実験の結果、これまでの5倍のマナを取り込むことができることがわかった。
「あとはこれをオドに変換して魔力庫に蓄えるだけだねえ」
それは既存の技術で可能である。
「いよいよこれで、明日は『新レイブン』に取りかかれるね!」
「ハカセ、今夜はゆっくり休みましょう。お風呂も沸いてます」
「ああ、そうだねえ」
翌日に備え、頭と身体を休めようとゴローは提案。
ハカセも、研究が順調なので素直に頷いた。
というわけで、入浴しておいしい食事を食べ、その晩はぐっすりと眠るゴローたちであった……。
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次回更新は12月9日(木)14:00の予定です。